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7.テンソル解析学の一般相対性理論への応用

 本稿は文献1.第7章“テンソル解析学の一般相対性理論への応用”からの引用です。ただし、かなり改変しています。また、節を細分した項は私どもが適当に設定しました。そのため、元表現は源文献でご確認下さい。
 本稿の理解には別稿「一般相対性理論を理解するための数学的準備」の知識が必要です。さらに補足しますと、本稿はEinsteinの1916年論文「一般相対性理論の基礎」のC.D.E.章を参考にして展開されています。そのため、Einstein論文を参考にされながらお読みください。

(1)場の方程式
   1.物質外部の場の方程式
   2.物質内部の場の方程式
   3.宇宙項を含んだ場の方程式
(2)第1近似としてのニュートンの理論
   1.運動方程式
   2.重力場方程式
(3)ハミルトンの原理
(4)ハミルトンの原理(続き)
(5)保存法則
(6)重力場と電磁場の方程式
   1.重力場における電磁場の方程式
   2.電磁エネルギー運動量テンソル
   3.変分原理から導く
(7)一つの質点による静的重力場(シュワルツシルド解)
(8)一つの質点による静的重力場内の質点の運動
(9)実験的検証
   1.水星の近日点移動
   2.重力場における光の進路の歪曲
   3.スペクトル線の赤方偏移
END.参考文献

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(1)場の方程式

.物質外部の場の方程式


 前々章§4は、第5章(4)自由な質点の運動法則、測地線の微分方程式を参照。

ここの Kkji6.(5)1.の“リーマン・クリストッフェルの曲率テンソル”を意味し、 Kji6.(6)2.の“リッチテンソル”を意味する。

補足説明1
 物理法則の正当性を決定するのは経験事実しかないわけですが、ここで言っている重力場方程式の正当性を判定するための実験的・経験的事実の観測は極めて困難ですから、正当性の判定は極めて難しい。だから、アインシュタインはそれを発見する道程で大変な困難に直面していたわけです。
 上記の矢野先生の説明はアインシュタインの説明をそのまま踏襲したものです。この説明については別稿C.(14)[補足説明3]を参照されたし。

 第1近似については7.(2)を、第2近似については7.(9)1.を参照。

補足説明2
 上記のKji=Kijであることについてはは6.(6)2.を参照。また、Kji=0ならばK=0となる(なぜなら、gjiji=Kだから)。従って▽=▽hijh=ghijh=0という4個の恒等式が存在している。
 また、上記赤アンダーラインの文章の意味は解り難い所ですが、同じ時空点における基本計量テンソルgjiでも座標が変われば変化するのでした。このことは別稿3.(4)で説明しました。つまり、gjiにはもともと座標の選び方に伴う不定性があるのです。そのときその不定性を決定するのが座標変換を表す4個の関数だと言うことです。この4個で座標変換に伴う任意性を消せると考えれば、この4個とKji=0の与える6個と合わせて10個になり、10個のgjiの決定には十分になるということだと思います。



 宇宙項につきましては杉山文献[10分補講]をご覧下さい。

 

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2.物質内部の場の方程式



=0 については4.(3)4.参照。そのときgkjと▽は交換可能であることに注意。

補足説明1
 この式は6.(6)3.で説明したように、“ビアンキの恒等式”から必然的に導かれる。しかし、Einsteinは当初この恒等式が成り立つ事を知らなかった。そのため(1/2)Kgjiの項の必要性に気付くのに大変な苦労をします。このことについてはPais文献14c.“最後の歩み”の説明を参照して下さい。
 実際、1915年の暮れの11/4、11/11、11/18、11/25日付けでベルリンのプロシャ科学アカデミーに提出された一連の論文の最初の三編にはこの項が抜けています。重力場方程式の近似解を測地線方程式に適用して水星の近日点移動を導いた有名な11/18日論文でも抜けています。結局この項はその計算には必要無かったのですが、この項に気づくことが遅れたことをEinsteinはSommerfeld宛の書簡の中で悔やんでいます。


 定数κに付いては7.(2)2.[補足説明]《重力場方程式の定数κを決める方法》を参照。

補足説明2
 上記の gjiji=4 は別稿4.(2)[問題1]参照。
 上記最後の式変形については別稿「一般相対性理論の基礎」C.(16)[補足説明2][(b)式←→(c)式の書き換え]を参照されたし。

 

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3.宇宙項を含んだ場の方程式


ここでkは重力定数Gであり、μは質量密度ρです。この式に付いては別稿「ポアソン方程式と波動方程式」3.を参照。
 (4’)式の形については、石井文献第7章§8. と杉山文献第10章§3.をご覧下さい。

 

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(2)第1近似としてのニュートンの理論

 ここの考察は、Einsteinが前節で導入した重力場方程式の正当性を確信する上で、最も重要な考察でした。実際このことは1915年11/18論文§2で初めて展開・説明された。1916年3月総説論文E.§21と一緒に参照されながらお読み下さい。





 

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1.運動方程式

下記(測地線の方程式)こちらを参照されたし。




 ここは「一般相対性理論の基礎」E.(21)1.や、別稿(中野董夫著)9-4.重力場中の物体の運動方程式、さらに藤井文献4.§19などもご覧下さい。
 このことが最初に示されたのは、Einsteinの超有名な論文1915年11/18§2に於いてです。

補足説明1
 別稿「等価原理」5.(4)では、ミンコフスキー時空の場合には

従って測地線の方程式は重力場が存在しない場合の自由質点の軌道の微分方程式(いわゆる慣性の法則)

になる事を説明したが、今は極弱い重力場の存在を許しているので、計量テンソルgjiは場所的に少し変化します。
 そのとき、重力場が静的な場合、gjiの時間的な変化はありません。そのためgjiの変化の中で、g44の場所的な変化が重力の元となっていると言うことです。つまり重力場はその場所の時間的な遅れの大きさの場所的な変化の様子で表されるということです。
 いずれにしても、“測地線方程式”は、“力の原因として重力のみ”が働いている場合の《真に正しい》運動方程式です。

 

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2.重力場方程式

下記の“物質エネルギー・テンソル” ji については4.(3)4.を参照。式中のμ0は静止質量密度。





 ここは「一般相対性理論の基礎」E.(21)2.や、別稿(中野董夫著)9-5.重力場の方程式、さらに藤井文献4.§20などもご覧下さい。

補足説明1《重力場方程式の定数κを決定する方法》
 前出の拡張版ポアソンの方程式

重力定数Gであり、そこの μ はここの μ0 と同じ質量密度ですから、両者を比較すると“重力場方程式”中の比例定数 κ

である事になる。
 拡張版ポアソンの方程式の解については別稿「ポアソン方程式と波動方程式」3.を参照されたし。
 
 ここで説明されている重力場方程式の定数κを決定する方法は、アインシュタインに依るのですが、あらゆる教科書で踏襲されています。

 

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(3)ハミルトンの原理

 5.(4)で、変分原理を用いてオイラーの微分方程式(測地線方程式)を求めた。ここでは変分原理を用いて、重力場の方程式を求めよう。
 オイラーの微分方程式(測地線方程式)を求めるときには、“作用関数”として

を採用して、drに付いての線積分の極値を取ることを考えた。
 今回は、“作用関数”としてリッチテンソル

を採用して、リーマン時空の体積素

に関する体積積分の極値を取ることを考える。
 リーマン時空の体積素が上記の様になる事については別稿「重積分の変数変換とヤコビアン」4.を参照されたし。






このように表されることは3.(5)[補足説明]を復習されたし。
 以下の式変形について別稿「テンソル解析学」6.(2)4.[補足説明]を参照されたし。




 二つのクリストッフェル記号の差が(1,2)階の混合テンソルに成ることは、例えば別稿6.(2)5.で説明した“クリストッフェル記号の座標変換則”を思い出されればすぐに解ります。
 また、テンソルの“共変微分”を別稿4.(5)6.あるいは、別稿6.(3)4.などで復習されれば、上記の変分の表現が次式の共変微分の差の形で表される事が解ります。



 上記の最後の式変形▽juj=∂juj、等々については別稿6.(3)7.[補足説明1]の重さ1の相対テンソルの共変微分の表現式を復習されたし。そこのjとkが等しくp=1の場合でして、右辺の最後の二項が互いに打ち消し合って普通の微分に帰着する。このことは別稿6.(7)3.相対テンソルのDiv演算の所でも説明した。



 


 

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(4)ハミルトンの原理(続き)

 本節の内容はEinsteinの1916年10/26論文[A5]に依存しています。その論文を参照されながらお読み下さい。


 すなわち、リッチテンソルの後半の二項のみでも重力場方程式が導けると言うこと。

 以下で利用する式については別稿6.(2)3.6.(2)4.を参照。



 以下で利用するクリストッフェル記号の定義は別稿6.(2)を参照













 下記の“最小作用の原理”から“オイラーの微分方程式”を導くことは適当な本を参照して下さい。例えばランダウ、リフシュツ著「力学}1-02、別稿「微分幾何学3(曲面幾何学)」3.(6)1.あるいは「リーマン幾何学」4.(2)[問題2]など。

 

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(5)保存法則

 本節の内容はEinsteinの1916年10/26論文[A5]に依存しています。その論文を参照されながらお読み下さい。














 ここの説明は解り難い所です。別稿「アインシュタインの一般相対性理論の基礎」C.§17をご覧下さい。

 

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(6)重力場と電磁場の方程式

.重力場における電磁場の方程式。


 上記の第4章§2はこちらを参照。


 上記の式が=0と成ることは、共変微分に関する“回転”の定義式6.(7)2.を利用して、別稿4.(2)2.[補足説明3]と同様な手順で計算すれば良い。。
 このとき、共変微分による“回転”は、6.(7)2.で説明したように▽φ−▽φ=∂φ−∂φ が成り立つので、普通の微分の“回転”に帰着する。“そのため、4元表現したMaxwell方程式の一方は、そのまま共変微分形式の同形の一般相対性理論対応の方程式に拡張できるだろう”ということです。

 これが別稿4.(2)2.[補足説明4]で説明した形のマックスウェル方程式の拡張版です。双対テンソルを導入する事の意味についても、そこの双対テンソル説明のリンク先をご覧下さい。

 これが別稿4.(2)3.のマックスウェル方程式の一般相対性理論への拡張版です。つまり、こちらの方程式は通常微分を共変微分に置き換えるだけで良いだろうということです。
 実際、アインシュタインとグロースマンは、早い段階(1912年の共著論文)で、これら正しい方程式の形を求めています(Pais「神は老獪にして・・・」第12章p288参照)。

 これが別稿4.(2)5.のローレンツの力の法則の拡張版です。

 

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2.電磁エネルギー運動量テンソル






 ここの式変形については、別稿4.(2)6.の特殊相対性理論の場合を共変微分に拡張して考える。

 

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3.変分原理から導く





 

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(7)一つの質点による静的重力場(シュワルツシルド解)

 以下で、物質が存在しないところの重力場重力場方程式の厳密解を求めます。これは球状質量のまわりの時空の様子を表す(gji)の厳密解で、1915年12月にシュワルツシルドによって求められたものです。



 この方程式を満足するものを求めなければならないことは7.(1)1.を復習されて下さい。

補足説明1
 要するに解が球対称である事を予想し、仮に上記の様に仮定してみようと言うことです。4次元の極座標を想像するのは難しいが、3次元極座標のds2の表現が参考になる。[拡大図はこちら





線素dsの表現からそれぞれの微小単位セルの計量テンソルは以下の様になる

 
補足説明1-1
 この3次元の場合を参考にして、4次元極座標の場合を前記の様に(あるいは次に示す(gji)の様に)仮定しようと言うことです。このときg44成分とg11〜g33成分の符号が逆転しているのは、現実の時空世界が、物質が存在しない時にはその極限としてミンコフスキー時空の計量世界に帰着しなければ成らないからです。また、時間的に定常な解を求めるのですから、gjiのすべての要素はx4=ctを含みません。そして、11とg44が r のみの関数としているのは球対称性からです。
 
補足説明1-2
 重力場方程式Kji=0を解くと言うことは、適当な境界条件、初期条件の元でこの方程式を満足する(gji)を求めるということです。そのとき、様々な条件から適当な(gji)の形を仮定して解こうと言うことです。
 ただし(gji)の最初の設定には次の意図が含まれている。すなわち、11とg44に関しては仮定する形にeλ(r)やeμ(r)の様に含みをもたせて、このgjiから求まるクリストッフェル記号を重力場方程式Kji=0に代入して、仮定した解がその方程式を満たすべきだという条件から未定のλ(r)やμ(r)を決めようと言うことです
 この手法は、こういった複雑な方程式を解くときの“常套手段”ですが、膨大な項要素の計算をしなければならないので、実際にこういったやり方で解けるかどうかを見極めるのはとても難しい。シュワルツシルドはその膨大な計算をやり遂げで厳密解を求めたと言うことです。
 シュワルツシルドの取った方針については別稿「アインシュタインの重力場方程式」4.§2.[補足説明6]をご覧下さい。


補足説明2
 (gji)から(gih)を求めるには、gjiih=δ だから逆行列 gih=(gji-1行列演算に従って求めれば良い。
 そのとき、(gji)が対角行列の場合は、その逆行列を求めるのは特に簡単です。対応する(gji)の対角各要素の逆数を取ったもので、逆行列(gih)の対角要素を構成すれば良いのです。
 なぜならその様にして作った対角行列(gih)と元の対角行列(gji)の積が(δ)となることは行列の積の定義式により明らかだからです。
 いずれにしても、(gji)と(gih)の間にこのような関係があるのは、これがリーマン幾何学が依って立つ基盤だからです。このことの意味については「一般相対性理論の基礎」B.(8)2.[補足説明1]を復習されて下さい。


補足説明3
 《クリストッフェル記号の計算》についてですが、別稿4.(3)[例8]で2次元極座標の場合の計算例を示しました。しかし、今は4次元極座標ですから独立なクリストッフェル記号は40個あり、そのすべてを計算するのはかなり面倒です。
 計算の様子は(記号の定義は本稿と少し違いますが)一石賢著「道具としての相対性理論」p217-02〜をご覧下さい。

補足説明4
 リッチテンソルが上記の形になることは「一般相対性理論の基礎」B.(12)の(44)式をご覧下さい。ここでは極座標を用いていますので√-g=1の条件を使えませんので、“フルタイプのリッチテンソル”を用いなければ成りません。このことについては、「一般相対性理論の基礎」C.(16)[補足説明3]を参照されたし。


補足説明5
 《リッチテンソルの計算》もかなり面倒です。計算の様子は(記号の定義は本稿と少し違いますが)一石賢著「道具としての相対性理論」p221-02〜をご覧下さい。シュワルツシルドが行なわなければ成らなかった膨大な計算の雰囲気は感じ取れます。
 
 なお、矢野先生の本節の説明は秀逸ですが、Eddingtonの著書“The mathematical Theory of Relativity”(1923年)のV§38を参考にされているようです。
 殆どの教科書がシュワルツシルド解の解説を最終目標にしていて、この解法を説明するときの計算量を少なくする為の様々な工夫がなされています。しかし、実際にそれらを読み比べてみられると解りますが、Eddingtonの説明が最も解りやすくて明快です。






 “定数aの値”については、後ほど説明する《シュワルツシルド解の定数aの決定》を参照。

補足説明6
 補足しますと、これは最初に仮定した質点の外部の“物質が存在せず球対称の重力場のみが存在する時空領域の重力場方程式Kji=0の解”です(Schwarzschild, K. , Sitz. Preuss. Akad. Wiss. , 1916, p189-196, (1916年) この英訳版はこちら)。
 つまり、(9)節の現象を引き起こす時空領域の歪みを与える解です。【(8)で説明】
 これはまた、今日の重要なトピックスであるブラックホールの存在を予言する解でもあります。
 
 シュワルツシルドは引き続いて、物質が有限の球状領域に分布しているとき、“物質が存在する領域内の解”も求めています(Schwarzschild, K. , Sitz. Preuss. Akad. Wiss. , 1916, p424-432, (1916年) この英訳版はこちら)。
 彼は、簡単に解くために、球状領域内では密度ρ=一定と仮定した。もちろんこの仮定は現実の星に対しては適切ではありませんが、高密度星(中性子星の内部ではほぼ一様密度になっている)に対する解として、今日的な意義はあります。
 
 シュワルツシルドが上記二つの論文を書いた当時の状況説明をキップ・S・ソーン著「ブラックホールと時空の歪み」白揚社(1997年刊)p111〜112より引用。


 第2論文も彼に変わってEinsteinが(2月24日に)アカデミーで報告した。しかし、シュヴァルツシルトはロシア戦線で患った病(天疱瘡)により5月11日に亡くなる。
 6月29日のEinsteinの追悼の言葉(原文https://einsteinpapers.press.princeton.edu/vol6-doc/376
 シュワルツシルド解については別稿「一般相対性理論の基礎」C.(16)[補足説明3]E.(22)3.[補足説明1]、および、別稿「アインシュタインの重力場方程式」4.§2[補足説明6]もご覧下さい。

 

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(8)一つの質点による静的重力場内の質点の運動

 (8)、(9)節もEddingtonの著書“The mathematical Theory of Relativity”(1923年)のV§39〜§42を参考にされているようですので、そちらも参照されて下さい。実際、この当たりの説明展開はEddingtonの本が最も秀逸です。





 下記測地線方程式については、別稿5.(4)、あるいは「一般相対性理論の基礎」B.(9)を参照。









《シュワルツシルド解の定数aの決定》

 上記“ニュートンの軌道方程式”は別稿「楕円軌道の発見と万有引力の法則」5.(3)1.などを参照されたし。



 シュワルツシルド定数aを具体的に定める方法はこれ以外にありません。実際Einsteinも水星の近日点移動量を求めた1915年11/18論文でもその様にしています。

補足説明1
 次のようにして定数aを決めても良い。
 g44はシュワルツシルド線素に於いて

だから、これを7.(2)1.で求めた弱い重力場近似の式

と比較すれば、直ちに

が得られる。

補足説明2
 上で求めたシュワルツシルト解の定数 a の値が、がいわゆるSchwarzschild半径と言われるもので、重力場に伴う現象を論じるときに本質的な役割を果たします。そのことにつきましては、別稿「一般相対性理論の古典的検証と歪んだ時空」をご覧下さい。
 
 上式を利用すれば、様々な球形質量についてのSchwarzschild半径を具体的に計算することができます。
 例えば、太陽質量の場合のa≒2.64km程度になります。つまり太陽程度の質量でも、半径2.64km以内の球状領域内に集中して存在することができれば、その周囲にブラックホールを形成する。そして、この半径に近付くと時間の進みは限りなく遅くなる
 地球質量程度だと別稿で計算している様にa=8.85mm程度になります。つまり地球質量程度でも、もしその質量がこの半径内に集中して存在できれば、その周囲にブラックホールを形成します。

補足説明3
 上記で求めた軌道方程式は、近似を用いていないシュワルツシルドの厳密解(gji)から直接導かれたものです。そのためここまでの議論には近似は行われていません。もちろん軌道運動をする質点の重力場は考慮されていませんから、その点では近似を使っていますがそれ以外は厳密です。
 次節で、この軌道方程式を解いて水星軌道の解を求めるのですが、この軌道方程式を解く段階で近似を使います
 
 ところで、Einsteinが最初に水星の近日点移動を導いたとき(11/18)には、シュワルツシルドの厳密解は知られていませんでしたので、Einsteinは重力場方程式を近似的に解いて(gji)を求めています。そのとき近似を用いると言っても、球対称性の仮定から考え得る解の形はかなり制約されたものとなり、実際の所シュワルツシルドの厳密解と殆ど同じものに成ります。このことはSommerfeldが著書「電磁気学」§38で説明しています。
 
 [11/18論文のEinstein近似解][Schwarzschild厳密解]の関係については、Einsteinの11/18論文4.§1.[補足説明3] と 4.§2.[補足説明6] を、そしてさらに 1916年論文E.(22)[補足説明5] をご覧下さい。

 

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(9)実験的検証

.水星の近日点移動

 水星の近日点移動の説明は、Einsteinが一般相対性理論の正しさを確信する上で、最も重要な論考でした。1915年11/18論文を参照されながらお読み下さい。








 先に仮定した式が二次曲線(特に楕円)を表す式であることは別稿「二次曲線の性質」5.を参照されたし。ただし、そこの fe を と置いている。すなわち =fe=a(1-e2)です。aは水星軌道の長軸半径、eは水星軌道の離心率です。そのため、最後の近日点移動量を普通の表現式と比較するときにはこのことに注意する必要があります。

 下記近似のやり方は別稿「水星の近日点の移動」3.[補足説明1]に続く部分と同じです。




数値計算
 具体的な数値を代入して計算してみると以下の様になる。

 ただし、これは1公転ごとの近日点移動角度です。
 ところで、水星の公転周期はT=0.241年だから、水星は100年で415公転する。そのため、100年当たりの近日点移動量にすると 0.1035×415=42.9″となる。

 この様に、水星の1世紀当たりの近日点移動量の観測値に極めて良く一致する値が導けたことが、Einsteinに自分が導いた重力場方程式の正しさを確信させる根拠となった。別稿4.(4)2.[補足説明2]参照。
 このことの検証については別稿「一般相対性理論の古典的検証と歪んだ時空」2-3も参照されたし。

 

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2.重力場における光の進路の歪曲

 この論考もEinsteinの人生を変えたものです。彼が正しい値を最初に報告したのは1915年11/18日論文です。しかしそこでは導出計算は省略されています。このことの導出説明は1915年3月の総説論文E.§22-2に有りますので、どうぞご覧下さい。


 光の進路についての最初の式は、別稿5.(4)の最後を参照。
 2番目の測地線方程式は別稿5.(4)、あるいは「一般相対性理論の基礎」B.(9)を参照。

 これは、7.(7)で求めた線素の表現式(シュワルツシルド解)をduで微分したものに於いてdθ/du=0、sinθ=sin(π/2)=1としたもの。

 これは、シュワルツシルド解から得られる基本計量テンソルgji、gji“測地線方程式”に代入して求めた7.(8)の結果(ただしds→du)において、dθ/du=0、d2θ/du2=0、cosθ=cos(π/2)=0、cotθ=cot(π/2)=0としたもの。

 上式、及び次式は7.(8)で求めていますので、そこを復習して下さい。もちろん、上式は両辺をuで微分するとA式になる事で確認しても良い。次の式についても同様です。。



 このたびもA式ではなくて、線素の式@を変形して軌道方程式を求めていることに注意。そのとき、右辺の第2項はφに関係しないので、φに関する微分操作で消せることに注意。つまりαが関係する項は無くなる。



 上の微分方程式の解が次式となることは、次式を上の微分方程式に代入して見れば了解できる。


 上式を導く方法に関してはSommerfeld文献「電磁気学」§38もご覧下さい。ただし、そこのαはここのaの半分に相当することに注意して下さい。
 この陰関数のグラフは下図のようになります。双曲線に似ていますがそれとは少し違います。グラフは、をすべて同じ 1 にして、1.0,0.2,0.1,0.02 と変えた場合です。

 太陽表面をすれすれに進む光線の場合、R=太陽半径となり、a=2.64kmですから、a/R=2.64km/7×105km〜10-5程度の値になります。




 Einsteinが実際におこなった計算法は1911年プラハ論文§4.[補足説明1]と、別稿「一般相対性理論の基礎」E.(22)2.をご覧下さい。
数値計算
 具体的な数値を代入して計算してみると以下の様になる。

 これは、Einsteinが1912年に重力場内で生じる時間の遅れの効果のみを考慮して導いていた屈曲角の2倍の値となる。そうなったのは正しい重力場理論では空間(物指)の縮みの効果も生じるからです。このファクター2の当否を確かめることが日食観測隊の最大の課題だった。別稿「時空の曲がりと測地線」4.(4)[補足説明1]参照。

補足説明1
 上記計算は太陽表面すれすれを通過してくる光線の屈曲量を求めるために R=太陽半径 を代入したのであって、Rは本来太陽中心から任意の距離離れた方向から来る光線の屈曲量を求めるのに用いることができる。そのときには太陽中心からの距離をRとすれば良い
 故に、別稿「一般相対性理論の古典的検証と歪んだ時空」§2-2-1図9グラフの関数曲線はθ∝1/R のグラフです。

 だから、上記の関数形を仮定した上で最小二乗法(当然Rと共にその重みを変える)によって観測値の解析をする必要があります。


 この観測遠征に付いては別稿で引用するチャンドラセカールの解説が秀逸ですのでご覧下さい。

補足説明2
 別稿で説明した様に、この日食を用いる方法は精度を高めるのが非常に難しい。そのため、今日では準星(クェーサー)が太陽の側を通過するのを観測する方法が用いられている。こちらでは誤差1%以下の極めて高い精度でアインシュタイン理論の予測値が確かめられている。
 その当たりにつきましては別稿「一般相対性理論の古典的検証と歪んだ時空」§2-2-2をご覧下さい。

 

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3.スペクトル線の赤方変位







 ここはシュワルツシルド解の外部重力場に於いての説明でしたが、もちろんどのような重力場であろうと、時間の進みは遅くなります。

 上記のシリウスからのスペクトル線の観測ですが、実際の測定は困難を極め、少なからぬ紆余曲折がありました。その事に関しては別稿のシアマ文献 p087〜、あるいはp090〜をご覧下さい。また、別稿「コンパクト星発見物語」4.(3)補講Tをご覧下さい。

補足説明1
 この赤方偏移の決定的な測定はパウンドとレプカ(1960年)、パウンドとスナイダー(1965年)によって、γ線によるメスバウワー効果を用いて達成された。このことに付いては別稿「一般相対性理論の古典的検証と歪んだ時空」§2-1-2、及び別稿「バークレー力学」p484〜をご覧下さい。
 
 上記「バークレー力学」でも説明されている様に、このγ線実験は重力場中で時間の進み方が遅くなるという一般相対性理論の効果を示していると同時に、光子も重力質量を持ちその値が慣性質量の値に等しいことを示す実験であるとも言える。
 もちろん光子の静止質量は0ですが、光速で動く光子はそういった質量を持っていると言えるわけです。
 そのとき光子の速度とは光子が進んでいるその空間に設置されている物差棒とそこに設置されいる時計で測った速度のこのことですし、それは常に一定の値cです。

 

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END.参考文献

本稿は文献1.の第7章からの引用です。感謝!

  1. 矢野健太郎著「近代数学新書 相対性理論」至文堂(1967年刊)
     第2章§6、第3章、第4章は別稿「ミンコフスキーの4次元世界」で、第5章はこちらで、第6章はこちらで引用しています。第7章が本稿です。改変していない源文献の表現はこちらでご確認下さい。
  2. Einstein著,“Die Grundlage der allgemeinen Relativita¨tstheorie”, Leipzig, Barth (1916年に出版された小冊子)《Ann. der Phys. Ser. 4, 49 (1916年), pp769〜822 にも掲載された。》
    翻訳版は内山龍雄訳「一般相対性理論の基礎」(共立出版「アインシュタイン選集2」 p59〜114)
     矢野先生が上記の第7章を書くとき拠り所とされた論文です。
  3. 矢野健太郎 訳・解説「現代数学の系譜10 リーマン幾何学とその応用」共立出版(1971年刊)
     この本に収録されている第2論文がRicciとLevi-Civita共著論文『絶対微分学の方法とその応用』(1901年)の日本語全訳です。
  4. 前田儀郎著「幾何学X・Y(微分幾何学」玉川大学通信教育部(1969年初版刊)
    第1章“曲線論”、第2章“曲面論”、第3章“曲面上の幾何学”、第4章“リーマン幾何学”を別稿で引用。
  5. Abraham Pais著(西島和彦、他共訳)「神は老獪にして・・・」産業図書(1987年刊)
     原書は1982年刊。この解説は秀逸です。この中の第6章第7章第9章第11章第12章第13章第14章第15章を別稿で引用。
  6. ランダウ、リフシュツ著「場の古典論(増訂新版)」東京図書(1964年刊)
     この中の特に第10章、第11章を本稿と合わせてお読みに成ると理解が進むと思います。
  7. ディラック著(江沢洋訳)「一般相対性理論」東京図書(1977年刊)
     本稿と合わせてお読みに成ると理解しやすい。
  8. 唐木田憲一著「ひとりで学べる一般相対性理論」講談社(2015年刊)非有理化Gauss単位系
     これは、上記ディラックの「一般相対性理論」を理解することを意図して書かれた本ですが、初学者には難しいです。ただし、「一般相対性理論を理解するための数学的準備」を済ませた方ならスラスラ読めますので、一度読んでおかれるとディラックの本を読むとき役に立つでしょう。
     この本の第V章“重力場方程式の展開と応用”はスタンダードな展開で解りやすく説明されています。
  9. Eddington著“The mathematical Theory of Relativity”(1923年)V§38〜42
     pdfファイルとして無料ダウンロードできるサイトがネット上にあります。実際、シュワルツシルド解を用いてなされる(7)〜(9)節の説明展開はEddingtonの本が最も秀逸で解りやすい。
  10. 一石賢著「道具としての相対性理論」(2005年刊)
     この中から第8章シュウァルツシルトの厳密解を引用。
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