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楕円軌道の発見と万有引力の法則(「プリンキピア」の説明)

 せっかくケプラー方程式のページを作ったので、「プリンキピア」についてもう少し説明を続けます。
 この稿では、現象論的な経験法則である“ケプラーの第一法則(楕円軌道の法則)、第二法則(面積速度一定の法則)、第三法則(周期・半径法則)”から、より根源的な“運動の法則”“万有引力の法則”を導きます。
 そして、根源法則である“運動の法則”“万有引力の法則”が解っているとすると、それらから逆に“ケプラーの法則”が導けることを説明します。
 最初に、これらの発見が報告されているニュートンの「プリンキピア」にしたがって(少しファインマンも含めて)説明します。その後で、現代の解析学的な証明を説明します。最後に、両者を比較します。

0.「プリンキピア」 定義、公理または運動の法則

  1.  以下の記載で枠で囲った部分は、全て「プリンキピア」(文献1.より引用)の内容です。ただし、文中の(緑色の記載)は私どもの追記です。
     そして、囲み枠と囲み枠の間に挿入されている記述が私どもの説明文です。
  2.  「プリンキピア」を読むとき、定義、法則、補助定理、定理、問題の違いを意識することが重要です。以下の様に囲み枠を色分けして、その違いを強調しています。
  3.  定義と公理から導かれる重要な結論が定理です。定義・公理・定理の応用例が問題です。
  4.  本文の様々な所に挿入されている補助定理は、理論を展開する上で必要な数学上の定理です。話の途中に突然出てきますが、本来節(命題)の末尾に挿入して補足とすべきものです。しかし、ここでは原文を尊重して、そのままの位置に配置しています。
  5.  「プリンキピア」の命題番号は、様々な話題の塊りを示すためのもので、普通の本の節番号§No.に相当します。つまり最初から数えて何番目の話題であるかを示すもので、後で参照するとき便利なように番号が割り振られています。そのため、引用は命題番号+定理Noまたは系Noの形で行われる。
     プリンキピアでは命題番号の次に記されている定理や問題の説明文がそのまま節の内容を示す働きをしている。ここでは、節の塊を強調するために命題番号と定理・問題番号を切り離した。そのため、各節(命題)の内容を示す題目を当方で新たに追記しています。
  6.  ニュートンによる(第一版、第二版、第三版の)序文は「プリンキピア」を理解する上で、極めて重要な内容を含んでいますが全て省略します。その内容については文献1.を、その重要さについては、文献2.や3.などを参照してください。
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§1.定義

 ニュートンは最初に、いわゆる質量、運動量、力、加速度などの物理量を定義しています。

定義T
 物質量とは、物質の密度と大きさ(体積)をかけて得られる、物質の測度である。(質量の定義ですが定義になっていません。)
定義U
 運動量とは、速度と物質量とをかけて得られる、運動の測度である。(運動量=質量×速度の定義です。)
定義V
 物質の固有力とは、各物体が、現にその状態にあるかぎり、静止していようと、直線上を一様に動いていようと、その状態を続けようとあらがう内在的能力である。(いわゆる慣性力の説明なのですが、その定義は曖昧です。)
定義W
 外力とは、物体の状態を、静止していようと、直線上を一様に動いていようと、変えるために、物体に及ぼされる作用である。(運動状態を変える力である外力の定義です。)
定義X
 向心力とは、中心とするある一点に向かってあらゆる方向から、物体が引きよせられたり、押しやられたり、またはなんらかの形でその方向に向かわされるところのものである。
定義Y
 向心力の絶対量とは、力の原因がそれを中心からまわりの領域中に伝える効果の大小に比例する、向心力の測度である。
定義Z
 向心力の加速量とは、この力が与えられた時間内に生ずる速度に比例する、向心力の測度である。(向心力という特殊な場合ですが、いわゆる加速度の定義です。)
定義[
 向心力の起動量とは、(この力が)与えられた時間内に生ずる運動に比例する、向心力の測度である。

 この中で定義Tは定義になっておらず、その他の定義にも曖昧なところがあり批判があるところです。
 しかも、これらの諸量は力学法則と表裏一体の関係にあり、それらを通してしか定義・認識できないものです。だから、これらだけを取り出して定義しても曖昧なところがあるのは仕方が無いことです。
 なにはともあれ、それらの量が法則の記述に必要なものであることが初めて認識され、特に重要な質量、加速度、力、運動量がここで初めて明確に導入されたのです。
 ニュートンは引き続いて、今日運動の法則と言われるものを提示します。

 

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§2.公理または運動の法則

法則T
 すべて物体は、その静止の状態を、あるいは直線上の一様な運動の状態を、外力によってその状態を変えられないかぎり、そのまま続ける。
法則U
 運動の変化は、及ぼされる起動力に比例し、その力が及ぼされる直線の方向に行われる。
法則V
 作用に対し反作用は常に逆向きで相等しいこと。あるいは、二物体の相互の作用は常に相等しく逆向きであること。

 ここに付いては別項も参照してください。この法則から導かれるものとして以下の系を説明している。ニュートンはかなりの言葉を尽くしてこれらの系が成り立つことを証明していますが、その部分は全て省略します。

系T
 物体は合力によって、個々の力を辺とする平行四辺形の対角線を同じ時間内に描くこと。(加速度の合成法則を言っている。)
系U
 またそれゆえ、まっすぐな力ADの任意の斜め方向の力ACおよびCDからの合成、ならびにその反対に、任意のまっすぐな力ADのあらゆる斜め方向の力ACおよびCDへの分解が許される(第1図)。実際この合成と分解とは機械学からいくらでも確かめられる。(力の合成・分解に関する平行四辺形法則を言っている。)

系V
 同じ向きに行われる運動の和と逆向きに行われる運動の差をとって得られる運動量は、諸物体相互間の作用によっては変えられない。(二つの物体の衝突などの相互作用では「運動量保存則」が成り立つことを言っている。ここに引用していないが、この系の証明は法則UとVに依存している。別稿の説明も参照されたし。)
系W
 二つの、または多数の物体の共通の重心は、その運動あるいは静止の状態を、それらの物体相互間の作用によって変えることはない。それゆえ相互に作用を及ぼしあっている物体すべての共通の重心は〔外部からの作用と妨害を除けば〕静止しているか、あるいは直線上を一様に運動する。(多数の物体が相互に力を及ぼし合っても、その重心の運動は変化しないことを言っている。
系X
 与えられた空間内に含まれる諸物体相互間の運動は、その空間が静止していようと、円運動をせずに直線上を一様に動いていようと、同じである。(これは静止系であろうと、慣性系であろうと諸物体の運動の様子は変わらないという“ガリレオの相対性原理”を言っている。証明は法則Uと法則Vにもとずく系Vによって行われている。)
系Y
 諸物体が相互に任意の仕方で運動しているとし、相等しい加速力で平行な直線方向に押しやったとしても、それらの物体はすべて、それらの力を及ぼされなかったと同じ仕方で、相互間の運動を続けるであろう。(系Vと同じことが、ある種の加速度系でも言えると言っている。この証明も法則Uと法則Vにもとずく系Vによって行われている。)

 この法則T、U、Vニュートンの運動の三法則(慣性の法則、運動の法則、作用反作用の法則)とい言われるものです。この三つの法則の形式と解釈については、様々な意見や批判があり、難しいところです(この当たりはマッハ『力学』第U章§5、§7を参照)。しかし法則を提示しなければ何も始まりません。そのため、ニュートンはとりあえず定義と法則の説明から始めています。
 実際、ニュートンは、諸量の定義や法則を掲げたすぐ後で、多くのページを費やしてそれを補足する説明をしています。何故ここまでくどくど説明しなければ成らないのかと思われますが、このような定義・法則が提示されるのは初めてのことだからです。それらの表現が曖昧に成らざるを得ないことはニュートン自身も良く解っていた。そのため沢山の状況説明をして読者になんとか理解してもらおうと努めています。
 この事は、法則を記述する物理量と法則そのものの発見がいかに困難なことであるかを物語っています。

 ニュートンはこのように、本論に入る前に、“質量・力・加速度”を定義し、かつ“運動の法則”を公理として掲げています。しかし、これらの定義や公理は決して確定した明確なものではありません。
 以下の考察を通じて定義や法則が確立していくのだと考えなければならない。そこのところを見誤ると、「プリンキピア」の議論は理解できません。
 以下の議論で、ケプラーの三法則から“万有引力の法則”が導き出されるのですが、それは同時に“諸量の定義”や“運動の法則”が検証・確定されていく過程そのものです。

 

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1.第T編・第1章 それによって以下の命題が証明される最初の比および最後の比の方法について

 ニュートンは、第1編“物体の運動について”第1章で、第2章以降の定理の証明に必要な補助定理を証明しています。これは彼が発明した微分・積分学に関係したものですが、その内容は今日の解析学の視点から眺めれば、直ちに納得してもらえるものです。そのため、証明の部分は主なものだけ引用します。

補助定理1
 幾つかの量が、またいくつかの量の間の比が、任意の有限な時間中たえず相等しくなる方向に向かい、その時間の終わりに近づくほどますます任意に与えられた差に対するよりも互いに近づくとすると、それらの量ならびに比は極限においては相等しい。

補助定理2
 (図6図)直線Aa、AEと曲線acEとでかこまれた任意の図形AacEにおいて、相等しい底辺AB、BC、CD、等々とこの図形の一辺Aaに平行な辺Bb、Cc、Dd、等々でかこまれる、任意の個数の平行四辺形Ab、Bc、Cd、等々を内接させ、ました平行四辺形aKb、bLcm、cMdn、等々をつくるとせよ。次にそれらの平行四辺形の幅を無限に小さくし、それらの個数を無限に多くしてゆくとせよ。すると内接図形AKbLcMdD、外接図形AabmcndoEおよび曲線図形AabcdEがそれぞれ相互間においてもつ比の極限は1に等しいことがいえる。

補動定理3
 (第6図)同じ(内接、外接、曲線)図形相互間の極限の比は、平行四辺形の幅AB、BC、CD、等々が相等しくなくても、それら全てを無限に小さくするとき、やはり1に等しい。
 
系1
 したがってこれらの消減してゆく平行四辺形の和の極限は、すべての部分で曲線図形と一致するであろう。
系2
 また消減してゆく弧。ab、bd、cd、等々の弦によってかこまれる直線図形はなおさら極限において曲線図形と一致しよう。
系3
 またそれらの弧の接線によってかこまれる外接直線図形もそうであろう。
系4
 したがってこれらの(内接および外接)図形の極限の形は〔周acEについては〕直線図形ではなく、直線図形の極限としての曲線図形となるであろう。

補助定理4
 (第7図)二つの図形AacE、PprTに〔前定理におけるように〕二つの平行四辺形列を内接させ、両者の個数を同じにし、その幅を無限に小さくするとき、一方の図形における各平行四辺形の他方の図彩における(対応する)各平行四辺形に対する極限の比がひとつひとつ同じであるとすると、二つの図形AacE、PprTはたがいに同じその比にあることがいえる。


 したがって任意の種類の三つの量がどのような仕方ででも同じ個数の部分に分けられ、それらの部分が、それらの個数が無限に増やされそれらの大きさが無限に小さくされるとき、一番目のものは一番目に対し、二番目のものは二番目に、その順番に従って一方が他方に対し与えられた比をもつとすると、全体もたがいに同じそのあたえられた比にあるであろう。

 

補助定理5
 相似な図形のたがいに対応する辺はすべて、曲線図形でも直線図形でも比例し、また面積は辺の2乗に比例する。

 これは数学的に明らかであろう。

補助定理6
 (第8図)位置を与えられた任意の弧ACBは弦ABを張り、連続した曲率をもつ弧の中間にある任意の点AにおいてAの両側に伸びる直線ADに接するようにし、次にA、Bをたがいに近づけ一致させるとすると、弦と接線のなす角BADは無限に小さくなり、極限において零になることがいえる。

 なぜなら、もしこの角が零にならないとすると、弧ACBは接線ADと平角(すなわち二直角)をなすこととなり、したがって点Aにおける曲率は連続でないことになろう。これは仮定に反するからである。

 

補助定理7
 (第8図)前定理6と同じ前提の下に、弧、弦、および接線相互間の比の極限は、1に等しいことがいえる。
 なぜなら、点Bを点Aに近づけるまでは、常にABおよびADは遠く離れた点bおよびdまで伸びているものとみなし、割線BDに平行にbdをひき、弧Acbが常に弧ACBと相似であるようにするとせよ。
 すると点A、Bを一致させれば、角dAbは補助定理6によって零となり、したがって常に有限な直線Ab、Adおよびその中間にある弧Acbは一致し、それゆえ相等しいであろう。
 これより常にそれに比例する直線AB、ADおよびその中間にある弧ACBは零になり、極限の比は1になるからである。証明終り。

系1
 これより、Bを通って接線に平行にBFをひき、常にAを通る任意の直線AFとFで交わらせると、この線BFが消滅してゆく弧ACBに対する比は極限において1となろう(第9図)。平行四辺AFBD)をつくると、BFは常にADに等しいからである。

系2
 またBおよびAを通って多数の直線BE、BD、AF、AGをひき、接線ADおよびそれに平行なBFを切らせるとすると、すべての横座標AD、AE、BF、BGと弦(AB)および弧ABとの間の極限の比はそれぞれ1に等しいであろう。
系3
 またそれゆえこれらすべての線分は、極限の比についてのあらゆる議論において、たがいに代用することができる

 

補助定理8
 (第8図)与えられた直線AR、BRと弧ACB、弦AB、および接線ADとで三つの三角形、RAB、RACB、RADをつくり、次に点A、Bをたがいに近づけるとすると、消減してゆく三角形の極限の形は相似であり、極限の比は1に等しい。

 なぜなら、点Bを点Aに近づけるまでは、常にAB、AD、ARは、遠く離れた点b、d、rまで伸びているとみなし、rbdをRDに平行にひき、弧Acbは常に弧ACBと相似であるようにするとせよ。
 すると点A、Bを一致させれば、角bAdは零となり、それゆえ常に有限である三つの三角形rAb、rAcb、rAdは一致し、よって(形が)相似でかつ相等しい。
 これよりまたそれらに常に相似で比例する三角形RAB、RACB、RADはたがいに相似でかつ相等しくなる。証明終り。


 またこれより、それらの三角形は、極限の比についてのあらゆる議論においてたがいに代用することができる

 

補助定理9
 (第10図)位置が与えられている直線AEおよび曲線ABCはたがいに与えられた角A(∠DAF=∠EAGのこと)で交わり、縦座標BD、CEをその直線に別の与えられた角(∠ADB=∠AECのこと、図では90°に見えるが任意の角度でよい)で立て、その曲線とB、Cにおいて交わらせるとし、次に点B、Cを同時に点Aに近づけるとすると、三角形ABD、ACEの面積は極限において辺の2乗の比にあることがいえる。

 なぜなら、点B、Cを点Aに近づけるまでは、常にADは遠く離れた点d、eにまでAd、AeがAD、AEに比例するように延長されていると考え、また縦座標db、ecを縦座標DB、ECに平行に立て、ABおよびACの延長とbおよびcで交わるとせよ。
 曲線ABCと相似な曲線Abc、ならびに両曲線とAにおいて接し、縦座標DB、EC、db、ecをF、G、f、gで切る直線Agをひくとせよ。
 次にAeの長さを同じに保ちながら、点B、Cを点Aに一致させるとせよ。すると角cAgは零となり、曲線面積Abd、Aceは直線面積Afd、Ageと一致し、したがって〔補助定理5により〕辺Ad、Aeとの2乗の比にあるであろう。
 ところがそれらの面積に面積ABD、ACEは常に比例し、またそれらの辺に辺AD、AEは常に比例する。ゆえに面積ABD、ACEは極限において辺AD、AEの2乗の比にある。証明終り。

 この当たりは、何を意図しているのか解りにくい。要するにv=atなる一次関数積分したらx=(1/2)×a×t2となる。つまり、三角形ABDの面積となるが、それがt=ADの2乗に比例することを言っている。

 

補助定理10
 物体が任意の有限な力に作用されることによって描く距離は、そのカが一定不変のものであろうと、連続的に増大するものであろうと、連続的に減少するものであろうと、運動のいちばんはじまりにおいては時間の2乗に比例する

 (第10図)時間を直線AD、AEで、それらの時間内に生ぜられる速度を縦座標DB、EC(図ではDB、ECはAcに垂直に交わっているが、本来任意の角度でよい。)で表すとせよ。するとそれらの速度でもって描かれる距離は、これらの縦座標によって描かれる面積ABD、ACEに比例するであろう。すなわち、運動のいちばんはじまりにおいては〔補助定理9により〕、時間AD、AEの2乗に比例するであろう。証明終り。

 ここは、力が一定と見なされる時間間隔に対して移動距離∝(1/2)v・t=(1/2)at・t=(1/2)at2が成り立つことを言っている。aは力によって生じる加速度だから力に比例する。これはニュートンが“ガリレオの定理”といっているものです。
 このとき、別稿の図と混同しないで下さい。DB、ECが時間AD,AE後の速度vなのです。FB、GCはその時間の間に加速度(力)が変化することによる変分ですが、ニュートンは運動の一番始まりにおいては(つまり各瞬間においては)加速度(力)は一定と見なせると言っている。

系1
 そしてこれから次のことが容易にわかる。諸物体が相似な図形の相似な部分を比例関係にある時間内に描くさいに、それらの物体に相似に及ぼされる任意の相等しい力によって生ぜられ、そして諸物体が、いま述べた力が働かないとき、同じそれらの比例関係にある時間内に到達すべき、相似な図形におけるそれらの場所からの諸物体の距離によって測られるところのずれは、それらが生ぜられる時間の2乗にほぽ比例する
系2
 また相似な図形の相似な部分に相似に及ぼされる、比例関係にある力によって生ぜられるずれは、力と時間の2乗との積に比例する。
系3
 同じことが、さまざまな力で動かされる諸物体が描くべきどのような距離についても知られるはずである。それらは、運動のいちばんはじまりにおいては、力と時間の2乗との積に比例する
系4
 それゆえ力は、運動のいちぼんはじまりに描かれる距離に正比例し、時間の2乗に反比例する。(力=ma∝aであり、運動のいちばんはじまりに描かれる距離とはa=DBだからです)
系5
 また時間の2乗は、描かれる距離に正比例し、力に反比例する。(t2∝描かれる距離/aであり力=ma∝aだから明らか)

 

補助定理11
 接点において有限の曲率をもつあらゆる曲線において、しだいに消減してゆく接触角の対辺は、極限ではその対辺と接点との間に含まれる弧の弦の2乗に比例する。

場合1
 (第11図)ABをその弧とし、ADはそれの接線、BDは接線に垂直な接触角の対辺、ABはまたこの弧の弦であるとせよ。これらの弦ABおよび接線ADに垂直にBG、AGを立て、Gで交わらせるとせよ。
 次に点D、BおよびGを点d、bおよびgに近づけ、点DおよびBが点Aにきたとき、その極限における直線BGとAGとの交点がであるとせよ。距離GJは任意に指定されるどのようた距離よりも小さくできることは明らかである。
 また〔点A、B、GおよびA、b、gを通るの性質から〕(△AGB∽△ABD、同じく△Agb∽△Abdとなり)AB2はAG×BDに等しく、Ab2はAg×bdに等しく、したがってAB2対Ab2の比は、比AG対AgおよびBD対bdの積に等しい(つまりAG×BD対Ag×bdの比に等しい)
 ところがGJは任意に指定されるどのような長さよりも小さくとることができるから、AG対Agの比は任意に指定されるどのような差よりも、わずかしかちがわないようにすることができ、したがってAB2対Ab2の比は、BD対bdの比と任意に指定されるどのような差よりもわずかしかちがわないようにすることができる。ゆえに補助定理1により、AB2対Ab2の極限の比はBD対bdの極限の比と同じになる。証明終り。
場合2
 今度はBDがADに対し任意の与えられた角だけ傾いているとせよ。するとBD対bdの極限の比は常に前のそれと同じになり、したがってまたAB2対Ab2の比と同じになろう。証明終り。
場合3
 また角Dは与えられていないが、直線BDは与えられた点に収束するか、あるいは何か他の規則によって定められているとせよ。このときもやはり共通の規則で定められる角D、dは常に等しくなる方向に進み、任意に指定されるどのような差よりもいっそう近くたがいに近づき、したがって補助定理1により、極限においては等しくなるであろう。それゆえ直線BDおよびbdはたがいに前の場合と同じ比にある。証明終り。

 場合1は、次に説明する場合2G→Wの場合であり、DB、db、AWが全て接線ADに垂直な場合ですから、説明文の通りで理解できる。

 場合2は、何を言っていのか解りにくいので補足する。ここは第11図のADとDBが任意の角度で交わった場合の議論です。そのときDBAGとすると場合1と同じ結論が導かれる。

 場合3は明らかです。これは後で説明される命題8以降の様々な問題を意識して補足しているのだろう。

系1
 これより、接線AD、Ad、弧AB、Ab、およびそれらの正弦BC、bcは(補助定理7・系3により)極限においては弦AB、Abに等しいから、ぞれらのもの(接線AD、Ad、弧AB、Ab、正弦BC、bc)の2乗もまた極限においては対辺BD、bdに比例する
系2
 同じもの(接線AD、Ad、弧AB、Ab、正弦BC、bc)の2乗はまた極限において、(補助定理11により)弦を二等分し、与えられた点に収束する弧(AB、Ab)の正矢に比例する。それらの正矢は対辺BD、bdに比例するからである。
系3
 それゆえ正矢は、物体が与えられた速度でその弧を描く時間の2乗に比例する
系4
 (∠ADB=∠Adbは任意角度でよい)直線三角形ADB、Adb(の面積の比)は極限においては辺AD、Adの3乗の比にあり、それは辺DB、dbの3/2乗の比に等しい。両三角形(の面積の比)は辺ADおよびDBとAdおよびdbの積の比にあるからである。よって三角形ABC、Abc(の面積の比)は極限においては辺BC、bcの3乗の比にある。ただし3/2乗の比というのは、平方根の比の3乗、すなわち1乗の比と平方根の比との積である。
系5
 (第11図)またDB、dbは極限においては平行であり、AD、Adそれぞれの2乗の比にあるから、曲線面積ADB、Adb(図中の空色部分の面積の意)の極限は放物線の性質から〕(二次曲線の積分公式から面積を計算してみると)直線三角形ADB、Adb(の面積)の2/3となり、また弓形AB、Ab(の面積)は同じ三角形(ADB、Adb)の1/3となるであろう。これよりそれらの面積およびそれらの弓形(の面積)は、接線AD、Adの3乗の比に、また弦および弧AB、Abの3乗の比にあるであろう。(この場合も∠ADB=∠Adbは任意角度でよいことに注意。)

注解
 この注解は省略しますが、上図曲線AbBがA点に於いて二次曲線ではない三次曲線、四次曲線、・・・で直線AdDに接する接する場合もあり、そのときには曲線面積ADB、AdbはAD、Adの4乗、5乗、・・・で比例することになることを注意しています。

 これらの補助定理は、今日の微分・積分学の知識があれば直ちに理解できるものです。しかし、ニュートンの時代には(「不可分量の方法」と言われるものはあったが)それが確立していなかったので、幾何学で証明されています。

 ちなみに、“正矢”とは下図の意味です。

 

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2.第T編・第2章 向心力を見いだすことについて

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命題1.力が向心力ならば面積速度が一定

 ここからが、いよいよ本番です。ニュートンは最初に、“ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)”“運動の法則”によって証明しています。
 これは1679年に証明された中心力によって運動する物体は、その時間に比例した面積を掃くと言うものですが、この命題こそ「プリンキピア」を著す(1684〜1686年)きっかけと成ったものです。

定理1
 回転する諸物体が、不動の中心にひかれた道径によって描くそれぞれの面積は、不動の一平面上にあること、また時間に比例すること(第12図)。

 時間を相等しい部分にわけるとし、その第一の時間部分の間に物体は固有力によって直線ABを描くとせよ(第12図)。その物体は第二の時間部分の間には、妨げられることがなければ、〔法則Tによって〕まっすぐにcに進み、ABに等しい直線Bcを描くであろう。これより、中心に向かってひかれた動径AS、BS、cSによって、相等しい面積ASB、BScがつくられるであろう。
 ところが、物体がBに達したとき、向心力が一撃より強く作用し、物体が直線Bcからそれ、直線BC上を進むように働くとせよ。BSに平行にcCをひき、BCとで交わらせると、第二の時間部分の終わりには、この物体は〔法則の系Tによって〕三角形ASBと同じ平面上にある点に見いだされるであろう。
 SCを結べ。するとSBとCcは平行であるから、三角形SBCは三角形SBcに等しく、それゆえまた三角形SABとも相等しいであろう。
 同様な議論によって、向心力が次々とC、D、E、等々において作用し、各物体が各時間部分の間に直線CD、DE、EF、等々を描くようにさせるとすると、それらはすべて同一平面上にあろう。また三角形SCDは三角形SBCに等しく、SDEはSCDに、SEFはSDEに等しいであろう。したがって相等しい時間の間には相等しい面積が不動の一平面上に描かれるであろう。そしてこれらの面積を加え合わせると、任意の和SADS、SAFSは、それぞれ時間に比例することになる。
 そこでこれらの三角形の個数を無限に増やし幅を無限に減らすとせよ。するとそれらの極限の周ADFは〔補助定理3・系4によって〕ひとつの曲線となろう。
 よってまたこの曲線の接線(の方向)から物体がたえず引きもどされるところの向心力が不断に作用することになり、そして先に描かれる時間に比例していた任意の描かれた面積SADS、SAFSは、それらの時間にこの(極限の)場合にも比例するであろう。証明終り。

 証明の内容は以下の通りです。
 法則T(慣性の法則)は”力を受けない物体は等速直線運動をする”というものですが、これは次のような面積法則に言いかえられる。下図の様に物体の動く様子をある1点Oから見ると、面積a、b、c・・・・・が等しくなる。このことは底辺の長さが等しく高さが等しい三角形の面積は等しいことより明らかです。

 ここで、第12図の様に、物体がAからBへ進んでいるとする。物体に力が働かなければ上記の結論より
   △ABSの面積=△BcSの面積・・・・@
となる。
 次に、力の中心Sに向かう力が常に働いているとする。そのとき法則U(運動の法則)に従ってSに向かう加速度が単位時間ごとに加わる。それが速度ベクトルBVである。ベクトルAB、Bc、BV、BCは、すべて単位時間に進む距離を表すから、AB、Bc、BCの距離を移動する時間は全て等しい。また速度ベクトルが変化したことにより物体はBCの方向へ移動するが、そのとき底辺の長さと高さが共通の三角形の面積は等しいので
   △BcSの面積=△BCSの面積・・・・A
となる。
 @Aより同一時間に掃過する面積について △ABSの面積=△BCSの面積 が成り立つ。B点に付いても同様に △BCSの面積=△CdSの面積=△CDSの面積 が言える。以下同様です。
 ここで、これらの三角形の個数を無限に増し、幅を無限に減らしたときの極限の周ADFは補助定理3・系4によって一つの曲線となる。よって、この曲線の接線の方向から物体がたえず引き戻されるところの向心力が不断に作用することになり、任意の扇形SADS、SAFS、・・・の面積が描かれる時間はその面積に比例するであろう。証明終り。

 このようにして向心力に伴う運動については“運動の第一法則(慣性の法則)”“第二法則(運動の法則)”から“ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)”が導けます。以下は上記命題の系です。

系1
 (第12図)不動の中心に向かって引かれて運動している物体の各位置での速度は、抵抗のない空間中では、その中心から物体の軌道の接線におろした垂線(の長さ)に逆比例する
 なぜなら、A、B、C、D、Eの場所における速度は、(面積速度一定の法則から)相等しい三角形の底辺、AB、BC、CD、DE、EFに比例し、それらの底辺はこれらにおろした垂線に逆比例するからである。
(面積速度一定の法則より△SABの面積=△SBCの面積=△SCDの面積=・・・は角運動量=質量×垂線の長さ×速度が保存することを表しています。角運動量が保存すれば、“垂線の長さ”と“速度”が逆比例の関係にあるのは明らかです。)
系2
 相等しい時間内に抵抗のない空間中において同じ物体により引き続いて描かれる二つの弧の弦AB、BCから平行四辺形ABCVをつくり、その対角線BVを、これらの弧が無限に小さくされるときにもつそれらの極限の位置において両側に延長すると、それは力の中心を通るであろう。
系3
 相等しい時間内に抵抗のない空間中において描かれる弧の弦AB、BCおよびDE、EFより平行四辺形ABCV、DEFZをつくる場合、BおよびEにおける力は互いに、それらの弧が無限に小さくされるときの対角線BV、EZの極限の比にある
 なぜなら、物体の運動BCおよびEFは、〔法則の系T(加速度の合成則)によって〕運動Bc、BVおよびFf、EZから合成される。ところでBVとEZは、それぞれCcとFfに等しいが、本命題の証明において向心力のBおよびEにおける衝撃によって生ぜられたものであったから、それらの衝撃に比例する故である。
系4
 任意の諸物体が抵抗のない空間中において直線運動から引きもどされ、曲線軌道へまげられるところの力は、相等しい時間内に描かれる弧の正矢にそれぞれ比例する。この正矢は、それらの弧が限りなく小さくされるとき、力の中心に向かい、各弦を二等分する。なぜならそれらの正矢系3で必要とした対角線の半分だからである。
系5
 それゆえ同じそれらの力が重力に対するは、それらの正矢  放物体がおなじ時間中に描く放物線の弧の水平線に垂直な正矢に等しい。
系6
 また同じことが、法則の系X(ガリレオの相対性原理)によって、諸物体の運動する描く平面が、それらの平面内にある力の中心とともに、静止していないで直線上を一様に運動する場合にも、すべて成り立つ。

 ここの説明だけでは系1系2の重要さが読み取れませんが、極めて重要なものであることが、やがて命題13・系2命題16・定理8命題17・問題9などをお読みになれば明らかになるでしょう。その当たりは私どもの命題17・問題9についての補足説明をご覧下さい。
 
 また、さりげなく説明されていますが系3系4は重要です。これは法則U(運動の第二法則)の内容そのものの説明だからです。
 つまり、力=質量×加速度において、質量が変わらないとみなせる場合、力∝加速度(つまり単位時間内に描かれる弧の正矢を言っているからです。
 
 これらの系は機会あるごとに立ち返られて、ニュートンの言葉を繰り返し読み直して見られることを勧めます。

 

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命題2.面積速度が一定なら力は向心力である

 引き続く命題2・定理2で、上記定理の逆すなわち面積速度が一定ならば力は向心力であることを証明しています。

定理2
 一平面内に摘かれた任意の曲線上を運動し、かつ不動の、あるいは一様た直線運動をもって進む一点にひかれた動径によって、その点のまわりに時間に比例する面積を描く物体はすべて、同じその点に向かう向心力によって動かされている

 

場合1
 曲線上を運動する各物体は〔法則Uによって〕それに及ぼされるある力によって直線径路から曲げられる。そして物体を直線運動から曲げ、相等しいきわめて微小な三角形SAB、SBC、SCD、等々(第12図)を不動の点Sのまわりに相等しい時間の間に描かせるその力は、〔『幾何原論』第一巻命題40および法則Uによって〕場所BにおいてはcCに平行な直線の方向に、すなわち、直線BSの方向に作用し、場所CにおいてはdDに平行な直線の方向に、すなわち、直線SCの方向に作用する、等々。ゆえに常にその不動の中心Sに向かう直線の方向に作用する。証明終り。
 ちなみに、文中の『幾何原論』第一巻命題40とは、「相等しい底辺上に同じ側にある相等しい三角形は同じ平行線間にある。すなわち三角形VB=BV’、△CVB≡△cBV’ならばcCV’Vである。」の事ですが、上記の手順の別表現です。
場合2
 また、法則の系Xによって、それは、物体が曲線図形を描くところの面が静止していようと、あるいは物体、描かれる図形、およびその点Sといっしょに直線上を一様に動いていようと、変わりはない。

 これは、最初に証明した命題1・定理1の逆ですから前出の命題1・定理1の手順を逆にたどればよい。
 今の場合は、面積速度一定が仮定されているので△SABの面積=△SBCの面積が成り立つ。また力が働かない場合には△SABの面積=△SBcの面積であるが、この両式から△SBCの面積=△SBcの面積となる。ところで、この二つの三角形の底辺SBは共通だから、その高さが共通となる。すなわち辺cCは辺SBに平行となる。つまりB点に於いて働く衝撃力の方向がcCの方向であるが、これは力がCBの方向に働く事を示している。

 命題1の逆でしかない命題2を取り立てて説明しているのは不思議ですが、ニュートンは中心力となることを通じて法則T、Uを検証・確認したかったのでしょう。
 つまり、cCの方向が力の方向であると言う所に法則Uを用い、△SABの面積=△SBcの面積のところに法則Tを用いているのですが、“ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)”と言う巨視的・現象論的な積分法則から“運動の第T法則(慣性の法則)”“第U法則(運動の法則)”という根本的な微分法則が導けることを言いたかった。

系1
 抵抗のない空間または媒質において、面積が時間に比例しない場合には、力は動径の集まる点に向かわない。面積の描き方が加速されるときには、その点から運動の方向にそれる。減速されるときは、いままできた方向にそれる。
系2
 また抵抗のある媒質中においても、面積の描き方が加速されるときは、力の方向は動径のあつまり点から運動の進む方向にそれる。
注解
 ひとつの物体が、多くの力から合成された向心力によって動かされることもありえます。その場合、本命題の意味するところは、それら全部から合成された力が点Sに向かう、ということです。
 さらにもし何かの力が描かれる面に垂直な直線の方向にたえず作用するとしますと、この力は物体がその運動平面からそれるようにはしますが、描かれる面内の面積は増しも減らしもしません。ですから力を合成するさいには省かれるべきものです。

 

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命題3.多数の向心力と面積速度の関係

定理3
 任意の運動にある別の物体の中心にひかれた動径によってその中心のまわりに時間に比例する面積を描く物体はすべて、その別の物体に向かう向心力とその別の物体が動かされる加速力全部との合力によって動かされる。
 
 一方の物体を、いま一方の物体をとせよ。すると〔法則の系Wにより〕他方の物体が動かされる力と相等しく反対向きの新しい力(を両方に同時に加えること)によって、両物体が平行な直線に沿って動かされるとすると、一方の物体は他方の物体のまわりにはじめと同じ面積を描き続けるであろう。
 ところが他方の物休が動かされていた力はいまそれに相等しい逆向きの力で打ち消され、それゆえ〔法則Tによって〕とり残された他方の物体は、静止するか、または直線上を一様に運動するであろう。
 そして一方の物体は、それらの力の差によって、すなわち残りの力によって動かされ、他方の物体のまわりに時間に比例する面積を描き続けるであろう。
 したがって〔定理2によって〕この力の差はその中心としての他方の物体に向かうことになる。証明終り。

系1
 これより、一物体が、他方の物体にひかれた動径によって時間に比例する面積を描き、また一方の物体が動かされる力全体から〔それが単一のものであろうと、多くの力より法則の系Uに従って合成されたものであろうと〕、他方の物体が動かされる全加速力を〔法則の同じ系によって〕減くとすると、初めの物体が動かされる残り全部の力は、その中心としての他方の物体に向かうであろう。
系2
 また、これらの面積がほぽ時間に比例するならば、その残りの力もほば他方の物体に向かうであろう。
系3
 また逆に、この残りの力がほぽ他方の物体、に向かうなら、その描く面積はぼ時間に比例するであろう。
系4
 もし物体が、別の物体にひかれた動径によってその時間と比べひどくふぞろいな面積を描き、そして他方の物体は静止Lているか、または直線上を一様に運動しているとすると他方の物体に向かう向心力の作用がまったく存在しないか、あるいは非常に強力な別の力の作用が混在し合成されているか、いずれかである。
 そしてそういった別の力が多数あるときには、それらすべてから合成された力の全体は別の中心に〔不動のものにせよ動きうるものにせよ〕向かっているのである。
 同じことは、いま一方の物体が他のどのような運動でもって動かされている場合でも、その向心力として他方の物体に作用する力全体を減いた後に残るものをとりさえすれば、得られるであろう。
注解
 面積が一様に描かれるということは、物体がもっとも大きく影響されるところの、その力が向かう中心の存在を示すものですから、以下この面積が一様に描かれるということを、自由空間中においてそのまわりにあらゆる円運動が行われる中心の存在のしるしとして使ってはいけないなどと言う理由があるのでしょうか?

 命題3やそのの説明文は極めて難解です。ここでわざわざ取り上げているのは、この定理・系を多数の天体からの力を受けて運動する衛星(月など)や惑星の解析(多体問題の摂動論)に利用したいからでしょう。しかし、具体的な現象との関連で説明してもらわないと、その意味を理解するのは難しい。
 
 ニュートンは、注解で今後の解析方針を宣言している。ここは重要です。

 

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命題4.円運動の向心加速度

定理4
 一様な運動によって相異なる円を描く諸物体の向心力は、それらの円の中心に向かうこと、また同じ時間内に描かれる弧の2乗を各円の半径でわったものに比例すること。
 
 これらの力は、命題2および命題1・系2によって、それぞれの円の中心に向かい、、命題1・系4によって相等しい時間内に描かれる微少な弧の正矢に比例する。
 すなわち、補助定理7によって、それらの弧の2乗を各円の直径でわったものに比例する。したがって、これらの弧は任意の相等しい時間内に描かれる弧に比例し、直径は半径に比例するから、力は相等しい時間内に描かれる任意の弧の2乗を各円の半径でわったものに比例するであろう。証明終り。

 ここは円運動に限定した場合なので高校物理で習う以上のものはない。文中の正矢が下図のQP’=(1/2)×QQ’に相当することに注意すれば、証明は容易です。

 この“向心加速度”“運動の第二法則”が関係する現象で最も重要なものであり、第T編の基礎になる命題なので、ニュートンは補助定理7などを導入してできるだけ厳密に説明しようとしています。この当たりをもう少し精密化するにはニュートンも言及しているホイヘンスの『振り子時計』の記述が有効です。

系1
 これらの弧は各物体の速度に比例するから、各向心力は速度の2乗の比と半径の逆比との積の比にあるであろう。
系2
 またそれぞれ周期は半径の比と速度の逆比との積の比にあるから、各向心力は半径の比と周期の2乗の逆比との積の比にある。
系3
 これより、周期が等しければ、それゆえ速度が半径に比例すれば、向心力もまた半径に比例する。またその逆。
系4
 周期も速度もともに半径の平方根に比例するものとすると、向心力はたがいに相等しいであろう。またその逆。
系5
 周期が半径に比例するものとすると、それゆえ速度が相等しいとすると、向心力は半径に逆比例するであろう。またその逆。
系6
 周期が半径の3/2乗に比例するものとすると、それゆえ速度が半径の平方根に逆比例するものとすると、向心カは半径の2乗に逆比例するであろう。またその逆。
系7
 また一般に、周期が半径Rの任意の冪乗Rnに比例するものとすると、それゆえ速度が半径の冪乗Rn-1に逆比例するものとすると、向心力は半径の冪乗R2n-1に逆比例する。またその逆。
系8
 同じことはすべて、諸物休が、各図形の中心が相似な位置にある、任意の相似な図形の相似な部分を描く時間、速度、力についても、先の証明をこの場合に応用することによって結論されるであろう。それには一様な運動のかわりに面積が一様に描かれることで置きかえ、半径のかわりに物体の(向心力)中心からの距離を使えばよい。
系9
 同様な証明からまた次のことも結論される。与えられた向心力によって円上を一様に回転する物体が任意の時間内に描く弧は、円の直径と、その物体が同じ与えられた力により同じ時間だけ落下することによって生ずる降下距離との、比例中項である
注解
 系6の場合は〔わが国のレン、フック、ハリーもまたそれぞれ注意したように〕、天体において得られるところです。ですから以下では、中心からの距雛の2乗に比例して減少する向心力に関係することがらを、もっと広く扱おうと思います。
 さらに、上に述べた命題とその系とによって、向心力の任意の既知の力に対する比、たとえば重力のそれ、を見いだすことができます。なぜなら、物体がその重力によって地球と同心の円上を回転するとしますと、この重力はそのものの向心力です。ところが重量をもつ物体の落下から、一回転する時間も、与えられた任意の時間内に描く弧も、本命題の系9によって与えられます。そしてこれらのような命題によって、ホィヘソスは、そのすぐれた論述『振子時計』において、重力を回転の遠心力と比較しました
 上に述べたことは次のようた仕方ででもまた証明ができます。任意の円において、任意の辺数の(内接)多角形を描くと考えましょう。そしてこの多角形の辺に沿って与えられた速度で運動する物体が多角形の各頂点で円からはねかえされるとしますと、反発されるたびごとに物体が円を打つ力は、物体の速度に比例するでしょう。したがってある与えられた時間の間におけるこの力の和は、速度と反発回数との積に比例するでしょう。すなわち、〔その多角形の種別が与えられているなら〕この与えられた時間内に描かれる長さに比例し、この長さが円の半径に対する比で増したり減ったりするでしょう。すなわち、この長さの2乗を半径でわったものに比例するでしょう。ですから、多角形の辺を無限に小さくして円に一致させますと、与えられた時間内に描かれる弧の2乗を半径でわったものに比例することになります。このカは物体が円を押しやる遠心カです。そしてそれに、円がたえず物体を中心のほうに引きもどす力は相等しいのです。

系1、系2は明らかです。

系3は、向心力が中心からの距離に比例する場合、周期は回転半径(振動振幅)の大きさによらず一定となる等時性の関係を説明している。

系4、系5は明らかです。

系6は、円軌道という特別な場合ですが、“ケプラーの第三法則”が成立すれば、“万有引力の法則”が成り立つことを説明している。系6の証明は簡単です。

系7は、周期と半径の関係を一般化したものです。この証明も系6と同様にすればよい

系8は解りにくいが、後の命題6・定理5とその系で証明することを先取りして説明している。

 ニュートンは、何の前触れもなく後で説明する命題の内容や理論展開に言及したり利用したりすることがしばしば在ります。天才ニュートンにとって、その当たりを順番に展開するのはもどかしかったのでしょう。
 その様な場面に遭遇したら、十分な時間をかけてニュートンの言っていることを読み解く必要があります。

系9は、以下の事柄を説明している。t秒後の落下距離をsとすると

これは、命題6・系3力の中心PW上にありV→WとなったQP2=QR×PV→QP2=QR×PWに相当する。

注解
 この部分は、後の科学史家が様々に議論しているいわくつきの所ですが、それらの議論に拘泥するのはよしましょう。

 

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命題5.速度分布から向心力中心を求める

問題1
 任意の場所において、物体が与えられた図形をある共通の中心に向かう力によって描く速度が与えられるとき、その中心を見いだすこと。


 
 描かれゐ図形に、三直線PT、TQV、VRは同数の点P、Q、Rにおいて接し、かつおよびで交わるとせよ(第13図)。
 これらの接線に垂線PA、QB、RCを立て、それらが立てられた点P、Q、Rにおける物体の速度に逆比例するように、すなわち、PAがQBに対する比Qにおける速度がPにおける速度に対する比に、QBがRCに対する比Rにおける速度がQにおける速度の比になるようにせよ。
 垂線のA、B、Cを通って(各垂線に)直角にAD、DBE、ECをひき、およびで交わらせるとせよ。するとTD、VEの延長は求める中心Sにおいて交わるであろう。
 なぜなら、中心Sから接線PT、QTにおろした垂線は、〔命題1・系1によって〕点PおよびQにおける物体の速度に逆比例し、したがって作図により、垂線AP、BQに正比例する。すなわち点Dから接線におろした垂線に比例する。これより点S、D、Tが一直線上にあることが容易にわかる。同様な議論によって点S、E、Vもまた一直線上にある。それゆえ中心Sは直線TD、VEの交点にあることになるからである。証明終り。

 証明は最初に説明した命題1・系1を考慮すれば説明文の通りで特に難しいところは無い。これは、軌道上(たった3点)の速度ベクトルが解れば、(力が中心からの距離にどのように依存していても)向心力の種類に依らず、力の中心が解るということを言っている。説明されてみれば確かにその通りで、まさに目から鱗が落ちる思いがします。
 
 ニュートンがこの問題をあえて取り上げているのは、これ以後の考察が全て軌道上の運動の様子から向心力法則を求める問題なので、そういった向心力中心が軌道上の運動から実際に決定できることをあらかじめ示しておきたかったのでしょう。

 

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命題6.軌道の形から向心力法則を決定する方法

 何のためにこの定理5が証明されているのか面食らいますが、やがて明らかになります。この命題は最も重要です。機会あるごとにこの定理に立ち返られて、その図とニュートンの説明を読み直して下さい。

定理5
 (第14図)一物体が抵抗のない空間中において不動の中心(S)のまわりに任意の軌道上を回転し、きわめて微小な時間内にその間に生ずるある弧を描くものとし、その弦を二等分するこの弧の正矢をひけば、延長が力の中心を通るとすると、この弧の中点(P)における向心力は正矢に正比例し時間の2乗に逆比例するであろう。


 与えられた時間内における正矢命題1・系4によって〕力に比例し、また時間を任意の比で増せば、弧も同じ比で増すため、正矢補助定理11・系2および系3によって〕その(弧の)比の2乗で増し、したがって力と時間の2乗との積に比例する。両者を時間の2乗でわるとせよ。すれば力は正矢に正比例し時間の2乗に逆比例する。証明終り。
 それはまた補助定理10・系4によっても容易に証明される。

 ニュートンは、“与えられた時間内における正矢命題1・系4によって〕力に比例し、・・・”と、さりげなく説明していますが、命題1・系4で補足説明したように、これは法則U(運動の第二法則)よってということです。
 また、“補助定理10・系2あるいは系4、そして補助定理11・系2および系3によって、・・・・”の意味は運動の第二法則積分して得られる、ガリレオの定理(移動距離∝(1/2)v・t=(1/2)at・t=(1/2)at2(これも運動の第二法則に基づいていることに注意)によってと言うことです。

が成り立つことを言っている。

系1
 中心Sのまわりを回転する物体Pが曲線APを描き、直線ZPRはその曲線に任意の点Pにおいて接するとし、この接線に向かって曲線線上の他の任意の点QからQRを線分SPに平行にひき、またこの線分SPへの垂線QTをおろすとすると、向心力は、立体積SP2×QT2/QRが点PとQとが一致する極限で得る値とするとき、この立体積(SP2×QT2/QR)に逆比例するであろう(第14図)。
 なぜなら、QRはPを中点とする弧QPの2倍の弧の正矢に等しく、、また三角形SQP(の面積)の2倍すなわちSP×QTは、この2倍の弧が描かれる時間に比例する。それゆえ時間を表わすものとして書くことができるからである。
系2
 同様な議論によって、向心力は立体積SY2×QP2/QRに逆比例する。ただしSYは力の中心から軌遺接線PRへの垂線である。なぜなら矩形SY×QPとSP×QTとは(P、Qが一致する極限において)相等しいからである(第14図)。
系3
 軌道がであるか、それとも円と同心的に接するかまたは同心的に交わるもの、すなわち、円と微小な接触角または交切角をなすものかであって、点Pにおいては同じ曲率と曲率半径をもつとし、PVは物体から力の中心を通ってひいたこの円(P点での接触円)の弦とすると向心力は立体積SY2×PVに逆比例するであろう。PVはQP2/QRだからである
系4
 同じこと(向心力がSY2×PVに逆比例)を想定して、向心力は速度の2乗に正比例し、その弦(PV)に逆比例する。なぜなら命題1・系1により、速度(v)は垂線SYに反比例( SY∝1/v)するからである。
系5
 したがって、任意の曲線図形APQが与えられ、またその内部に向心力が常に向かうところの一点Sも与えられるとすると、物体Pが直線径路からたえず引きもどされてこの図形の周上に保たれ、回転することによってその図形を描くような向心力の法則を見いだすことができる。
 すなわち、
この力(向心力)が逆比例するところの立体積SP2×QT2/QRか、立体積SY2×PVか、いずれかを計算によって求めればよい。そのことの例を以下の問題で与えることにしよう。

系1、系2 ここは解りにくい所なので補足する。
 まず最初に注意すべきは、命題1・定理1により、働く力が向心力の場合には“面積速度一定の法則”が成り立ち

が言えることです。そのため、図の“扇形面積SPQ”を“時間”の変わりに用いることができる
 そのとき、
扇形面積SPQ≒(1/2)SP×QT(三角形の面積より)
        =△SPRの面積(底辺SP共通で、SPQR故に高さも同じ)
        =(1/2)SY×PR(RPを底辺、SYを高さとみなすと)
        ≒(1/2)SY×PQ(補助定理7・系3により)

ですから、
 [正矢QRを生じる時間]∝ SP×QT ∝ SY×QP
となる。
 このことを命題6・定理5に適用すると、系1系2が証明できる。

系3 ここは特に解りにくい。
 下図の円APQVWは点Pが実際にたどる軌道(赤曲線)と点Pで接する接触円を意味する。前図の正矢QRは、向心力による加速度によって、弧PQを移動する時間(扇形面積SPQで表される)の間に偏向した距離ですが、QRQP、PVと下記の関係にある(補助定理11参照)。

 これは円運動についての命題4・系9を、任意の向心力法則に従う一般的な曲線運動に拡張したものです。つまり、そこの式でvt→QP、s→QR、2r→PVと置き換えたものです。
 
 この関係式を系2に適用すれば系3が証明できる。

系4は説明文の通り。

系5は重要です。ニュートンはここで、今からの議論の指針“向心力の法則は SP2×QT2/QR か SY2×PV を変形することによって求められる”を示している。

 

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命題7.軌道が円のときの向心力法則

問題2
 物体が円の周上を回転するとし、任意に与えられた点(S)に向かう向心カの法則を求めよ。

 VQPAは円周はそのような力が向かう与えられた点、円周上を運動する物体、はその物体が動いてゆく次の場所、そしてPRZははじめの場所(P)において円に接するとせよ。点を通って弦PVをひき、また円の直径VAをひき、APを結び、SPに垂線QTをおろし、その延長を接線PRとで交わらせ、そして最後に点Qを通ってLRをSPに平行にひき、円とで、接線PZとで交わらせるとせよ(第15図)。
 すると三角形ZQR、ZTP、VPAは相似であるから、RP2すなわちQRL(すなわちQR×RL)対QT2 は AV2対PV2 に等しいであろう。それゆえQRL×PV2/AV2はQT2に等しい。
 この等式にSP2/QRをかけ、点PおよびQを一致させてRLのかわりにPVと書くとせよ。すればSP2×PV3/AV2はSP2×QT2/QRに等しくなる。
 ゆえに〔命題6・系1および系5によって〕向心力はSP2×PV3/AV2に逆比例する。すなわち〔AV2は与えられているから〕距離または高度SPの2乗と弦PVの3乗との積に逆比例する。解答終り。
 
別解
 接線PRの延長に垂線SYをおろすとせよ。すると三角形SYP、VPAは相似であるから、AV対PVはSP対SYに等しいであろう。それゆえSP×PV/AVはSYに等しく、またSP2×PV3/AV2はSY2×PVに等しいであろう。したがって〔命題6・系3および系5によって〕向心力はSP2×PV3/AV2に逆比例する、すなわち、AVは与えられているからSP2×PV3に逆比例する。解答終り。

 前半の証明は△ZQR∽△ZTP∽△VPAを用いる。この相似関係は下左図の赤角度が全て等しくなることから明らかです。

また、RP2=QR×PV となることは補助定理11・場合2ですでに証明したが、繰り返すと

 最初の図の赤角度が全て等しいことと、∠ZQR=∠ZTP=∠VPA=90°から

となり証明が完了する。

別解△AVP∽△PSY を用いる。

 円軌道という特別な場合を取り上げて説明しているのは、円軌道で証明しておけば、より一般的な軌道に対する証明にも使えるからです。その当たりはやがて解ります。
 命題6命題7が説明されている理由は、命題8〜命題13をお読みになれば解ります。
そこで、ニュートンの証明の明快さと、これらの命題の威力をご堪能下さい。

 ついでに補足すると、命題7は惑星運動の“離心円モデル”近似的に適応できます。プトレマイオスやコペルニクスの離心円モデルでは、Sが太陽位置、Oが離心円中心になり、惑星はほぼ円形軌道上を運動する。そのため、この命題により、円軌道上の様々な位置の惑星Pが太陽Sより受ける引力は、1/(SP2×PV3に比例することになる。
 そのとき、実際の惑星ではSの位置はOからそんなに離れていないのでPが移動してもPVの値はほとんど変化しないが、SPはかなり変動します。そのため、Sに向かう向心力はSPの2乗に逆比例することがこの近似的な議論から導ける。 

系1
 これより、向心力が常に向かうところの与えられた点がこの円周上に位置するものとすると、たとえばにあるとすると、向心力は高度SPの5乗に逆比例するであろう。
系2
 (策16図)物体をカの中心のまわりにAPTVに回転させる力が、同じ物体P同じ円上に同じ周期で任意の別の力の中心のまわりに回転させうる力に対する比は、RP2×SPが直線SGの3乗に対する比に等しい。
 ここでSGは、第一の力の中心から軌道接線PGに向かって、この物体の第二の力の中心よりの距雛(PR)に平行にひいた(接線との交点をGとする)直線である。
 なぜなら、本命題7・問2の作図によってはじめの力(Sに向かう力)がその力(Rに向かう力)に対する比は、RP2×PT3対SP2XPV3、すなわち、SPXRP2対SP3×PV3/PT3または〔相似三角形PSG、TPVより〕SG3の比に等しいからである。

系3
 物体Pを任意の軌道上に力の中心のまわりに回転させる力が、同じ物体を同じ軌動上に同じ周期で任意の別の力の中心のまわりに回転させうる力に対する比は、物体の第一の力の中心Sから(Pまで)の距離と第二の力の中心Rから(Pまで)の距離の2乗とからつくられる体積SP×RP2が、第一のカの中心Sより軌道接線PGに向かって、この物体の第二の力の中心からの距離RPに平行にひいた直線SGの3乗に対する比に等しい。
 なぜなら、この軌道上の任意の点Pにおける力は(点Pにおけると)同じ曲率をもつ円上のそれと同じだからである。

 ここで以下のことに注意してください。両者の回転周期が同じでも、向心力中心の位置が異なりますから軌道上の速度は両者で異なります。だから文中の同じ周期であるという断り書きが両者の軌道上での速度が同じであることを意味するわけではありません。
 軌道上の同じ位置でも速度は両者で異なります。それにもかかわらず異なった力の中心に対する面積速度一定の法則は両者で成り立ち、両者の周期が同じであると言う条件があれば、両者で単位時間に描く面積は同じになります(ここの表現は非常に解りにくい所ですが良く考えてください)だからこそ、両者で共通であるべき時間、の代わりに面積を用いることができます。
 同じ周期であるという仮定が必要な事情は、文献2.p77で注意されています。

系1は、命題7・問題2SP=PVの場合ですから、説明の通りです。

系2は、軌道が円の特別な場合です。証明は以下の通りです。

系3は、軌道が一般的な場合です。その証明は、軌道上のP点において、そこの軌道に最も近い円(つまりその点での曲率、曲率半径が等しい接触円)を考えて、その円について命題7・問題2命題7・系2の結論を適用すればよい。

 何のために系2系3が説明されているのかと言うと、同じ軌道を描く場合でも、向心力中心が異なれば、その向心力の距離依存性が異なるからです。この当たりの深い意味については文献2.の補遺“求心力の双対則”p107〜118をご覧ください。
 例えば同じ楕円軌道を描く場合でも、向心力中心が楕円の中心なら力は距離に比例し、向心力中心が楕円の焦点なら力は距離の2乗に反比例する。
 この当たりの事情は軌道がの場合は命題4命題8で、軌道が楕円の場合は命題10命題11で説明されます。

 

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命題8.円軌道と無限遠中心に対する向心力法則

問題3
 物体が半円PQA上を運動するとせよ。この結果を与えるような、点Sに向かう向心力の法則を求めよ。ただし一点Sは非常に遠く離れていて、それに向かってひかれたあらゆる直線PS、RSが平行とみなされうるようなものであるとする(第17図)。

 半円の中心Cから、それらの平行な諸直線を直角にMおよびNにおいて切る半径CAをひき、またCPを結ぶとせよ。
 相似三角形CPM、PZT、RZQより、CP2対PM2はPR2対QT2に等しく、また円の性質から、PR2(補助定理11・場合2ですでに証明したように)矩形QR×(RN+QN)に、あるいは点PおよびQを一致させればQR×2PMに等しい
 ゆえにCP2対PMはQR×2×PM対QT2であり、したがってQT2/QR2×PM3/CP2に等しく、(この両辺にSP2を乗じれば)またQT2×SP2/QRは2×PM3×SP2/CP2に等しい
 ゆえに〔命題・6系1および系5によって〕向心力は2×PM3×SP2/CP2に逆比例する、すなわち〔定比2×SP2/CP2(CP=一定であり、SPは非常に大きいのでPが変化してもほぼ一定と見なせることから)を省くことによって〕PM3に逆比例する。解答終り。
 それはまた前命題からも容易にわかる。
 
注解
 たいしてちがわない議論によって、物体は、その縦座標の3乗に逆比例して非常に遠くにある力の中心に向かう向心力により、楕円上、または双曲線上、または放物線上を運動することが見いだされます。

前半の証明は 特に難しいところは無く、説明文の通りです。しかし、何を言っているのか解りにくいので補足する。
 下図の二点P1とP2に於ける向心力を比較する。その為に中心角が等しい(そのため11=P22となる)二つの合同な三角形△CP11と△CP22を考える。
 ここで注意して欲しいことは、P11=P22にしたからと言って物体がP1→Q1(orR1)に移動する時間とP2→Q2(orR2)に移動する時間が等しいわけで無いことです。QRと動径SPの関係を考えるためにそうしているだけです。
 そうすると


同様に

が言える。両式より

となる。QT∝PMと、1/QR∝PMを図から読み取ることができれば、この手順はきわめて明快です。
 
補足の説明“それはまた前命題からも容易にわかる。”は上図と命題7・問題2の図を比較すれば明らかです。そのとき向心力中心Sは、線分PVの途中ではなくて、その延長線上に存在していても良いことに注意してください。
 命題7・問題2のPV→2×PM、AV→2×PCの置き換えをすれば、SP2×PV3/AV2→2×SP2×PM3/CP2となる。

注解
 この注解は解りにくいが、次のことを言っているのだろう。
 軌道が円の場合、円の中心が向心力の中心なら力は距離の2乗(半径2逆比例することを命題4で証明し、力の中心が無限遠に在るなら力は縦座標の3乗(PM3逆比例することを命題8で証明したのだが、同じ事情が円を一般的な二次曲線に拡張しても成り立つと言っている。ただし二次曲線の場合の“縦座標”がどこの距離を意味するのかここの議論からは解りません。
 文献2.によると、この“逆3乗則”の意義は、後の命題45・例題3で明らかになるそうです。 

 

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命題9.等角螺旋軌道と向心力法則

問題4
 物体があらゆる運動SP、SQ、等々を直角に切る螺線PQS上を回転するとせよ。螺線の中心に向かう向心力を求めよ(第18図)。
(ここの文献1.の訳はよくない。原文は螺旋(helice)ではなく渦巻き(spira)なのだから、おそらく文献2.に引用されている“1物体がすべての動径SP、SQ等を、ある与えられた角で切る螺旋PQS上を回転するときに、その螺旋の中心に向かう求心力の法則をみいだすこと。”の方が適切だろう。ここで言う螺旋とは、動径と成す角が常に一定となる“対数螺旋”(=“等角螺旋”=“ベルヌーイ螺旋”)のことです。)

 無限小の角PSQが与えられるとせよ。するとすべての角が与えられるから、図形SPRQTはその特性が与えられるであろう。ゆえに比QT/QRが与えられ、QT2/QRはQTに比例する、すなわち〔与えられたこの図形の特性より〕SPに比例する。
 ところが角PSQを任意の仕方で変化させると、接触角QPRの張る直線QRは〔補助定理11によって〕PR2またはQT2に比例して変化する。ゆえに、比QT2/QRははじめと同じに保たれる、すなわちSPに比例する。
 それゆえQT2×SP2/QRはSP3に比例し、したがって〔命題6・系1および系5によって〕向心力ば距離SPの3乗に逆比例する。解答終り。
 
別解
 接線に垂線SYをおろすとせよ。すると同心的に螺旋を切る円の弦PVは高度SPに対し与えられた比にある。それゆえ、SP3はSY2×PVに比例する、すなわち〔命題6・系3および系5によって〕向心力に逆比例する。

 説明は難解ですが、考え方は極めて明快です。
 いまは、軌道として“等角螺旋(対数螺旋)”を考えているから、下図の中心角変分を等しくとった灰色三角形で、動径SPとP点に於ける接線の成す角は全て等しい。故に下図の三つの灰色扇形図形は互いに相似となる。


別解の証明は、下図の線分SY、PVが全てSPに比例することを命題6・系3(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)に適用すれば明らかです。

 問題3や問題4の様な特殊な例を、何故ここで説明しているのか面食らいますが、おそらくニュートンは、これらの簡単な命題をあらかじめ説明しておけば、以下の命題で用いる手法が理解しやすいと考えたのでしょう。

 

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命題10.楕円の中心が向心力中心のときの向心力法則

補助定理12
 与えられた楕円または双曲線の任意の共役な直径のまわりに描かれるあらゆる平行四辺形はたがいに相等しい(面積を持つ)こと。
円錐曲線論から証明される

 この補助定理の内容に関しては、該当箇所で補足する。

問題5
 物体が楕円上を回転するとせよ。楕円の中心に向かう向心力の法則を求めよ。(向心力中心が楕円の焦点ではなくて中心であることに注意)

 
 CA、CBは楕円の半長短軸、GP、DKはある共役な直径、PF、QTはそれらの直径への垂線、Qvは直径GPに関する縦座標とせよ(第19図)。共役な直径とは、一つの直径に平行な弦の中点の軌跡のことでこれも他の直径となる。そのときRPDKとなっている)
 平行四辺形QvPRをつくると、〔円錐曲線論より〕矩形PvG(Pv×vGのこと)対Qv2はCP2対CD2に等しく、また〔相似三角形QvT、PCFより〕Qv2対QT2はPC2対PF2に等しい。
 両比をかけ合わせると、矩形PvG(Pv×vGのこと)対QT2はPC2対CD2とPC2対CD2との積に等しい。すなわち、vG対QT2/PvはPC2対CD2×PF2/PC2に等しい。
 PvをQRと書き、また〔補助定理12によって〕CD×PFのかわりにBC×CA、さらに〔点PとQとを一致させるとき〕vGのかわりに2PCと書き、外項と内項とをかけ合わせると、QT2×PC2/QRは2BC2×CA2/PCに等しい。
 ゆえに〔命題6系5によって〕向心力は2BC2×CA2/PCに逆比例する、すなわち〔2BC2×CA2は与えられているから〕1/PCに逆比例する、すなわち、距離PCに正比例する。解答終り。
 
別解
 直線PG上に点Tと別の側に点uをTuがTvに等しいようにとるとせよ。次にuVをそれのvGに対する比がDC2対PC2であるようにとれ。
 すると円錐曲線の性質からQv2対PvG(Pv×vGのこと)はDC2対PC2に等しいから、Qv2はPv×uVに等しいであろう。矩形uPv(uP×Pvのこと)を両者に加えよ。すれば矩形VPv(VP×Pvのこと)に等しい弧PQの弦の2乗を生ずるであろう。それゆえにPにおいてこの円錐曲線に接し、かつ点Qを通る円は、また点Vも通る
 点PとQとを一致させるとせよ。uV対vGの比は、これはDC2対PC2の比と同じであるが、比PV対PGまたはPV対2×PCとなり、したがってPVは2×DC2/PCに等しいであろう。これより物体Pを楕円上に回転させる力は〔命題6系3によって〕(2×DC2/PC)×PF2に逆比例するであろう。すなわち〔2×DC2×PF2(前半証明の(3)式により2×BC2×CA2となり)あたえられているから〕PCに正比例する。解答終り。

前半の証明は命題6・系1(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)を用いる。
 CP×QT=△CPQの面積であることを考慮して、命題6・系1より向心力は

と表される。故に右辺がCPに反比例することを示せばよい。その為に上記文中の赤で強調した三つの関係式を用いる。

(1)円錐曲線論よりPv×vG:Qv2=CP2:CD2が言える。
 楕円は下図の赤円をACの方向にある一定の割合で引き延ばしたものです。Q、P、G、v、D、Kに対応する赤円上の点をQ’、P’、G’、v’、D’、K’とする。
 円周上の点Q’と円の直径P’G’に付いて(高校数学で習う様に)、直角△Q’G’v’∽直角△P’G’Q’∽直角△P’Q’v’だからQ’v’:P’v’=v’G’:Q’v’となりQ’v’2=P’v’×v’G’となる。さらに、CD’=円の半径=CP’だから、CD’2=CP’2が言えて、以下の関係式が成り立つ。

 これは解りにくい式ですが、円の場合にはCD=CPとなり、さらにQv=QPと見なせるので、この式は円に対する補助定理11・場合2で説明した AB2=AG×DB あるいは命題6・系3で説明した QP2=QR×PV を楕円に対して拡張したものです。

(2)△QvT∽△PCFよりQv2:QT2=PC2:PF2が言える。

(3)補助定理12よりCD×PF=BC×CAが言える。
 楕円上の点ABEIで外接する四角形HLMNと、点KPDGで外接する平行四辺形XYZWを考えると、補助定理12は以下の内容を意味している。
 四角形HLMNの面積=4×BC×CAであり平行四辺形XYZWの面積=4×CD×PFであるが、楕円ABEIをAC方向に縮小してA’E’にしたとき、それら外接四辺形の面積は、その円に外接する四角形H’L’M’N’四角形X’Y’Z’W’の面積へ縮小される。この縮小された両方の面積は同じであり、両図形の縮小率は同じだから、元の図形の面積が同じになる。すなわち

 これら(1’)(2)(3)式を、最初の式に適用すると

となる。証明終り。

別解の証明は難解ですが、命題6・系3を用いる。
 まず最初に、P点で軌道に接する円(当然もその円周上の点となる)を考え、力の中心Cを通るPCの延長線がその円と交わる点を求める。
 そのとき注意して欲しいことは、接触円の半径はPが移動すれば変化し、またPが動かなくても(接触円はQ点を通るので)Q→Pの操作でも変化することです。そのため中心点O(PF線上にある)やV点(PG線上にある)の位置も変化します。
 いずれにしても、その様にして求まる接触円上の交点Vに対して命題6・系3を適用する。

 そのとき求めるべき点Vは、PG線上に於いて点を点の反対側にvT=uTを満足するように定め、次にCD2:CP2=uV:vGを満足するように定めた点であると言っている。実際そうなることは以下の手順で証明できる。
 先に求めた(1)式に、条件式CD2:CP2=uV:vGを適用すると

が得られる。
 一方、条件式vT=uTより、Pv=PT−Tv、Pu=PT+Tu=PT+Tvとなるので

が言える。
 さらに、△QPT△QvTは直角三角形だから、ピタゴラスの定理により

が言える。
 これら(4)(5)(6)式を一緒にすると

が言える。Pv=QRであることを考慮すると、定理6・系3の図におけるQP2=QR×PVが成り立っている。ゆえに点Vは接触円上の点てあることが解る。

 そのため、円の弦PVに対する定理6・系3(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)の式が使える。そこのはここのであり、SY=PFだから、

となる。これに、先に求めた(3)式と条件式CD2:CP2=uV:vGを用いると、

となる。証明終り。

 別解は先の証明よりもさらに難解ですが、Pの移動とともに次々と変化していく接触円と結び付けて、向心力の性質が証明されているのは教訓的です。
 
 ここまでたどり着くと、命題6命題7の威力のほどが実感できる。ニュートンがどのようにしてこの証明法を思いついたのかとても不思議です。いずれにしても、ニュートンの説明文を理解するには厖大な努力が必要ですが、一旦彼の手法が理解できれば、証明の手順は極めて明快で見通しが良い。
 
 後の5.(4)で振り返りますが、現代の解析的な証明法が我々にとって見通しが良く解りやすいと感じるのは、我々が微分・積分学の習得に必要な厖大な努力をすでにすましているからです。それと同じほど複雑な論理を幾何学で展開しなければならないのですから、ニュートンの説明の理解に厖大な努力が必要なのは当然です。

系1
 それゆえこの力は物体の楕円の中心(焦点ではない)からの距離に比例する
 またその逆、力が距離に比例するならば、物体はその中心を力の中心にもつ楕円上を運動するか、あるいは時には特別の場合としてその楕円が転化しうる円上を運動する。
系2
 また同じ中心のまわりのどのような楕円の上に行われる回転の周期もすべて相等しいであろう。
 なぜなら、それらの周期は、相似な楕円においては〔命題4系3および系8によって〕相等しいが、長軸を共有する楕円においては、それぞれ楕円の全面積に正比例し、同じ時間内に描かれる面積部分に反比例する。すなわち、短軸に正比例し、それぞれの主軸の端における物体の速度に反比例する。すなわち、短軸に正比例し、共有する(長)軸の同じ点における縦座標に反比例する。したがって〔この正比例と反比例の比率が相等しいため〕相等しいものの比(すなわち1対1)にあるからである。
注解
 もし楕円がその中心を無限に遠くへやることによって放物線に転化されるとしますと、物体はこの放物線上を動き、またいま無限に離れた中心に向かう力は一様な定数になる(本来距離PCに比例するのですが、距離の変化は無視できるので)でしょう。それはガリレイの定理です。
 また放物線である円錐曲線(断面)が〔円錐を切る面の傾きを変えることによって〕双曲線に転化されるとしますと、物体はこの双曲線の周上を、向心力から遠心力に変わった力によって動くでしょう。
 そして円や楕円におけると同じように、力が横軸上にあるその図形の中心に向かうものとしますと、それらの力は、縦座標を与えられた任意の比で増減させることによって、あるいはまた縦座標の横座標に対する傾きの角を変えることによって、周期が相等しく保たれるかぎり、常にこの中心からの距離に比例して増減されます。
 同様にまた一般の図形においても、周期を同じに保ちながら、縦座標が任意の与えられた比で増減されたり、あるいは縦座標の角度がなんらかの仕方で変えられるとしますと、各縦座標における、横軸上にある任意の中心に向かう力は、中心からの距離に比例して増減されます。

系1は説明の通りです。

系2について補足する。
 ニュートンは二つの場合に分けて証明している。一つは相似の関係にあるが互いに大きさが異なる場合です。もう一つは長軸は共通だが短軸の長さが異なることにより、楕円の形が互いに異なる場合です。
 第一の場合

この関係式と、二つの楕円が相似であることを考慮するとP1とP2がそれぞれの楕円を一週する時間は等しい。
 第二の場合は、短軸方向に縮小・拡大した二つの楕円を比較する。

この関係式と、二つの弧の対応関係から、P1とP2がそれぞれの楕円を一週する時間は等しい。
 この両方に付いて証明できていれば、両変形を組み合わせて大きさと形を変形したあらゆる形状の楕円について系2が成り立つのは明らかです。

 この当たりのニュートンの簡潔な説明文は超難解ですが、その考え方は極めて明快です。 

注解の説明文も超難解なので補足する。ここは別稿「二次曲線の性質」2.(1)で説明した図

 

に関係します。

放物線軌道に付いての説明文の内容は、放物線は楕円の中点もう一方の焦点F’が無限の彼方に遠ざかった場合(別稿「二次曲線の性質」2.(5)参照)であることから明らかです。
 その場合にも定理5および命題10の結論はそのまま成り立ち、無限遠の楕円中点に対する向心力は距離PCに比例する。そのとき、物体が焦点F付近でどのように動こうとも無限遠の中点に対する距離PCの変化は無視できますので、PC=一定と見なせて無限に離れた中心に向かう力は一様な定数となる。
 
 実際、無限遠の向心力中心に対する面積速度一定の法則を命題8・問題3と同様な図で表すと

となり、図中の灰色短冊図形の幅QTは全て同じになる。そのとき、物体がP1→Q1、P2→Q2、P3→Q3、・・・を移動する時間は全て等しい。これは高校物理で習う、左向きに一様な力を受ける物体が描く放物線軌道(ガリレオの定理)そのものです。
 縦方向の速度成分は保存されて一定に保たれ、左横向き速度成分は時間に比例して増大していく。そのとき速度ベクトルの時間的変化は、高校物理で習うように、右上図で示される。そのための大きさはPの位置によらず常に一定になる。これらの事実から

となり、ニュートンの言うことが確認できる。

双曲線軌道中心(焦点ではない)に対する向心力法則については、文中で“向心力から遠心力にかわった力によって動くでしょう”と注意されている。ここで言う遠心力は慣性力のことではなくて、“斥力”の意味です。実際、双曲線の中点Cから力を受ける場合については、軌道が偏向していく様子から斥力の場合しか考えられない。下図は力の中心Cから遠ざかるときの様子を示していますが、近づく場合も同様です。

 ニュートンは引き続いて、上図の灰色部分の面積速度に関して楕円の場合と同様な考察をすれば良いと言っている。それは命題12で説明する関係式を先取りして利用すれば良いと言っているのですが、簡潔な説明なのでそこまで読み取るのは極めて難しい。以下で、その当たりを補足する。

 上図のCA、CBは双曲線の半軸、PG、KDは共役な直径、PFは直径KDへの乗線、Qvは直径GPに閲する縦座標。直径DKをにおいて、縦座標Qvをにおいて切るSPをひく。そうして平行四辺形QRPvをつくる。
 そうすると、まず双曲線についても、命題10の(1’)式と同じ式が成り立つことを示すことができる。証明手順は楕円の場合と同じで、下図の対応関係に着目すればよい。
 双曲線は2/a2−y2/b2=1で表されるが、それと“共役な双曲線”2/a2−y2/b2=-1と表され、下図の様にB点を通りx軸に対称的な図形となる。互いに“共役な直径”とは、この二つの双曲線を切る線分PGKDのことです。

 図はかなり錯綜しているが、要するに、最初の図形を横軸方向に縮小し、次にy=x軸の方向に縮小してa=bの双曲線に帰着させる。このとき“a=bの双曲線”上の点Q”について以下の関係式が成り立つ。

この関係式はaとbが異なる双曲線に対しては成り立たないことに注意されたし。
 ここで、先ほどの縮小手順を逆にたどって拡大し元に戻す。P”=CD”に注意すると

となり、楕円の場合の(1’)式が得られる。双曲線についてのものであるということで(1”)式とする。
 これは解りにくい式ですが、円の場合の補助定理11・場合2で説明した AB2=AG×DB あるいは命題6・系3で説明した QP2=QR×PV を双曲線に拡張したものです。

 次に、双曲線の場合にも、楕円についての命題10の(2)式に相当する式が成り立つ。この場合も △QTv∽△PFC が言えるので

これは、楕円の場合の(2)式(命題10)と全く同じになります。

 さらに、双曲線の場合にも、楕円についての命題10の(3)式に相当する式が成り立つ。

 上図の灰色の平行四辺形黄土色の菱形へ、空色の長方形薄赤色の正方形同じ縮小率で縮小される。
 そのとき黄土色菱形の面積と薄赤色正方形の面積は等しい。なぜなら、黄土色菱形をまずy=x軸の方向へ縮小し、次に同じ割合でy=−x軸方向に拡大することで薄赤色正方形にすることができるからです。
 そのため、元の灰色平行四辺形の面積と空色長方形の面積は等しい。このことから

が成り立つ。つまり、Pの移動に伴ってCDとPFは変化しますが、その積が不変量BC×CAに結び付けられる。 

 命題6・系1(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)において、SPをCPに置き換えCP×QT=2×△CPQの面積であることを考慮して、(1”)(2’)(3’)式を用いると

となる。すなわち、双曲線中心Cからの向心力をうけて双曲線上を運動する物体は、距離CPに比例する力(斥力)を受けている

 

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3.第T編・第3章 離心円錐曲線上の物体の運動について

ここからが、第T編の最大の山場です。

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命題11.楕円の焦点が向心力中心のときの向心力法則

問題6
 物体が楕円上を回転するとせよ。この楕円の焦点に向かう向心力の法則を求めよ。

 Sをその楕円の焦点とし、楕円の直径DKをEにおいて、(そして)縦座標Qvをxにおいて切るSPをひき、平行四辺形QxPRをつくるとせよ(第20図)。(つまり、QRSP)
 EPが半長軸ACに等しいことは明らかである。なぜなら、この楕円の別の焦点HからECに平行に直線HIをひくと、CS、CHは相等しいから、ES、EIも相等しい。それよりEPはPS、PIの和の半分に、すなわち〔HI、PRは平行であり、角IPR、(と角)HPZは相等しいから〕PS、PHの和の半分に等しく、それらの和は全共役直径2ACに等しいからである。
 SPに垂線QTをおろし、楕円の主通径(焦点を通り長軸に垂直な弦)〔すなわち2BC2/AC〕をと呼ぶと、L×QR対L×PvはQR(=Px)対Pvに、すなわち(△Pxv ∽ △PEC だから)PEまたは(PE=ACだから)AC対PCに等しく、またL×Pv対GvP(Gv×Pvのこと)はL対Gvに、GvP(Gv×Pvのこと)対Qv2(命題10の(1)式により)CP2対CD2に等しい。〔補助定理7系2によって〕Qv2対Qx2の比は点QとPとを一致させると1になり、Qx2またはQv2対QT2(△QTx ∽ △PFE だから)EP2対PF2に、すなわち(ここでEP=CAだから)CA2対PF2に、あるいは〔補助定理12によって(命題10の(3)式が成り立ち)CD2対BC2に等しい。
 これらすべての比をかけ合わせることによって、L×QR.対QT2はAC×L×PC2×CD2または(L=2×BC2/ACだから)2×CB2×PC2×CD2対PC×Gv×CD2×CB2に、すなわち2×PC対Gvになろう。そして点QおよびPを一致させれば2×PCはGvに等しくなる(つまりL×QR/QT2=1となる)
 ゆえにまたこれらに比例するL×QRとQT2も相等しい。これらの相等しい量がSP2/QRにかけられるとせよ。するとL×SP2SP2×QT2/QRに等しくなる。ゆえに〔命題6・系1および系5によって〕向心力はL×SP2逆比例する。すなわち(Lは不変量だから)距離SPの2乗に逆比例する。,解答終り。
 
別解
 楕円の中心に向かう、物体Pをこの楕円上に回転させうる力は、〔命題10系1によって〕楕円の中心からの物体の距離CPに比例するから、CEを楕円への接線に平行にひくとせよ。
 するとその物体Pをこの楕円の任意の他の点Sのまわりに回転させうる力は、CEとPSがEで交わるとすると、〔命第7・系3によって〕PE3/SP2に比例するであろう、すなわち、点Sがこの楕円の焦点であるとすると、したがってPEが与えられるとすると、(前記の等式によりPE3=AC3=一定値だから)SP2と逆比例するであろう。解答終り。
 
 問題5放物線双曲線の場合に移し変えたと同じ簡単さで、ここでも同じことを行なうことが許されるが、この問題は重要であり、またあとでそれを使うので、(楕円以外の)他の場合を証明し確かめるのも退屈ではないであろう。

前半の証明は命題6・系1(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)を用いる。
 SP×QT=△SPQの面積であることを考慮すると、命題6・系1より向心力は

と表されるので、右辺がSP2に比例することを示せばよい。その為にはQT2/QRがPの位置に依らない定数と成ることを示せばよい。
 それは文中の赤で強調した関係式を用いることで達成される。ただし、ニュートンは“主通径”L(=2×半通径)を仲介にしているために見通しが悪いので、少し改変して説明する。

 最初に“ニュートンの定理”といわれる関係式を証明する。

が言える。この関係式はとても重要なので、Pを移動させても常に成り立つことをいくつかの例で確認しておきます。

 次にQR=Pxと、△Pxv∽△PECと、上記(1)式より

が言える。

 また、命題10の(1)式がこの場合も成り立つので

が言える。 これは、円の場合の補助定理11・場合2で説明した AB2=AG×DB あるいは命題6・系3で説明した QP2=QR×PV を楕円に拡張したものです。。 

 さらに、△QTx∽△PFEと、上記(1)式と、命題10の(3)式より

 この図と式は、命題10・問題5で説明ものと良く似ていますが、そこのCPACに変わっていることに注意してください。そのために向心力法則の距離依存性が変わってきます。

 これら(2)(3)(4)式の辺々を乗じ命題10の(3)式で変形して、最初の式に適用すると

となる。すなわち向心力はSPの2乗に逆比例する。証明終り。

 ニュートンが“主通径”L(=2×半通径 )を仲介にして証明しているのは、主通径はL=2×BC2/AC (この関係は別項の図を参照)だから

の関係が成り立つことも言いたからです。実際、この関係式は後で繰り返し使われる重要なもので、ニュートンの証明ではまずこの事が導かれています。

 ニュートンが命題11〜13の証明をあえて見通しの悪い“主通径”Lを仲介にして証明している深い意味は、命題17・問題9に対する私どもの補足説明をお読みになれば解ります。

別解の証明は命題7・系3を用いる。
 命題10と命題11において向心力中心の位置が違うにもかかわらず、両者の軌道は同じ楕円だから、P点で軌道に接する接触円(当然もその円周上の点となる)を考えると、命題7・系2と系3がそのまま使える。
 そこの図と下図を比較するとR→S、S→Cの置き換えをすればよいことが解る。

 Pの移動と共に接触円の中心OやT、V、Wの位置はどんどん変化していきますが、上記の証明に於いてそれらの値が直接必要となる事はないことに注意してください。

 ニュートンはさりげなく証明していますが、これこそ“ケプラーの第一法則(楕円軌道法則)と第二法則(面積速度一定の法則)”から“運動の法則”を仲介にして“万有引力の法則”を導くもので、“運動の法則”の最も重要な応用例です。
 “運動の法則”がどこに用いられているのか解りにくいが、命題6の定理や系はそれにもとづいて証明されていたことを思い出してください。
 
 ニュートンはこの距離法則を様々な距離法則に従う力によって様々な軌道を描く運動を一般的に論じる中の一例として示しています。天才ニュートンにとって万有引力の法則は自明のことで、取り立てて特記するほどのことではなかったのかもしれません。この当たりについて、文献2.のp87およびp335に興味深い解説がありますのでご覧ください。
 
 もう一つ補足すると、力の逆二乗法則は、初等的には“ケプラーの第三法則”を(特に円軌道を例にして)半径の異なる運動をする多数の物体に運動の法則を適用して導かれます命題4・系6、系7を参照]
 しかし、ここで証明したように、焦点が力の中心であると仮定されていれば、ただ一つの物体が描く楕円軌道に運動の法則を適用することで導けます。つまり焦点からの(楕円軌道による)距離の変動の仕方に逆二乗法則は含まれている

 

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命題12.双曲線軌道の向心力法則

問題7
 物体が双曲線上を運動するとせよ。この曲線の焦点に向かう向心力の法則を求めよ。

 CA、CBはこの双曲線の半軸、PG、KDは共役な直径、PFは直径KDへの乗線、Qvは直径GPに閲する縦座標とせよ(第21図)。(図は物体が力の中心Sに近づく場合を示しているが、遠ざかる場合にしても同様です。)
 直径DKをにおいて、縦座標Qvをにおいて切るSPをひき、平行四辺形QRPxをつくるとせよ。するとEPが半横軸ACに等しいことは明らかである。なぜなら、この双曲線のいまひとつの焦点HからECに平行に直線HIをひくと、CS、CHは相等しいから、ES、EIも相等しい。それよりEPはPS、PIの差の半分に、すなわち、〔IH、RPは平行であり、角IPR、HPZは相等しいから〕PS、PHの差の半分に等しく、それらの差は全横軸2ACに等しいからである。
 SPに垂線QTをおろし、この双曲線の主通径〔すな2BC2/AC〕をと呼ぶと、L×QR対L×PvQR対PvまたはPx対Pvに、すなわち〔相似三角形Pxv、PECより〕PE対PCまたはAC対PCに等しいであろう。
 またL×Pv対Gv×PvはL対Gvに、〔円錐曲線の性質より〕矩形GvP(Gv×vPのこと)対Qv2PC2対CD2に等しく、〔補助定理7・系2によって〕Qv2対Qx2の比は点PとQとを一致させると1になるであろう。
 またQx2またはQv2対QT2はEP2対PF2に、すなわち、CA2対PF2に、あるいは〔補助定理12によって〕CD2対CB2に等しい。
 これらすべての比をかけ合わせることによって、L×QR対QT2はAC×L×PC2または2CB2×PC2×CD2対PC×Gv×CD2×CB2に、すなわち2PC対Gvになろう。そして点PおよびQを一致させれば2PCはGvにひとしくなる。ゆえにまたこれらに比例するL×QRとQT2も相等しい。これらの相等しい量にSP2/QRがかけられるとせよ。するとL×SP2はSP2×QT2/QRに等しくなる。ゆえに〔命題6・系1および系5によって〕向心力はL×SP2に逆比例する、すなわち、距雛SPの2乗に逆比例する。解答終り。
 
別解
 この双曲線の中心Cから向かう力が見いだされるとせよ。それは距離CPに比例するであろう。それより〔命題7・系3によって〕焦点Sに向かう力はPE3/SP2に比例するであろう。すなわち、PEは与えられているから、SP2に逆比例するであろう。解答終り。
 
 また同じ仕方で、この力を向心カより遠心カに変えれば、物体は共役双曲線上を動くことが証明される。

 ここの説明も難解だが、図中の記号は楕円の場合に対応しており、楕円と同様な手順で証明されている。繰り返しになるが楕円と対比しながら説明する。

 最初に“ニュートンの定理”を証明する。

楕円の場合と同様、Pを移動させてもこの関係式は常になりたつことに注意されたし。

 次に、△Pxv∽△PECであるから、Px=QRと上記(1)式より

 また、命題10の(1’)or(1”)式と同じ式が成り立つ。
 これを証明する手順は以前と同じで、下図の対応関係に着目する。
 双曲線は2/a2−y2/b2=1で表されるが、それと“共役な双曲線”2/a2−y2/b2=-1であり下図の様にB点を通りx軸に対称的な図形となる。
 「プリンキピア」第21図には共役な双曲線が記されていないが、互いに“共役な直径”とは、この二つの双曲線を切る線分PGKDのことです。

 図はかなり錯綜しているが、要するに、最初の図形を横軸方向に縮小し、次にy=x軸の方向に縮小してa=bの双曲線に帰着させる。“a=bの双曲線”上の点Q”について以下の関係式が成り立つ。

この関係式はaとbが異なる双曲線に対しては成り立たないことに注意されたし。
 ここで、先ほどの縮小手順を逆にたどって拡大し元に戻す。P”=CD”に注意すると

となる。これは以前に求めたのと同様な式であり、円の場合の補助定理11・場合2で説明した AB2=AG×DB あるいは命題6・系3で説明した QP2=QR×PV を双曲線に拡張したものです。 

 △QTx∽△PFEと、上記(1)式により

 この図と式は、命題10・注解で説明(PQの方向が逆転していますが、それは関係在りません)したものと良く似ていますが、そこのPCACに変わっていることに注意してください。そのために向心力法則の距離依存性が変わってきます。

 双曲線の場合にも、楕円についての命題10の(3)式が成り立つことはすでに説明した。ここでは、これを(5)式とする。

 上図の灰色の平行四辺形黄土色の菱形へ、空色の長方形薄赤色の正方形同じ縮小率で縮小される。
 そのとき黄土色菱形の面積と薄赤色正方形の面積は等しい。なぜなら、黄土色菱形をまずy=x軸の方向へ縮小し、次に同じ割合でy=−x軸方向に拡大することで薄赤色正方形にすることができるからです。
 そのため、元の灰色平行四辺形の面積と空色長方形の面積は等しい。このことから

が成り立つ。つまり、Pの移動に伴ってCDとPFは変化しますが、その積が不変量BC×CAに結び付けられる。

 これら(2)(3)(4)式の辺々を乗じ(5)式で変形して、命題6・系1(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)に適用すると

となる。すなわち向心力はSPの2乗に逆比例する。証明終り。

 ニュートンはこの場合も、“主通径”L(=2×半通径 )を仲介にして証明している。双曲線の主通径は楕円と同様にL=2×BC2/AC だから

の関係が成り立つ。

別解の証明は命題7・系3と、命題10・系の注解で説明されている事柄を用いる。
 命題10・系の注解で説明されているように、双曲線の場合もその中心(焦点ではない)に向かう向心力は距離PCに比例する。このことに付いては、命題12で証明される双曲線について成り立つ(3)(5)式を用いて、補足で説明した。後は、命題11の別解の証明と同様に命題7・系3を用いればよい。
 下図は中心Cからは斥力、焦点Sからは引力の場合ですが、このときにも命題7・系2は成り立っている。ここではPQの方向が以前と逆転している場合を図示しているが、それはどちらでも同じです。

 焦点をSからHに変えて、両方が斥力の場合でも成り立つ。その場合は下図の様になる。このときPTの長さは上図と同じです。

 いずれの場合も

となる。

 最後に注意されている“同じ仕方で、この力を向心カより遠心カに変えれば、物体は共役双曲線上を動くことが証明される。”の部分ですが、“遠心力”“斥力”を、“共役双曲線”とは“準線を挟んで焦点の反対側の曲線”を意味する。
 つまり面積速度を△SPQの面積から△HPQの面積に変えれば、引力の代わりに斥力が距離の逆二乗法則に従うことが証明できる。

 中心をSからHに変えると斥力となるのだが、Pに対するQの方向を同じにしてC中心S中心の図と比較すると

となる。中心をSからHに変えると、E、R、x、T点の位置が変化するが、前記の(1)〜(5)式はそのまま成り立つ。そのことはそれぞれの証明をたどってみれば確認できる。
 これらの式を命題6・系1に適用する。面積速度がSP×QTからHP×QTに変わるが、斥力の場合も距離の逆二乗法則となることが証明できる。

 

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命題13.放物線軌道の向心力法則

補助定理13
 放物線の任意の頂点に属する通径は、その頂点のこの曲線の焦点からの距離の4倍に等しい。
円錐曲線論から明らかである。

 放物線は、別稿「二次曲線の性質」2.(4)で説明したように座標原点を放物線とx軸との交点(これを主頂点と言う)に取ると、下記の式で表される。このとき主頂点主通径に関して補助定理13は直ちに言える。

 ニュートンは、この関係式がもっと一般的な頂点通径に関しても成り立つと言っている。

 頂点1、P2、P3、・・・に於ける接線に平行で焦点Sを通る線分J11、J22、J33、・・・を各頂点の通径という。さらに、通径を二等分する点E1、E2、E3、・・・と頂点P1、P2、P3、・・・を結んだ線分P111、P222、P333、・・・を各頂点の直径という。そのとき、直径はx軸(主軸という)に平行になり、しかも通径の長さJKは頂点と焦点の距離PSの4倍となる
 幾何的証明は、こちらの図中の灰色四角形に着目して別稿「二次曲線の性質」3.(2)4.(2)で説明した性質を用いればできるが、解析的証明の方が見通しが良いのでそちらを示す。

補助定理14
 放物線の焦点からその接線におろした垂線SNは、焦点の接点からの距離SPと焦点のこの曲線の主頂点からの距離SAとの比例中項(相乗平均)になる。

 なぜなら、APは放物線、Sはその焦点、Aは主頂点、Pは接点、POは主直径(線分MASO)に関する縦座標、PMは主直径とMで交わる接線、SNは焦点から接線におろした垂線とせよ(第22図)。
 ANを結ぶと、MSとSP、MNとNP、MAとAOは相等しいため、直線ANとOPとは平行となろう。それより三角形SANはAにおいて直角となり、相等しい三角形SNA、SPNと相似になるであろう。ゆえにPS対SNはSN対SAに等しい。証明終り。

 上記のMA=AOは、直ちには解らない。その点を補足した説明をすると下記の様になる。

系1
 PS2対SN2はPS対SAに等しい

系2
 またSAは与えられているから、SN2はPSに比例する。(SN2=SA×SPより明らか)
系3
 また任意の接線PMと焦点からそれに直角にひいた直線SNとの交点は、放物線に主頂点において接する直線AN上にある(補助定理14の補足で説明した)

問題8
 物体が放物線の周上を運動するとせよ。この曲線の焦点に向かう向心力の法則を求めよ。

 前補助定理14の作図をそのまま使い、Pは放物線の周上の物体とし、この物体が次に進む場所QからSPに平行にQRを、直角にQTをひき、さらにQvを(Pにおける)接線に平行にひき、直径PGとvにおいて、距離SPとxにおいて交わらせるとせよ(第23図)。
 すると三角形PxvとSPMは相似であり、また一方の三角形の辺SPとSMとは相等しいから、いま一方の三角形の辺PxまたはQRとPvも相等しい。ところが〔円錐曲線論から〕縦座標Qvの2乗は、通径と直径の切片Pvとがつくる矩形に、すなわち〔補助定理13によって〕矩形4PS×Pvまたは4PS×QRに等しく、点PとQとを一致させるとQv対Qxの比は〔補助定理7・系2によって〕1になろう。ゆえにQx2、はこの場合矩形4PS×QRに等しい。
 そして、〔相似三角形QxT、SPNより〕Qx2対QT2はPS2対SN2に、すなわち〔補助定理14・系1より〕PS対SAに、すなわち4PS×QR対4SA×QRに等しい。それより〔『幾何原論』第五巻命題9によって〕QT2と4SA×QRは相等しい。
 これらの相等しい量にSP2/QRをかけるとせよ、すればSP2×QT2/QRはSP2×4SAに等しくなろう。それゆえ〔命題6・系1および系5によって〕向心力はSP2×4SAに逆比例する、すなわち、4SAは与えられているから、距離SPの2乗に逆比例する。解答終り。

 証明の手順は楕円や双曲線の場合と同じです。図中の記号もそれに対応している。ニュートンは物体Pが主頂点に近づく場合で説明しているが、ここでは遠ざかる場合で説明してみる。方向を変えても同じであることが解る。

 最初に、“円錐曲線論よりQx2=4PS×QRとなる”と書かれている部分を説明する。
 円錐曲線論より、放物線に関して以下の性質が成り立つ。一つの放物線(赤点線)y=ax2y=bxを加えて得られる曲線は元の放物線の頂点A点(−b/2a,−b2/4a)に平行移動した同形の放物線(黒曲線)なる(下図参照)。

 この手順を逆にたどり、任意の放物線の任意の点Pに於ける接線を引き、かつ主頂点をAからPに平行移動した同形の放物線を描く(下図参照)。
 二つの放物線は上で説明した関係にあるから、E’Q’=EQが成り立つ。このとき、Pから頂点Pの通径JKに垂線をおろすと、それは(頂点Pの)通径JKと(主頂点Pの)主通径J’K’の交点Fを通るを通ことが証明できる。なぜなら、まずPからJKに垂線をおろし、その交点FからさらにPGへ垂線をおろす。その交点をS’とすると△SAN≡△PS’FよりPS’=ASが言えるので。
 ここで、下右図に示した二つの赤色三角形はいずれも二等辺三角形で互いに合同(△Pxv≡△QRE)になるので、Pv=Px=QR=EQが成り立ち、E’Q’=EQを用いると、Pv=E’Q’が言える。
 また、下右図の薄赤色、黄色、水色の三角形は互いに相似(△vQ’Q∽△PS’F∽△PFS)になることが放物線と接線の性質より証明できる。
 さらに、図の二つの放物線に補助定理13を適用するとJ’K’=4×PS’JK=4×PSが言える。

 このとき Q’x2/QR=4×PSが証明できる。下図の様にxy座標を取る。


これは、楕円の場合の(1’)式(命題10)や双曲線の場合の(3)式(命題12)に相当します。

 つぎに、△QxT∽△SPNと、補助定理14・系1よりQT2/Qx2=SA/PS となることを証明する。

これは楕円の場合の(4)式(命題11)や双曲線の場合の(4)式(命題12)に相当します。

 (1)(2)式命題6.・系1(これは運動の第二法則に基づいていたことに注意)に適用すると

となる。すなわち向心力はSPの2乗に逆比例する。証明終り。

 放物線の場合の“主通径”L(=2×半通径 )はL=4×SA だから

の関係が成り立つ。

系1
 いちばん新しい三つの命題(命題11,12,13)から、任意の物体Pが場所Pから任意の速度で任意の直線PRの方向に進み、同時にその場所の中心からの距離の2乗に逆比例する向心力によって作用されるとすると、その物体は焦点を力の中心にもつある円錐曲線上を動くであろう。またその逆。(ケプラーの第一法則または楕円軌道の法則)
 なぜなら、焦点、接点、および接線の位置が与えられるならば、与えられた曲率をその点においてもつひとつの円錐曲線を描くことができる。そしてその曲率は与えられた向心力(の法則)と物体の速度とで与えられ、また同一の向心力(の法則)と同一の速度とでもって、それぞれ(与えられた接点において)接する二つの軌道を描くことはできないからである。
 
系2
 物体がその場所Pから出発する速度が、ある微小時間内に小線分PRを描くようなものであり、向心力は同じ時間内に同じ物体を距離QRだけ動かしうるものであるとすると、その物体は主通径が小線分PR、QRを無限に小さくした極限におけるQT2/QRの値であるような円錐曲線上を動くであろう。
 以上の系では、円を楕円(の特別な場合)とみなし、また物体が(カの)中心に向かって直線上を落下する場合は除いている。

系1命題11〜13総まとめです。そして上記の赤で強調した部分で、ニュートンがこれらの命題を証明するときに終始一貫して用いた指針を改めて強調している。
 これは今議論しているテーマの本質を見事に言い表しており、この部分の記述は特に重要です。これは、現代の解析的証明ではなかなか見通すことがてきないところで、ニュートンの証明の真骨頂を示しています。
 また、この記述はある意味命題17で展開することを先取りして説明している。この文の深い意味については、文献2.のp103〜105を参照されてください。

系2は円錐曲線上を動くときのQT、QRと主通径の関係が

となることを注意している。これは以後の展開において中心となる。特に命題17・問題9て実際に円錐曲線を描くときの手順で使われます。 

 

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命題14.軌道の偏向と主通径の関係

定理6
 多くの物体が共通の中心のまわりに回転し、向心力はそれらの場所の中心からの距離の2乗に逆比例するものとすると、それらの軌道の主通径は、各物体が中心にひいた動径によって同一時間内に描く面積の2乗に比例することがいえる。

 なぜなら、〔命題13・系2によって〕通径Lは点PとQとが一致する極限におけるQT2/QRの値に等しい(第24図)。ところが与えられた時間内に描かれる小線分QRはそれを生ずる向心力に比例する、すなわち〔仮定により〕SP2に逆比例する。ゆえにQT2/QRはQT2×SP2に比例する。すなわち、通径L(=QT2/QR)は面積QT×SPの2乗に比例する。証明終り。

 ここは、説明文の通りですが、式で表すと

となる。


 それより、各楕円の全面積は、その両軸(長短軸)がつくる矩形に比例するが、通径の平方根の比と周期の比との積の比にある。なぜなら、全面積は与えられた時間内に描かれる面積QT×SPに周期をかけたものに比例するからである。

楕円の全面積を長半径a、短半径bを用いて表すとπabなので
  [楕円の面積]∝a×b(長短軸がつくる矩形)
また、定理6より、
  [通径Lの平方根]∝[面積速度(1/2)×QT×SP]
そのため、
  [楕円の面積πab]=[面積速度]×[周期]
              =(1/2)×QT×SP×[周期]
              ∝[通径Lの平方根]×[周期]

となる。 

 

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命題15.ケプラーの第三法則の証明

定理7
 前命題と同じことを想定して、各楕円上の周期はその長軸の3/2乗に比例することがいえる。(ケプラーの第三法則または調和法則)
 
 なぜなら、短軸は長軸と通径との比例中項であり、それゆえ両軸のつくる矩形は通径の平方根の比と長軸の3/2乗の比との積の比にある。
 ところがこの矩形は〔命題14の系によって〕通径の平方根の比と周期の比との積の比にある。
 両者を通径の平方根の比でわるとせよ、長軸の3/2乗の比は周期の比と同じであるという結果が得られよう。証明終り。

 ここの通径はニュートンの言い方での主通径を意味する。そのとき

が成り立つ。


 それゆえ楕円における周期は、直径が楕円の長軸に等しい円におけると同じである。

 

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命題16.物体の速度

定理8
 前命題と同じことを想定し、各物体にその場所において軌道に接する直線をひき、それらの接線に共通の焦点から垂線をおろすとすると、各物体の速度は各垂線の逆比と主通径の乎方根の比との積の比にあることがいえる。

 焦点Sから接線PRに垂線SYをおろすとせよ(第25図)。すると物体Pの速度は SY2/L の平方根に逆比例するであろう。なぜなら、この速度は与えられた微小時間内に描かれる微小な弧PQに比例する、すなわち〔補助定理7により〕接線PRに、すなわち、PR対QTはSP対SYであるから、SP×QT/SYに、比例する、いいかえればSYに逆比例しSP×QTに正比例する。そしてSP×QTは与えられた時間内に描かれる面積に比例する、すなわち、〔命題14によって〕主通径の平方根に比例する。証明終り。

 今PQを単位時間に移動する距離とする。物体の速度vはPQで与えられる。

これは、命題17・問題9で実際に円錐曲線を描くときの手順で使われる重要な関係式です。

系1
 各主通径は垂線の2乗の比と速度の2乗の比との積の比にある。
系2
 各物体の、共通の焦点からの最大および最小距離における速度は、距離の逆比と主通径の正比の平方根との積の比にある。たぜなら各垂線がいまそれらの距離だからである。
系3
 それゆえ、円錐曲線上の、その焦点から最大または最小距離における速度が、中心からそれと同じ距離にある円周上の速度に対する比は、主通径がその距離の2倍に対する比の平方根に等しい。
系4
 楕円上を回転する各物体の、共通の焦点からの各平均距離(焦点と短軸の端を結ぶ距離。第20図SB)における速度は、それと同じ距離にある円周上を回転する物体の速度と同じである。すなわち〔命題4・系6によって〕(平均)距離の平方根に逆比例する。
 なぜなら、各垂線はいま半短軸に等しく、それぞれの平均距離と通径との比例中項である。この(垂線)の逆比に通径の正比の平方根をかければ、(平均)距離の平方根の逆比が得られるからである。
系5
 同じ図形においては、または主通径が相等しい異なった図形においても、物体の速度は焦点から接線におろした垂線に逆比例する。
系6
 放物線においては速度は物体のこの曲線の焦点からの距離の平方根に逆比例する。楕円ではこの割合よりも大きく変わり、双曲線では小さい。
 なぜなら、〔補助定理14・系2によって〕放物線の接線へ焦点からおろされた垂線はこの距離の平方根に比例する。双曲線ではその垂線は変り方がより小さく、楕円ではより大きいからである。
系7
 放物線においては、焦点から任意の距離における物体の速度が、中心からそれと同じ距離にある円周上を回転する物体の速度に対する比は、2対1の比の平方根に等しい。楕円ではその比よりも小さく、双曲線では大きい。なぜなら、本命題の系2によって、放物線の頂点における速度はこの比にあり、また本命題の系6および命題4によって、あらゆる距離において同じ比例関係が保たれるからである。これよりまた、放物線上では速度はどの場所においてもその距離の半分にある円周上を回転する物体の速度に等しく、楕円ではそれよりも小さく、双曲線では大きい。
系8
 任意の円錐曲線上を回転する物体の速度が、その円錐曲線の主通径の半分の距離にある円周上を回転する物体の速度に対する比は、その距離がこの曲線の接線に焦点からおろした垂線に対する比に等しい。これは系5によって明らかである。
系9
 これより、〔命題4・系6によって〕その円(半径が主通径の半分の円)上を回転する速度が、任意の他の円上を回転する速度に対する比は、それらの半径の平方根の逆比に等しいから、同様に、ある円錐曲線上を回転する速度が、(円錐曲線上の物体の焦点からの距離と)同じ距離にある円周上を回転する速度に対する比は、この共通の距離と円錐曲線の主通径の半分との比例中項が、円錐曲線の接線へ共通の焦点からおろした垂線に対する比に等しい。

 ニュートンは、今取り上げている現象について成り立つ性質を、徹底的に調べ上げて、これらの系にまとめている。ここの内容とその証明についての補足は不要であろう。 

 

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命題17.与えられた初期条件のもとで描く軌道の決定

 ここは、命題11の逆で、“運動の法則”“万有引力の逆二乗法則”を適用して、物体の描く軌道が楕円(二次曲線)に成ることを証明するものです。
 これは、現代の力学教科書で、運動の法則の最も重要な応用例として紹介されるものです。元祖ニュートンがどのように展開しているのかたどってみます。
 チャンドラセカールの文献2.§29〜33の興味深い解説も参照されてください。

問題9
 向心力が各場所の中心からの距離の2乗に逆比例し、この力の絶対量は知られているとするとき、与えられた位置から、与えられた速度でもって、与えられた直線の方向に進む物体が描く曲線を求めよ。

 点Sに向かう向心カは、物体pを任意の与えられた軌道pq上に回転させるようなものとし、またこの物体の場所pにおける速度は知られているとせよ(第26図)。
 場所Pから直線PRに沿って物体Pが与えられた速度で出発し、ただちにそれより、向心力を受けて、円錐曲線PQ上に曲げられるとせよ。それゆえ直線PRはPにおいてそれに接する。同様に別の直線prが軌道pqにおいて接するとせよ。
 すると、Sからこれらの接線に垂線をおろしたと考えると、円錐曲線の主通径がこの軌道の主通径に対する比は、〔命題16・系1によって〕垂線の2乗の比と速度の2乗の比の積の比となり、したがって与えられたものとなろう。
 は円錐曲線の通径とし、また円錐曲線の焦点Sも与えられているとせよ。角RPHは角RPSの補角とすると、直線PHの位置が与えられ、いま一方の焦点Hはその上にあろう。
 PHに垂線SKをおろし、共役な半短軸BCを立てると考えよ。すると、SP2-2PH×PK+PH2=SH2=4CH2=4(BH2−BC2)=(SP+PH)2−L×(SP+PH)=SP2+2SPH+PH2−L×(SP+PH)となるであろう。
 両辺に2KPH−SP2−PH2+L×(SP+PH)を加えるとせよ。するとL×(SP+PH)=2SPH+2KPH、または(SP+PH)がPHに対する比は2SP+2LP対L、となろう。
 
 これよりPHはその長さも位置も与えられたことになる。すなわち、物体のPにおける速度が通径Lを2SP+2KPよりも小さくするようなものであるとすると、PHは直線SPと接線PRの同じ側にあるであろう。それゆえその図形は楕円となり、与えられた焦点S、Hと主軸SP+PHとから与えられるであろう。
 ところが物体の速度が大きく、通径Lが2SP+2KPに等しくなるようなものであるとすると、長さPHは無限大になり、したがってその図形は軸を直線PKに平行なSHにもつ放物線となり、それより与えられるであろう。
 物体がその場所Pからさらに大きな速度で出発するものとすると、長さPHは接線に関してSPとちがう側にとらねばならぬことになり、したがって、接線は焦点と焦点の中間を通り、その図形は直線SPおよびPHの差に等しい主軸をもっ双曲線となり、それによって与えられるであろう。
 
 なぜなら、物体がこれらの場合にそのようにして見いだされた円錐曲線上を回転するとすると、その向心力が力の中心Sからの距離の2乗に逆比例することは、命題11、12、および命題13ですでに証明されており、それゆえ、与えられた場所Pから与えられた速度で位置の与えられた直線PRの方向に出発する物体が、そのような力によって描く曲線PQが正しく示されるであろうからである。以上。

 ニュートンは逆二乗法則に従う運動が円錐曲線に成ることは証明すみだとしている。それは命題13・系1において説明しているように、その逆を命題13で証明したからである。だから後は実際に“初期条件”が与えられて、その初期条件に従って描かれる円錐曲線を示すことができれば、この命題は完了する

 描かれる軌道が楕円の場合を例として、その描き方を説明する。後で解るように以下の手順は一般の円錐曲線(二次曲線)にもそのはまま適用できる。
 当然力の中心であるSと初速度ベクトルと軌道点Pの関係は与えられている。そのとき楕円とその接線(それは速度ベクトルの方向でもある)の性質から、楕円のもう一方の焦点Hと軌道点Pを通る線分XX’は直ちに決定できる。下図の様に∠RPA=∠ZPXとなるように点Pから直線を引けばよいのである。このとき、焦点Hはこの線分上に在ることは解っているが、その位置はまだ解らない。

 次に、この軌道の通径Lを初速度vとSから接線までの距離SYから決める。そのとき命題16・定理8から通径はL∝v2×SY2であることは解っているが、その比例定数が定まっていない。そのためニュートンは、もう一つ別の初期条件pqを与えてその比例定数を定めればよいと言っている。つまり

 次にニュートンは、このようにして通径Lが解ると、SPSK(これはSから線分XX’に降ろした垂線の長さ)からPHが解るといっている。それが次の計算です。

 L、SP、PKはすでに与えられているので、上式をPHについて解けば円錐曲線(二次曲線)のもう一つの焦点Hの位置が決まり、二次曲線が決定できる

 このとき、物体のP点に於ける速度が、通径Lを2(SP+PK)よりも小さくするようなものであると、PHは直線SPと接線PRの同じ側にある。そのときの軌道の形は楕円となる。

 物体の速度が大きくて、通径Lが2(SP+PK)に等しくなる場合、長さPHは無限大に成ることを意味する。したがってその軌道は放物線となり、その軌道の軸はSを通り、直線PKに平行な線となる。

 物体ががその場所Pから更におおきな速度で出発するものとすると、長さPHは接線に関してSPと違う側にとらねばならない。そのとき接線RZは焦点と焦点の間を通り、その軌道はSとHを通る線分を主軸とする双曲線となる。

補足説明

 この部分の説明文は、天才ニュートンに取って自明かもしれないが、我々凡人には解りにくい。
 5.(2)2.で、ファインマンのやり方を説明するのに用いた図を参照されて下さい。そこの作図法1を示す図と作図法2or3の一番最初の手順を示す図です。
 その図のS’をここのに読み替えて、よくよく検討されれば、ニュートンの言う“線分PHが接線RZを境にして、線分SPと同じ側にあるか、それとも違う側にあるか、あるいは長さPHが無限大になるか”の意味が解ると思います。
 そのようにしてPHの長さが解り、もう一つの焦点Hの位置が確定すれば、5.(2)2.で述べる作図法2or3の方法で、それぞれの二次曲線を描けば良いと言っている。アポロニウスの円錐曲線論を完全にマスターしていたニュートンに取ってファインマンの言う二次曲線の描き方は当然の常識だったでしょう。次に述べるように、ニュートンは単なる幾何学的な描き方ではなくて、もっとその先を見通した物理学的な描き方を示しています。

 上記の事についてもう少し補足しておくと、ここの手順について、つまり万有引力の法則から楕円軌道法則を導く過程に於いて、ニュートンの説明は命題11〜13で証明した事を利用しているので、直接軌道を描く方法(つまり今日の解析学に於ける積分操作)を説明できているわけではないと言う批判が在ります。
 しかし命題16・定理8が何のためにここで説明されているのか良く考えて下さい。ニュートンはこの命題を使って今日の積分操作に相当する手順を行えと言っているのです。
 つまり、そこの図のP点に於ける接線が与えられたら、そこの速度は接線に降ろした垂線の長さSYにより表される。つまり通径Lの平方根をSYの長さで割った値(速度=単位時間の移動距離)に相当する長さだけR(またはQ)の方向へ進めと言っているのです。実際SYの長さの逆数に、各P点での速度が比例しています。そのときの時間は当然そこの図の面積速度に比例する。
 そのとき力の中心へ近づく量RQは今までさんざん議論した方法命題13・系2(あるいは命題14・定理6)を用いて求まります。そうして求まるQ点(P’点とする)で新たな接線を(PQとRQから定まる方向に)引きそれに降ろした新たな垂線SY’から次なる速度の大きさを求める。その速度分だけP’点からさらに進んだ点を求めよというわけです。
 以下同様・・・・です。
 SYの値こそ、5.(2)2.で説明するファインマンの図の垂直二等分線を引くときの線分そのものです。もちろん、ファインマンの線分は共役焦点(放物線は準線)からPの接線に降ろしたもので、ニュートンのものは焦点からPの接線に降ろしたものです。その点は違いますが、その役割は同じです
 ファインマンの説明がやっと解った理由を“プリンキピアの幾何学に導かれて”とそこで書きましたが、ニュートンはファインマンと同じことをしているのです。
 上記の手順を手計算でやるのは大変ですが、現在ではコンピュータープログラムで実行すれば実際に描いて見せるのは簡単でしょう。
 
 つまり、ニュートンは動径を“等時間隔”で区切り、垂線SYの長さを利用して計算(命題16・定理8)できる速度(単位時間の移動距離)の大きさを用いることで、ファインマンがしたと同じ操作で軌道を少しずつ先へ延ばしていくのです。そのとき、方向の変化は命題13・系2を使います。
 
 一方、ファインマンは動径を“等角度間隔”Δθで区切ることにより、速度の大きさを問う事はなく、方向(ファノ氏の速度ベクトル図)だけを頼りに軌道を少しずつ先へ延ばしていくのです。

 そして、ニュートンは次のように言ってこの命題を締めくくる。

 なぜなら、物体がこれらの場合にそのようにして見いだされた円錐曲線上を回転するとすると、その向心力が力の中心Sからの距離の2乗に逆比例することは、命題11、12、および命題13ですでに証明されており、それゆえ、与えられた場所Pから与えられた速度で位置の与えられた直線PRの方向に出発する物体が、そのような力によって描く曲線PQが正しく示されるであろうからである。

 この締めくくりの言葉などを読むと、天才ニュートンは、我々凡人に、上記に補足した程度の内容は命題16・定理8や命題13・系2(あるいは命題14・定理6)などを参照すれば解るだろうと言っている様ですね。
 “それゆえ、与えられた場所Pから与えられた速度で位置の与えられた直線PRの方向に出発する物体が、そのような力によって描く曲線PQが正しく示されるであろうからである。”
 この文中の“与えられた場所”は単なる最初の位置を意味するのではありません。上で説明したように、次々と与えられてゆく“ある瞬間の軌道点P”を意味します。そして“与えられた速度”というのも単なる初速度ではなくて、P点での接線に降ろした“SYから命題16・定理8によって計算される速度”の事です。そして“PQが正しく示されるであろう”は私が上で説明したように今までさんざん議論してきた方法(命題13・系2)で計算されるRQの値を用いてPRからの偏向成分が計算された上で決まるPQなのです。
 そのことに注意して、この中の語句の一つ一つを順番に、私が上で説明した手順に当てはめてみて下さい。まさしく、その手順を“極めて”簡潔な表現で記していることが解るでしょう。
 私も、最初はここの文章の意味を読み損ねていました。ニュートンの言う“与えられた”の意味を単なる初期条件の意味と思っていたのです。そうではなくて、刻々変わっていく“ある瞬間に与えられる”の意味です。この事に気づいたときに全てが理解できました。
 それにしても、河辺先生は極めて正確に訳されていますね。二ュートンの言い回しを軽々しくいじくってはいけないと改めて思いました。
 
 つまり、“ニュートンは二次曲線が逆二乗法則を満足する曲線であることをあらかじめ示しておいて、初期条件から逆二乗性を用いて具体的に二次曲線を描く方法(それは等時間間隔と等角度間隔の違いはありますが本質はファインマンと同じです)を示すことによって、逆二乗法則を満足する軌道が二次曲線であることを証明した”のです。
 ニュートンが逆二乗法則(命題16・定理8と命題13・系2)を用いて少しずつ伸ばして描いた曲線が円錐曲線(二次曲線)であることは、上記のSYがファインマンが用いている垂直二等分線に相当することに注意すればファインマンとおなじ様にして直ちに証明できることはお解りでしょう。すなわち、ニュートンは二次曲線であることを直接証明しているのです。
 
 一方、“ファインマンは二次曲線の描き方をあらかじめ示しておいて、次に逆二乗法則のベクトル図から初期条件を用いて軌道を描く方法等角度間隔を用いたところに独創性がある)を示し、その両方の描き方で描いた軌道が一致することでもって逆二乗法則を満足する軌道が二次曲線であることを証明した”のです。

 最後にもう一つ注意すると、この補足説明をお読みになれば何故にニュートンが命題11〜13に於いて主通径Lを仲介にして証明したのかお解りでしょう。
 すなわち“・・・命題11、12、および命題13ですでに証明されており、”の所です。これは上記の様にここで命題13・系2を用いるのであるが、“それがここで使えることはすでに命題11〜13で“主通径”を用いた証明で説明していることから解るだろう”と、我々凡人に言っているのです。
 これが解ったとき、先に命題11〜13を解説するのにニュートンの証明法を改変して説明したのは浅はかだったと思いました。ニュートンの証明法を軽々しく改竄してはいけませんね。
 これは別稿のケプラー方程式の図的解法でOR(SR)の働きを利用しない証明に改変してしまったのですが、後で自分のおろかさが解ったとき、肝に銘じたはずだったのですが。

系1
 これより、あらゆる円錐曲線において、与えられた主頂点D、通径Lおよび焦点Sから、いまひとつの焦点Hが、DH対DSの比を通径 対 通径と4DSの差に対する比に等しくとることによって与えられる。なぜなら、SP+PH対PHが2SP十2KP対Lの比例関係は、この系の場合、DS+DH対DHが4DS対Lに等しいとなり、減比の理によってDS対DHが4DS−L対Lに等しいとなるからである。
系2
 これより、主頂点Dにおける物体の速度が与えられるとすると、〔命題16・系3によって〕その通径が距離DSの2倍に対する比を、その与えられた速度 対 半径DSの円周上を回転する物体の速度の比の2乗にとり、次にDH対DSを通径が通径と4DSの差に対する比にとることによって、その軌道は困難なく見いだされる。
系3
 したがってまた、物体が任意の円錐曲線上を運動し、軌道から何かの衝撃によって押しやられる場合にも、そのあと経過する軌道を知ることができる。なぜなら、この物体のもともとの運動に、その衝撃だけで生ずるべき運動を合成することによって、この物体が衝撃を受ける与えられた場所から位置の与えられた直線の方向に生ずる運動が得られるであろうからである。
系4
 またこの物体が何か外部からの力によって連続的に擾乱されるとすると、その力がいくつかの点においてひき起こす変動をよせ集めて、中間の場所における連続的な変動を、級数に似た仕方で見積もることによって、その径路がおおよそわかる。
注解
 物体Pが任意の与えられた点Rに向かう向心力によって中心がCである任意の与えられた円錐曲線の周上を運動するとしたとき(第27図)、この向心カの法則を求めようというのでしたら、CGを動径RPに平行にひき、軌道の接線PGとGで交わらせます。するとその力は〔.命題10・系1および注解命題7・系3とによって〕CG3/RP2に比例するでしょう。

 この系の説明、および命題17に付いては、文献2.に興味深い解説がありますのでご覧下さい。
これに続く
第4章 楕円軌道、放物線軌道、および双曲線軌道を、与えられた焦点から見いだすことについて
・・・・以降の説明は全て省略します。

 ここまでに説明したことは文献1.の第1章〜第3章p87〜121(34ページ)内容です。プリンキピアはこれ以後が本番p121〜568(約448ページ)で、ここの話はページ数にして全体の14分の1以下のさわりの部分でしかありません。
 ニュートンは、無駄のない言い回しの極めて簡潔な文章で説明しているので、このさわりの部分を理解するだけでも厖大な努力を要します。
 別解・系・注解で言及している内容は本文中の定理よりもさらに意味深い事柄が多いのですが、その当たりについては、天才ニュートンに取って自明の事だったのか、さらに簡略化した説明で済ましているので読み解くのがもっと大変です。
 私自身、命題17・問題9の最後の4行の文章を読み解くのに厖大な時間を要しました。「プリンキピア」の広大かつ深遠な内容に圧倒されます。

 

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4.ケプラーの法則から運動の法則を仲介にして万有引力の法則を導く

ケプラーの法則から“万有引力の法則”を導く問題です。

)ニュートンの証明

 第3章の命題11で説明されていますので、そこをご覧下さい。
 
 円軌道という特別な場合についてなら、“ケプラーの第三法則”が成立すれば、“万有引力の法則”が成り立つことは、第2章の命題4,系6で説明されています。

 

)解析的な証明

 解析的な証明は様々な力学教科書で説明されています。ここでは遠山先生の文献4.の方法を紹介します。

.極座標表示での加速度

 太陽の位置を楕円の焦点として、太陽・惑星間距離rとその方位角を“真近点離角”θとする。そのときx軸を楕円長軸とし太陽位置を原点としてx軸に垂直にy軸を取る。図中の“半通径(半直弦)”と言われるもので=a(1−e2)が成り立ちます。eは楕円の離心率です。

 惑星Pの位置は複素数表示(x,y)=x+iyで表されるが、この点の加速度を求めてみる。オイラーの公式を用いて変形すると

となる。
 ここでeiθを乗じることは、複素ベクトル

を角度θだけ回転することに相当する。
 そのため複素ベクトルの最初の項

が太陽の焦点から外向きの加速度成分を意味する。
 また、二番目の項

が動径に垂直な近点離角の回転方向の成分を意味する。

補足説明1
 複素平面を使わなくても、地道に計算すれば同じ結論が導けます。
 この機会に、三次元極座標における加速度成分を導いておきます。詳しい説明はこちらをご覧下さい。
 また、極座標表示での運動方程式、さらに、エネルギー積分(エネルギー保存則)と、運動量モーメント積分(角運動量保存則)も導いておきます。
 
 極座標表示での運動方程式を導く手順は別稿「回転地球に固定された座標系におけるニール(Neil)の放物線とフーコー(Foucauしt)の振り子」1.で説明した手続きと似ていますが、そこでは座標系そのものが加速度運動をしている場合でした。ここでの議論はあくまで静止した極座標系への変換です。
 くれぐれも、回転系に固定された三次元デカルト直交座標系と、座標が空間に固定されておりその空間位置をr、θ、φで表す極座標表示を混同しないでください。

 

.近点離角方向の加速度

 前項で求めた真近点離角θ方向の加速度成分をケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)を用いて変形すると

となる。つまり、ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)を用いると、真近点離角方向の加速度成分はゼロに成ることが証明できた

 

.動径方向の加速度

 同様に前項で求めた動径方向の加速度成分を変形する。楕円の極座標表示については別稿「二次曲線の性質」5.をご覧下さい。ケプラーの法則を用いると

となる。前に負符号が付いていることから解るように、動径方向の加速度成分は常に焦点の方向を向いている。また加速度は焦点とPの距離の二乗に逆比例することが解る。
 つまり、ケプラーの第一法則(楕円軌道法則)と第二法則(面積速度一定法則)を用いて、動径方向の加速度成分は運動の法則と万有引力の逆二乗法則を満たさねば成らないことが証明できた。このとき、運動の法則と万有引力の法則が同時に成り立たねばならないことに注意してください。

 

)幾何学的証明と解析的証明の比較

 遠山先生の説明は、様々な解析的証明の中でも特に見通しが良いものです。しかしこのとき、極座標の原点を楕円の(中心ではなくて)焦点に一致させて楕円を表し、焦点を中心として面積速度を測ることにより、力の中心が楕円の焦点であることが暗黙の内に仮定されていることに注意してください。
 
 この点を見落とすと、なぜ軌道が楕円であることから逆二乗法則が導けるのかを解析的な証明から読み取るのは難しい。実際、楕円の(焦点ではなくて)中心を原点(そうすると楕円の極座標表示が変わってくる)にして、それを中心として面積速度一定の法則(それは実際の観測結果に合わない)を適用して解析的に解けば、力が距離の1乗に比例することが導かれるはずです。
 万有引力の法則(力が距離の2乗に逆比例する)を導くには、(焦点を原点とした極座標表示の)楕円軌道であることに加えて、その力の中心が楕円の(中心ではなくて)焦点であるという知識が必要です。そのことは単なる面積速度一定の法則からは出てきません。面積速度一定の法則は中心力であればどんな距離法則に従う中心力でも常に成り立ちます。ケプラーの言う面積速度一定の法則は楕円の(中心ではなくて)焦点に付いてのものですが、それは単なる面積速度一定の法則以上のものを含んでいます。
 軌道が楕円であることと、楕円の中心(焦点ではない)に関して満足される面積速度一定の法則からは、力が距離の1乗に比例することしか出てきません。力が距離の2乗に逆比例するためには、力の中心が楕円の(中心ではなくて)焦点であることが本質的に重要です。ここは「プリンキピア」の命題10から命題11へ進む過程で明確に説明されています。
 
 この当たりは(焦点を原点とした楕円の極座標表示などを用いていない)ニュートンによる証明の方が遙かに見通しが良く物理的に明快です。ニュートンが命題6命題7をくどくど説明しているのは、それ以前のプトレマイオスやコペルニクスの段階では力そのものが認識されておらず、いわんや(離心円中心ではなくて)楕円焦点が重要などとは誰も予想できない状況だったからです。
 だから命題6命題7が重要です。そしてニュートンが証明する命題10・問題5命題11・問題6では最初に“楕円の中心、あるいは焦点に向かう力の法則を求めよ”として、力が楕円のどこに向かうのかが明確に掲げられています
 解析的な証明を読んでも今ひとつ解らないところがあり、いつも何か誤魔化されたような感じがしていたのですが、このたびこのページを作ってみてその理由がやっと解りました。やはりニュートンは偉大ですね。

 

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5.運動の法則と万有引力の法則からケプラーの法則を導く

 “万有引力の法則”に従う中心力のもとでの“軌道の形”を求める問題です。

)ニュートンの証明

 第3章の命題13・系1と系2 および 命題16・定理8 と 命題17 で説明されています。
 
 ここで注意して欲しいことは、命題13・系1だけでは、この問題の解答が完了していないことです。
 力の中心から離れた在る場所で、任意の方向を向いた速度が与えられたとき、具体的にその物体がたどる軌道を描く事ができて始めてこの問題の解答が完成する。それが命題17です。
 そのとき、命題16・定理8命題13・系2が本質的な役割を果たします。

 

)ファインマンの証明

 文献6.に載っているファインマンの証明です。独創的で興味深い。

.運動の法則と万有引力の法則から導かれる速度の変化法則

 一つの物体Pが中心Sから距離の逆二乗則にしたがう力を受けてある軌道を描いているとする。そのとき、ファインマンは軌道を力の中心からの動径で当角度に分割します(下図参照)。
 この図はニュートンの命題1の図と良く似ていますが、ニュートンの図の動径は同じ時間間隔で引かれており、ファインマンの図の動径は中心角の変化角を同じにして引かれています。そのためファインマン図では一つの動径から次の動径までの経過時間はそれぞれ異なります。
 面積速度一定の法則を考慮すると、ファインマン図では隣りの動径への移行時間は隣り合った動径に挟まれた三角形の面積に比例します。さらに、各三角形の頂角は全て等しいので、その面積は動径の二乗に比例すると言ってもよい。

 物体Pがそれぞれの動径間を移動する間の速度ベクトルの変化を表す速度変分ベクトルΔvの方向は、“運動の第二法則”から、中心Sを向く。
 さらに、速度変分ベクトルΔvの大きさについても、“運動の第二法則”“面積速度一定の法則”(これは運動の第一、第二法則から導け、中心力であれば常に成り立つ)と“万有引力の法則”から、
 |Δv|=[加速度]×[等角度距離の移動時間]
      ∝「力の大きさ]×[等角度三角形の面積]
      ∝[1/距離2]×[距離2
      ∝1 (一定値となる)

が言える。
 つまり、物質が力の中心の近くを移動していようと遠くを移動していようと中心からの距離に関係なく、物質は等しい角度を移動する間に等しい大きさ速度変分ベクトルを生じ、しかもその方向は(軌道の動径変化角と同じ)角度Δθで変化していく。
 そのため、等角度変化ごとの軌道点における速度ベクトル速度変分ベクトルを取り出して図示すると、(動径の角度変化は全て同じΔθなので)速度ベクトルの先端が(等角度かつ等辺の)正多角形の上に乗ることが解る。最初に分割した等角度動径の数を無限に増やすと正多角形は滑らかなとなる。(下図参照)。

 このとき、速度ベクトル速度変分ベクトルの関係を考慮すれば、速度ベクトル図の原点O’は円の中心Oとは異なるが、一つの点O’に集まることが言える。
 これが、ファインマンが見つけたことです。(ファインマンは見つけたのはファノ氏だと言っているが)

 

.速度の変化法則は軌道が楕円(二次曲線)となることを示している

 前記の速度ベクトル図から実際の軌道を構成するには、各中心角における速度ベクトルの方向に、各中心角変化を生じる時間の長さ分(それは動径ベクトルで挟まれた三角形部分の面積に比例する)だけ速度ベクトルを伸ばして行けばよい。そうして伸ばされた点から新たな中心角とそこでの速度ベクトルを用いて同様な手順で軌道を延ばしていくことになる。
 このとき注意して欲しい事は、逆二乗法則の本質は速度変分ベクトルがOを中心とする円の周上に乗ることで、速度ベクトルの中心O’の位置はどこでも良い。図では円の中に位置していますが、円周上(放物線となる)でも円の外(双曲線となる)でも良い。ただし、それらの場合には閉じた軌道にはならない。とにかく点O’は適当な位置に仮定してよい
 いずれにしても、上記の様にして構成される曲線が二次曲線となることが証明できればこの命題は解決です。しかし、文献6.のグッドスティーンの説明は証明になっていないし、訳者の砂川先生の補足もよく解らない。ファインマンの説明は文献6.のp190〜191にごく簡単な言い回しの記録が残っているだけです。そのためその証明の詳細が良く解らないが、おそらくファインマンは以下のように展開したのだろう。

 まず、ファンマンは下左図の動径端0から、下右図の速度ベクトル0で表される方向へ進む。そして速度変分ベクトルのOに於ける見込み角Δθ分だけ進んだ動径直線との交点を求めます。すなわち下左図の点1です。
 このとき動径S0の方向は、右速度ベクトル図の動径O0を右に90°回した方向としています。そうする理由はやがて解ります。そのとき動径S0の長さに関しては任意で良い。
 いずれにしても、次の動径S1と交わった点で速度ベクトルの方向を0から1へ受け渡す。そうしなければならないのは下右図の速度ベクトル図が描かれた手順を逆にたどれば明らかです。もともと0−v1=Δv1は動径の向きがΔθだけ変化した位置の速度ベクトルとの差をあらわしていたのですから。
 次に点1から、下右図の速度ベクトル1の方向へ線分を引き、前と同じ角度Δθだけさらに進んだ動径S2との交点を求める。それが下左図の点2です。
 次に点2から、下図右の速度ベクトル2の方向へ線分を引き、前と同じ角度Δθだけさらに進んだ動径S3との交点を求める。それが下左図の点3です。
 以下同様な手順を繰り返す。
 その様にしてP点がたどる軌跡を伸ばしてゆけば、万有引力の逆二乗法則に従った軌道が描かれたことになる。これを作図法1とする(下図参照)。

 次にこの軌道が楕円(二次曲線)であることを証明しなければならないが、ファインマンは以下の手順をたどる。

 まず、前右図の速度ベクトル図が与えられているとする。そして最初の出発点の位置点0と点1と最初の速度ベクトル0から以下の手順によりS’点を定める。

 まず、速度ベクトル0を取り上げると、それは軌道点01中間点P(点1’)における軌道の接線となっていることは明らかです。その接線をRZとする。次にP点から∠ZPS=∠RPS’となるような線分PS’を引く。その線分とSを通りOO’に垂直な線分との交点をS’とする。
 次に、力の中心点を中心として、半径=S’P+SPの円を描く。その円の描き方は、線分SPを伸ばして、線分SPの延長線上にS’P=PWとなる点を取る。そうしてSを中心に半径SWの円を描けばよい。(下図参照)。

 次に、S’とWを結ぶ線分S’Wを引く。さらに線分S’W垂直二等分線HGを引けばそれは、先ほどの線分SWP点で交わる。そのことは、W点をS’、P、S点から構成した手順を考えれば明らかです。なぜなら、△PHS’≡△PHWであり、S’P=PWが成り立つからです。
 全く同様にして、最初に述べたSから等角度間隔Δθで引いた動径の中間点の延長線S1’、S2’、S3’、・・・が、上記の円と交わる点1’、2’、3’、・・・を求めることができる。それらの交点1’、2’、3’、・・・とS’を結んだ線分の垂直二等分線を、それぞれの動径S1’、S2’、S3’、・・・と交わらせた点(図では動径S0’、S6’、S9’上の交点を例示)を求める。
 その様にして得られる交点は全て、別稿「二次曲線の性質」3.(1)4.(1)で説明した楕円上の点の性質を完全に満たしている。そのため、それらの点の集合は一つの楕円軌道(二次曲線)を構成することになる。これを作図法2とする。

 つぎなる問題は、作図法2で描かれた楕円(二次曲線)軌道が、最初に述べたファンマンの方法による作図法1で描かれた軌道と同じであることの証明です。

 そのことを証明するには、動径がΔθずつ変化したとき同じ角度の動径上の作図法1における速度ベクトルの方向と作図法2における速度ベクトルの方向が一致している事を証明すればよい。
 そのとき、速度ベクトルの大きさについては、両方の作図における動径の方位角の間隔Δθが同じだから、同じかどうかを問う必要はない
 両者の速度ベクトルの方向の同等性の証明は下右の速度ベクトル図を右に90°回転して、そのOO’間距離を下左図のSS’間距離と等しくなるまで拡大してみれば直ちに達成される。
 なぜなら、下右図のNO’OM点が下左図のFS’SEに一致し、各速度ベクトルを拡大した線分が、線分S’W等々・・・に一致するからです。そのとき両方の図のΔθの値は共通であったことに注意されて下さい。そのため、OO’/ON=SS’/SF=SS’/AB=e(楕円の離心率)であることが判明する。

[ここで線分S’W等々・・・を垂直二等分する点Hは線分ABを直径とする円の周上に在ることに注意されたし。そのようになることは円AHS’円EWFを、S’を中心にして動径S’W、等々・・・を1/2に縮小したものであることから明らかです。]
 作図法2に於ける線分S’W等々・・・の垂直二等分線の方向が楕円の接線の方向ですが、その方向は線分S’W等々・・・を90°右回転した方向です。それは上記の二つの図の重ね合わせの手順から明らかな様に、作図法1における速度ベクトルの方向に一致します。
 すなわち、SS’の方向と交点を求めるときに用いたSW等々・・・の動径の方向から作図法2で幾何学的に求めた軌道上の速度ベクトルの方向(つまり接線の方向)は最初に仮定した速度ベクトル図に於ける速度ベクトルv0、v1、v2、・・・の方向と同じに成る。
 結局、ファンマンの方法で描いた作図法1の軌道と、S’、S、Pの三点から構成して描いた作図法2の楕円(二次曲線)の軌道は一致します。故に、ファインマンの作図法1で描いた軌道が楕円(二次曲線)であることが証明できた。

双曲線の場合
 この場合も作図法1のやり方は楕円の場合と同じです。ただし、例に挙げた速度ベクトル0から始めると、図のように線分S0をSの反対側に伸ばした線分上の適当な位置P0から出発することになる。そして、ベクトル1、v2、・・・の方向はその向きと逆の方向に繋いでいく事になる。

 
 次に楕円の場合と同様な操作で作図法2の一番最初の手順を実行する。ただし、速度ベクトル図のO’点が円の外側に位置する場合には、速度ベクトル0は、下図のように線分S0と線分S1をSの反対側に伸ばした線分の中間位置に置くことになる。そして∠RPS=∠RPS’となる線分PS’を引く。そして線分PS’と“OO’に垂直な線分”交点S’を決める。

 そしてS’P0−SP0を半径、Sを中心とする円を描く。その円を描くには、下図の様に点P0’を中心にして半径S’P0’の円を描き、その円周と線分SP0’をP0’の反対側に伸ばした線分との交点をとする。そうして今度はSを中心にして半径SWの円を描けばS’P0’−SP0’=一定値を半径とする円が構成できる。つまり、この円の半径こそ、双曲線の軌道点Pから二つの焦点SとS’までの距離の差に相当します。
 次にその円周をΔθの角度で等分割する。後は楕円の場合と同様な手順で作図法2による軌道点を描く。
 その様にして作図法2で構成される軌道点はすべて別稿「二次曲線の性質」3.(3)4.(3)で説明した双曲線上の点の性質を完全に満たしている。そのため、それらの点の集合は一つの双曲線(二次曲線)を構成する。
 図は離心率e=OO’/ON=AC/SC=1.3の場合を示している(拡大図はこちら)。

[ここで線分S’W等々・・・を垂直二等分する点は線分ABを直径とする円の周上に在ることに注意されたし。そのようになることは円AHS’円EWFを、S’を中心にして動径S’W、等々・・・を1/2に縮小したものであることから明らかです。]
 最後に、速度ベクトル図を右に90°回転させ拡大したものと作図法2の図を重ね合わせ、S’P−SP=円の半径(一定値) であることとΔθが共通であることに着目して、双曲線とその接線の性質を用いれば作図法1作図法2の図形が同等であることが証明できる。
 そのとき、右上図の線分O’JO’Kの方向が双曲線の“漸近線”の方向であること、速度ベクトルO’JO’K無限遠の速度ベクトルに対応すること、また速度ベクトルの先端が弧JNK上に位置する速度ベクトル図は斥力の場合になることに注意されたし。

放物線の場合
 作図法1に関しては前述の方法がそのまま踏襲できます。
 
 しかし、作図法2は使えません。なぜなら楕円図のS’→B→FかつA→Sと成るため、作図法2で構成した放物線はFとSを結ぶ直線に縮退してしまうからです。それは別稿「二次曲線の性質」2.(5)の場合3.4.5.で示した直線に相当します。そのため下図の作図法3拡大図はこちら)に変更する必要がある。
 放物線の場合の作図法3の一番最初の手順は次のようになる。楕円や双曲線の場合と同様に速度ベクトル0を取り上げると、それは軌道点01の中間点P(点0’)における軌道の接線となっている。その接線をRZとする。
 次にP点から∠ZPS=∠RPS’となるような線分PS’を引く。そのとき、線分PS’は、楕円や双曲線のときと違って、“OO’に垂直な線分”に平行になり、その線分と交わりません。それは焦点S’か無限の彼方に在るからです。

 そのため、線分PS’をS’と反対方向に伸ばしてSP=PHとなる点Hを決める。次に、Hを通りPHに垂直な線(準線)を引き、“OO’に垂直な線分”との交点をとする。そうして定めた線分SDが、作図法3で用いる円の半径となる。つまり、作図法3の円の半径=SD=SS’=2×AS=2×頂点と焦点の間隔 とする。この線分SDは、証明の最後の段階で、90°右回転して拡大した速度ベクトル図のOMを一致させるべき線分です。
 引き続いて、その円周をΔθの角度で等分割する。

[ここで線分SH0'等々・・・を垂直二等分する点は点Aを通り準線に平行な直線上に在ることに注意されたし。そうなることは点H線分SH0'、等々・・・を二等分する点であることから明らかです。]
 作図法3の手順を黄色の三角図を例にして説明する。まずS’と円周上の3’点を結び線分S’3’を作る。線分S’3’と平行な線分を点Sから準線に向かって引く。その線分と準線の交点H3’からDSに平行な線分を扇形動径S3’に向かって引く。その交点P3’が軌道点となる。他も同様です。
 図中に示した三角形が全て二等辺三角形で互いに相似になることに着目すれば、作図法3で構成した軌道点が全て別稿「二次曲線の性質」3.(2)4.(2)で説明した放物線の性質を満たしていることが解ります。そのため作図法3の点の集合は放物線となる。
 作図法3の図形は第3章命題13主通径の性質を幾何学的に証明するとき出てきた図と同じであることはお解りでしょう。つまりニュートンはファインマンが説明している二次曲線であることの証明法は自明のこととして承知していたはずです。
 
 最後の作図法1作図法3の図形の同等性は、前と同様に速度ベクトル図を右に90°回転して拡大した図が上左図に完全に重なる事を用いて証明できる。
 そのとき、無限遠の速度ベクトルはO’点に収縮してしまいゼロになることに注意されたし。

 最初にこの本を読んだとき、第1.項(文献6.のp123〜139)の結果を受けて構成される軌道が二次曲線になる事を証明する第2項(グッドスティーンの説明はp139〜150、ファインマンの説明はp190〜191にある)の手順が今ひとつ解らなかったのです。
 このたび、ニュートンの「プリンキピア」を読んだ機会に、文献6.のファインマンの説明(p190〜191の極めて簡潔な言い回しの所)を改めて注意深く読みなおしてみました。プリンキピアの幾何学に導かれて、やっとファインマンの証明が理解できました。結局、Δθの役割に気付くことが鍵だったのですね。
 
 ファインマンの方法もよく考えてみるとニュートンの方法に通じるところがあります。最初に示したファインマンの速度ベクトル図の形は、「プリンキピア」の中にたびたび出てくる、“力の中心SからPへ引いた動径”“物体Pから軌道に接する接触円の曲率中心Oに向かう線分”を同時に表示した軌道ベクトル図と良く似ています。ニュートンの図ではOとO’の役割がファインマンの図とは逆転していて、Oが接触円の中心となり、O’が力の中心となっています。
 
 ニュートンは、その図(動径が等時間間隔で引かれている)を用いて、楕円軌道(二次曲線)上を運動する物体に働く力は逆二乗法則を満たすことを命題11〜13で直接証明した。
 さらに、この反対の命題に相当する逆二乗法則を用いて描かれる具体的な軌道が円錐曲線(二次曲線)に成ることも、すでに述べたようにニュートンは命題17で直接証明しています。つまりニュートンはどちらも直接証明しているのです。
 
 一方、ファインマンは、速度ベクトルと動径ベクトルの役割をひっくり返した図(動径が、等時間間隔ではなく、等角度間隔で引かれている)を用いて、向心力法則が距離の逆二乗に比例するときに描かれる軌道が楕円軌道(二次曲線)になることを直接証明した。
 
 確かに、これはファインマンの面目躍如の独創的な証明法です。ただし、このやり方を「プリンキピア」の様に逆二乗法則以外に拡張するのは難しそうですね。

 

)解析的な証明

文献5.§6.3の説明を引用する。

.運動方程式から求める

 力の中心を原点とする二次元の極座標表示(r,θ)の運動方程式は以下のようになる。中心力であるから、θ方向の力の成分はFθ=0です。またr方向の力の成分をF=f(r)とするとf(r)は距離の逆二乗関数となる。

 ます゜、θ方向の運動式4.(2)1.で説明したθ方向の加速度表示を用いると

となる。
 これはは簡単に積分できて、積分定数をhとすると

となり、“ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)”が得られる。

 次に、r方向の運動方程式を積分して軌道の形を求める。r方向の加速度成分として4.(2)1.で求めた表現を利用して得られる運動方程式を積分する。


 変数変換する所が少し技巧的だが、軌道の形が力の中心を焦点とする二次曲線となることが証明できた。つまり“運動方程式”“万有引力の法則”を適用することで“ケプラーの第一法則(楕円軌道の法則)”が導ける。

 

.エネルギー積分から求める

 “エネルギー保存則(エネルギー積分)”“面積速度一定の法則”から求めることもできる。
 エネルギー積分については、二次元デカルト座標について別稿「エネルギー保存則」4.で説明したものを曲座標に変換すればよい。あるいは、4.(2)1.[補足説明1]で、三次元極座標表示のものを示したが、これの二次元成分表示を取りだしても良い。いずれにしても

となる。これに“面積速度一定の法則”(これは運動の第一法則、第二法則より直ちに導ける。)を適用し、適当な変数変換をして積分する。



 積分定数であるhやα(あるいは定数E、l 、 eなど)は“初期条件”によって決まります。
 この式が二次曲線一般を表すことや、α の意味については別稿「二次曲線の性質」5.でご確認下さい。

.補足

 すでに述べた関係式を用いると、楕円軌道の長半径aと短半径bは次のように求まる。一般的にE<0であることに注意して計算すると

となる。
 ここで、h/2=面積速度であるが、物体(惑星)が力の中心(太陽)を一週する間に、動径は楕円の面積πabを掃過するので、公転周期Tは

となる。これは“ケプラーの第三法則”です。
 ここは、ニュートン「プリンキピア」命題15の説明と比較してみられたし。そこと全く同様な手順で証明されていることが解ります。
 さらに補足します。“二体問題”としての“ケブラーの第三法則”については、別稿「二体問題」2.(2)をご覧下さい。その場合に、公式の分母の M は M+m となり、太陽と惑星の両方の質量に関係してきます。

 

)幾何学的証明と解析的証明の比較

 この問題についての、現代の力学教科書の解析的な証明はまことにすっきりしているが、結局のところ証明の本質は全て微分方程式の積分操作の中に収納されています。最も重要なところが、上記赤波線アンダーラインの一言ですまされており、まことに味気ない。
 この証明に納得できるかどうかは、この積分操作が理解できるかどうかです。この数学的操作は、極座標表示の微分方程式を含めて、高校数学で習う微積分よりも複雑で前もってかなり学習しておくことが必要です。つまり、この命題の解析的証明が解りやすいかどうかは、この数学的操作を理解するのに必要な努力をすでにすましているかどうかにかかっている。
 もう一つ付け加えると、積分操作のとき必然的に積分定数が出てきてきますが、その値を“初期条件”から決める必要があります。一般的な教科書ではそこの点の説明が実にあいまいですが、その過程こそが重要です。
 
 ニュートンやファインマンの証明では、前提として質量中心に対する物体の位置と速度の大きさと方向を与えています。そのようにこの命題で最も重要な操作である“初期条件”を設定することから始めて証明に取りかかる。
 ニュートンやファインマンの幾何学的証明では、解析的証明のように読者の数学的知識に任せるのではなくて、積分過程そのものが具体的に説明されています。そのため途中の手順の意味も良く解る。ただし、ニュートンもファインマンも凡人向けに説明してくれていないので、読み解くのにかなり努力が必要ですが。
 そのような方法を取ったのも、ニュートンは微分・積分法そのものを開発しなければならなかったからですが、現代の我々はニュートンやファインマンが用いた幾何学を理解するために必要な努力をあまりしていません。そのため、「プリンキピア」やファインマンの文献6.を理解するには、我々が微積分数学の習得に費やした程度の努力が必要なのは致し方ない所です。
 
 以上説明したように、幾何学的理解のために必要な努力を惜しまなければ、ここもニュートンの命題13・系1と系2および命題16・定理8命題17・問題9の証明やファインマンの文献6.の証明の方が遙かに解りやすくかつ味わい深いように思います。

 ここについて、もう少し補足しますと、ニュートンは更に先へ進みます。別稿「楕円軌道とケプラー方程式」で述べたように、軌道上の時刻との関係を定めるケプラー方程式を導き、更にそれを解いています。それが命題31・問題23です。最初に幾何学的に解き、注解で数値的に解く方法を示しています。幾何学的な解法はニュートンならではの独創的なものですが、更に興味深いのは数値的な解法です。
 
  そこで注目すべきは、河辺先生の訳を“それは角が直角より小さければ減少し大きければ増大する”に直した理由で述べた事柄、“角(∠AOQ−E−・・・)が直角よりも小さければ 1−e・cos(∠AOQ−E−・・・)<1となり、直角よりも大きければ 1−e・cos(∠AOQ−E−・・・)>1となることを言っている” と、
 もう一つは、“そう考えないとnti−nt=f(uiからΔui=ui-1−uiを導くときに(nti−nt)へ乗じるべき1/f’(ui)=1/(1−e・cos(∠AOQi-1))の形を予測することは難しかったでしょう。それを見つけるにはsinの微分がcosであることの知識が必要だからです。” のところです。
 これらの事から、ニュートンはこの逐次近似による数値解法を、確かに微分・積分法を用いて導いてから幾何学に翻訳したのでしょう。実際この“ニュートン法”は今日微分法の重要な応用として高校数学でも説明されているものですが、いかにニュートンといえども、この方法をいきなり幾何学的に見つけるのは難しかったでしょう。
 
 ただし、この稿で説明した万有引力から楕円軌道を幾何学に導く過程に於いて、そういった微分・積分法的な考え方がかかわっていたのかどうかは解りません。ここで説明した幾何学を用いる方法はおそらく命題1や命題4を深く考察する過程で見つけたものでしょう。特に命題1の系1と系2などが一番最初に掲げられているを見ると、その様に思えます。命題1が突破口に成った事は文献2.p7でチャンドラセカールも特に強調している所です。

 

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6.参考文献

この稿を作るのに以下の文献を参照しました。

  1. 河辺六男訳、「世界の名著26 ニュートン」中央公論社(1971年刊)
    「プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)」
     これを読みこなすには、厖大な努力が必要です。そのとき、河辺先生の訳文を軽々しくいじくってはいけません。またニュートンの証明法を軽々しく改竄してはいけません。虚心坦懐に訳文を読みニュートンの証明に接して下さい。
  2. S.チャンドラセカール著「チャンドラセカールの『プリンキピア講義』一般読者のために」講談社(1998年刊)
     私には難しい本ですが、様々な箇所でとても興味深い考察が展開されています。
  3. 和田純夫著「プリンキピアを読む」講談社(2009年刊)
     文献1.を読むための導きの糸として有益です。
  4. 遠山啓著「 数学入門(下)」岩波書店(1966年刊)p216〜218
     万有引力の法則の解析的な導出法の解りやすい説明があります。また、この本の最後の]W章で物理法則とは何かが説明されています。
  5. 原島鮮著「力学(改訂版)」裳華房(1966年刊)§6.3
     楕円軌道の解析的な導出法の解りやすい説明があります。
  6. グッドスティーン著「ファインマンさん、力学を語る」岩波書店(1996年刊)P123〜P150
     この中に、力が距離の逆二乗法則に従う場合、運動が二次曲線になることの幾何学的な証明があります。
  7. 河辺六男著「プリンキピア300年」日本物理学誌、第42巻第8号p674〜703、1987年
     文献1.の著者である河辺先生のプリンキピアの成立過程と時代背景の興味深い論考があります。以下のURLからダウンロードされてご覧下さい。
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/42/8/42_8_697/_article/references/-char/ja/

 「プリンキピア」の内容は極めて広大かつ深遠で、私の力ではとても読みこなせません。そのため、最も基礎的なさわりの部分のみを取り上げました。できるだけニュートンの考察をそこなわないように説明することに努めました。
 この稿で紹介した部分には、根本法則である“運動の法則”と“万有引力の法則”を帰納的に導く過程と、その根本法則を用いて演繹的に様々な現象を説明する過程が混在しています。ニュートンはその両方を同時にやらなければ成らなかったのですから、論理構成の中に両者が混在することはしかたないことかもしれません。そのことが、この本の理解を極めて難しいものにしている要因の一つかもしれません。
 ある意味、根本法則から様々な現象を演繹的に説明することは解りやすい。本当に難しいのは根本法則を見つけ出す過程です。それは混沌とした経験事実のなかから、系統的な規則性を見つけ出し、その規則性のなかから、それらの現象を生み出す根本原理を見つける過程です。これは難しい。
 
 ニュートンは本論に入る前に、定義・公理または運動の法則を説明する部分を設けて、運動の法則を根本原理として掲げています。そのため、第T編の第2章、第3章は、“運動の法則”を様々な現象・経験則(特にケプラーの三法則)に適用して“万有引力の法則”を発見する過程であると一般には見なされています。
 しかし、その部分を良く読んでみると、ケプラーの法則という現象・経験則から“万有引力の法則”を見つける過程の中で、同時に“運動の法則”そのものの検証をしているように感じます。つまり、第T編の理論展開は運動の法則そのものを検証・確認する過程ではないでしょうか?その点の認識がないと、プリンキピアを理解するのは難しいように思います。
 
 それともう一つ感じたのは、図と数式の持つ威力です。物理学を理解する鍵は図と数式を多用することですね。私自身図と数式をいじくり回している内にやっと理解できたということが多々在りました。現代の描画ソフトに感謝します。
 「プリンキピア」の様に“言葉”と“図”だけでは極めて解りにくい。もちろん、ニュートンの時代には数式を印刷するのが極めて面倒だったのでしょうし、解析学がまだ発達していないので仕方がないのかもしれません。
 一方、現代の教科書の様に“言葉”“数式”に偏重した説明も解りにくい。
 結局、“言葉”“図”“数式”をバランス良く用いた(代数学幾何学解析学をバランス良く用いた)説明が最も解りやすいように思います。それは結局あらゆる方面から眺めてみることが必要だと言うことなのでしょう。
[プリンキピア解説ページを制作しての独り言]

参考文献[2015年12月追記]

  1. 山本義隆著「世界の見方の転換 1〜3巻」みすず書房(2014年刊)
     この稿を作った後で図書館から借りてきて読んだのですが、抜群に面白い本です。山本氏の言われるおよその所は、私自身が学んだHoyle、Aiton、Gingarich、Toomer、Swerdlow、高橋憲一、等々・・・の著作から解ってはいたのですが、ここまで徹底的に解説してもらうと本当に良く解ります。
     もっと早く読めば良かった。高価ですが是非購入して徹底的に読み込もうと思います。この本に導かれてケプラーの業績を是非たどってみたいですね。
  2. ヴラディーミル・イーゴレヴィッチ・アーノルド著「数理解析のパイオニアたち」シュプリンガー・フェァラーク東京(1999年刊)
    原題は「ホイヘンスとバロー、ニュートンとフック」で、副題が“伸開線から準結晶まで、数理解析とカタストロフ理論のパイオニアたち”(1989年刊)
     チャンドラセカールがたびたび言及しているので図書館から借りて読んでみました。確かに面白い本です。しかし、チャンドラが言及しているケプラー方程式に関係した「プリンキピア」補助定理28に関係する第5章“ケプラーの第2法則とアーベル積分のトポロジー”は私には難しくて良く解りませんでした。微分積分学の発見に関係する第2章“数理解析”と第4章“天体力学”はそれなりに面白いのですが、もっとページ数をかけて説明してもらわないと、その詳細は理解できません。
     この稿に関係する第1章“万有引力の法則”は私どもにも解りやすくとても興味深い所でした。この中にNeilの放物線に関係したニュートンとフックのやりとりや、万有引力から楕円軌道を導く問題等がふくまれていますので別稿で引用しておきます。
  3. 山本義隆著「古典力学の形成(ニュートンからラグランジュへ)」日本評論社(1997年刊)
     この稿を作った後になったのですが古書を購入(2015/11/28)して読みました。これも面白い本です。第1部はこの稿にも関係するところだったので特に興味深く、なるほどなるほどという感じで読みました。文献を徹底的に調べられているのに圧倒されます。
     これを読むと「プリンキピア」第T篇の命題39〜41と第U篇第1〜2章は是非勉強する必要がありそうですね。Leibniz→Varigon→Hermann→Bernoulli→Eulerと解析的な解法が発展していく様子は興味深い。特にp91の図5-5とLeibnizの説明は有益でした。また今日の解析的な解法のルーツはEulerに在るようですね。
     第2部も面白い。特に“ダランベールの原理”は私自身良く解らないところだったので、この本の解説は有益でした。やはり歴史を遡らないと本当のところは解りませんね。

参考文献[2019年8月追記]

  1. アイザック・ニュートン著(中野猿人訳)「プリンシピア自然哲学の数学的原理第T編(物体の運動)」講談社(2019年刊)
    アイザック・ニュートン著(中野猿人訳)「プリンシピア自然哲学の数学的原理第U編(抵抗を及ぼす媒質内での物体の運動)」講談社(2019年刊)
    アイザック・ニュートン著(中野猿人訳)「プリンシピア自然哲学の数学的原理第V編(゛かい体系)」講談社(2019年刊)
     以前(1977年)講談社から単行本として発刊されていたものが、このたび新書版として再版されたものです。かってとても欲しかった本なのですが、古書でも大変高価で諦めていました。横書きなので、数式・記号も含めてとても読みやすいです。中野氏の訳注もありがたい。

参考文献[2020年1月追記]

  1. スブラマニアン・チャンドラセカール著「真理と美(科学に於ける美意識と動機)」法政大学出版局(1998年刊、原本は1987年刊)のp81〜91を引用。さらにp214〜227も別稿で引用。
     なかでもp88〜89の記述に、なるほど納得です。
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