この稿は、別稿「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年)」で述べられているアインシュタインのローレンツ変換導出法に対する補足説明です。
アインシュタインの1905年論文中で説明されているローレンツ変換導出手順は少し解りにくいものです。それについて読者の方から質問を受けたのですが、その方への返事を書く過程で自分自身の理解も深めることができました。この稿は質問を下さった方への回答を載せています。
ここでは、アインシュタインの手順を解説する代わりに、アインシュタインがこの手順を用いて求めたローレンツ変換を用いて、逆にこの手順を解説します。そちらの方が、アインシュタインの考えを理解しやすいと思いますので。
最初に1905年論文に述べられている手順を復習します。
アインシュタインは最初に
“1つの事件を静止系(K系)から眺めたとき、それの起こった場所と時刻を完全に規定する1組の数値をx,y,z,tとする。
ひとつの組x,y,z,tには、同じ事件を運動系(k系)から眺めた場合の、それらの場所と時刻を示す数値の組ξ,η,ζ,τが対応する。
これら二つの数値の組をむすびつける関係式を発見するということが、ここの課題である。”
と宣言してから話を始めます。
アインシュタインの言う同じ事件とは
“運動系(k系)の原点ξ0から時刻τ0に光を発射して、k系の座標ξ1の位置にある鏡で反射させ、再びk系の原点に光が帰って来るまでの出来事”
です。この一つの事件をk系とK系から同時に観測します。
そのときK系(静止系)の観測者はK系に付随している物差し棒(x,y,z方向に互いに直交して配置されている)で各事象が生じた場所の座標値を記録します。またKの座標軸に沿って同じメカニズムで時を刻む時計が隙間無くビッシリと敷き詰められているとします。各事象の起こった時刻とはその事象が起こった位置にたまたま存在する時計の針を見て記録します。もちろんそれらのすべての時計の時刻はアインシュタインが論文の最初に説明している光信号を用いる方法ですべて合わされているとします。
同じ事象をk系(運動系)の観測者はk系に付属している物差し棒(もちろんこれらはk系の運動に伴って同じ速度で動いています)で測り、その事象が起こった場所を(ξ,η,ζ)で記録します。またその起こった時刻はk系の物差し棒に沿って隙間なく敷き詰められている同じメカニズムの時計で測定します。もちろんこの場合もその事象が起こったとき、たまたまその位置にあるk系時計の指し示している時刻を記録します。
k系に付属して設置する物差し棒と時計は、k系がK系に対して静止している時にK系に設置するものとまったく同じ物差しと時計をk系に設置して、それから速度vでk系と共に動かしていると考えればよい。
なぜこのような面倒な説明が必要なのかというと、物差し棒を動かすと縮んでしまい、時計も動いていると時を刻む速さが遅くなるかもしれないからです。そのためにそれぞれの系で測定した座標値と時刻を違った記号で記しています。特殊相対性理論が理解できないと言われる方の多くはここのところが納得できないようですが、いずれにしても、そこの所がどうなるか解らないのですから最初は(x,y,z,t)と(ξ,η,ζ,τ)の様に別々の記号にしておくと言うだけです。最終的な結論として、物差しの縮みや時計の遅れなどは無いということが解ればそれはそれでメデタシ(愛で甚し)ですから、今はとりあえずその様に置いておきます。
しかし、後で解るように動いている時計の進み方が遅くなり、物差し棒の長さが縮みます。これは実験・観測事実です。
運動系の時間・時刻は運動している系に静止している物体の属性(例えばその原子核の固有振動など)を用いて測ったものです。いわゆる原子時計の様な物だと思って下さい。一方静止系の時間・時刻は静止系に静止している物体の属性(例えばその系に静止する原子核の固有振動を用いた原子時計)を用いて測ります。運動系の時間が遅れるということの意味はそういった自然現象の推移がゆっくり進む様になると言っているのであってそれ以外の何者でもありません。
運動系の時計がゆっくり進むように見えるというのは、静止系から見て運動系の物理現象(上記の原子核の固有振動)などがゆっくり進む様に見えるのです。そのために運動系とともに動いている時計は静止系から見てゆっくりと時を刻む様に見えます。実際あらゆる観測結果がそのことを示しています。高速で動いているπ中間子やμ粒子が崩壊するまでの寿命が延びるのもこの一例です。また1936年にIves達が観測した横ドップラー効果もその現れです。また1971年に飛行機に積んだ原子時計の時の刻みの速度が遅れることが実際に確かめられています。
物差し棒の縮みを実際に観測するのは容易ではありませんが、光速がどの系から観測しても不変であるという実験・観測結果(つまり光速不変の原理)と上記の時間の遅れの実験・観測結果を組み合わせれば、間接的には動いている物体の長さが縮むことが実験的に確かめられていると言って良いでしょう。
アインシュタインが用いる議論の前提は、上記の“場所と時刻の測り方”と、“光速不変の原理”です。
“光速不変の原理”は常識では納得しがたい事で、特殊相対性理論が理解できないといわれる方の大半はこの事に不信感を抱いておられるようです。
しかし、“光速不変の原理”は、マイケルソン・モーリーの実験を始めとして、繰り返し行われた多くの実験・観測により検証されている事柄です。
同じ光の進みを光の進行方向に動きながら見たら光の速度は遅くなるように思われるかもしれませんが、後で解るように運動系では物差し棒は縮み時計の進みはゆっくりになるのですからその物差し棒と時計でもって測定すれば、静止系の物差し棒と時計で測った光速と同じ値になると言うことです。
このことについては、後の稿「マイケルソン・モーリーの実験の特殊相対性理論による説明」1.[補足説明]を先にお読みになるのが良いかも知れません。
いずれにしましても、このことは後ほど繰り返し説明しますから、とりあえず“光速不変の原理”を仮定して話を進めます。
k系(運動系)の原点から、k系の時刻τ0に、k系のξ軸に沿って、その軸上(ξ1の位置)に固定された1点(鏡)に向かい光りが発射されたとする。光がこの固定点に到達して反射された時刻をτ1とする。これはもちろんその位置に存在するk系の時計の指し示す値です。さらに反射光が、再びk系の原点に立ち戻った時刻をτ2とする。なお、k系の原点と、そのξ軸上にある固定点(鏡)との距離をK系の物差しで測った長さをl’とする。
k系のξ軸に沿って配置固定されているすべての時計の時刻τは、k系から見たとき同時刻となるように調整されているし、k系から見た光の速度は原点と反射鏡の行きと帰りで(“光速不変の原理”により)まったく同じ速度で伝播し、行きと帰りの距離は同じξ1−ξ0=ξ1−0=ξ1だから以下の関係が成り立つ。
次に、この現象をK系(静止系)で見た場合を考察する。このときk系で観測した同じ光線をK系で見るわけですが、“光速不変の原理”により以下の関係式が成り立つ。下図はK系から見たk系の原点とξ1の点の運動の様子を表しています。この間の距離を長さl’の棒と見なすと、静止系から見てその棒がx軸の正方向へ速度vで時間と共に移動していくわけです。
上式から明らかなようにK系から見た光の出発時刻t0、光の反射時刻t1、光の(k系の)原点帰着時刻t2に関して
となり
と一致しません。もちろんk系のK系に対する移動速度がv→0になれば一致しますが、一般に(vが0でないとき)は
となるのです。これは“光速不変の原理”が成り立てば当然の結論です。
[Einsteinの疑問]
つまり、“光速不変の原理”が成り立てば同一の事象を見たのにk系(運動系)で成り立つ時間の式とK系(静止系)で成り立つ時間の式が異なります。互いの系で測った時間にずれが生じるのです。
アインシュタインはこの事に深く悩みます。彼が京都公演で語ったことによると、この矛盾を解決するのに一年ばかり苦しんだ様です。しかし、そこに書かれているように友人ベッソーと議論する内にこの矛盾を解決する方法を見つけます。
それが時間というものは絶対的に定義できるものはなく、観測する者それぞれにとって独立に流れてゆき、互いに動いている観測者の時間は相対的なものだということに気付くことでした。この事の重要性は1905年論文のT.§1.で彼自身が語っています。
この事に気付いた後、ローレンツ変換公式を導く事は一気呵成でした。上記の二つの関係式を用いれば、同一の事象をそれぞれの系で測った値である(x,y,z,t)と(ξ,η,ζ,τ)の間の関係を示すローレンツ変換は一気に導けます。
その数学的な計算はそんなに難しくありませんのでアインシュタインの1905年論文のT.§3.をご覧下さい。難しいのはローレンツ変換の意味を理解することです。
ここでは、そのローレンツ変換を導く過程ではなくて、最終的に導かれたローレンツ変換が上記の“二つの式の矛盾”や“光速不変の原理”をどのように旨く説明するかを解説します。その方がアインシュタインがたどった手法の意味を理解しやすいと思います。
アインシュタインが1905年論文で求めた“ローレンツ変換”とは、最初に述べているように
“1つの事件を静止系(K系)から眺めたとき、それの起こった場所と時刻を完全に規定する1組の数値をx,y,z,tとする。ひとつの組x,y,z,tには、同じ事件を運動系(k系)から眺めた場合の、それらの場所と時刻を示す数値の組ξ,η,ζ,τが対応する。これら二つの数値の組をむすびつける関係式”
のことです。
もう少し具体的に言うと、“静止系(K系)に対して、そのx軸の正方向へ速度vで動いている運動系(k系)に付属する物差し棒と時計で測ったある事象の場所と時刻(ξ,η,ζ,τ)を、同じ事象を静止系(K系)に付属する物差し棒と時計で測ったときの場所と時刻(x,y,z,t)で表す”ものです。つまり、両系の座標値と時刻値が
の関係で結ばれるということです。
これに対して“ローレンツ逆変換”は
となります。
この逆変換式はローレンツ変換式を未知数x,y,z,tの四元連立方程式と見なして解けば得られます。ここは別稿をご覧下さい。これは静止系(K系)から見た座標時刻値を運動系(k系)から見た座標時刻値で表すものです。
相対性原理によるとk系が静止していると見なして、K系がk系のξ軸に沿ってその負の方向へ速度−vで移動していると考えても良い。だからローレンツ逆変換を表す式は、ローレンツ変換のvを−vで置きかえ、その後(ξ,η,ζ,τ)の文字と(x,y,z,t)の文字を入れ替えても得られます。
前章で述べた様に、本稿ではこのローレンツ変換式やローレンツ逆変換式を導く事はやりません。本稿の目的は、これらの変換式の意味を説明することです。
アインシュタンイが取り上げた事件をK系(静止系)から見た図で説明する。下図は1.(2)4.の図をもう少し詳しくしたものです。
ここではローレンツ変換を用いれば良いので、それぞれの事象における変換式は図中に示した様になる。
“光速不変の原理”から、光束の居る位置のK系での座標値xはK系での時刻tと光速度cで表せることに注意されたし。また、x2=vt2ですから、ξ2=0となります。これはk系の原点だから当然成り立つ。
この図1→図2→図3の位置関係は時間経過に比例するように描いてあります。つまり縦下向きにK系の時間軸を取っていると考えて下さい。そのため緑色斜線は光の世界線であり灰色斜線はK系から見たk系原点の世界線です。もちろん光の行きと帰りの世界線は空間軸に対して同じ勾配で描いてあります。
k系(運動系)から見た光の速度を求める。もちろんK系の観測者が見ているのと同じ光線束の進行を議論しています。光線束の速度はそれが進んだ距離を、それだけ進むのに要した時間で割ればよいので、前項の図から(ξ1−ξ0)/(τ1−τ0)となります。そのときξ0=τ0=0としているから
となる。
これは、k系で観測した光速度がK系で観測した光速度と同じであることを示している。つまり光速度は互いに等速度で動いている慣性系のどの座標系で測定しても同じc[m/s]で伝播するように見えます。
なぜその様になるのかというと、K系の人から見るとk系の物差し棒は収縮しており、時計はゆっくり進む様に見えます。そのため、K系の観測者は、k系の観測者がその収縮した物差し棒で光の伝播する距離を測りゆっくり進む時計で時間を計る様を見ることができるので、k系の人にとっても光の速度がcとなるだろうと了解できるからです。
そのあたりは下図の黄色三角形の斜辺の勾配が緑色斜線(K系での光の世界線)の勾配と一致することからも了解できる。
[補足説明1]
ここで重要な注意をしておきます。上記の黄色三角形の縦辺・横辺の辺長のk系での値は上記の図中の長さの
倍であることに注意して下さい。
図中の <ξ1>=ct1−vt1 や <τ1>=t1−vt1/c は、本当は
です。最初のcを導く式の中で分母・分子で互いに打ち消し合うからこの黄色三角形を描くとき便宜的に
倍した値<ξ1>=ct1−vt1 や <τ1>=t1−vt1/c を用いているだけです。
本来のk形での長さ値を用いて黄色三角形を描くべきかもしれませんが、光速を表す世界線の勾配が一致することを示すだけならば、この便宜的な関係式の方が図の上で確認しやすいのでそうしませんでした。本来の値を用いて描くと図が複雑になり混乱されると思いますので。この当たりの関係はこちらの図の上で確認されて下さい。
だからξ1もτ1も実際の値は図中の黄色三角形の縦辺、横辺の長さをK系の座標値で測った値よりも伸びて(大きくなって)います。これが(後で説明する)K系の単位棒よりも収縮した単位棒で測った値になるという意味であり、時間がゆっくり進むという意味です。
この省略形の表現は以下のすべての黄色三角形の図形について言えますので、くれぐれもその点は忘れないで下さい。より正確には こちらの図 と こちらの図 を参照されたし。これらの図は本来の大きさにした三角形(黄色+空色=緑色)で描いてある。
以上は2.(2)1.の図中の図1の状態と図2の状態を用いた光速の測定ですが、鏡で反射された後にk系の原点に帰ってくる光(つまり図2の状態から図3の状態へ移る過程)を観測して光速を求めてみます。
図から明らかなように
となり、確かにこの場合にも光速不変の原理を満たしている。そのあたりは下図の黄色三角形の斜辺の勾配が緑色斜線(K系での光の世界線)の勾配と一致することからも了解できる。
[補足説明2]
ここで、
となることを確認します。
まず図から明らかなように
となる。これを用いると
となる。これは、前記二つの図の二つの黄色三角形の縦辺の長さが等しいことを意味する。より正確にはこちらの図を参照されたし。この図は本来の大きさにした三角形(黄色+空色=緑色)で描いてある。
さらに
となる。これは最初の図1〜図3を検討すれば明らかです。補足すると、 v→0 のとき 1/2(t0+t2)→t1 となります。
いずれにしても、最初に述べた[アインシュタインの疑問]も解消していることが解ります。
実際にk系(運動系)の物差し棒が縮んでいる事を示します。2.(2)1.の図1の時刻τ0=0の時に、k系の原点ξ0=0の位置に長さξ=1の単位棒を置きます。それはK系の観測者の前を速度vで移動していくのですが、丁度k系とK系の座標軸が重なった瞬間を考えます。
単位棒は静止系の観測者の目の前を速度vで通り過ぎていきますから、あらかじめ静止系の座標軸上に隙間無く多数の観測者を配置して、その観測者に各観測者の位置にある静止系の時計の針の進みを眺めておいてもらい、ちょうど静止系の時計が時刻0を示したときに目の前を通り過ぎるk系の単位棒を眺めてもらうのです。
そのときちょうど目の前を単位棒の先端が通り過ぎる観測者と、後端が通り過ぎる観測者に手を挙げてもらう。そうして手を挙げた二人の観測者のK系での座標値を読み上げてもらうと考えて下さい。そうすればK系の座標値x0(=0としている)とxの距離が求まります。すなわち、K系の観測者が測ったk系に設置されている単位棒の長さが解ります。
そのようにして観測したK系(静止系)での時刻t0=0における単位棒の先端の位置をK系の物差しで測るxであるとします。
つまりk系に置いた単位棒の先端はK系のxの位置にあります。そのときローレンツ変換式から、そのxの値は
となります。つまりK系からみたk系の単位棒の長さはK系の単位棒の長さ1よりも短くなっているのです。
ここはアインシュタンイが1916年に書いた啓蒙書の説明そのままです。
[補足説明1] Feynman物理のT巻p216〜217の説明
逆にもし、実験観測に依って、運動している“単位棒の長さ”が
倍に縮むのが解っていたら、2.(1)で述べた“ローレンツ変換”は直ちに導けます。
実際、時刻τ=t=0に互いの原点がすれ違ったt秒後の状況を静止系(K系)から見ると下図のようになる。
ここで、K系からみるk系上の距離ABはK系の座標値と時間で表すとx−vtであるが、k系と共に動く“単位棒の長さ”は縮んでいるのだから、その縮んだ単位棒で測ったx−vtの距離は
となる。これはk系における空間座標値ξをK系における空間と時間の値(xとt)で表す“ローレンツ変換公式”そのものです。
つまり、運動している“単位棒の長さ”が縮むことが実験観測で確かめることができれば、特殊相対性理論(ローレンツ変換)は簡単に構築できます。しかし現実の現象のv/cは極めて小さな値なので、それを現実に行うのは難しい。
このとき、さらに単位棒の先端が時刻t0=0の時に目の前を通り過ぎる静止系の観測者が、単位棒の先端の位置にあるk系の時計を見ると、その時計は時刻
を示しています。
この事を前記のK系の二人の観測者で説明します。静止系の時計が時刻が0を示すとき、ちょうど目の前を単位棒の後端が通り過ぎるのを見る観測者が、同時にk系の時計(単位棒の後端に設置してある)を見るとちょうど時刻0を示しているのを見ます。
ところが、静止系の時計の時刻が同じ0のとき、ちょうど目の前を単位棒の先端が通り過ぎるのを見る観測者が、同時に単位棒の先端に位置しているk系の時計を見るとその時計は時刻0よりも過去の時刻を示しているということです。
つまりxの位置にあるk系の時計の指し示す時刻はτ=0ではなく少し過去の時刻を示しています。
これは非常に解りにくい所ですが、これが時間経過は相対的なものだと言う事の意味です。これが、1.(2)4.で説明した“時間に関する二つの関係式が異なる”ことの理由です。
単位棒の先端が目の前を通り過ぎるのを見るK系の観測者にとってその瞬間の単位棒の先端は過去の時刻を示していますが、現実にそのとき目の前に存在します。幻ではありません。ただ単位棒の先端を構成する物質の(例えば)原子核の固有振動の経過は、単位棒の後端の所を見ている観測者が見る単位棒後端の原子核の固有振動の経過よりも(遠い過去から)少し遅れて経過してきていたというだけです。それがτ=0ではなく少し過去の時刻を示しているということです。
実際、今はt=0の瞬間のk系の単位棒を見ているのですが、K系の過去の時刻で単位棒(当然そのときの単位棒はx軸の負の領域を右向きに動いている)を見ても単位棒の先端の時刻は後端が示す時刻よりも常に同じだけ遅れています。これはtが未来の単位棒(そのときはx軸の正の領域を右向きに移動している)を見ても単位棒の先端の時刻は後端が示す時刻よりも同じだけ遅れています。つまり単位棒の移動速度vが変わらなければ、この表示時刻のずれは過去から未来永劫に渡って常に存在するということです。
もちろん単位棒の移動速度が大きくなると先端と後端の時計の表示時刻のずれは大きくなります。逆にv→0になるその表示時刻のずれは無くなります。
また、棒が単位棒ではなくもっと長い棒になり、先端と後端の距離(図ではxとなる)が大きくなれば先端と後端の時計の表示時刻のずれは大きくなります。そして[棒の長さ]→0になるとともにその表示時刻のずれは無くなります。
だから、このようなことが起こっても因果律に矛盾することはありません。
この事については3.(2)の[補足説明]でもう少し解りやすく説明しておりますのでご覧下さい。
たしかにこの事の意味を納得するのは難しい。アインシュタインも1年近く悩み苦しんだのですから。優れた物理学者であったウィーンでさえもこの事を納得するのに数年を要した様です。
これこそがミンコフスキーが1907年9月21日にドイツ自然科学者医師大会で行った講演で
“今からは、空間それ自体や時間それ自体は完全に陰に沈み、両者の一種の統合だけが独立性を保つことになろう。”
と述べた事柄の内容です。
また、アインシュタインが1916年に書いた啓蒙書で述べている“時空連続体”の意味することです。
実際、この当たりの事情はミンコフスキーの時空図で検討すれば了解できます。別稿で引用しているBorn文献第Y章§4を参照されて下さい。特に250ページの説明を良く噛み締めるべきかもしれません。
上記の単位棒でk系の原点と反射鏡との間の距離を測ってみると
となり、K系の物差し棒で測った長さよりも長くなります。先に述べた様にk系の単位棒が縮みますが、その短い棒で測定するからK系の単位棒で測った長さxよりも長くなるのです。このとき注意して欲しいことは、K系から見るとk系の原点と鏡が設置されている間の距離は縮んでいます。そのk系の人が観測する距離は2.(3)1.の図7〜図9に示しているものですが、それがここの図のように縮んで見えるのです。ただk系の単位棒の長さも縮んでいますから、その単位棒で測ったk系での距離ξはxの値よりも大きくなるのです。この当たりはBorn文献第Y章§4の図あるいは江沢文献の図の上で確認してみて下さい。
だから、K系の観測者は、k系の観測者がK系で測った距離より長い距離を、K系での時間よりもより長い時間かかって光が反射鏡まで進むのを観測する様子を見ることになります。それ故に、K系の観測者はk系の観測者も光速度として同じc[m/s]を得るだろうと了解します。
[補足説明2]
補足しますと、“相対論的な速度合成則”(別稿2.(7)あるいは2.(8)3.を参照)も同様に考えればよいのです。
例えば、静止K系に対して速度wで動いている運動k系の人が光を発射したとします。そのとき、k系の人に取って発射した光束は確かに光速度cで進みます。その同じ光束をK系の人が観測するとやはり光速度cで進むように見えます。さらに、K系の観測者に取ってk系の物指し棒は縮み、時間はゆっくり進む様に見えますから、k系の人に取ってその同じ光束は光速度cで進んでいる様に観測されるだろう、ということをK系の人は諒解することができます。
つまり、K系の人が推察するk系の人が観測する光速度cが別稿2.(7)で説明されている以下の式の左辺のcであり、K系の人が実際に観測するcが右辺のcであるということです。
いずれにしても、上記の様に考えれば、どの系の観測者もこの公式の正しさを納得することができます。
運動している時計の進みがゆっくりになることを、k系の原点に存在する時計で確認しておきます。先ほどの図1の状態からK系の時計で時刻t1だけ経過した図2の状態で、同じ時計が示す時刻は
となります。確かに、同じ場所x(運動系のξ=0)にあるK系の時計よりもゆっくり時を刻んでいる。
これはアインシュタンイが1916年に書いた啓蒙書の説明そのままです。
[補足説明1]
逆にもし、実験観測に依って、運動している時計の時刻の進みが
倍でゆっくり進むことが解っていたら、2.(1)で述べた“ローレンツ変換”は直ちに導けます。
実際、時刻τ=t=0に互いの原点がすれ違ったt秒後の状況を静止系(K系)から見ると下図のようになる。
ここで、τの表現式は以下の様に変形できる。
これはk系における時刻値τをK系における空間と時間の値(xとt)で表す“ローレンツ変換公式”そのものです。
つまり、時刻の遅れは場所xの違いに依存します。このことについて3.(2)[補足説明3]で詳しく説明します。
さらに補足しますと、文献によっては、静止系に静止している棒の長さを運動系から見た場合(例えばこちらの例)や、静止系で起こった事件を運動系から見た場合で説明しているものもあります。取り扱っている事件の状況を取り違えると混乱しますので、そこは注意して下さい。
次節では、k系からの見方で同じ事件を調べてみます。
前節と同じ事件を、今度はk系から見た図で検討してみます。この場合の状態変化を表す図は以下の様になる。ここではローレンツ逆変換を用いることに注意されたし。
つまり、今度はK系がk系に対してξ軸の負の方向へ速度−vで移動していく。そしてアインシュタインが考えている事象は、静止しているk系の原点ξ0=0から時刻τ0=0に発射された光がξ1に設置してある鏡で反射されて原点ξ2=ξ0=0に帰ってくる事になる。
この場合も、光速不変の原理から、k系での座標値ξはk系での時刻τと光速度cで表せることに注意されたし。
この図7→図8→図9の位置関係は時間経過に比例するように描いてあります。つまり縦下向きにk系の時間軸を取っていると考えて下さい。そのため緑色斜線は光の世界線であり灰色斜線はk系から見たK系原点の世界線です。もちろん光の行きと帰りの世界線は空間軸に対して同じ勾配で描いてあります。
[補足説明1]
上図の緑色斜線(光の世界線)と灰色斜線(k系あるいはK系原点の世界線)の傾きは図1〜図3と同じにして描いてあります。
このとき、この図7に於けるk系原点と鏡の設置点の距離が図1より長く描かれているのは、k系が静止系であるとして図示しているからです。つまりこれが本来のk系原点と鏡の距離です。
また、図8におけるK系原点とK系で光が反射する点の距離x1は図2より少し短くなっている事に注意して下さい。k系から見ると動いているK系の原点とx1の距離は少し縮んで見えます。
光が鏡に到達した時の、図8におけるk系とK系の原点間距離は図2におけるk系とK系の原点間距離と違います。それは光が鏡の位置に到達する時刻が両系の時間経過で違った時刻に起こるからです。
さらに、図9におけるk系とK系の原点間距離も図3におけるk系とK系の原点間距離と少し違います。これも同様な理由です。
図1〜図3と図7〜図9をプリントアウトして重ね合わせて透視して見られる事を勧めます。ただし、これらの図は、解りやすくするために二つの系の座標軸を少しずらして描いていますので少しおおざっぱな図です。正確な重ね合わせ図は下図のようになる。[拡大図]
ご自分で実際に具体的なvやk系原点と鏡の距離を与えて、ローレンツ変換により具体的な数値を計算しながら、方眼紙に上図を描いてみられることを勧めます。
最初に、図7の状態から図8の状態まで光が進む様子からK系で観測される光速を求めてみる。K系で時刻がt0からt1まで進む間に光は距離x0からx1だけ進むので
となる。確かに光速不変の原理を満たしている。
そのあたりは下図の黄色三角形の斜辺の勾配が緑色斜線(k系での光の世界線)の勾配と一致することからも了解できる。
次に、図8の状態から図9の状態までに光が進む様子からK系で観測される光速を求めてみる。K系で時刻がt1からt2まで進む間に光は距離x1からx2だけ進むので、x1とx2xの大小を考慮すると
となる。この場合も光速不変の原理を満たしています。 そのあたりは下図の黄色三角形の斜辺の勾配が緑色斜線(k系での光の世界線)の勾配と一致することからも了解できる。
[補足説明1]
ここで更に、この見方でも
となることを確認します。
まず最初に
となる。これは最初の図7〜図9を検討すれば明らかです。
次に
となる。これは、前記二つの図の二つの黄色三角形の縦辺の長さが異なることを検討すれば了解できます。より正確にはこちらの図を参照されたし。この図は本来の大きさにした三角形(黄色+空色=緑色)で描いてある。
補足すると、 v→0 のとき 1/2(t0+t2)→t1 となります。
つまりこの見方でも最初の疑問は解消している。
[補足説明2]
さらに補足しますと、上記の t2 は最初の1.(2)4.で取り上げた
において、図中の
でt0=0と置いた場合に相当します。
実際、アインシュタインが1905年論文中で
と説明しているように、図中のl’はK系に静止している物差しで測ったk系における光の発射点と反射点の距離ですから、2.(2)3.で確認したように、K系から見た距離はk系での距離ξ1の
倍に縮んで見えます。そのため
となります。
一方 t2 はローレンツ変換式によると
でしたから、両者は完全に一致します。すなわち1.(2)4.で述べた最初の疑問は完璧に解決されています。
ここはマイケルソン・モーリーの実験を説明するとき重要です。別項「マイケルソン・モーリーの実験(1887年)の特殊相対性理論による説明」でご確認下さい。
今度はK系に静止している単位棒をk系から見てみると、実際にK系物差し棒が縮んでいる事を示します。2.(3)1.の図7の時刻t0=0の時に、K系の原点x0=0の位置に長さx=1の単位棒を置きます。今度は、その単位棒はk系の観測者の目の前をk系のξ軸の負方向で速度−vで移動しています。
K系に置いた単位棒の先端はk系のξの位置にあります。そのときローレンツ逆変換を用いると、そのξの値は
となります。つまりk系から見たK系の単位棒の長さはk系の単位棒の長さ1より短くなっています。
このとき、さらに単位棒の端が時刻τ0=0の時に目の前を通り過ぎるk系の観測者が、単位棒の端の位置にあるK系の時計を見ると、その時計は時刻
を示しています。
つまりξの位置にあるK系の時計の指し示す時刻は t=0ではなく少し未来の時刻を示しています。
以前(2.(2)3.では過去の時刻だった)と違って未来の時刻になるのはおかしいではないかと思われるかもしれませんが、k系から見たK系の単位棒はξ軸の負の方向へ動いています。だから単位棒の先端は左側で、右側は後端になります。だから動いている単位棒の先端の時計が示す時刻は後ろ端が示す時計の時刻よりも常に遅れていることになります。これは過去から未来永劫に渡って常にそういう関係になりますから、2.(2)3.の場合と同じで論理的な矛盾はまったくありません。
この当たりの事情はミンコフスキーの時空図で検討すれば了解できます。別稿で引用しているBorn文献第Y章§4を参照されて下さい。特に250ページの説明を再度噛み締めて下さい。
最後に、k系からK系の原点に存在する時計を見ると、その時計がゆっくり進むように見える事を確認しておきます。先ほどの図7の状態からk系の時計で時刻τ1だけ経過した図8の状態で、K系の原点に存在する時計が示す時刻は
となります。確かに、同じ場所ξ(K系のx=0)にあるk系の時計よりもゆっくり時を刻んでいる。
前章で説明した正確な図をミンコフスキー時空図に変換して確認しておきます。 最初に2.(3)1.[補足説明1]の図の時間軸の方向を上下逆にします。すると
[拡大図]
となる。
これにミンコフスキー時空図を重ねると下図の関係になる。
[拡大図]
光の世界線を互いに直交する直線(緑色の太線)で表し、最初にK系の時間軸tと空間軸x(黒色太線)も互いに直交させた図で説明します。
別項で引用したBorn文献Y章や後の(4)節での説明の様に、光の世界線や、時間−空間軸を取り立てて直交させる必然性は無いのですが、前章の図との対応関係が見やすいのでそうしています。
この場合、ローレンツ変換で示されるk系の時間−空間軸は鋭角で交わる斜交座標になります。この斜交座標軸上の目盛りは尺度曲線に従って伸長されます。
この斜交座標の時間軸を見れば、k系において光が原点から鏡まで進む時間と鏡から原点に戻るまでの時間が同じであることは直ちに了解できます。その同じ光の世界線をK系の時間軸で見ると行きと帰りの時間間隔が異なるのも了解できます。
[拡大図]
ここで少し補足しますと、最初の観測系をk系にすると、それからローレンツ逆変換で求められるK系の時空軸は上図の直交座標に帰ります。
つまりこの図の直交座標と斜交座標はローレンツ変換とローレンツ逆変換で互いに移り変わります。だからこの図の上からもk系から見たK系の物差し単位棒が縮んで見えることが確認できます。
2.(2)の図1〜図3は(上下が逆転していますが)すべて、この図のx軸に平行な線分で表される時間系列(つまりK系の同時刻の状況)に従って図示されていたことに注意されたし。
[補足説明1]
上図の意味は解りにくいので補足します。
ここの運動系(k系)に設置されている物差し棒や時計は静止系(K系)に静止している観測者の前を高速度で通り過ぎていきますので、今まで説明してきた事象の観測を実現するために以下のような設定にしていたことを思い出して下さい。
運動系(k系)の空間には、その空間内のそれぞれの場所で起こった事象の位置を測定するために縦横にビッシリと物差し棒が敷き詰められている。k系の観測者も厖大な人員がその空間にビッシリと隙間無く配置されている。また各空間点で生じた事象の時刻を記録するために時計が隙間無く敷き詰められている。そのように配置されているすべての時計は同一時刻から同一のメカニズム(例えば原子の固有振動を用いる原子時計)で時を刻んでいるとします。
静止系(K系)に静止している観測者は、k系の実験装置(物差し棒や時計)が通り過ぎていく経路に沿って縦横に隙間無くビッシリと莫大な人員が配置されている。また静止系の観測者の配置経路に沿って物差し棒が十分な長さに渡って縦横に敷設されており、時計も莫大な数が隙間無くビッシリと配置されているとする。
すなわち宇宙空間の静止系に配置されている観測者全員が原子時計を持っており、その前に物差し棒が存在する。そのように配置されているすべての時計は同一時刻から同一のメカニズムで時を刻んでいるとします。
静止系(K系)に配置されている観測者は目の前を(+x方向へ)通過する運動系(k系)の実験装置(物差し棒と時計)上で起きる出来事を観測します。丁度その事象が目の前で起こったことを目撃する観測者がその目の前の物差し棒の目盛値と各自が持っている時計の時刻(x,y,z,t)を読み取って記録します。そのとき同時に目の前を通過している運動系(k系)の物差し棒の目盛りと時計の時刻(ξ,η,ζ,τ)も読み取ります。ローレンツ変換はそれらの読み取り値の互いの対応関係を示しています。
まったく同様に、運動系(k系)に配置されている観測者は目の前を(−ξ方向へ)通過する静止系(K系)の実験装置(物差し棒と時計)上で起きる出来事を観測します。丁度その事象が目の前で起こったことを目撃する運動系(k系)の観測者がその目の前の運動系に付属する物差し棒の目盛値と各自が持っている時計の時刻(ξ,η,ζ,τ)を読み取って記録します。そのとき同時に目の前を通過している静止系(K系)の物差し棒の目盛りと時計の時刻(x,y,z,t)を読み取ります。ローレンツ逆変換はそれらの読み取り値の互いの対応関係を示しています。
次図の空間座標は光が1秒間に進む距離c[m]を1単位として目盛ってあります。また時間軸は秒を単位として目盛ってある。またv/c=1/4=0.25の場合の“ミンコフスキー時空図”です。
つまり、“ミンコフスキー時空図”は、それぞれの時空に存在する物差棒の目盛り値と時計が示す時刻を各時空点でつきあわせて重ね合わせ、その(x,y,z,t)と(ξ,η,ζ,τ)の対応関係を示しているに過ぎません。
正しい対応で重ね合わせてあれば、次節の時空図の様にx-t座標ではなくてξ-τ座標を直交化しても良い。また、互いに逆方向へ進む光の世界線の交差角を任意変化させて3.(4)の図の様に描いても良い。
この当たりはBornの文献第Y章で明快に説明されていますので参照されたし。また、空間座標をxy二次元表示した図については別稿の図をご覧ください。
[補足説明2]
上図で静止系(K系)のx軸上に並んでいる時計の示す時刻と同じ瞬間に目の前に存在するξ軸上に並んでいる運動系(k系)の時計の示す時刻がx軸上の位置によって異なるのは以下の理由に依ります。
それぞれの観測系に敷き詰められている時計は、アインシュタインが論文の最初に説明している光信号を用いる方法ですべて合わされています。そして、丁度静止系(K系)の原点(x=0)を運動系(k系)の原点(ξ=0)がすれ違う瞬間に両観測系の時刻がτ0=t0=0に合わされたとしています。
ここで注意して欲しいことは、互いの時計の時刻を合わせるには、上記の光信号を用いる方法しか無いことです。同じメカニズムで時を刻む時計を原点の位置で沢山作って、原点ですべての時計の時刻を合わせた後に、それを各座標点の位置に運んだのでは駄目なのです。時計をその様にして加速度運動を伴って動かすと時計の時を刻む自然現象の進みが変化します(このことは一般相対性理論による)ので、時計を動かす間に時刻が狂ってしまうからです。
前述の様にして各観測系に配置されている時計の時刻を合わせたのですから、同じ光信号を用いても2.(2)1.の図1〜図3と2.(3)1.の図7〜図9を検討されたら明らかなように、すれ違う瞬間に互いの時計の目の前にある相手の時計が示す時刻は自分の時計が示す時刻とはずれています。実際どれくらいずれてしまうかを以下で説明します。
つまり、x軸上の時計がすべて時刻0を示している時に、その瞬間の目の前を(+x方向へ)通り過ぎるξ軸上のk系の時計の示す時刻は下図の様になります。
k系の時計の時刻のずれの量は、v/c=1/4の場合を2(2)3.図4で説明したローレンツ変換で計算してある。実際、互いの相対移動速度が光速の1/4程度で、30万km離れた位置の時間差を計算すると0.26秒程度になります。
k系とK系が同じ光を使って時刻をあわせているのですから、30万km離れたときの互いの時計の時刻差は1秒程度以下です。この時間のずれは極めて小さく現実に確かめるのは不可能でしょう。
K系とk系で同じ光信号を用いて時刻の開始点を合わせても、k系全体がK系に対して動いているのだから光が往復する時間の丁度その中間点の時刻の時計の位置が異なるからです。そのため光信号を用いる方法で合わせるとK系とk系で時刻計測の開始点がずれてしまうのです。このずれは原点から離れるほど大きくなります。このことが、2.(2)3.で説明したことです。
もちろんこのとき、動いている系の物差し棒(座標軸といっていもよい)は縮んでいますから、K系のx=1×c[m]の所の目の前に有るk:系の時計はξ=1×c/(1−v2/c2)0.5[m]>1×c[m]の位置にある時計です。
縮み量は、互いの相対移動速度が光速の1/4程度のとき、3.2%程度になります。長さ30万kmの棒の場合は9526km程度縮みます。
移動速度が光速の1/4程度になるとかなり縮んでいるのが解ります。
このことは、立場を変えて、運動系(k系)のξ軸上に配置されている時計が時刻0を示している時に、その瞬間の目の前を(−ξ方向へ)通り過ぎていくx軸上のK系の時計の示す時刻を見ても同じです。その様子は下図の様になります。K系の時計の時刻のずれの量は、v/c=1/4の場合を2(3)3.図10のローレンツ逆変換式で計算してある。
“ミンコフスキー時空図”は単に(x,y,z,t)と(ξ,η,ζ,τ)の対応関係を示しているに過ぎません。上記の二つの図の状態は、K系の原点とk系の原点がすれ違う瞬間を考えていますから現実には同じ瞬間の状態なのですが、K系の人にとってK系のx>0の位置にあるk系の時計(当然ξ>0の位置にある)の時間経過は過去から(もちろんその瞬間も含めて)未来永劫に渡ってξ=0の位置に有る物質の時間経過より少し遅れて経過してきた(これは元々のk系の各時計の時刻の開始点の定め方に依存する)と言うことであり、k系のξ<0の位置にあるK系の時計(当然x<0の位置にある)の時間経過は過去から(もちろんその瞬間も含めて)未来永劫に渡ってx=0の位置に有る物質の時間経過より少し遅れて経過(これも、元々のK系の各時計の時刻の開始点の定め方に依存する)してきたと言うことでしかありません。その為にミンコフスキー時空図では二箇所に二重に表示されているというだけです。この事は他の時間におけるK系とk系の状態の対応図もK系の同一時刻表示を用いるか、k系の同一時刻表示を用いるかに依って二箇所に表示されます。だから二重に表示されているからと言ってうろたえないで下さい。両方の系全領域に渡って配置されているすべての時計の時刻計測開始点の決め方が両方の系で(同じ光の信号を用いても)異なってしまったからこのような事になっただけです。
K系の原点とk系の原点がすれ違う瞬間に、互いに対面する両系の時計の時刻0の測り始めの開始点を同じだけずらせばどちらの状況の時刻表示にもスライドさせることができます。もちろんずらす量は原点からの距離に比例して大きくしなければなりませんが。
もともとの両系の原点から離れた位置の時計の時刻の開始点を原点の時計と同期させるやり方が両系で“同じ”光信号を用いたとしても異なっていたことを思い出して下さい。
[補足説明3]
相対性理論では、相対的に動いている二つ系から相手の系にある時計を見るとゆっくり時を刻んでいるように見えるといいます。
もし永続的に隣り合っている二つの系の時計でその様な事が起こると因果律に矛盾しますが、ここで言う相手の時計が遅れて見えるというのは2.(2)4.図6や2.(3)4.図11の意味においてでありますから、因果律に矛盾することはありません。
K系とk系にそれぞれの座標軸に沿って隙間無くビッシリと時計が配置されていて、時刻τ0=t0=0に互いの原点に有る時計がすれ違ったとします。そのときk系原点の時計は時間の経過と共にK系のx軸の上を(xが正の方向へ)移動していきます。ある時間経った後のその時計の時刻と、そのときにたまたまその位置に存在するK系の時計の時刻とを比較するのです。
つまり、k系の原点にある時計とK系の原点にある時計の時刻が比較できるわけではなく、互いの状況をまったく離れた場所で比較しているのですから因果律に矛盾することは有りません。
下図のτ軸(つまりk系原点にあるk系時計の世界線)上のkの時計とK系の時計の針は同じ時刻を示している物が並べて有りますが、それはτ軸の少しずれた位置の時計で並べているからです。実際は、各k系の時計(これはk系の原点に静止している時計)の位置のK系の時計は、最初もう少しx軸の右側に有った時計です。そうなるのはk系から見るとK系のx軸は縮んでいるのですから、k系の原点が速度vで移動するK系上での距離はvτよりもより右側のx軸上の時計の位置まで進むからです。その為k系から見たK系の時計は少し進んだ時刻を示しています。この当たりの事情を黄緑色と黄土色に着色した時計で例示しています。[拡大図]
k系原点にある時計は、([補足説明2]で説明したように)元々時刻の計測開始点がk系の時刻計測開始点よりも未来にずれていたK系の時計と次々と比較されていくわけです。実際、上図のξ軸とK系の時計の世界線(青色の縦線)の交点でのK系の時計の並びが示す時刻はそのときのk系の時計の並びが示す時刻0よりも進んだ時刻を示しています。その当たりは[補足説明2]の図をご覧下さい。
ぞれぞれの系の時計の進み方(自然現象の進み方)は同じはずです。しかし、k系原点の時計は相手の時刻の計測開始点が進んでいた時計の位置へ移動しながら、そこにその瞬間に存在するK系の時計と時刻を比較していくから、K系の観測者から見るとk系の時計が遅れていくように見えるのです。
この事情はK系原点の時計をk系から見ても同じです。K系原点の時計は時間の経過と共にk系のξ軸の上を(ξが負の方向へ)移動していきます。ある時間経った後のその時計の時刻と、そのときにたまたまその位置に存在するk系の時計の時刻とを比較するのです。
下図のt軸(つまりK系原点にあるK系時計の世界線)上のKの時計とk系の時計の針は同じ時刻を示しているものが並べて有りますが、それはt軸の少しずれた位置の時計で並べているからです。実際は、各K系の時計(これはK系の原点に静止している時計)の位置のk系の時計は、最初もう少しξ軸の左側に有った時計です。その為K系から見たk系の時計は少し進んだ時刻を示しています。この当たりの事情を黄土色と黄緑色に着色した時計で例示しています。[拡大図]
もちろんこの場合も、K系原点にある時計は、([補足説明2]で説明したように)元々時刻の計測開始点がK系の時刻計測開始点よりも未来にずれていたk系の時計と次々と比較されていくわけです。実際、上図のx軸とk系の時計の世界線(茶色の縦斜め線)の交点でのk系の時計の並びが示す時刻はそのときのK系の時計の並びが示す時刻0よりも進んだ時刻を示しています。その当たりは[補足説明2]の図をご覧下さい。
ぞれぞれの系の時計の進み方(自然現象の進み方)は同じはずです。しかし、K系原点の時計は相手の時刻の計測開始点が進んでいた時計の位置へ移動しながら、そこにその瞬間に存在するk系の時計と時刻を比較していくから、k系の観測者から見るとK系の時計が遅れていくように見えるのです。
このように互いに加速度運動していない時計の進みは本来まったく同じです。しかし元々時計の時刻の計測開始点が自分の系の時計とはずれている相手側の時計を次々と取り換えながら比較するから、自分の時計が遅れて見えるのです。
相手の系からみて遅れている様に見えるのですが、これは見かけのものではなく実際に実験観測すれば動いている時計の刻み(自然現象の推移といってもよい)はゆっくりになっています。これは多くの実験・観測に依って検証されています。
このあたりについては、文献4.の第1章§4 “Einsteinの時空概念”(p18〜29)も解りやすいのでご覧下さい。
[補足説明4]
特殊相対性理論で、もう一つ解りにくい事柄に、互いに相手の物差しを見ると相手の物差しが自分のものより縮んで見えるというのがあります。これももし同じ時空ですれ違う二つの物差しについて言えるのであれば因果律に矛盾します。
しかし、この場合も長さの相対性は時間の相対性に深く関係しており、ミンコフスキー時空図のまったく異なった場所で起こる出来事を言っている。そのため因果律に矛盾することは有りません。
実際相手の物差しの右側は過去の位置、左側は未来の位置を見ているわけです。先ほどの図
を振り返ると解るように、x>0の目の前を進んでいるξ>0の物差し棒は過去の位置を見ているわけですから過去には少し左にずれた位置いることになる。また、同様にξ<0の部分は未来の時刻の相手(k系)を見ているわけですから、右方向に進んだ位置にある物を見ていることになるわけです。だからk系の物差し棒は縮んで見えるのでしょう。
この事情は立場を替えた図
に於いても同様で、やはり同様な理由で相手(K系)の物差し棒が縮んで見えるのだろう。
動いている物体がその運動方向に収縮することについてですが、特殊相対性理論によると動いている電荷の作る静電場は運動方向に対して歪みます。あらゆる物質の化学結合は電磁気学的なものですから、そういった電磁場のゆがみに応じて化学結合の結合距離も変わり、実際に縮んでいるのだと思います。そのとき、立場を変えて相手が逆方向にうごくとしても、相手の電荷が作る静電場は同じ様に歪みますからやはり相手が縮んでいるはずです。
ちなみに、動いている電荷の電場が歪むのも、電荷の前方の電場は電荷の過去の位置の電場を見ており、電荷の後方の電場は電荷の未来の位置の電場を見ることによって歪むのだと思います。だから結局物体の長さが縮むのと同じメカニズムに依るのでしょう。
動いている物の長さが縮むのも見かけのものではなくて、実際の現象を実験・観察すれば確かめることができる。
例えば光速に近い速度で大気中を飛行するπ中間子にとって、大気の厚さ数kmは数mに縮んでいるはずです。だから崩壊までの固有寿命の間に大気の厚さを通過することができる。(別稿「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年)」2.(10)2.<4>やBorn文献第Y章5.(3)参照)
この様に、ある慣性系から別の慣性系の物差し棒と時計を見ると、常に相手の物差し棒は縮み時計は遅れている。これは非常に不思議ですが、これまで説明したように、この相互に観測する出来事はミンコフスキー時空の別の場所でのことですから因果律に矛盾することは有りません。
そうはいってもこの事を納得するのは非常に難しいのは確かです。しかし、この世界はその様なものであると考えるしか有りません。これがアインシュタインやミンコフスキーが言う“時空連続体”なのでしょう。
[補足説明5]
二つの系の原点にある時計がτ0=t0=0のときすれ違い、しばらく経ってどちらか一方が減速して速度の方向を変えて元来た方向へ逆戻りして、もう一度最初の時計とすれ違うとします。二度目にすれ違うときに互いの時計の進み具合をお互いに確認すると、加速度運動を経た時計の時刻が遅れています。つまり再びすれ違ったとき、加速度運動をしていなかった方の時計の時刻が進み加速度運動をした時計の時刻が遅れている“浦島効果”が生じています。
これは、“一般相対性理論”に従って、加速度運動すると時計の進み(つまり自然現象の進み)がゆっくりになるからです。しかし、これは特殊相対性理論の守備範囲外の出来事ですからこの稿では論じません。
前節の最後で説明したように前節の図でk系とK系の関係は完全に示されているのですが、前章2.(3)の図7〜図9との対応関係を示すために、あえて今度はk系の時間−空間軸を直交させた図でもう一度説明します。
そのようにk系の時空座標を設定すると、ローレンツ逆変換で示されるK系の時間−空間軸は鈍角で交わる斜交座標になります。もちろんこの斜交座標軸上の目盛りも尺度曲線に従って伸長されます。
こちらの図を用いても、光がk系原点から鏡まで進む時間と鏡から原点に戻るまでの時間がk系の時間軸で見ると同じであり、K系の時間軸で見ると異なるのが了解できます。
[拡大図]
2.(3)の図7〜図9は(上下が逆転していますが)すべて、この図のξ軸に平行な線分で表される時間系列(つまりk系の同時刻の状況)に従って図示されていたことに注意されたし。
最後にもう一度強調しますが、“ミンコフスキー時空図”を描くときに光の世界線や、時間−空間軸を取り立てて直交させる必然性はまったくありません。ここはBorn文献3.第Y章§3に詳しく書かれていますので参照されたし。いずれにしても下記の(1)→(2)→(3)→(4)の手順で描きます。
(1)行きと帰りの光の世界線を任意の交差角で描きます。
任意の交差角で良いのですが、普通は直角に取ります。そうすると時間軸と空間軸が光の世界線に対して対称になるからです。この事は幾何学的に証明できます。しかし下図の例ではあえて直角にしていません。
(2)光の世界線と任意の角度で交わるK系あるいはk系のどちらかの時空座標軸を描きます。
そのとき時空座標と光の世界線が交わる角度は任意の角度にしてかまいませんが、(光の世界線の交差角が直角でないときは)時間軸と空間軸が光の世界線に対して交わる角度は等しくなりません。
例えば時間軸τ(あいるいは時間軸t)を光の世界線に対して適当な角度で交わらせると、空間軸ξ(あるいは空間軸x)が光の世界線と交わる角度は(下図のアインシュタインが用いた事件のミンコフスキー時空図で説明すると)光の往復の時間が等しくなるような方向(つまりAI=IKあるいはAB=BL)に空間軸ξ(あるいは空間軸x)の方向を取らねばなりません。
そして光の世界線に対して時間軸τと空間軸ξが交わる角度の比率(これは光の世界線の交差角に関係する)から時間軸と空間軸の目盛りの長さの比率が定まります。
(3)最初に描いた座標系に対してローレンツ変換あるいはローレンツ逆変換で構成されるもう一方の座標軸を描く。
その座標軸が光の世界線と交わる角度は最初に取った系の座標軸が光の世界線と交わる角度に依存します。それは互いの座標系の相対的移動速度がv/cの関係を満足するように描かねばならないからです。このことは下記の図と[補足説明1]を参照されて下さい。
(4)k系とK系の目盛りの大きさを尺度曲線に従って対応付けます。
尺度曲線については[補足説明2]を参照されて下さい。
例としてアインシュタインが用いた事件の“ミンコフスキー時空図”を描くと下図の様になる。[拡大図]
この図で少し補足すると、線分BCはB点で接する尺度曲線の接線です。また線分ICはI点で接する尺度曲線の接線です。同様に線分DCはD点で尺度曲線に接し、線分JCはJ点で尺度曲線に接します。
別稿で引用したBorn文献Y章p241にも同様な図118がありますのでご覧下さい。これを上図と比較してみられたし。また、空間座標をxy二次元表示した図については別稿の図をご覧ください。
[補足説明1]
上図のK系に関係した平行四辺形ABCDに於いて、AB:EB=CB:FB=CD:GD=AD:HD=c:v となるように点E,F,G,Hを取る。そしてAとF,Gを、またCとE,Hを直線で結ぶ。それらの直線の交点をI,Jとする。
そうすると、AI:IF=CI:IE=AJ:JG=CJ:JH=c:v となることが幾何学的に証明できる。
つまり前記の手順(ローレンツ変換)でK系からk系の座標軸を構成すると、K系の座標軸はそのままk系の座標軸をローレンツ逆変換したものになっている。
[証明]
例として、AI:IF=CI:IE=c:v を証明する。線分ABに平行に線分IKを引き線分KFをxとする。同様に線分CBに平行に線分ILを引き線分LEをyとする。更に図中の各線分の長さを図の様にv,c,v’,c’と置くと、三角形の相似性から
が導ける。
これを用いると
となる。
他の辺の比例関係も同様にして導ける。
[証明終わり]
[補足説明2]
上図の例は光の世界線の交差角2θがtanθ=1/2になる様した場合です。この場合の尺度曲線は以下の手順で構成される。
もちろんこれは、右回りに45°回転した後にまず上下を1/2倍に縮小して、その後で上下・左右を√2=1.414・・・倍に拡大しても良い。
あるいは以下の手順で構成しても良い。
実際この図をコピーして上記の図に重ねると完全に一致することが解る。
以上説明した様に、アインシュタインが展開した特殊相対性理論に論理矛盾はまったくありません。この世界の様子を完璧に説明します。
確かに、別項1.(5)[補足説明]で引用したウィーンの感慨
『・・・しかしながら、なによりもこの理論の正しさを訴えているのは、その内的な首尾一貫性である。これによって、自己矛盾を含まず、物理現象の全体に適用できるような基礎をおくことが可能となった。もっともそのさい慣用の諸概念は変更を受けるのだが。・・・・』(U¨ber Elektronen,2nd ed.,Leipzig,B.G.Teubner1909年、p32)
そのままです。
[補足説明]
互いに加速度運動をする系に対しては特殊相対性理論は近似的にしか成り立ちません。実際そのままでは論理矛盾が生じます。例えば文献1で取り上げられている例をご覧下さい、あるいは有名な双子のパラドックスなども特殊相対性理論では解決できません。アインシュタインは特殊相対性理論を作り上げた後の早い時期にその矛盾に気付きます。その矛盾を解決する理論が“一般相対性理論”です。
一般相対性理論の立場から見ると“特殊相対性理論”は加速度がそんなに大きくない場合(あるいは重力の影響がそんなに大きくない場合)に成り立つ近似的な理論だったのです。この当たりについては文献1の第2部§22でアインシュタイン自身が語っています。