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別稿「ニュートンの運動法則」3.運動の第二法則で力Fの形について論じたが、ここで F=−k(一定)、 F=−kr、 F=−k/r2 の二次元平面上での運動を比較してみる。二次元の上で比較すると、Fによる違いが明確になる。
また、本稿を読まれる前に、別稿「調和振動子」1.[補足説明]を復習される事を勧めます。
重力のもとでの投射運動であるが、他と比較するために、一定の力Fは水平左向とする。
質量mの物体を、位置x0から、F=-k=-mgに対して垂直に、様々な速度で打ち出した場合の軌道を図示する。
この図を左に90°回転すれば、高校物理で習う水平投射と同じである。X=0が地面で高さX0から水平(今の場合はY軸の正の方向)に速度V0で打ち出す。任意時刻tにおけるX、Y座標は
となる。この運動については、授業で習うように以下の事柄が言える。
質量mの物体を、位置X0から、一定速度V0で、力Fの方向に大して様々な角度(θ0=0°〜+180°)で打ち出した場合の軌道を図示する。
初速度の大きさV0はすべて同じ(運動エネルギーが等しい)で、打ち出す高さX0がすべて同じ(位置エネルギーが等しい)だからエネルギー保存則から以下の事が言える。
同じ高さX0から一定速度V0を保って様々な角度で打ち出す。力はY方向のみ働き、X成分はゼロだから、X成分とY成分を別々に論じる事ができる。このとき時刻tでの速度と位置のX、Y成分は高校物理の授業で習うように
と表される。上のx、yを表す式からtを消去すると放物線を表す関数が得られる。
単振動を生じる中心力の場合である。
質量mの物体を、力の中心から距離r0だけ離れた点から、向心力と直角な方向に、様々な速度で打ち出した場合の軌道を図示する。
質量mの物体を、力の中心から距離X0=r0離れた位置から、速度V0=一定で、様々な方向(θ0=+90°〜+180°)で打ち出す。θ0=0°〜+90°の軌道はθ0=+90°〜+180°の軌道をX軸に対して反転したものになるから省略。
質量mの質点が力の中心からr離れた場所にあるとき、質点に働く力のx成分、y成分は、それぞれxのみ、yのみに関係して他方の座標成分に関係しない。(その幾何学的配置から明らか)そのため運動はx方向、y方向をそれぞれ独立に取り扱うことができる。
分離された運動方程式から解るように、この質点の運動はx方向、y方向の単振動を合成したもの(リサージュ図形)になる。その解は別稿「ニュートンの運動法則」3.(4)で求めたように
となる。x方向とy方向でsinとcosが入れ替わっているが、それは定数A、B、α、βの調節で正当化できる。式中の定数A、B、α、βは初期条件から求まる。たとえばt=0でX=X0、Y=0の位置から初速V0、角度θ0(左回りを正)で打ち出すとき
それらの値を(1)〜(4)式に代入して
となる。下図は2.(2)の図で、X0=5、V0=5、θ0=120°、k=1、m=1、ω=1の場合である。
角度αが打ち出し速度V0と打ち出し角度θ0によって変化する様子を示すと下図の様になる。
上のx、yを表す式からωtを消去すると楕円を表す関数が得られる。
が得られる。この関数は一般に二次曲線といわれるもので、今の場合は下図の様な楕円を表す。座標をη°回転した新しい座標軸x’y’を用いると標準形(x'/a)2+(y'/b)2=1に直す事ができる。ここでaは楕円の長軸半径、bは短軸半径である。a、bはA、Bとは異なるので注意。またxyからx’y’座標への回転角ηは前出のαとは異なるので注意。
上記例の場合、X0=5、V0=5、θ0=120°、k=1、m=1、ω=1の値をA、B、tanαの表現式に代入するとA=5.56、B=4.33、tanα=0.5(α=26.56°)となる。そして座標の回転角ηは−30°となる。
角度ηが打ち出し速度V0と打ち出し角度θ0によって変化する様子を示すと下図の様になる。
θ0が任意の場合、a、b、ηはA、B、sinα、cosα(あるいは初期条件X0、V0、θ0)の複雑な関数になり計算はかなり面倒である。そのため詳細は省略するが、aとbの値は後で(4.補足(1)(a))別な方法により求める。
θ0=+90°の特別な場合はsinθ0=1、cosθ0=0だから、tanα=0、α=0となるのでcosα=1、sinα=0、A=X0、B=V0/ωとなる。そのため
となり、確かに2.(1)(2)で記した図中の楕円が得られる。
地球の周りを回る人工衛星、太陽の周りを回る惑星、中心電荷の周りを回る反対符号の電荷の運動を表す。
図の青丸●に地球や太陽などの質量中心や電荷があり、距離r0=X0離れた位置から、動径に垂直に様々な速さで質点や反対電荷を打ち出す場合である。
質量mの物体を、力の中心(図の青丸●)から距離r0=X0離れた位置から、速度V0=一定で、様々な方向(θ0=+90°〜+180°)に打ち出す。θ0=0°〜+90°の軌道はθ0=+90°〜+180°の軌道をX軸に対して反転したものになるから省略。
いずれの場合も楕円軌道を描く。そのとき図の青丸●と赤丸●がその焦点となる。
質量mの質点が力の中心からr離れた場所にあるとき、質点に働く力のx成分、y成分は、それぞれx/r3、y/r3に比例する。このためどちらにも他の成分(rはxとyの両方に関係する)が絡んできて、1.項や2.項の様にx成分、y成分に分けて取り扱うことができない。
この場合座標軸を動径方向とそれに直角な方向に取ると見通しが良くなる。質点の位置を動径rと角度φで表す。中心力の場合、φ方向には力が働かないので角運動量Lが保存され、極座標を用いる有利さが出てくる。
動径方向の速度成分をVr、動径に垂直な速度成分をVφとする。このとき L=mrVφ を角運動量という。
質点に働く力が中心力の場合、角運動量の時間微分は
零となる。つまり角運動量は保存する。
ここで L=mrVφ=mrVsinθ=2m[(1/2)rVsinθ]=2m[面積速度] だから、角運動量保存則は面積速度一定の法則(ケプラーの第二法則)といわれるものと同じである。この法則は中心力で在りさえすれば一般に成り立ち、特に力が距離の逆二乗に比例する必要はない。つまりケプラーの第二法則から導かれる結論は力が中心力であるという事実のみである。
万有引力の逆二乗法則はケプラーの第三法則とニュートンの運動第二法則から導かれた。
極座標で表した運動エネルギーと位置エネルギーの和はエネルギー保存則を満足する(証明はここを参照)。ここで、角運動量保存則が成り立つので、運動エネルギーK(r)がφには関係せずrのみの関数になることが言える。
位置エネルギー−k/rは別稿「仕事とエネルギー」 で注意したように常に負である。そしてE<0なら質点は力の中心の回りに拘束された運動をする。このとき上記のエネルギー表現式は極座標φに関係しないので、運動に伴って変化する動径の範囲は上記エネルギー表現式から求まる。運動半径が最大値rmax(遠日点距離)と最小値rmin(近日点距離)を取るとき、動径方向(r方向)の速度成分は零になり、回転方向(φ方向)の速度成分のみになる。それ故その点では
ここでEは初期条件(打ち出し速度V0、と打ち出した位置r0)で決まる定数である。これは未知数rの二次方程式になる。
となる。これらの関係を図示すると
これらの知識を用いて3.(1)(2)の図を眺めると、その意味がよく解る。
角運動量保存則とエネルギー保存則を用いれば、任意の動径rの位置での[回転方向の速度成分Vφ(r)]と[動径方向の速度成分Vr(r)]を初期条件(r0、V0、θ0)とrの関数として求めることができる。このとき、Vφ(r)とVr(r)がφには関係せずrのみの関数になることに注意。これも中心力の場合角運動量が保存されるからである。
上記二式を未知数Vφ(r)、Vr(r)の連立方程式と見なして解けば、それらを初期条件(r0、V0、θ0)とrの関数で表現できる。
ここで3.(1)(2)項で描いた楕円軌道の描き方を説明する。
前出3.(3)(a)での証明から明らかなように、中心力であれば力のr依存性がどのようなものであれ、角運動量保存則は常に成り立つ。F=−krの場合にも成り立ち、F=−k/r2の場合と同様の極座標による議論ができる。
となる。
角運動量保存則とエネルギー保存則を用いれば、任意の動径rの位置での[回転方向の速度成分Vφ(r)]と[動径方向の速度成分Vr(r)]を初期条件(r0、V0、θ0)とrの関数として求めることができる。こんども、Vφ(r)とVr(r)がφには関係せずrのみの関数になることに注意。これも中心力の場合角運動量が保存されるからである。
上記二式を未知数Vφ(r)、Vr(r)の連立方程式と見なして解けば、それらを初期条件(r0、V0、θ0)とrの関数で表現できる。
F=−krの場合に楕円軌道になることは2.(3)(b)すでに証明しているので、図の幾何学的解釈から直ちにrmax =長軸半径a、rmin=短軸半径b(これらの関係式はF=−k/r2の場合とは異なるので注意)となるので、楕円中央と焦点間距離c=(a2−b2)1/2 が求まる。
最初の打ち出し角度θ0が任意の場合の楕円の長軸半径a、短軸半径b、力の中心から焦点までの距離cを初速V0、X0=r0、θ0で表すには
これらは一般にV0、X0=r0、θ0の複雑な関数になる。ここで2.(3)(b)で求めたηを用いると楕円の焦点の座標を求めることができる。X0=r0=5のとき打ち出し速度V0と打ち出し角度θ0によって、楕円焦点の位置およびcが変化する様子を下図に示す。
これらの図を見る限り、極座標、楕円の標準形による表示は複雑になるだけで、簡単な意味のある結論は得られない。F=−k/r2の場合と違ってF=−kxの場合はxy座標系の方が遙かに興味ある解析ができる。Fの形により、用いる座標系や数学テクニックを使い分けることが大切である。
θ0=+90°の特別な場合は、sin90°=1だから
これは、すでに2.(3)で求めたものである。
また、この場合にも3.(3)(c)3.で述べたと同様に楕円の面積πabを面積速度で割って、回転周期Tを求めることができる。すでに求めたa、bの値を用いると
となり2.(3)で求めたものに一致する。
前出2.(1)(2)の図に
のグラフを書き加えて角運動量の変化(打ち出し角θ0の変化)によりrmaxとrminがどのように変化するのかを今一度図示する。
2.(1) r0=5m、V0=1〜10m/s、θ0=90°の場合。
2.(2)(a) r0=5m、V0=10m/s、θ0=(90°、120°、150°、180°)の場合。
2.(2)(b) r0=5m、V0=5m/s、θ0=(90°、120°、150°、180°)の場合。
2.(2)(c) r0=5m、V0=3m/s、θ0=(90°、120°、150°、180°)の場合。
高校数学で習うように放物線は楕円の一方の焦点が無限の彼方に行ったものだと考えることができる。そのため1.で描いた軌道の形についても3.の場合と同様のことが言える。つまり質点の移動の方向は逆だが、θ0=0°〜+90°の軌道はθ0=+90°〜+180°の軌道をX軸に対して反転したものになる。そのときθ0=+90°〜+180°の軌道のyが負の部分は、無限の彼方の焦点の回りを周回して帰ってきた質点の軌跡と考えれば良い。
2.や3.と比較するために、以下ではθ0=+90°〜+180°の範囲の運動のみを考えよう。一例として打ち出す位置X0=5、速度V0=6、打ち出し角θ0=+90°〜+180°、g=9.8の場合を図示する。
放物線も焦点を持つ。一つしか持たないがもう一方が無限の彼方に行ったと考えれば楕円の焦点と同じである。焦点の座標は1.(3)で求めた放物線を表す二次関数を、その標準形y'2=4px'に直すことで求めることができる。標準形での焦点の座標は高校数学で習うように(x',y')=(p,0)である。
このように考えるとy方向に力が働かず速度のy成分が保存するという事実は、無限の彼方にある焦点を中心として回転運動の回転方向(y座標方向)の角運動量保存則とみなすこともできる。、
例として、半径r1の円軌道を速度V1回っていた物体を半径r3(>r1)の円軌道に移動させる問題を考える。F=−krとF=−k/r2の場合を比較して論じる。
手順としては、半径r1の円軌道を速度V1回っていた物体を点Aで接線方向に瞬間的に加速して速度V2minにする。そうして近日点r1、遠日点r3(>r1)の楕円軌道に乗せる。遠日点Bに到達した瞬間に、半径r3の円軌道となる速度V3まで接線方向に瞬間的に加速する。そうして質点を円軌道r3に乗せることができる。
ここで、A点で与えるべき速度がいくらになるのか計算しなければならないが、これは高校生に取って結構難しい。しかし、すでに述べた3.(3)(a)(b)と4.(1)(a)の結論を利用すると求めることができる。
遷移楕円軌道についての角運動量保存則とエネルギー保存則に、近日点r1=r2min、遠日点r3=r2maxの値を適用する。そのとき近日点や遠日点ではVr(r)=0となるので、方程式は未知数が近日点速度Vφ(r2min)=V2minと遠日点速度Vφ(r2max)=V2maxの連立方程式と見なせる。
円軌道r1、r2における公転速度V1、V2やエネルギーE1、E2は
となる。これらの関係を下図に示す。
遷移楕円軌道についての角運動量保存則とエネルギー保存則に、近日点r1=r2min、遠日点r3=r2maxの値を適用する。そのとき近日点や遠日点ではVr(r)=0となるので、方程式は未知数が近日点速度Vφ(r2min)=V2minと遠日点速度Vφ(r2max)=V2maxの連立方程式と見なせる。
円軌道r1、r2における公転速度V1、V2やエネルギーE1、E2は
となる。これらの関係を下図に示す。
これはホーマン軌道 (Hohmann orbit)とよばれるもので、周回軌道にある人工衛星を静止軌道に移動させる場合などに利用される。これが、ロケットエンジンの燃料を最も節約できる軌道です。
ホーマン軌道は惑星探査機の飛行にも利用される。例えば外惑星の火星の場合は、近日点が地球軌道、遠日点が火星軌道に接する楕円が遷移軌道(ホーマン軌道)である。探査機が遠日点に達したとき火星が丁度その付近にあるタイミングを見計らって地球を出発する。水星や金星のような内惑星の場合は地球軌道が遠日点、内惑星が近日点になるよう打ち出す。このような打ちあげに適した地球と各惑星との位置関係は会合周期と同じ間隔で巡ってきます。ちなみに火星の会合周期は約2.1年、金星は1.6年、水星は0.3年です。
ホーマン軌道に移る実際の手順は、まず地球の自転方向に回る地球周回軌道に探査機を乗せます。次に外惑星の場合は、この地球周回軌道の夜側に来たとき加速してやると地球の自転方向に速度が加わって地球の公転速度より少し大きな速度を得て地球公転軌道の前方に向かって地球から離れながらホーマン軌道に移れる。このようにすれば地球の公転運動の速度を最大限利用できるので、ロケット燃料を最も節約できる軌道となる。
また内惑星の場合は、地球周回軌道の昼側で地球の自転方向に加速してやる。そうすると地球の公転速度よりも遅くなって地球公転軌道の後側に取り残されていき、地球の公転から遅れて次第に地球から離れながらホーマン軌道に移って行く。
さらに外側の惑星に探査機を送り込むには、目的の惑星と地球の間を公転する惑星のそばを通過させて、その惑星の運動量を分けてもらって増速するスイグバイ航法が利用される。
別稿「コリオリ力とは」で「地球表面上で物体を転がすと北半球では右回りの円を描き、南半球では左回りの円を描いて元の場所に帰ってくる」という話をした。これはコリオリ力が引き起こす不思議な現象です。これを理解するために断面が放物線となるお椀型をした補正曲面を考えて、その上で物体の運動を論じた。そこでの議論を理解する鍵は本稿2.「F=−kr の力を受ける質点の運動」です。この議論をふまえて別項「コリオリ力とは」の第3項「補正曲面の形と曲面上での運動」をご覧ください。
ラザフォードはアルファ線の散乱のされ方を調べることにより、原子の内部構造解明の鍵を得ることができた。この散乱による方法は、原子や原子核の本質を解明するための革命的な手段となった。
(1)江沢洋著「よくわかる力学」東京図書
高校と大学のレベルを橋渡ししてくれる、とても解りやすく丁寧な説明のある教科書。
(2)D.L.グッドスティーン、J.R.グッドスティーン共著「ファインマンさん,力学を語る」岩波書店
一読の価値あり。この本の内容を別稿「楕円軌道の発見と万有引力の法則」5.(2)で説明していますのでご覧ください。