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独り言2

 プランクの熱輻射法則は、気象学、恒星学、宇宙論、量子論でとても重要な働きをします。しかしこれを理解するのは容易ではありません。熱輻射論の入門書、解説書、歴史書はたくさんありますが、それらのほとんどが理論そのものの詳細を説明していないので、それらから理解することは不可能です。
 退職して暇になったらこれを勉強し直して理解したいと思っていました。それでプランクの著書「熱輻射論」を勉強しながら最初に作ったのが「キルヒホフの法則(熱的放射平衡における 1859〜1860年)」です。そして次に「光の圧力」と「シュテファン・ボルツマンの法則」に取りかかりました。

 しかし、これらを作ろうとしたとき、“温度とは何か?”“エントロピーとは何か?”が未だに理解できていないのを痛感しました。プランクの熱輻射法則は絶対温度の関数として与えられています。そしてそれを導く過程でエントロピーについての考察が本質的な働きをします。“輻射(電磁場)の議論に、なぜ絶対温度が絡んでくるのか?”また、“絶対温度やエントロピーとは何なのか?”が理解できないと、熱輻射公式の理解は不可能です。
 また、光の圧力や輻射場の議論で電磁気学の単位系の違いに伴う表現形式の違いに混乱させられました。電磁気学が絡む部分は本によって採用している単位系がバラバラで、その違いが理解できないと訳がわからなくなる。
 そのため熱輻射論はとりあえず中断して、電磁気学と熱力学を復習することにしました。復習しながら作ったのが「電磁場の応力(マクスウェルの応力)」、「電磁気学の単位系が難しい理由」と「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」です。ところが、それらを作っていると派生した問題が次々に出てきて、「電磁気学関連ページ」「熱力学関連ページ」もついでに作っていたら1年以上寄り道をすることになりました。それが終わったので「熱輻射論」に取りかかるつもりだったのですが、途中でまた別のテーマである[光行差関連ページ]流体力学関連ページに興味が移ってしまいさらに寄り道してしまいました。

 それでやっと2年半ぶりに「熱輻射論」に帰ってくることができました。再開して最初に作ったのが、「光の圧力[輻射圧]」と「シュテファン・ボルツマンの法則(1884年)」です。後者は輻射場に初めて温度を導入したことに於いて画期的な業績だと思います。
 つぎに作ったのが「ウィーンの変位則(1893年)」です。これは1893年にウィーンが黒体輻射について導いた有名な法則ですが、たいていの本ではプランクの輻射法則を用いて説明しています。プランクは彼の輻射法則を証明するのにウィーンの変位則を利用したのですから、これでは本末転倒です。ウィーンの変位則は熱輻射論を展開する上でその根本の基礎となった極めて重要な法則です。そのためウィーンによって最初に証明されたやり方で説明されねばなりません。
 ただしウィーンの論理展開はなかなか難解です。プランクがより解りやすく改良したものがありますのでそれを紹介することにしました。ウィーンの変位則は極めて重要な意味を持つ法則なので後に様々な人が繰り返し証明していますが、プランクの証明は温度との関係、熱力学との関係が最も明快で解りやすいものです

 そしていよいよプランクの熱輻射法則に取りかかったのですが、これは我々の様な素人に取って極めて難解です。最初に翻訳されているプランクの論文を何度も読み直したのですが、なかなかその本質が理解できませんでした。そのため、熱輻射論の解説書として有名なプランクの「熱輻射論」を読み直し、参考にしながら作り始めました。
 熱輻射論の解説書として、プランクの「熱輻射論」に勝るものはありません。多くの教科書が参考文献として一番にこれを挙げていますが、どれも引用のみか内容の簡単な紹介でしかない。簡略化された説明ではますますわけがわからなくなる。本当に理解するには時間を掛けてこれを読んでみるしかない
 しかし、これを理解するには様々な準備が必要なことが解りました。その準備の為に作ったのが、「調和振動子(自由振動、強制振動、減衰振動、強制減衰振動)」、「非同次波動方程式の一般解」、「線型振動子(電気双極子)による電磁波の放出」、「偏光とは何か(光の強度と偏光)」です。
 最初、ゾンマーフェルトやファインマンが説明してくれている簡単なやり方を発展させて説明していこうとして作っていたのですが、系のエントロピーの不可逆性を説明するには、どうしてもプランクのオリジナルな表現(ただし単位系だけはMKSA有理化系に変更)で説明した方が解りやすいと思うようになりました。そのため、最初からすべて作り直す羽目になりかなり手間取ってしまいました。
 そして、やっとの思いで作ったのが「プランクの熱輻射法則(1900年)」です。
 これを作る過程で必要になったので付録1.「線形振動子と電磁波の平衡」付録2.「全エントロピー増大の証明」もつくりました。

 

 量子力学におけるエネルギー量子(作用量子h)は普通プランクの熱輻射公式ではなくて、アインシュタインの光量子仮説から導入して説明される場合が多い。
 アインシュタインの光量子仮説は革命的ではあるが、その革新的な考え方を認めてしまえば後は理解するのは容易です。それに対して、熱輻射公式から作用量子hが認識された過程を理解するのは極めて難しい。そのため多くの量子力学教科書ではプランクの輻射公式ではなくてアインシュタインの光量子仮説から出発して量子論を展開している。あるいは朝永先生の「量子力学T」の様に「断熱不変量」を用いた比熱の理論から出発する教科書もあります。
 しかし、プランクの熱輻射公式と、これによって導入される輻射場の温度の概念は、気候学、惑星系の進化、恒星の内部構造論、星の進化、宇宙の進化を論じるとき極めて重要な働きをします。プランクの熱輻射公式を理解するのは容易ではありませんが、これを理解することの重要性は、今日ますます大きくなっているのではないでしょうか。

 最後にもう一度強調しますが、熱輻射公式になぜ温度が絡むのかが理解できないとこの公式は絶対に理解できない。温度は熱力学から導入されたものだし、エントロピーと密接に関係している。だからプランクが行った絶対温度とエントロピーから入る考察は、今にして思えばまさに王道だったのでしょう。

 

[2012.8.1追記]
 最近とても面白い本を読みました。
ミヒャエル・エッケルト著(金子昌嗣 訳)「原子理論の社会史 −ゾンマーフェルトとその学派を巡って−」海鳴社(2012年刊)
 この中で、ゾンマーフェルトを中心としたドイツ物理学の状況が生き生きと活写されています。物理学の伝説的な人々が多数出てきて、彼らの生き様・状況が良く解ります。第1級の内容です。

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