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高校物理「電磁気」の所で、電気力線や磁力線は、あたかもゴムでできた管の様に収縮・膨張する性質を持っていると習う(つまり電磁場の中に応力が存在する)。この性質を用いると、電荷や電流が引き合ったり反発したりすることが電磁場を通して働くことを旨く説明できる。説明はMKSA有利化単位系で記述。単位系に付いては「電磁気学の単位系が難しい理由」を参照。
高校物理の電気のところで、電気力線や磁力線を可視化する実験法を幾つか習う。ファラデーはそれらと類似の方法を用いて、非常に多くの例について、具体な力線の様子を観察した。
彼は、多くの事例から、力線は常に線の方向に縮もうとし力管は膨らんで太くなろうとする性質を持つことに気づいた(1837年)。この性質を利用すると、例えば2個の反対電荷を帯びた球の間に働く引力が旨く説明できる。
まず球の間の空間に応力が存在すると考える。その応力は各点における電気力線方向の引力(つまり張力)と、電気力線の相互反発力(つまり横向きの圧力)で表されるとする。そしてその強度は電気力線の密度に関係すると考える。その結果、力線が一方の球で終わる所の面にには張力が発生することになる。
もし二つの球の距離が大きく十分離れている場合には球の周りの力線は、放射状に伸びて球の中心に対して対称的になる。そのため球に働く力は放射状の対称的になり、球に働く合力は零になる。
二つの球が近づくと、高校物理で習うように球の向かい合った部分の力線の密度がより密集し、反対側はよりまばらになってくる。そのため二つの球が向かい合った部分の張力が、他の部分の張力よりも勝り、二つの球は引き合うと言うのである。
これは電荷の間に働く力が、電荷間で遠隔作用的に働くのでなくて、電荷がその周りの電場を変化させ、その変化した電場を通して近接作用的に働くという画期的な考え方である。この近接作用的な考え方は、その後の電磁気学の発展が示すように、豊かな稔りをもたらした。
電磁場内に存在する応力の完全な形は、後にマクスウェルにより与えられたのでマクスウェルの応力と呼ばれる。
電場の中に圧力および張力が存在することは以下のように考えれば理解できる。ここでは簡単のために静電場に限って、応力と電場を関係づける。
高校物理で習うように、導体に出入りする電気力線は導体表面に垂直であり、かつまたガウスの定理より単位面積あたりの電気力線の本数は表面電荷の面密度に比例する。つまり表面の電場強度は表面電荷の面密度に比例する。(詳しくは別稿「導体の周りの電界と電位」参照)
この時、導体表面に存在する電荷には、導体の単位面積当たり
の力が働く。ここで、σはその場所の単位面積当たりの電荷の面密度、Eは力を求めた位置での導体表面の電場の強さである。導体の内部は当然E=0である。
このとき導体の表面電荷が受ける力は、導体表面の他の部分に分布する電荷からのクーロン力の合力である。導体が球状で表面に電荷が一様に分布している場合は、別稿「化学結合」や「万有引力の法則への補足」で述べたように、球殻状に分布している電荷の外側に存在する電荷に働く力は球殻上の全電荷が中心に存在したと考えたときと同じ力が働き、また球殻状電荷の内側に存在する電荷に働く力は零に成る。
この場合は、そのどちらになるのであろうか?
正解はその平均値である。つまり表面電荷に働く力は球殻の外側の電場と内側の電場(=0)の平均(Eout+Ein)/2の電場の中に存在すると考えた場合と同じになる。これを理解する方法は表面電荷を厚さ0の層と考えるのではなく、薄いがある厚さΔrを持つ層の中に存在している体積電荷密度ρを考える事である。その結果として表面の単位面積当たりに含まれる電荷量がσに成っていると考える。つまりΔrがどのような値をとってもσ=ρΔrに成るようにρを取る。
この場合には電場は層の内側でE=0で、層の厚みの方向に直線的に増加して外側でE=σ/ε0となる。この板状の体積要素に含まれる電荷に働く力の平均値は明らかに(Eout+Ein)/2の電場の中で働くと考えた力に一致する。そのため上記の式に1/2の係数が現れたのである。
導体球内の電荷がこの張力により電場空間内に飛び出て行かないのは、電荷を導体球内にとどめようとする別の強い力が働いているからである。
電場内に仮想的に考えた電気力線に垂直な面に働く力は2.(1)の導体表面での力を電場の中に広げて考えればよい。つまり電場Eの場所で電場ベクトルに垂直な単位面積に働く力は面に対する張力となり、その大きさは
であると考える。
電場内の電気力線に平行な面に働く力は、1.の結論と電場が存在する空間体積要素が応力の釣合状態にあるという条件から決定すればよい。そのとき一般的な曲率の電気力線の場で説明するのは、高校レベルでは難しいので、簡単な状況の場合を利用して導く。それは表面に一様な電荷密度σで帯電した球状導体の周りの電場である。別稿「帯電した導体球の周りの電場の持つエネルギー」や「導体のまわりの電界と電位」で説明したように、その周りの電場は球の中心から放射状に外向きで、球の中心から距離rの位置で
となる。
この時中心から半径rとr+Δrの二つの等電位面と電気力管で切り取られた薄い殻膜状の体積要素を考える。
この殻膜体積要素の上下の面に働く力と、電気力管で切り取られた側面に働く力の釣合を考える。それはちょうどシャボン玉の液体膜における力の釣合を考えるのと同じである。このとき、連続体の内部の面に働く力は、どちらの体積要素に着目するかで方向が逆転する事に注意。
左図の力と右図の力は面の反対側に作用する力で作用反作用の法則から明らかなように大きさは等しく方向は逆である。ここで着目しているのは穴ではなくて殻膜状の体積要素だから上右図の力の釣合を考えればよい。
つまり上図の殻膜の上下の面に働く張力の差が、側壁(電気力管面)に働く圧力の動径方向成分の和と釣り合っていると考える。上下の殻膜面に働く単位面積当たりの張力Trについて2.(2)1.の結論を用いると
となり、その方向は球の中心Oの方向を向いている。一方単位面積当たりの圧力をPとすると
となり、その方向は球の中心から外向きである。
体積要素に対する応力のつり合いの条件から(A)=(B)でなければならないので、電気力管の側面に働く圧力Pr(電気力線に垂直な方向)は単位面積当たり
でなければならない。これは電気力線に垂直な面の単位面積当たりに働く張力Tと同じ大きさである。
電場中での主応力が2.(2)で述べたように定まると、任意の方向を向いた面に働く応力ベクトルFが求まる。それは、下図の様に面積要素Sを電場に平行な射影成分Scosθと電場に垂直な射影成分Ssinθに分けて、それぞれの面積要素に2.(2)の結論を適用する。その両者をベクトル的に加え合わせたものが求める応力ベクトルFである。
ここで、次の事柄に注意すべきである。
単位面積に働く応力の大きさは[電場のエネルギー密度]=(1/2)ε0E2 に等しく、その方向はE関してnと反対側の対称的な方向をとる。任意の方向を向いた面には、一般に面に垂直な成分と面に沿った成分が現れる。これは、高校物理「摩擦」のところで習う「一般の抗力ベクトルは面に対する垂直抗力と面の摩擦力の合力である」と同じである。つまり面の両側の体積要素をその面に沿ってずらす様な力も現れる。(下図参照)
面積要素の法線ベクトルnと電場ベクトルEの間の角度が0°→45°→90°→180°→270°と増えるにしたがって応力ベクトルFの方向は下図の様に変化していく。
この図で次の点に注目して欲しい。θ=0°と180°のとき電場は面に垂直だが、電場の方向は真反対にも関わらずどちらの応力も面を形成する体積要素に対して張力になっている。また、θ=90°と270°のとき電場は面に平行だが、電場の方向は真反対であるにも関わらずどちらの応力も面を形成する体積要素に対して圧力になっている。
同じことですが、電場ベクトルEを固定して面積要素の法線ベクトルnを角度0°→45°→90°→135°→180°と回転した図にすると、面に対して応力ベクトルがどの様に変化していくかが良く解る。
応力ベクトルF(Fx,Fy,Fz)はベクトルE(Ex,Ey,Ez)と面の法線を表す単位ベクトルn(nx,ny,nz)[ただしnx2+ny2+nz2=12]を用いると次のようなベクトル演算で表現できる。
この中で(E・n)はベクトルの内積で、成分表示で表すと(E・n)=Exnx+Eyny+Eznz=E・1cosθというスカラー量となる。だから(E・n)Eは大きさE2cosθでベクトルEの方向(前項のTの方向)を向くベクトルである。
また[E×n]はベクトルの外積と言われるもので、その演算結果も一つのベクトルとなる。そのベクトルの方向はベクトルEとベクトルnが作る平面に垂直で、ベクトルEからベクトルnの方向へ右ネジを回したとき、右ネジの進む方向を向く。その大きさはベクトルEとベクトルnのなす角がθの場合 E・1sinθ (Eとnを二辺とする平行四辺形の面積)となる。そのベクトルのx、y、z軸方向の成分は(Eynz−Ezny,Eznx−Exnz,Exny−Eynx)となる。[E×[E×n]]はEとそのベクトルの外積であるから、それは大きさE2sinθで前項でもとめたPの方向を向くベクトルになる。
上式はベクトル公式 [A×[B×C]]=(A・C)B−(A・B)C を用いると次のように変形できる。(このベクトル公式は左辺と右辺をそれぞれ成分表示で展開して付き合わせてみれば証明できる。)
式中のベクトルの関係を図示すると
となる。この図を見ればベクトル公式 [A×[B×C]]=(A・C)B−(A・B)C が成り立つのは明らかである。
前記のベクトルFを成分表示すると
となる。
面積要素の法線ベクトルnが(1,0,0)、(0,1,0)、(0,0,1)の特別な場合について記すと以下のようになる。
面の放線ベクトルnが(1,0,0)と言うことだから、上記の応力は面よりx軸の負側の電場体積要素に対して働いている力を意味する。面の正側の電場体積成分に働く応力は作用反作用の原理から上記の符号を逆にしたものです。また、x成分は面に垂直に働く張力であり、y成分とz成分は面に沿って働く剪断力です。
面の放線ベクトルnが(0,1,0)と言うことだから、上記の応力は面よりy軸の負側の電場体積要素に対して働いている力を意味する。面の正側の電場体積成分に働く応力は作用反作用の原理から上記の符号を逆にしたものです。また、y成分は面に垂直に働く張力であり、x成分とz成分は面に沿って働く剪断力です。
面の放線ベクトルnが(0,0,1)と言うことだから、上記の応力は面よりz軸の負側の電場体積要素に対して働いている力を意味する。面の正側の電場体積成分に働く応力は作用反作用の原理から上記の符号を逆にしたものです。また、z成分は面に垂直に働く張力であり、x成分とy成分は面に沿って働く剪断力です。
これを行列表示した
は電場にたいするマクスウェルの応力テンソルと言われる。
ここで応力成分を右側のような一般的な形であらわすと、 τij は i 軸に垂直な単位面積に働く j 軸方向の力の成分を意味する。左側の表現から明らかなように、この行列は行と列を入れ替えた行列(“転置行列”という)と同じになる。つまり τij=τji となる。このような性質を持つ行列を“対称行列”(対称テンソル)と言う。
テンソルとなると急に難しく感じるが、上記の意味以上のものはありません。それらを正方形に並べただけですですが、このように並べておくと次項で説明するように便利に使える。
法線ベクトルn=(nx,ny,nz)が任意の方向を向いた面積要素に働く応力F=(Fx,Fy,Fz)を求めたい。それをするには下記の様な四面体ABCOを考えて、力の釣り合いを考えればよい。
図中のベクトルdS、dSx、dSy、dSzは、それぞれの面要素を表す法線ベクトルにそれぞれの面積を乗じたものです。
前項で求めた様に、三角面BCO、三角面面ACO、三角面面ABOに働く応力成分は解っている。のだから、それらを足し合わせることにより、三角面ABCに働く応力F=(Fx,Fy,Fz)を求めればよい。
ただし、前項の応力はいずれも単位面積当たりで記述されていますが、上記の釣り合いを考えた四面体の各面は単位面積ではありません。そのため、三角面ABC、三角面BCO、三角面ACO、三角面ABOの互いの面積関係を考慮した釣り合いを考える必要がある。
図から明らかなように、面積dSと面積dSzは
の関係にあります。このときθnzは面ABOの法線単位ベクトルnとz軸のなす角ですから、cosθnzはベクトルdSのz軸に対する方向余弦を意味します。他の面に関しても同様で dScosθnx=dSx、dScosθny=dSy を満たします。そのときcosθnxは法線ベクトルnのx軸に対する方向余弦を、cosθnyは法線ベクトルnのy軸に対する方向余弦を意味する。つまり (cosθnx,cosθny,cosθnz)=(nx,ny,nz) です。
そのため
が成り立つ。
このことから、法線ベクトルn=(nx,ny,nz)の方向を保ったまま、O点と面ABCの距離を調節して、面ABCの面積を1に、すなわちdS=1と成るように調節すると、三角BCOの面積dSx、三角CAOの面積dSy、三角ABOの面積dSzはそれぞれ cosθnx、cosθny、cosθnzあるいはnx、ny、nzとなります。
そのため、三角面ABC(面積は1)に働く 応力F=(Fx,Fy,Fz) の各成分は、三角BCOの面、三角CAOの面、三角ABOの面に働く応力成分に、それぞれの面積を乗じたものを加え合わせればよい。もちろんそのとき四面体の体積成分に対する面の方向と、作用反作用の法則を考慮して、すべての応力が釣り合っているとしての話しです。
すなわち
となる。これはもちろん2.(3)3.の最初に示した式
と同じです。
いずれにしても、これらの結果は応力の行列表示を用いて
として、(1行,3列)の方向余弦ベクトルnに(3行,3列)の応力行列の乗算を実施して(1行,3列)の応力ベクトルFを求めればよいことを意味している。
あるいは
として、(3行,3列)の応力行列の“転置行列”に(3行,1列)の方向余弦ベクトルnの乗算を実施して(3行,1列)の応力ベクトルFを求めればよいことを意味している。
転置した応力テンソルの右肩に付いている “t” は転置行列(transposed matrix)の頭文字を利用している。
[補足説明1]
上記の様に、任意の方向を向いた面に働く張力(tension)を導き出す行列のことをテンソルと言ったのです。テンソルの役割としてこれ以上のものはありません。つまり、“tension”が“テンソル”(tensor)の語源です。
[補足説明2]
応力テンソルの成分表示としてτij は i 軸に垂直な単位面積に働く j 軸方向の力の成分を意味するとしたが、τij は j 軸に垂直な単位面積に働く i 軸方向の力の成分を意味すると定義しても良い。そのように定義するとx軸に垂直な面に働く応力成分は行列の1行目ではなくて、1列目に並ぶ事になる。つまり行と列が入れ替わる。y軸に垂直な応力成分とz軸に垂直な応力成分は2列目と3列目に並ぶ。
そのように定義すると上記の記述は
と
となる。つまり転置行列の役割が入れ替わる。
教科書に拠ってはこちらの定義を用いている場合がありますので注意して下さい。
[補足説明3]
マクスウェル応力テンソルは常にτij=τji を満たす“対称行列”(対称テンソル)でした。この性質は応力テンソルであれば必ず成り立ちます。そのことは簡単に証明できます。
[証明]
例としてτxy=τyx と成ることを証明します。応力成分を考える微少な立方体を設定する。
このとき、面@に働く応力τxy と面Aに働く応力τxy は、大きさ等しく方向は逆になります。なぜなら、大きさが等しいとして良いのは面@と面Aはごく近くに存在するからです。また、応力の向きが逆になるのは、応力を考える体積要素に対して面の法線ベクトルが互いに反対方向を向いていますので作用反作用の関係からそうなります。
同様に、面Bに働く応力τyx と面Cに働く応力τyx に関しても互いに大きさ等しく、方向が逆に成ります。
微少体積要素はその中心点に対して回転してはいけませんので、反時計回りのモーメントを生じる応力τxy と時計回りのモーメントを生じる応力τyx は当然等しくなければなりません。つまりτxy=τyx と成る。
[証明終わり]
静電場内の任意の体積領域における力の釣り合いを考えます。
静電場内のある体積領域Vの表面に働くMaxwellの応力の表面積分を考えます。つまり
のそれぞれのベクトル成分の表面積分を計算する。
これは、Maxwellの応力テンソクの各行をそれぞれ一つのベクトルと見なしたとき、そのベクトルと領域表面の面要素ndSの内積を領域表面全体にわたって表面積分したものだから、ガウスの定理により下記の体積積分に直すことができます。すなわち
となります。
普通の教科書では上記のベクトル方程式をテンソル表現を用いて
と書いていますが、同じ事を表しています。
テンソル表記にすると難しく感じますが、ベクトル方程式の成分表示をまとめて書く手法に過ぎません。TはMaxwellの応力テンソクです。記号の“〜”はTがテンソルであることを表す為につけました。ちょうど“→”を付けてnやEがベクトルであることを表したように。また、テンソルとベクトルの内積 T・ndS には2.(3)4.で述べた以上の意味はありません。
大事なことは、この式が何を意味するかです。
上式を以下の様に書き直してみれば解りやすい。
左辺の第2項は電磁場領域内に存在する物質(電荷)に働く力の反作用力(これは電磁場の単位体積に働く体積力と言うべきもの)を今注目している体積領域全体にわたって体積積分したものです。その力の合計は左辺第1項の体積領域の表面に現れる電磁場の表面応力を表面全体にわたって加え合わせたものと釣り合っている事を示している。
これは、領域内に存在する物質(電荷)が電磁場中に現れる応力の原因なのですから、作用反作用の原理から行くと当たり前と言えばあたりまえです。
二つの力が釣り合っているのは、今は物質(電荷密度の分布状況)が動かず、電磁場も静的としているからです。物質や電磁場が時間的に変化するときには、この二つの力は釣り合っていません。その場合については3.(3)5.を参照して下さい。
+qと-qの電荷が2aだけ離れて互いに引き合っている場合を考える。両電荷の真ん中に両電荷を結ぶ方向に垂直な面をとると、その面上での電場は高校物理で習うように下図の様になる。このとき、この面上に現れる応力はx成分のみになる。
この応力をyz平面全体にわたって加え合わせたものが(a,0,0)の位置の-qが(-a,0,0)の位置の+qを引く力である。それは以下の積分を実施すればよい。
これは、まさしく遠隔作用にもとづくクーロンの法則の結果と一致する。
これは2.(2)電場内の応力の定義から考えて在る意味当然と言えば当然である。電荷の位置での応力を電気力線に沿って各体積要素に関して釣合の条件を保ちながら次々と応力を各空間に割り当てて行くのであるから。
+qと+qの電荷が2aだけ離れて互いに反発している場合を考える。両電荷の真ん中に両電荷を結ぶ方向に垂直な面をとると、その面上での電場は高校物理で習うように下図の様になる。このとき、この面上に現れる応力はy、z成分のみになる。
この応力をyz平面全体にわたって加え合わせたものが(a,0,0)の位置の+qが(-a,0,0)の位置の+qを反発する力である。それは以下の積分を実施すればよい。
これは、まさしく遠隔作用にもとづくクーロンの法則の結果と一致する。
一様な面密度σで帯電した半径aの球殻には、2.(1)で述べたように単位面積当たり
の力が球殻を膨張させる方向に働いている。そのため球殻の全電荷を一定に保ったままで半径を(a−Δa)に縮めようとすれば
の正の仕事を加えなければならない。
このとき、球殻が縮んだ部分に新たに電場があらわれる。そして以前から電場が存在していた部分の電場の大きさは、全電荷を一定に保ったままの収縮だから、同じである。この新たに現れる電場のエネルギー分だけが新たに増えたことになる。ところで電場の持つエネルギーは単位体積当たり (1/2)ε0E2 であることは別稿「仕事とエネルギー」2.(4)(5)で説明した。その結論を用いると増えた電場のエネルギーは
となる。
両者はまさしく一致する。つまり加えた仕事の分だけ電場のエネルギーが増えたことになる。
[補足説明1]
これとは逆に、帯電球殻表面に働く膨張力により球殻を膨張させて何らかの力学的仕事を取り出すと、球殻のまわりの電場のエネルギーが減少してそのエネルギーをまかなう。これは結局球殻状に分布した同種電荷間の反発力間を利用して仕事を取り出すのですが、電荷分布の変化による電磁的エネルギーの変化が電磁場分布の変化に旨く対応していることを示している。
これは別稿「仕事とエネルギー」2.(4)(5)で述べた平行版コンデンサーの間隔を狭めて仕事を取り出すのと同じ事情です。この場合は両極板に分布している異種電荷間の引力を利用して仕事をとりだすのですが、このときも電荷分布の変化による電磁的エネルギーの変化が電磁場分布の変化に旨く対応していました。。
簡単のために定常的な電流がつくる磁場と応力の関係を導く。
これらの法則は高校物理の授業でならうので、簡単に復習する。
1820年にジャン=バティスト・ビオとフェリックス・サバールは定常電流のまわりの磁場について次の法則を発見した。電流Iが流れている導線のΔSの長さ部分は、それから距離r離れた場所に以下の値で示される磁場Hをつくる。(ビオ=サバールの法則)
この法則を見つけた手順は別稿「ビオ・サバールの法則(1820年)を見つけた方法」を参照。
同じく1820年にアンドレ=マリ・アンペールは閉じた経路にそって磁場の大きさを足し合わせると、その和は閉じた経路を貫く電流の和に比例することを見つけた(アンペールの法則)
この二つの法則はいずれも定常電流の場合のみ正しく、電流が時間的に変動する場合は正しくない。。なぜなら、定常的でない場合には電場や磁場が変動し、考えている点にその電磁場の変化が到達するのに時間がかかる。しかし、これらの法則はその時間的遅れの効果を考慮した形になっていないからです。厳密に論じるにはその効果も考慮したマクスウェルの方程式を用いなければならない。しかしここの議論の本質を理解するには、定常的な場合で十分だから、これらの法則を用いて簡単に論じる。
また、この二つの法則は互いに等価であり、一方から他方を導くことができる(証明は省略)。
高校物理では、アンペールの法則を用いて導くが、ここではビオ=サバールの法則を用いて求めてみる。下図の様な無限に長い直線導線に一定の電流Iが流れているとする。導線から距離rだけ離れた位置の磁場は、ビオ=サバールの法則より電流に対して右ネジの方向に導線を取り巻くようにできる。直線電流から距離rの点の磁場は、以下の式に於いてzに関する-∞から+∞までの積分を実行すればよい。普通は積分変数をθに変換して実行するが、zのままでも積分できる。
この結論は、幾何学的対称性を考慮してアンペールの法則を用いたもの
と一致する。
今度は下図の様にz軸方向に無限の長さを持つ半径aの円筒表面をz軸の正方向に流れている電流を考える。それは前項2.の直線電流が円筒状にたくさん配置されていると考えればよい。各々の直線電流がつくる磁場を重ね合わせたものが求める磁場である。
そのときアンペールの法則を用いれば、円筒の内部では零に、外部では円筒を周回する(その方向は、電流の方向が右ネジの進む方向として、右ネジを回す方向)磁場になり、その大きさは円筒の中心から距離rの点でH=I/2πr(Iは円筒を流れる全電流)となることが容易に導ける。
ここで同じことをビオ=サバールの法則を用いて求めてみる。それは別稿「万有引力の法則への補足」で球殻に対して用いた方法を円筒に対して適応すればよい。
円筒周長の単位幅当たりに流れる電流をσとすると
以上で円筒電流の外側の点に円筒電流が作る磁場は円筒の中心軸と着目点との距離の逆数に比例することが言えた。つぎに円筒の半径を小さくした極限移行を考えると比例定数は同じなので、結局円筒電流が点Pに作る磁場は全電流が円筒の中心軸を流れている場合と同じになる。結局アンペールの法則で得られたのと同様な結論が得られる。
磁場Hの中を速度vで運動する正電荷+qは、以下の式で表されるローレンツ力を受ける。
これを用いると、磁場に対して垂直の直線状電流の長さLの線分要素が受ける力は
と表される。この結論は高校物理で習う。
これを用いて円筒状電流の長さL、幅wの面積要素が受ける力FwLを求める。
この場合も2.(1)と同じような考え方を適応しなければらない。円筒電流に働く力は円筒の外側の磁場と内側の磁場(=0)の平均(Hout+Hin)/2の磁場の中に存在すると考えた場合と同じになる。これを理解する方法は円筒状電流を厚さ0の層と考えるのではなく、薄いがある厚さΔrを持つ層の中に存在している面電流密度j を考える事である。その結果として表面の単位周長当たりに流れている電流がσに成ると考える。つまりΔrがどのような値をとってもσ・w=j・Δr・w(wは円筒の周囲のある幅を意味する)に成るようにj を取る。
この場合には磁場は層の内側でH=0で、層の厚みの方向に直線的に増加して外側でH=σ・2πa/(2πr)=σ(ただしr→aに近づける)となる。この板状の体積要素を流れる電荷に働く力の平均値は、明らかに電荷が(Hout+Hin)/2の磁場の中で動いていると考えた力に一致する。そのため上記ように式中に1/2の係数が現れる。
円筒状導体面内の電荷がこの圧力により円筒内部の空間に飛び出て行かないのは、電荷を導体面にとどめようとする別の強い力が働いているからである。実際導体中の自由電子は自由電子が外れた負のイオン原子に強く束縛されながら流れている。このとき自由電子は負のイオン原子にまとわりつきながら流れているので、全体として正味の電荷は存在しない。そのため電場は存在しないので、磁場と電流の相互作用のみ考えればよい。
磁場内に仮想的に考えた磁力線に平行な面に働く力は3.(1)4.の導体表面での力を磁場の中に広げて考えればよい。つまり磁場Hの場所で磁場ベクトルに平行な単位面積に働く力は圧力となり、その大きさは
であると考える。
磁力線に垂直な面に働く力は、前記3.(2)1.の結論と磁場が存在する空間体積要素が応力の釣合状態にあるという条件から決定すればよい。そのとき一般的な曲率の磁力線の場で説明するのは、高校レベルでは難しいので、簡単な状況を利用して導く。
それは表面に一様な電流密度σでz軸の正方向へ電流が流れている円筒状導体の周りの磁場である。3.(1)3.で説明したように、その周りの磁場は円筒の中心軸に対して同心円状でその方向は電流に対して右ネジの方向である。そしてz軸方向に対しては一様である。このとき[中心から半径rとr+Δrの二つの磁力線曲面]と[磁力線に垂直な二つの面]と[zに垂直な平面でzとz+1における二つの平面]で切り取られた薄い彎曲した板状の体積要素(z軸方向には単位の長さとする)を考える。
この彎曲した板状体積要素の半径方向に垂直な二面に働く力と、側面に働く力の釣合を考える(z軸に垂直な方向の面に関しては常につり合いが成立している)。このとき、連続体内部の面に働く力は、どちらの体積要素に着目するかで方向が逆転する事に注意。下図の空色部分が着目する体積要素で、矢印がその体積要素に働く力である。
左図の力と右図の力は面の反対側に作用する力で作用反作用の法則から明らかなように大きさは等しく方向は逆である。ここで着目しているのは穴ではなくて板状の体積要素だから上右図の力の釣合を考えればよい。
つまり上図の彎曲した板の上下の面に働く半径方向の圧力の差が、側壁に働く張力の半径方向成分の和と釣り合っていると考える。磁力線に平行な面に働く単位面積当たりの圧力Prについて2.(2)1.の結論を用いると(z軸方向には単位の長さとする)
となり、その方向は円筒の中心軸から外向きである。
一方側壁の単位面積当たりの張力をTrとすると
となり、その方向は円筒の中心軸の方向を向いている。
体積要素に対する応力のつり合いの条件から(A)=(B)でなければならないので、磁力線に垂直な面に働く張力Trは単位面積当たり
でなければならない。これは磁力線に平行な単位面積当たりに働く圧力Pと同じ大きさである。
磁場中の主応力が3.(2)の様に求まると、任意方向を向いた面に働く応力ベクトルFが求まる。その求め方は2.(3)1.で述べた電場の応力ベクトルと同じである。この場合も電気力線と同じように、磁力線に垂直な面が張力、平行な面が圧力となる。このことからFは以下のように表される。
ベクトルの関係を図示すると
となり、電場の場合と全く同じになる。
前記のベクトルFを成分表示すると
となる。
面積要素の法線ベクトルnが(1,0,0)、(0,1,0)、(0,0,1)の特別な場合について記すと
となる。
これを行列表示した
は磁場に対するマクスウェルの応力テンソルである。
このテンソルに関しても2.(3)4.で説明した事柄がすべて成り立つことは言うまでもありません。
静磁場内の任意の体積領域における力の釣り合いを考えます。2.(3)5.の静電場の場合と同様に考えればよい。
静磁場内のある体積領域Vの表面に働くMaxwellの応力の表面積分を考えます。つまり
のそれぞれのベクトル成分の表面積分を計算する。
これは、Maxwellの応力テンソクの各行をそれぞれ一つのベクトルと見なしたとき、そのベクトルと領域表面の面要素ndSの内積を領域表面全体にわたって表面積分したものだから、ガウスの定理により下記の体積積分に直すことができます。すなわち
となります。
普通の教科書では上記のベクトル方程式をテンソル表現を用いて
と書いていますが、同じ事を表しています。
テンソル表記にすると難しく感じますが、ベクトル方程式の成分表示をまとめて書く手法に過ぎません。TはMaxwellの応力テンソクです。記号の“〜”はTがテンソルであることを表す為につけました。ちょうど“→”を付けてnやHがベクトルであることを表したように。また、テンソルとベクトルの内積 T・ndS には2.(3)4.で述べた以上の意味はありません。
大事なことは、この式が何を意味するかです。
上式を以下の様に書き直してみれば解りやすい。
左辺の第2項は電磁場領域内に存在する物質(電流)に働く力の反作用力(これは電磁場の単位体積に働く体積力と言うべきもの)を今注目している体積領域全体にわたって体積積分したものです。その力の合計は左辺第1項の体積領域の表面に現れる電磁場の表面応力を表面全体にわたって加え合わせたものと釣り合っている事を示している。
これは、領域内に存在する物質(電流)が電磁場中に現れる応力の原因なのですから、作用反作用の原理から行くと当たり前と言えばあたりまえです。
二つの力が釣り合っているのは、今は物質(電流密度の大きさと分布状況が一定、つまり定常電流のみ存在)が変化せず、電磁場も静的としているからです。物質(電流)や電磁場が時間的に変化するときには、この二つの力は釣り合っていません。その場合については3.(3)5.を参照して下さい。
電場と磁場が同時に存在する場合には、各空間部分における応力テンソルは2.(3)3.の電場による成分と前項3.(3)2.の磁場による成分を足し合わせたものになる。つまり
となる。最後の記号の“〜”はTがテンソルであることを表す為につけた。ちょうど“→”を付けてベクトルであることを表したように。
これは時間的に変化する場合も含めた任意の電磁場内の任意の点におけるMaxwellの応力のテンソル表現です。
テンソルの意味については2.(3)4.を参照されたし。そこでも述べた様に応力テンソルは常に τij=τji を満足する対称テンソルです。また対角要素の和は τxx+τyy+τzz=−{(1/2)ε0E2+(1/2)μ0H2} となる。
2.(3)5.では静電場内での、3.(3)3.では静磁場内での力の釣り合いを考察しましたが、ここでは電磁場が時間的に変化する場合も含めた任意の電磁場内における体積領域について成り立つ《力の釣り合いの法則》を見つけます。
ただし、物質(電荷密度分布や電流密度分布)が時間的に変化し、それに伴い電磁場が時間的に変化する場合には、2.(3)5.(静電場)や、3.(3)3.(静磁場)の場合のように電磁場領域内の体積力積分と電磁場領域表面の表面力積分が互いに釣り合うわけではありません。体積領域内の電磁場の運動量の時間的変化を表す項が新たに出てきます。
そのため、《力の釣り合いの法則》ではなくて《電磁場の運動方程式》を表す式となります。
上記の方針に従って、 2.(3)5.(静電場)や、3.(3)3.(静磁場)の場合と同様にやれば良いのですが、今回は、2.(3)5.(静電場)で用いた
は使えません。
変わりに
を用いなければなりません。
また、3.(3)3.(静磁場)で用いた
の後半は使えません。
後半は電場の時間的変動項も含めた
を用いなければなりません。
以上の2点が変わるだけで後の展開は同じです。
時間的な変化をする電磁場内の任意の体積領域Vの表面に働くMaxwellの応力の表面積分を考えます。つまり
のそれぞれのベクトル成分の表面力の和を計算する。
Maxwellの応力テンソクの各行をそれぞれ一つのベクトルと見なしたとき、そのベクトルと領域表面の面要素ndSの内積を領域表面全体にわたって表面積分します。そのときベクトル解析におけるガウスの定理により体積積分に直せる。
となる。
これは以下のベクトル方程式を表している。
このままでは解りにくいので、Maxwellの応力をテンソルTで表すと
となる。
[補足説明1]
大事なのは、この式が何を意味するかです。
《左辺》
[電磁場の運動量密度の時間的変化の体積領域全体にわたる積分値(もちろんベクトル値)]を表す。[E×H]はポインティングベクトルであり、ε0μ0=1/c2でしたから、エネルギー流密度(=運動量密度)の体積領域全体にわたる積分値の時間的変化の割合を表している。
《右辺第1項》
[体積領域に存在する物体(電荷や電流を構成するもの)に働くローレンツ力の反作用力(これが電磁場に働く体積力)]を表す。−符号は反作用力であることを表している。これは体積領域V全般にわたる体積積分であることに注意。
《右辺第2項》
[体積領域の表面に於いて電磁場に働く表面力の積分値(もちろんベクトル値)]を表している。
つまりこの式は、“[電磁場の運動量の時間的変化]はその[電磁場に働く体積力]と[表面力]の和に等しい”という《電磁場の運動方程式》を表す積分型の“ベクトル方程式”です。
ベクトル方程式中のTは“Maxwellの応力テンソル”ですが、“テンソル”とはベクトルとの積(内積に相当する)を作ることによって一つのベクトルを表示するための数学的な工夫です。記号の“〜”はTがテンソルであることを表す為につけました。右辺第2項は、体積領域の表面に現れる応力の体積表面全体にわたる積分を表しています。x,y,z方向それぞれの積分値(3成分)を一つの式で表しています。
このあたりは2.(3)4.を復習して下さい。
ここにポインティングベクトルが出てきますが、ここでは表面積分ではなくて、体積積分で関係します。しかもポインティングベクトルそのものではなくて、それを光速度の二乗で割ったベクトル量の積分であることに注意して下さい。
こことよく似た関係式として、体積領域Vにおける《電磁場のエネルギー収支》を表す積分型の“スカラー方程式”があります。そのときのポインティングベクトルは体積領域の表面積分値として関係してきます。それとの違いに注意して下さい。
このことについては別稿「電磁場のエネルギー密度とポインティングベクトル」2.(3)[補足説明3]で説明していますのでご覧下さい。
さらに付け加えますと、本稿のベクトル方程式と上記別稿のスカラー方程式は、ミンコフスキー時空で統合されて一つのテンソル方程式を構成します。そして、それはローレンツ変換に対して不変な方程式となります。このことに付いては別稿「Maxwell方程式系の先見性と電磁ポテンシャル(Lorenz gauge)」6.をご覧下さい。
電磁場が時間的に変化するのは電磁場空間内に存在する“物質(電荷や電流)”と“電磁場”が相互作用するからです。つまり電荷の存在位置が時間的に変わり、電流の大きさや位置が時間と共に変わる事によって電磁場が時間的に変化するのです。たとえば“ファラデーの電磁誘導の法則”は“ローレンツの力の法則”の別表現です。
だから時間的に変化する電磁場の様子を表す《電磁場の運動方程式》を求めるには、“ローレンツの力の法則”から出発すれば良いことが解る。これは時間的に変化する場においても正しい式だからです。
つまり、ローレンツの力の法則の体積積分をMaxwellの電磁場方程式を用いて変形して行けば、体積領域表面のMaxwllの応力の表面積分と関係づけることができるでしょう。もちろん今度は体積領域内の電磁場の時間的変化に伴う項も現れるはずです。そして《力の釣り合いの法則》は《電磁場の運動方程式》になるわけです。
[補足説明2]
普通の教科書では、“ローレンツの力の法則”から電磁場の運動方程式を導きます。それは別稿「アインシュタインの公式E=mc2の証明」3.[補足説明1]の右側に赤実線囲み枠内で説明したやり方です。
ちょうど良い機会なので、ここでまとめておきます。前述の議論を逆にたどるだけです。
真空中に十分長い2本の直線状の導線を距離2a[m]離して平行に張り、同じ向きにそれぞれI[A]の電流を流す。そのとき両導線は互いに引き合う。導線の長さL当たりの引力を、2本の導線の真ん中の面上に現れるマクスウェルの応力を加えあわせることにより求めてみる。
上記の応力をLの幅でy=−∞〜+∞にわたって加え合わせたものが(x,y)=(a,0)の位置の電流+Iが(x,y)=(-a,0)の位置の電流+Iの長さLの部分に及ぼす引力である。
これは、まさしく高校物理の授業で習う遠隔作用にもとづく結果(下図参照)と一致する。
これは3.(2)磁場内の応力の定義から考えて在る意味当然と言えば当然である。電流の位置での応力を磁力線に垂直な方向に各体積要素に関して釣合の条件を保ちながら次々と応力を各空間に割り当てて行くのであるから。
真空中に十分長い2本の直線状の導線を距離2a[m]離して平行に張り、逆向きにそれぞれI[A]の電流を流す。そのとき両導線は互いに反発する。導線の長さL当たりの反発力を、2本の導線の真ん中の面上に現れるマクスウェルの応力を加えあわせることにより求めてみる。
上記の応力をLの幅でy=−∞〜+∞にわたって加え合わせたものが(x,y)=(a,0)の位置の電流-Iが(x,y)=(-a,0)の位置の電流+Iの長さLの部分に及ぼす反発力である。
これは、まさしく高校物理の授業で習う遠隔作用にもとづく結果(下図参照)と一致する。
円筒状電流の円筒の半径をaから(a−Δa)に収縮させるのに必要な仕事量(円筒の長さL当たり)が、円筒が収縮した領域に新たに現れる磁場のエネルギー(1/2)μ0H2×(2πa×Δa×L)に等しいことを導いてみよう。ここで(2πa×Δa×L)は新たに磁場が現れる領域の体積である。単位体積当たりの磁場のエネルギーが(1/2)μ0H2であることは別稿「仕事とエネルギー」2.(5)(2)で説明した。
電場の場合、応力を利用して球殻を収縮させる仕事を計算すると、球殻が収縮したことによって生じた空間に電場が新たに現れて、増大する電場のエネルギーとうまく対応することを確かめるのは簡単だった。しかし、磁場の場合、円筒状電流の半径を収縮するときに要する仕事量と収縮した空間に現れる磁場のエネルギーの対応関係を確かめるのは少し面倒である。
円筒状電流の円筒の半径を、電流値を一定にたもったまま、aからa−Δaに収縮させるときの仕事は、円筒表面に働いている力が3.(1)4.で述べたように圧力であるから、負になる。そのとき、磁場の中で導線を動かすと導線には電流の流れを妨げる逆起電力が生じることを思い出す必要がある。一定の電流値を保つためには電流に対して正の仕事を加え続けなければ成らない。その仕事を加えれば差し引きした結果は正の仕事が得られるように思える。しかしこの逆起電力を求める計算にも1/2の掛かったHを用いる必要があるので、両者を足し合わせても零の仕事しか出てこない。
正の仕事にするにはさらに何かが必要だ。磁場が時間の経過と共に新たに現れるのだから電磁誘導に伴って生じる電場の効果も考慮しなければならない。以下順番に説明する。
まず、3.(2)1.で説明したように円筒面には単位面積当たり(1/2)μ0H2のマクスウェルの応力(圧力)が存在する。そのため円筒を縮めるための仕事は高次の微少量を無視すると、円筒の長さL・幅w当たり
となる。そとのき、外力としてはFwLとは逆向きの力を加えながらする仕事になるので、当然の事ながら負の仕事になる。
このとき、円筒電流は磁場に垂直に動かすのだから、その中の電荷にはローレンツ力が働く。これは電流の流れている方向とは逆方向となり逆起電力を生じる。この力に逆らって最初の電流値を維持しなければならない。それは電流に対して正の仕事をしなければならないことを意味する。下記の様に記号を定めて、その値を計算してみる。
電荷1個当たりに働く逆起電力に伴う力は以下のようになる。このときも、磁場Hは電荷の存在するΔrに関して厚さ方向に0からHまで変化するのでHに関して(1/2)の掛かった平均値を用いなければならない。
電流電荷は単位時間にvjだけz軸の正方向に移動している。そのとき最初の電流値を維持するには、逆起電力で生じる力に相当する力を上向きに加えながら移動させねばならない。その仕事率をL×w×Δrの体積要素中の全電荷に対して加え合わせればよい。つまりこの体積要素中の全電荷に対する仕事率Pは
となる。ここで円筒半径をΔaだけ縮めるのに要する時間tは t=Δa/va を用いているが、その時間をもう一度かけたものが、電流に加えなければならない仕事W2である。
結局tは消えてしまうので、どんなにゆっくり縮めても(つまりva→0にしても)結果は同じである。
ここでさらに、もう一つ正の仕事を加えなければならない。それは円筒の周囲に新たに生じてくる磁場が引き起こす電磁誘導電場による逆起電力に抗するための仕事である。誘導電場に関しては別稿「電磁波」1.(1)で説明したように、磁束密度Bが時間的に変化しているとき、その場所付近には〔磁束密度が増加している方向〕に対して、〔左ネジの方向〕に電場は存在する(ファラデーの電磁誘導の法則)。
と記述できる。
このとき、新たにできる磁場は円筒を周回するように現れるので、高校物理の授業で導線を巻き付けたソレノイド内の磁場をアンペールの法則で求めたのと同じ様な考え方を、磁束密度の時間的な変化率と発生する誘導電場に対応させて考えればよい。Δt時間にΔdだけ半径方向に縮むとすると、長さL×幅Δdの面領域に新たな磁束密度が生じてくる。
この誘導電場に関係する力を求めるときには、Eに関して(1/2)を乗じる必要がないことに注意。またこの場合もtは消えてしまうのでどんなにゆっくり縮めても結果は同じである。またこのとき現れる誘導電場は、円筒の収縮が終わると消えてしまうので、電場のエネルギーの増加を考える必要はない。
(1)〜(3)式のW1〜W3をすべて加え合わせたものが、電流値を一定に保って円筒状電流の半径をaから(a−Δa)に収縮させるときに必要な仕事量(長さL×幅wの部分について)である。これは円筒が収縮した領域に新たに現れる磁場のエネルギー(1/2)μ0H2×(L×w×Δa)に一致している。
[補足説明1]
このとき電流に仕事を加える事なく、円筒状電流に働く収縮力により円筒が収縮するのに任せて何らかの力学的な仕事を取り出すと、円筒を流れる電流量が減少して、そのまわりの磁場のエネルギーを減少させ、そのエネルギーをまかなうことになる。
逆に、円筒の収縮力に逆らって円筒を膨張させようとすると、電流量の増大を招き、そのまわりの磁場が大きくなり、磁場エネルギーの増大を生じる。これは別稿「仕事とエネルギー」2.(5)(2)で述べたソレノイドコイルの場合と同じ事情であり、さらに「発電機とモーターの理論」で述べた発電機のメカニズムです。
また、これは、柱状プラズマ(電離した気体で電気を通す)の軸方向に大電流を流すと、作り出された磁場と電流自身の相互作用により、プラズマ柱が締め付けられて中心部に細い紐状になって集中する現象(ピンチ効果)のメカニズムでもある。実際、10万アンペア程度の電流を流すと、圧縮されたプラズマ柱の内部圧力は1000気圧くらいに達する。
ここの議論は、自分自身が作る磁場との相互作用が関係したきわどい領域の話しなので本当にこれでよいのか少し疑問が残るが、おそらく正しいと思う。
同符号の電荷が一様に帯電した平行板間には斥力が働くと高校物理で習う(別稿「絶対電位計と象限電位計の測定原理」1.(2)参照)。そのとき帯電平行板が平行を保ったまま板の面に沿った方向に動くとどうなるのだろうか?
これはマクスウェルの応力に直接関係無いが、このページで用いた数式が利用できるので、ここで説明する。
<平行板が静止している場合>
同符号の電荷が面密度σで一様に帯電した無限に広い二枚の平板が、下図の様に配置されているとする。そのとき平行板間には斥力が働き、その大きさは単位面当たり下記のようになる。別稿「一様に帯電した無限に広がる平板の周りの電界」か、又はこのページの2.(1)により
<平行板が速度vで動いている場合>
帯電平行板が下図の様に速度vで動いている場合、これは電流密度 j=σv でz軸の正方向に流れる面状電流と見なせる。そのとき3.(1)2.の結論がそのまま利用できる。
x=0の位置の面状電流がz=rの位置に作る磁場は、線電流 jdy が作る磁場dHyをy方向に積分して求めればよい。x方向の磁場成分は積分の結果打ち消し合うので、y軸の正方向を向いた一様な磁場となる。
この磁場Hの所を流れる電流密度 j=σv の面電流の単位幅、単位長当たりに働く力はローレンツの法則を考慮すると引力となり、
という値になる。
<FとF’の関係>
(1)式の斥力Fと、(2)式の引力F’の比は
となる。極板の動く速さvが大きくなって1/(ε0μ0)1/2となると両者が等しくなり、見かけ上力が働かなくなる。この値こそ光速cであり、これは電磁気学の根幹に関わる事柄で、マクスウェルは彼の著書”Treatise”のArt769で、このことに注意を促している。
Edmund T. Whittaker 著「エーテルと電気の歴史(下)」講談社(1976年刊)P308〜309 に電場内の応力の簡単な導入法が説明されている。このページはそこの記述を参考にしました。磁場内の応力も同じように考えたのですが、本当にこれで良いのか気になるところです。
本文の様に電磁場内に応力を定義してきたが、真空の応力を普通の意味で直接測定する事はできない。何らかの物体を挿入して初めて測定できるのだが、物体を挿入すると当然その内部の電荷も移動し電流が流れ電磁場の様子も変化する。その変化した電磁場の状況で、その物体表面に上記の応力が現れる訳である。
大学レベルの電磁気学はベクトル解析の公式を用いて華麗に展開される。形式は整い綺麗に説明されるが、話が抽象的になり理解が難しくなる。正直なところ数式の変形をいくら丹念に追ってみても解った気がしない。そのとき数式に惑わされるのではなく、泥臭く具体的な例で考えることが大切だと思う。
電磁気学では近接作用の基になる場の考え方が重要になる。そのときそれらの場とその源の電荷・電流との関係を、特別な場合で十分に吟味しておくと良い。その特別な場合とは[点電荷]・[無限線状電荷分布]・[無限平板状電荷分布]・[球殻状電荷分布]の周りの電場と、[直線状電流]・[平板状電流]・[円筒状電流]・[サーキット状円電流]・[ソレノイド電流]の周りの磁場である。
工学的に重要な多くの例はこれらのどれかで近似できるので、これらの性質を確認・整理しておくと一般的な電磁場の性質の理解に役立つ。