物理学史研究刊行会編「物理学古典論文叢書1 熱輻射と量子」東海大学出版会(1970年刊)
この中の6.W.Wien著「黒体の放出スペクトルにおけるエネルギー分布について」を引用。
解りやすくする為に少し改変していますので、元表現はこちらを参照して下さい。
[補足説明1]
上記の熱力学的な方法で導く事ができた成果とは “シュテファン・ボルツマンの法則”(1884年) と “ウィーンの変位則”(1893年) を指しています。
この二つの法則は、当時多くの科学者が真に正しいだろうと認めていたものです。実際、H.A.Lorentzは“シュテファン・ボルツマンの法則”を『理論物理学の真の真珠』と言って称えており、M.Planckは“ウィーンの変位則”を自らの黒体輻射の理論を展開する上で絶対的な拠り所とします。
[補足説明2]
上記の気体の速度分布式については、例えば別稿「気体の動力学的理論の説明」2.などを復習されて下さい。速さvの分布にするには、そこの3.(1)をご覧下さい。また定数αの決定式についても、そこの3.(1)[補足説明2]などを復習されて下さい。ただしMaxwellの論文ではここのα2を1/αとしていることに注意されたし。
Maxwellの速度分布則については、後に様々なやり方で導かれていますが、Wienが本論文を書いた時代を考慮すると上記の解説が最も当時の知見に即していると思います。
[補足説明3]
上記のBoltzmannと私の与えた理論とは【シュテファン・ボルツマンの法則(1884年)】 と 【ウィーンの変位則(1893年)】
を意味します。
[補足説明4]
上記の説明は非常に解りにくいが、φλとは、別稿「黒体輻射と熱理論の第二主則との新しい関係」§2.[補足説明4]で説明した図中のuλに相当します。だから上記の縦座標は1/θ4ではなく,1/θ5に比例して縮小されるの間違いです。
だから上記別稿[補足説明4]の説明の様に
だから、
が成り立たねばならない。
これはもちろんBoltzmannが展開した【シュテファン・ボルツマンの法則(1884年)】の成果を意識してのことです。
上記の説明で、f(λ)/θ≡c/λT としたのは、Wien自身が展開した【ウィーンの変位則(1893年)】の結論である φλ∝関数(ν/T)∝関数(c/λT) を意識してのことです。
[補足説明5]
Γ関数について補足しておきます。詳細はWikipediaなどを参照して下さい。簡単に言えば n! の n を任意の実数まで拡張した様な関数です。
下記の様に n−1=4 の場合 Γ(n−1)=Γ(4)=6 程度の値になります。そのためここは単なる定数と見なせば良いだけであって、それ以上の意味はありません。
[補足説明6]
上記でWienが説明している事柄に関して補足します。Wienの言っていることは別稿「プランクの熱輻射法則(1900年)」8.(5)[補足説明4]のグラフ
から明瞭に読み取れます。
ウィーンの輻射分布公式ではλ→∞ではエネルギー密度は絶対温度Tに関係無くある一定値に近づいてしまいます。
実際、ウィーンの公式の場合
となるのですから。点線で表されたウィーン分布の色々な温度の曲線群の束がλ→∞とともに一つまとまってしまうことに注意して下さい。
つまりウィーンの輻射公式の長波長側では輻射場の絶対温度Tが無限大に増大しても、輻射場のエネルギー密度はある一定値以上に増大する事は無いのです。
Rayleighは、彼の1900年の論文の中で、このことは“理論的に考えて間違っている”と指摘しています。
このことは、別稿「プランクの熱輻射法則(1900年)」6.(1)[補足説明1]て注意しましたように、その後の熱輻射分布公式の考察に重要な意味を持ちます。
実際、プランクの公式の場合
となりますので λ→∞の 領域でも uλ は温度Tが増大すれば温度の増加に応じて増大します。。
[補足説明7]
本稿でWienが求めた輻射分布法則は、黒体輻射分布の観測値を旨く実現している画期的なものでしたが、その中に用いられている論理メカニズムは多くの科学者に疑問視されるものでした。
この理論の本質は吉田伸夫著「光の場、電子の海(量子場理論への道)」新潮社(2008年刊)p31〜32の説明で尽くされているように思いますので、その部分を以下に引用しています。
[拡大版] 下記引用文の前後の説明は別稿p028-029の前後で引用しています。
吉田氏が引用されているRayleighの『Wien論文を批判する言葉』が載っている原論文はこちらです。
吉田氏の言われることは別稿「Einsteinの光量子論(1905年)」§4.[補足説明1]でも採録しています。