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ミランコビッチ・サイクルの今日的な意義
インブリー著「氷河時代の謎をとく」(1979年)を読み直して

 最近(2019年8月)文献3.「地球46億年気候大変動」を読んだことをきっかけに、文献5.「氷河時代の謎をとく」、文献2.「チェンジングブルー」、文献1.「気候変動論」、その他の気候文献・・・を読み直しました。そのとき感じたことを記しています。

1.ミランコビッチ説の今日的な意義

 ミランコビッチ説の今日的な意義を、現在(2019年)までに人類が獲得した知識を元に振り返ってみます。

)導入

1.近代の気温変化

 2001年3月のIPCC第3次評価報告書から引用。
拡大図]   近年の平均気温変化の別説明を引用

拡大図

 

2.人類の生活は僅かの気候変化に影響されてきた

 文献2.のプロローグに1940〜1970年代の寒冷化した時期(前図参照)の出来事が振り返られています。
 また別稿に追記した様に、私(70歳)は瀬戸内海地方に住んでいますが、私が子供の頃は一冬に10cm程度の積雪が何度かある冬は珍しくありませんでした。
 ところで、私が大学を出て最初に就職した職場の同僚に新潟大学出身の方がおられたのですが、その方から昭和38年(1963年)の豪雪(いわゆるサンパチ豪雪)がすごかったという話を聞いたことがあります。
 それらは丁度上図の寒冷化した1950〜1960年代の話です。1965年に刊行された講談社ブルーバックス『異常気象』に38年豪雪も含めた寒冷化した1950〜1960年代の異常気象の話が載っています。これは当時の気象状況に付いて気象庁への問い合わせが多いため、それに答えるために気象予報の専門家が共同執筆して生まれた本です。この本から第2章・第1節を別稿で引用

 ところが、別稿に記した様に、1970年以降は小刻みな異常気象変動を含みながらも、気候は温暖化の一途をたどっています。もう少し時間を遡ると1900年頃から一貫して温暖化の道をたどっていることが解ります。
 以下のグラフは第5次報告書の技術要約より引用したのですが、1900年から今日(2019年)までの過去120年間に生じた気候変動に驚くばかりです。

 アフリカの高峰キリマンジャロ(標高5895m)の氷河はこの数十年で縮小の一途で今やほとんど消滅しかかっています(石弘之著『キリマンジャロの雪が消えていく』岩波新書2009年刊)。山岳氷河の縮小はアルプスやヒマラヤについても同様です。
 ここ最近は日本でも真夏に最高気温が40℃を超える事が珍しく無くなり、スーパーセル(線状降水帯)がもたらす集中豪雨による被害が多発する状況になりました。
 かっての台風は北上すると弱まり、日本に上陸する頃は中心気圧も高くなっていたのですが、最近の台風は、日本近海の海水温度上昇(2019年9月5日の状況)のために、日本に近付いてからも更に発達する様になりました。

 

.過去1000年の気候変動

 文献2.第12章の後半10〜14世紀の中世温暖期15〜19世紀の小氷期の様子が描写されています。文献5.の第16章には15〜19世紀の小氷期の様子と過去1万年の気候変動が説明されています。
  今にして思えば、私が子供の頃読んだ『長い冬』(ローラ・インガルス・ワイルダー(1867〜1957年)が少女時代に体験したアメリカ中西部の冬を書いた児童文学書)の内容は、まさに1880年頃の小氷期の出来事だった。しかし、ローラがアルマンゾと結婚してしばらく経った1900年頃から温暖化が始まる。

 現在から数千年前に目をやると、トルコのエフェソスの遺跡(紀元前のギリシア・ローマ時代に栄えた港湾都市)は2000年前の温暖期には海面水位が高く大型船が接岸できる港として機能していた。しかし、私が見聞したエフェソスの遺跡はかなり内陸部に位置しており、2000年前の港湾都市の面影は有りませんでした。
 しかし、現在は一旦降下した海面水位は18世紀後半以降じわじわと上昇を続けています。紀元1000年頃に繁栄を誇った海洋国家ベネチアの海洋都市ベニスは近年の海面上昇により、水没の危機を迎えつつあります。

 かっては東北地方ほどの広さの有った世界第4位の湖アラル海は、この80年間で(旧ソ連時代の無謀な自然改造計画の弊害もあるのですが)ほぼ消滅しようとしています。アフリカ大陸中央部のチャド湖も湖水面積の縮小と拡大を繰り返しながらやがて干上がってしまう状況になっています[2008年7月7日読売新聞]。

 7000年前の最も温暖だった時期(海面が最も高かった時期)を過ぎて、19世紀末までは、温暖期と寒冷期を繰り返しながら、ミランコビッチフォーシングにより地球は確実に寒冷化に向かっていた。ところが人類が19世紀後半から利用を始めた化石燃料の燃焼により、大気中の二酸化濃度やメタン濃度の急激な上昇が始まった。
 (次グラフで1ppm=0.000001、1ppb=0.000000001のことです)

 グラフに示されている温室効果ガスの濃度増大カーブ前掲の最近1000年の平均気温変動カーブ不気味なほど一致しています。

 このとき、文献1.のp114表4.3で、あるいは文献2.の図10-6で紹介されている様に最終氷期極大期(LGM)の二酸化炭素濃度は190ppmでした。また現代の産業革命前(AD1800年頃)の二酸化炭素濃度は280ppmでした。
 ところが、今日の二酸化炭素濃度は410ppmを越えようとしています。
 次グラフは気象庁HPより引用しています。補足ですが、1ppm=0.000001の事です。現在の大気圧は約1気圧(101325Pa=101325N/m2=1.013.25bar)ですから、二酸化炭素の分圧は 1気圧×410ppm=0.00041気圧、すなわちは大気の約0.041%と言うことです。

 そして、現在の温暖化の状況は、文献5.第16章で説明されている40年以上前の予言の通りになりつつあります

 全般的な傾向として、過去7000年前(紀元前5000年)から、紀元1900年頃まで(温暖化と寒冷化の変動を繰り返しながらではありますが)全体的傾向として寒冷化に向かっていた
 そのとき注意して欲しい事は、そう言われても、前記の直近1000年の温室効果ガス(二酸化炭素など)の濃度変化に現れていないことです。
 次項で説明する様に、ミランコビッチフォーシングによる寒冷化に対して、温室効果ガスの増減は直接影響を与えなかったことです。今日の気候学者は寒冷化に伴って生じる二酸化炭素濃度の減少は寒冷化に従属的に起こるのであって寒冷化の直接の原因ではないと考えています。

 

.ミランコビッチフォーシング


同様な図の別文章からの引用

 ここで注意して欲しいことは、氷期と温暖な間氷期の二酸化炭素濃度の変化幅は(280-190)=90ppm程度で、ここ最近の増加幅(410-280)=130ppmと比較してそれほど大きくなかったことです。

 後で説明しますが、新生代の特に第四期になって始まった氷期と間氷期の繰り返しのメカニズムは、新生代になってからの地殻変動に伴うメカニズムにより二酸化炭素濃度が十分に減少したことによって働き始めたミランコビッチフォーシングによる
 ミランコビッチサイクルと地球表面に恒常的に存在するようになった氷河・氷床の[面積増減に伴う日射反射率(アルベード)変化][氷床表面高度変化]の相互作用によります。
 
 つまり、二酸化炭素濃度の増減が氷期と間氷期が繰り返す原因ではなくて、【ミランコビッチフォーシング】と【氷河・氷床の増減に伴うアルベード変化(氷床の高度変化もある)】が第四紀の気候変動の原因だと言うことです。1.(4)1.[補足説明]参照。
 二酸化炭素濃度の増減はミランコビッチフォーシングによる気候変動に伴う従属的な現象です。これは今日の気候研究者のほぼ一致した見解です。
 
 そのとき、氷期と間氷期変動に伴う属的な二酸化炭素濃度変化90ppmによる温室効果に伴う平均気温変動は1℃程度であったと見積もられています。氷期の間氷期の8℃前後の平均気温変動の大半は、雪原(氷床)面積の変動に伴うアルベード値の変化がその原因です。そして、その変化は何万年もかけて生じます。
 ところで、産業革命前と今日の二酸化炭素濃度の変化幅は130ppmですが、その変化速度で今後も二酸化炭素濃度が増大すれば、その濃度増加に伴う温室効果増大による平均気温の上昇は2100年時点+3℃になると言われています。これは1900〜2000年の100年間の平均気温上昇幅+1℃を考慮すると確実に起こります。
 これは過去1000年の間に生じた平均気温変動(±0.6℃程度)と比較すると恐るべき大きな気温上昇幅です。そのことに付いてはこちらの図を参照されたし。どうやらIPCC第1次評価報告書(1990年)の予言の通りになりそうです
https://archive.ipcc.ch/publications_and_data/publications_ipcc_first_assessment_1990_wg1.shtml
あるいは、第3次評価報告書の通りと言っても良い。この当たりは環境省が2015年に作成したIPCC report communicatorが解りやすいのでご覧下さい。

 過去1000年の間の平均気温変動(±0.6℃、つまり変化幅1.2℃程度)の中で生じた気候変動・異常気象の実体(1.(1)2.1.(2)3.の引用文献参照)を振り返ると、+3℃の気温上昇はかなり厳しい気候と地球環境の変化を生じるでしょう。

 上記の氷期と間氷期の温度差8℃について補足します。文献10.のp64にも記されている様に、間氷期と氷期の平均気温の差は6℃程度てすが、これは地球表面全体を平均しての気温差です。文献10.のp74にも記されている様に極地方では12℃程度、赤道地方では2〜5℃程度の気温差でして緯度により変化量にかなり差があります。だから別稿で言う8℃の変化は、おそらくミランコビッチ・フォーシングが最も効果的に働く北緯65度での気温差を指しているのだろう。
 それにしても、間氷期と氷期の平均気温差が6℃程度だったと言うことは、今日予測されている2100年時点での平均気温3℃の上昇は、恐るべき気温上昇です。

 ここで、誤解の無いようにもう一度注意します。
 前述のように、新生代(特に更新世)の氷河時代における間氷期と氷期の繰り返しの原因は二酸化炭素濃度の増減ではなくおそらくミランコビッチ・フォーシングによる天文学的な原因です。一方4.(2)節で述べる地球史に於ける気候変動は、太古代→原生代→顕生代へと連綿と続く二酸化炭素濃度減少化の中での、二酸化炭素濃度の増減に伴う温室効果変動による気候変動です。
 この二つの言い方における二酸化炭素濃度変動の意味の違いに注意して下さい。地球史に於ける気候変動の主役が二酸化炭素濃度の変動であろうというのは、気候学者の一致した見解です。
 
 しばしば、『温暖化したから二酸化炭素濃度が増大したのか、二酸化炭素濃度が増大したから温暖化したのか』が取り沙汰されますが、その事に関する混乱は、上記の二つの状況に於ける二酸化炭素濃度の役割を混同していることにあります。くれぐれもそこの所を誤解しないで下さい。
 
 この稿で注意しようとしているのは、新生代(第四紀)氷河時代に於ける間氷期と氷期に於ける従属的な二酸化炭素濃度変化幅90ppmを大きく超えた130ppmの二酸化炭素濃度の増大が生じていることです。
 現在、この二酸化炭素濃度の増大が引き起こす温室効果による温暖化がミランコビッチフォーシングに変わって気候変動の主役になるのではないかと懸念されています。
 なぜなら、二酸化炭素濃度の増大で温暖化したと言われている中生代温暖期に於ける二酸化炭素濃度は現在の濃度の精々数倍〜10倍程度(図17参照)だったのですから。そして、現在の二酸化炭素濃度は長い地球史の中で最も低い二酸化炭素濃度にあり、太陽の光度は一貫して増大し続けているのですから。
 つまり、現代の氷河時代は、太陽光度は中生代よりも更に増している[1.(2)1.図30(a)参照]状況下での、二酸化炭素濃度が低い[地球史の中で最低レベル図30(b)]状態であるが故の氷河時代なのです。もちろん、この氷河時代という言い方は、氷期と間氷期が繰り返すアイスハウスアース(氷室地球)の時代を意味します。

 

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(2)凍結地球・氷室地球・灼熱地球

1.初期太陽パラドックス

 まず、注意しておかなければならないのは、核融合反応の研究や恒星進化のシューミレーション技術の進歩により解ってきたことですが、地球が誕生して間もない頃の太陽光度は現在の70%程度だったが、その後徐々に増大してきて現在の光度になったと言うことです(最近の研究では75%程度だった様です)。
 太陽光度が70%程度だと、地球は凍り付いてしまいますが、38億年以上前にすでに海底で堆積した地層(グリーンランドのイスア堆積岩)が存在する事実から少なくとも38年前から液体の水が存在した証拠があります。これは「くらい初期太陽のパラドックス」と呼ばれ、地球史の謎だったのですが、今日では地球が誕生した頃の二酸化炭素濃度は0.1〜10気圧の間くらい有って、その温室効果の為に地表に海が存在できる温度だったと考えられています。
 更に、最近の知見によると、初期太陽の自転速度は現在よりも速く、太陽磁場も強烈で太陽活動は現在よりもはるかに活発で現在よりも強い太陽風を放出していた。その強い太陽風の影響で地球大気には、二酸化炭素よりもはるかに強い温室効果ガスである二酸化窒素が大気中に大量に存在していた。その為に、現在よりもはるかに強い温室効果が存在した可能性がある。このことに付いては4.[補足説明]でもう少し詳しく説明。
 
 さらに、最近の知見に因ると、その二酸化炭素濃度は大陸移動や大規模火山噴火などの地殻変動と海洋との相互作用で二酸化炭素濃度は太陽光度の増大と反比例して減少してきている。そして地球史のほとんどの時代で水が液体で存在する(つまり全凍結したり、全蒸発してしまうような事態にならない)状態で46億年を経過してきたということです。
 このあたりは松井文献(1988年)第6章のp100〜118、第7章のp124〜129と、田近文献(2009年)第2章の第4節p66〜79 などを参照。

 このとき地殻変動に伴う二酸化炭素濃度の増加と海洋の二酸化炭素吸収のバランスが崩れて次項で述べる様なスノボールアースの状況にぶれたり、ホットハウスアースの状況にぶれる時代が生じた。
 もちろん大気中の二酸化炭素濃度の全体的な減少傾向には顕生代に入ってからは地上植物の繁栄もかなり効いた。今日の大気中二酸化濃度変動の季節変化からも解るように地上に繁茂しだした植物の影響はかなりあるでしょう。

 この図で注意して欲しいことは二十数億年前の氷河時代や7〜6億年前の氷河時代における寒冷化は太陽がまだ暗かった時代の氷河時代である事です。そのため二酸化炭素濃度の減少も図の中に書かれている値まで下がれば氷河時代(さらに進すんでスノボールアース)に成った。
 しかし太陽光度が徐々に増加して今日の値になった状況で、二酸化炭素濃度の減少によって、スノボールアースの状態までいく寒冷化が起こるかどうかは解りません
 太陽光度が現在の値まで増加した状態では、おそらく二酸化炭素濃度が氷期の値である190ppmよりも更に下がっても全地球が凍結するまでいかないでしょう。それが新生代の氷河時代の特徴かも知れない。つまり、二酸化炭素濃度が下がってもミランコビッチ・フォーシングによる間氷期と氷期の繰り返しに留まる。
 これが、ミランコビッチ・サイクルの今日的な意義です。


 上記グラフ中の太陽光度が一貫して増大している理由は松井文献p115〜116を参照。

 上図中の原生代後期における縞状鉄鉱床の生成については、文献3.「凍った地球」p83〜84参照。

 

2.地球気候状態の三つのステージ

 今日同位体元素の分析技術や放射性元素を用いた年代測定技術の獲得・進歩により、地球の歴史46億年間の気候変動の様子がかなり良く解ってきた。
 その最大の成果は、過去の地球に於いて何百万年〜何億年もの時間スケールで続く三つの気候状況が存在したことが解ってきた事です。

 二酸化炭素濃度が極端に減少して温室効果が減少して全地球が凍結したスノーボールアース(凍結地球)の時代。

 “スノボールアースの時代”は原生代前期(約22億年前)と原生代後期(7〜6億年前)にあった。原生代後期のものは少なくとも2回、ことによると4回程度あった。このことに付いては文献3.のp80〜93を参照。
 原生代初期のスノボールアースの時代を発見したのはJoseph L.Kirschvinkです。また、原生代前期と後期のスノボールアースの時代には、超大陸は赤道地方にあった。このことがスノボールアースの時代が生じる大きな原因であったかも知れない。このことに付いては文献8.のp268〜276や、文献3.のp132〜150などを参照。
 上図中の氷河時代の部分が次の“アイスハウスアースの時代”です。何も記されていない時代が“ホットハウスアースの時代”です。

 二酸化炭素濃度は比較的低く、大陸(地上)のどこか(極地方と高山)にいつも氷河・氷床が存在しているアイスハウスアース(氷室地球)の時代。
 下図は新生代の第四期における状況の模式図です。[拡大図

 新生代アイスハウスアースでは、間氷期にもグリーランドの北半分には大陸氷床が残ります。グリーンランドの緯度が特に高く北極に近いからです。南極大陸は高緯度である事と、オーシャンゲートウェイ効果で低緯度と切り離されているため、間氷期、氷期とも大陸氷床が存在し続けます。、
 間氷期と氷期の間の100mを超える海面変動は主に北半球高緯度のカナダ(ローレンタイド氷床)とスカンジナビア・バルト・ソ連北西部(フェノスカンディア氷床)に発達する大陸氷床の拡大と消滅によります。
 つまり、新生代(第四紀)氷河時代は北半球高緯度(北緯65度当たり)の氷床・氷河の発達縮小(その事によるアルベード値の変化)による寒冷化と温暖化が特徴です。北半球高緯度がその様に気候変動の主要なリード役をすることになったのは、新生代における大陸と海洋の分布に原因があります
 そのときミランコビッチフォーシングがそのアルベード値の変動をを司る事となった。
 
 注意して欲しいことは、アイスハウスアースの時代にはどちらかというと、高緯度に大陸が分布していたようなのですが、大陸の分布状況が異なる古生代や原生代、太古代に於ける“アイスハウスアース時代”の氷床分布は(当然のことですが)上記とは異なります。
 また、そのとき、ミランコビッチフォーシングがどのように機能していたかはまだ解っていません。ただし、古生代末期(石炭紀)のアイスハウスアース時代にはミランコビッチフォーシングが働いていた証拠はある様です。

 二酸化炭素濃度が高く温室効果による温暖化が進み地球全体が暖かくなり地上に氷河・氷床が完全になり海水面が上昇したホットハウスアース(灼熱地球)の時代。
 顕生代前半(古生代の前半)と中生代の二酸化炭素濃度が高かった高温期には氷床は消滅していたと考えられています。例えば白亜紀中頃の地球全体の平均気温は現在より6〜14度くらい高かった。ただし赤道と極との温度差は17〜26度程度でアイスハウスアース時代(現在は41度)よりも小さい。
 もちろん、極地方に氷床が発達できるかどうかは大陸が極地方に位置していたかどうかも関係しますから、二酸化炭素濃度やそれに伴う温室効果の程度のみで決まるわけではありません。

 つまり、この“三つの気候状態”があることが解ってきて、現在は“アイスハウスアース(氷室地球)”の時代にあるということです。
 それら三つの気候状態が移り変わる最大の原因は二酸化炭素濃度の増減による温室効果(別稿を参照)の変動だと言うことも解ってきた。これは、今日の地球科学研究者のほぼ一致した見解です。

 そのとき、その二酸化炭素濃度の変動を引き起こした原因が何かということですが、それはプレートテクトニクスによる“大陸の大規模な移動”や地球内部からの“大規模な火山活動”などが考えられています。

 その詳細については今なお様々な原因・メカニズケが提案されており、確立した定説で完全に説明できる状況に至っていませんが、それらの大規模な地殻変動で、前記の何億年にもわたる巨大時間スケールでの気候変動が説明できるだろうという事は今日の地球科学研究者のほぼ一致した見解です。
 つまり、太陽活動の一時的な増減や、地球に降り注ぐ宇宙線の増減や、小惑星天体の衝突などの外的要因では無いと言うことです。
 この当たりにつきましては、参考文献1.の「気候変動論」第5章や、別稿で紹介した「大気の進化46億年」「地球46億年気候大変動」第1〜5章などをご覧下さい。

 いずれにしましても、ここで一番大事なことは46億年の地球史の中で、太陽光度は一貫して増大しており、地球大気中の二酸化炭素濃度は一貫して減少してきていることです。その為、地球史の初期段階から水は液体状態で存在し続けてきた
 地球史の中での大規模な陸地の風化・浸食作用に伴う陽イオンの生成による炭酸水素イオンの固定化や生物による二酸化炭素の固定等々により大気中の二酸化炭素濃度は一貫して減少し続けています。
 その中で二酸化炭素濃度は一時的に活発化した地殻変動や火山活動により増大したり、温暖化により活発化した気象状況により増大した風化・浸食作用などにより一時的に二酸化炭素濃度が減少したりすることで生じる温室効果の増加・減少て前述の三つの状態の間を揺れ動く。
 特に、1.(2)1.図30グラフ(a)グラフ(b)の関係は重要です。グラフ(b)の下側の点線は温室効果が減少して地球全体が凍結する二酸化炭素濃度の下限値を示しています。その下限値はグラフ(a)に示す太陽の明るさの増大と表裏一体となって次第に減少してきている。
 二酸化炭素濃度がその下限値まで下がったときに全地球凍結が生じる。全地球凍結すると二酸化炭素の減少メカニズム(気象現象による大陸岩石の風化・浸食作用と生物の光合成作用)は働かなくなり、火山活動による二酸化炭素濃度の増大のみが続く事になります。そしてやがて全地球凍結は解消されてホットハウスアースの状態になります。この当たりは、スノボールアースの解説書をご覧下さい。
 ホットハウスアース状態になると、水の蒸発も盛んになり、全体的に激しい気象状況となり、大陸の風化・浸食も活発となり、二酸化炭素の海洋への吸収と固定は盛んになるので、二酸化炭素濃度が無制限に増大することは無く、やがて減少に転じます。
 全地球凍結といった事態を時々生じながら一貫して二酸化炭素濃度は減少し続けてきました。そして現在は、二酸化炭素濃度が零となって二酸化炭素による温室効果(もちろん水蒸気による温室効果は存在する)が無くなっても、全地球凍結に至ることは無いほど太陽の明るさは増大しています。グラフ(a)とグラフ(b)の関係はその事を表しています。
 
 地球は少しずつですが、地球内部に於ける放射性元素の崩壊による発熱も弱まってきており、全体的に冷えてきています。地殻の変動、プレートテクトニクスに於けるプレートの移動速度も遅くなり、火山活動も弱まってきています。
 現在は地球史の中でおそらく二酸化炭素濃度が最も下がった状態であり、太陽光度が最も大きくなった(今後さらに増大する)状況です。

 
 過去(特に原生代)に生じた氷河時代は太陽光度がまだ弱い時代に、二酸化炭素濃度のそれなりの減少で生じた氷河時代(全地球凍結を含む)です。だから氷河時代に在っても二酸化炭素濃度はかなり高く、二酸化炭素濃度の減少が氷河時代の開始を主導していた
 ところが、現在の氷河時代は過去に何度も生じた氷河時代(全地球凍結を含む)とは本質的に異なる。第四紀の氷河時代は二酸化炭素濃度が極限まで下がった状況での氷河時代です。だから、間氷期から氷期への移行は二酸化炭素濃度の減少ではなくミランコビッチフォーシングが主導している。すなわち、第四紀の氷河時代は、おそらくミランコビッチフォーシングが最も効率よく働いて氷期と間氷期の繰り返しを司っている氷河時代だろう

 

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(3)新生代に入ってからの寒冷化

.新生代に入ってからの二酸化炭素濃度の減少

 問題は新生代に入ってからのアイスハウスアース(氷室地球)の気候状況を生み出すことになった二酸化炭素濃度の減少が何故生じたのかです。これは、中生代全般に於いて高かった二酸化炭素濃度が何故減少したのかということです。
 大方の予想は、大陸移動によって生じた大規模な造山運動によって生じた大山脈(ヒマラヤ山脈、アルプス山脈、ロッキー山脈)などの風化・浸食作用により生じた海中の陽イオンの増大だろうと言うことです。それらの陽イオンによる炭酸水素イオンの中和による炭酸塩形成にともなう大気中二酸化濃度の減少だと考えられています。
 特にインド大陸とアジア大陸が衝突して生じたヒマラヤ・チベット山脈の形成と新生代の寒冷化(二酸化炭素濃度の減少)との関連を提唱したレイモ達の説は有名です。
 さらに、最近の説としてJagoutz [ヤゴウツ] が提出(2016年)した「海洋地殻起源のオフィオライトという岩石が地表に出て風化されことにより、二酸化炭素濃度が減少した。」があります。
 これらの説は参考文献3.第6章で詳しく説明されています。

 その様にして生じた二酸化炭素濃度の減少に伴う温室効果の減少に加えて、以下の様な状況が大陸移動によって生じた。

 

.オーシャン・ゲートウェイ仮説

 南極大陸がオーストラリア大陸と南米大陸から切り離され南極域に孤立し、大陸を取り巻く周南極海流が形成された。そのため、新生代(特に第四紀)に入ってからの二酸化炭素濃度の減少による寒冷化に伴って、南極大陸に氷河期と間氷期の違いに拘わらず南極大陸には巨大な氷床が存在し続ける状況が生じた。この事の詳細は文献4.の第6章をご覧下さい。
 3600万年前頃に、大陸の移動によって孤立した南極大陸のまわりを巡る環南極海流が成立した。低緯度地方に戻らないこの海流システムは、地球の強力な冷却機関となった。そこで生産された冷たく重い海水は海洋の深層に徐々に入り込み、それまでの暖かい高い塩分濃度の深層水と置き換わっていった(文献1.p208)。
 このことに因る寒冷化はミランコビッチフォーシングが有効に働き始める原動力になったはずです。

 このことが、第2章、資料1、4.2の(g)“多重平衡との関連”の中の“氷床の多重平衡”に効いてきます。

 

.北半球高緯度への大陸分布

 新生代になってから、大陸に囲まれて(更にパナマ陸橋の成立(300万年前頃)により)南北に連なる大洋が成立した。そして北半球の中緯度から高緯度にかけて広大な大陸地形が構成された。さらに、貿易風や偏西風により駆動され大陸の東側を北上するメキシコ湾流と黒潮という巨大暖流が機能し始めた(吹送流の西岸強化参照)。
 このことが、ミランコビッチ・サイクルで条件が整ったときに、カナダ、グリーンランドとスカンジナビア、北ロシアに巨大な氷床を発達せしめる要因となった。
(この当たりの詳細は、増田文献p67などを参照。)
 ミランコビッチサイクルに伴う日射量変動と北半球高緯度に位置する大陸に現れる氷床の面積の増減に伴うアルベード値の変動がリンクして、寒期と温暖期の変動の主原因となる。

 このことが、第2章、資料1、4.2の(g)“多重平衡との関連”の中の“雪氷アルベドフィードバックによる多重平衡”と前記の“氷床の多重平衡”に効いてきます。

 (補足すると、古生代石炭紀の氷河時代のミランコビッチフォーシングは、南極域に位置したゴンドワナ大陸氷床の増減に関係する南半球の夏が遠日点へ回帰するサイクルが主導した可能性が高い。)

 

.海洋熱塩循環

 新生代に於ける大陸と海洋の分布から大規模な熱塩深海海流が働き出した。この詳細については、文献2.の第8章文献4.の第9章をご覧下さい。
 ここで注意して欲しい事は、低温の深層水が生成されることに大きく影響するのは周南極海流と北半球高緯度域の北大西洋です。そのとき、北半球高緯度域はミランコビッチフォーシングの影響を最も受ける領域です。北大西洋高緯度で生成される低温・高塩分深層水は、氷期の開始を主導する高緯度の寒冷化を全地球規模へ広げる働きをする。

 このことが、第2章、資料1、4.2の(g)“多重平衡との関連”の中の“海洋深層循環の多重平衡”に効いてきます。

 新生代の氷河時代の特徴は(3)1.で述べた様に二酸化炭素濃度が地球史の中でも最低レベルまで減少したことです。それと、新生代における特徴的な海陸の分布によって上記(3)2.3.4.のメカニズムが生み出されたことです。。
 それ故に夏の北半球高緯度(65度付近)の日射量変化を生み出すミランコビッチサイクルが氷期と間氷期の変動を司り始めた資料2.のエピローグ参照。

 

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(4)ミランコビッチフォーシング

.ミランコビッチサイクルに付いての基本的な確認

 我々素人がミランコビッチ説で感じる最も大きな疑問は、その中に説明されている[地球公転軌道の僅かな離心率変化]、[地軸の傾きの僅かな変化]、[歳差運動と近日点移動に伴う北半球の夏至の遠日点への回帰周期]で本当に氷期と間氷期の変動を生み出すのかと言うことです。

  1.  別稿で“離心率変化”に伴う軌道半径の違いと木星の衛星イオの発熱を説明した。そのとき、ごく僅かの軌道半径の変動がイオの発熱に大きく影響することに驚いた事があります。 
     太陽と地球の距離は、現在の離心率0.017のとき年間に3%変化します。太陽から受け取るエネルギー量は距離の二乗に関係しますから7%の違いを生じる(ハビタブルゾーン)。これは驚くべき違いです。
     「チェンジングブルー」p85の図4-3(a)は過去60万年にわたって厳密に計算された地球公転軌道の離心率の変化を示している。離心率は22万年前に最も大きく0.049で、37万年前に最も小さく0.005です。離心率が最大のときには現在よりも遠日点での日射量の減少は上記の7%よりさらに少なくなります。
     もちろん、1年を平均した総日射量についての変化幅は小さく、離心率が最大値のときと最小値のときの差は0.1%しかありません。しかし、次に述べる地軸の歳差と関連することで上記のエネルギー量の差が効いてきます。
     実際の所、最近60万年のミランコビッチサイクルでは、離心率の変動周期が一番効いている可能性がある。資料1.p132図4.10の(d)の最右図参照。
  2.  公転面に対する“地軸の傾きの変化”「チェンジングブルー」p85の図4-3(c)に示されている様に、約4万年の周期で22.1°〜24.5°の間を変動します。この様に地軸が傾いていることが、季節の変化を生み出します。
     現在の傾き23.4°の下での日本の夏と冬の寒暖差(太陽高度の計算)を考えれば解るように、これはかなり効いてきます。このとき、24.5−22.1=2.4°の変動などたいした変化ではないと思われるかも知れませんが、これも次に述べる地軸の歳差運動周期と関連すると大きな意味を持ちます。
  3.  楕円軌道の遠日点が移動する中での地軸の歳差運動。特に“北半球の夏が遠日点で生じる事の回帰周期”が重要です。このことに付いては資料1.のp130[補足説明2]を参照。
     すでに述べたように、北半球で氷床が拡大したり消滅したりすることが第四紀の氷期・間氷期の特徴です。
     氷期に北半球で氷床を発達させるには、北半球の夏を低温にして越年する雪を多くすればよい
     それには、[地球軌道の離心率が大きく][地軸の傾きが小さい、すなわち季節差の小さい]、そして[歳差運動の関係で遠日点(公転軌道上で太陽からもっとも遠い位置)で北半球が夏になる]状況を作り出すことです。
    (ここの詳細は、資料2.p136_137チェンジングブルーp101増田文献p66、等々・・・を参照)
     ミランコビッチ周期の変動でこうした時代が生じる。そういった状況になって、北半球高緯度の氷床・雪原の面積が年々増えていく事態になれば、アルペード値の変化に伴う放射平衡温度の推移(放射平衡を参照)で寒冷化が進んでいき氷期となる。

補足説明1
 第四紀氷河時代の特徴として、雪原(氷床)面積の極大値への移行は段階に徐々に進んでいくが、その最強氷期を過ぎてからの温暖化は急激に起こる。いわゆるノコギリの刃の形のような変化をする資料2.p132図4.10の(b)参照。
 
 これはおそらく、最大氷床期へ進行する当初は北半球夏の日射量の減少から生じる越年雪原(氷床)面積の増加によるのだろうが、その雪原(氷床)面積の増加によるアルベード値の増加から生じる(特に高緯度の)寒冷化(−8℃程度)にもよるのだろう。
 そのときの寒冷化の原因には、アルベード値の増加による有効日射量の減少に加えて、それと共に属的に生じる二酸化炭素濃度の減少(その原因[文献4.第9章や文献2.p264参照]はまだ完全に解明されていませんが)に伴う温室効果の減少(−1℃程度)もあるでしょう。
 
 寒冷化すれば、北半球夏の日射量が少し増えても越年雪原(氷床)面積の増加が可能になる。だから氷期が終わる直前の最大雪原(氷床)面積の(最寒冷)時期には越年雪原の増加が起こる北半球夏の日射量の減少量は、温暖期の気温に於ける日射量よりもかなり少ない減少量(つまり日射量の高い状態)で平衡に達しているはずです。
 だから、最大雪原(氷床)面積の時期の北半球夏の日射量は温暖期の気温に於ける越年雪原の増加が起こる日射量よりもかなり多いはずです。これは、北半球の夏の日射量の最大減少時期と実際の雪原(氷床)面積の最大時期とのタイムラグの原因となる(特に10万年周期の非線形性の原因となり得る。また石炭紀に於ける氷河時代で10万年周期よりも40万年周期が顕著に表れた理由となり得る。)。そのため一旦雪原(氷床)面積の減少が始まればアルベード値の減少によるフィードバック効果が強烈に効くことになり、一気に温暖化が進むことになる。
 
 これは、スノボールアースの最終段階で急激な温暖化が起こるメカニズムと、ある意味似ています。スノボールアースの最終段階では、高濃度の二酸化炭素が存在するのですが、高アルベード値(0.84)故の(反射を差し引いた)有効日射量の減少のために高濃度二酸化炭素による温室効果が押さえられているのと同じです。つまりスノボールアースの最終段階の二酸化炭素濃度は、普段の地球のアルベード値(0.3)では本来強烈な温室効果が生じる二酸化炭素濃度なのです。
 だから一旦雪原(氷床)の融解が始まり、アルベード値の減少が始まればその高い二酸化炭素濃度故に急激な温暖化が進み一気にホットハウスアースの状態になる。それと似たようなメカニズムが働くと言うことです。

補足説明2
 氷河時代に於ける寒冷化と温暖化が《ノコギリの刃の形の様な変化》をする原因として、前記[補足説明1]で説明したメカニズム以外に、“ハインリッヒ・イベント”“ダンスガード・オシュガー・サイクル”なども関与していると考えられている。
 この二つのイベントについては参考文献4.第10章(残念ながら本稿には引用していません)が詳しいので、ご覧下さい。
 それがどのようにしてノコギリの刃の形の様な変化に関与するかについては、参考文献9.p87〜91をご覧下さい。
 
 更に、ミランコビッチ・フォーシングによる寒冷化に伴って生じる二酸化炭素濃度の減少これは寒冷化の主要因ではないとされているが上記の《ノコギリの刃の形の様な変化》の原因となり得ます。寒冷化に伴って温室効果の減衰が更に強化されるからです。
 寒冷化に伴う二酸化炭素濃度の減少メカニズムについては参考文献4.第9章(残念ながら本稿に引用していません)で詳しく説明されていますのでご覧下さい。そのメカニズムの幾つかの簡単な紹介は文献2.p264に有ります。ただし、いずれの文献でも、寒冷化に伴って何故二酸化炭素濃度が減少するのか、そのメカニズムが完全解明されているわけではないと記されています。

補足説明3
 新生代に入ってからの氷河時代では、ミランコビッチ・フォーシングによって始まった寒冷化がいつまでも続き最終的に全地球凍結まで至るわけではありません。ある程度寒冷化したらそこで終わりで、その後に急激な温暖化始まります。
 寒冷化の打ち止めと、急激な温暖化は、前記[補足説明1]で説明したメカニズムが最大の要因ですが、それ以外にいろいろ考えられます。

 その幾つかが参考文献9.p85〜87に書かれています。
 まず、《寒冷化の打ち止めのメカニズム》としては以下の事が上げられる。
 氷床が生長するには、気温が低くて降水量が多い季候でなければならない。しかし、氷床が発達すると、空気と水の循環が変化し、暖かい表層水が北に到達しなくなり、氷床の形成に必要な水蒸気の供給が減少します。寒冷化した氷期には大気は乾燥すると考えられています。南極大陸の湿度は非常に低く乾燥した世界であることは有名な話です。水蒸気の供給のストップは氷床の生長を自ら止めてしまうことになる。
 ただし、原生代前期と後期に生じた全地球凍結(スノボールアース)イベントの様に、太陽光度が弱く、二酸化炭素濃度が高い状態で生じた寒冷化ならば、すでに説明した様に全地球凍結まで進むことも起こりえます。
 
 次に、《温暖化が急激に進むメカニズム》としては以下の事が上げられる。
 温暖化が開始されて一旦氷床が溶け始めると、世界的に降水量が増え、海の循環が変化し、大気中への二酸化炭素とメタンの放出が強化される。それに伴う温室効果の強化が温暖化を更に早める。
 また温暖化により海水面が上昇を始めると、沿岸部まで進出していた氷床と海との接触が強化され、海水による氷床の融解が始まり氷床の消失がさらに早まる。海水は最も冷たくても−1.8℃で、氷床基盤部の−30℃よりも遙かに暖かい。氷床の融解はさらなる海水面の上昇を引き起こし、氷床の融解を更に早める。
 
 
 以上の様に、ミランコビッチ・フォーシングに伴って様々な従属的・付帯的現象が引き起こされる。そして、それらの現象が、氷河時代の寒暖変化に、ノコギリの刃の形の様な非線形の変化を生み出すと考えられています。
 この様にミランコビッチ・フォーシングに付随して様々な現象が生じます。そのため1.(6)の2.に記します様に、ミランコビッチ・フォーシングが効かなくなったときに、どのような気候変動が生じるかを見通すのは非常に難しい。
 その見通せない所が、多くの気候学者が今日の温暖化に関して懸念している事ではないでしょうか?そのことに付いては文献4.のエピローグを引用した次節(5)をご覧下さい。

 

.ミランコビッチフォーシング

 今日の二酸化炭素濃度は、46億年の地球史の中で、最も低い状態です。そのため、氷河期に於ける二酸化炭素濃度減少は従属的なものだろうと考えられています(「チェンジングブルー」p263〜264参照)。
 氷河期の二酸化炭素李濃度の違いによる温室効果による平均気温変動は1℃程度だから、氷河期の平均気温低下8℃程度はミランコビッチサイクルの変動に伴う氷河・氷床の増大によるアルベード値(氷床面の高度変化もある)の変化以外には考えられません。今日の気候研究者は、気温の変動に最も効いたのは氷河・氷床面積(氷床面の高度変化もある)の増減に伴うアルベード値の変化と考えている。

 第四紀の気候変動は、低い二酸化炭素濃度の状態でのミランコビッチ・サイクルによる夏の北半球高緯度(北緯65度付近)の日射量変化に依存して生じる。二酸化炭素の濃度がある程度低くて地球の高緯度地方や、高い山岳地帯の氷河・氷床が存在する状況においてのみ、そのアルベード値の変動にミランコビッチサイクルは影響を与えることができる。
 特に北半球高緯度に於ける日照変化と氷河・氷床の反射率(アルベド)が旨く相互作用する。そのため寒冷化が起こると大洋の二酸化炭素吸収率が増大し寒冷化と共に二酸化炭素濃度の減少が生じる。
(このことについては参考文献4.第9章参照。ただし、このメカニズムはまだ完全には解明されてはいない。)
 その様にして寒冷化し二酸化炭素濃度の減少が生じた低二酸化炭素濃度状態でもミランコビッチサイクルの変動により、北半球が夏のときの日射量の増加が起これば氷河・氷床の反射率(アルベド)の減少が起こる。そうすればアルベード値変化のフィードバック効果が逆に働いて、その低い二酸化炭素濃度でも、温暖期(間氷期)への回復が始まる。ここは前項の[補足説明1]〜[補足説明3]に留意されたし。

 ここら当たりを正しく理解するには、資料1.の該当箇所4.4〜4.5節の説明に引用されている原論文を読むしかない。しかし、私どもは原論文を持っていませんし、読んでもいません。そのため、資料1.の結論を利用させて頂いています

 

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(5)未来の気候

 現在のペースで増え続ける二酸化炭素濃度の状況でミランコビッチ・サイクルが果たして正常に働くかどうかは解りませんが、未来の気候予測に関して文献4.横山祐典著「地球46億年気候大変動」講談社ブルーバックス(2018年刊)のエピローグをそのまま引用。


320_321  下図の[北緯65度の夏の日射量][北半球の氷床量]のグラフの意味については文献2.のp85資料1.のp132などを参照。


 今までは、ある程度の二酸化炭素濃度の変動を乗り越えてミランコビッチサイクルは機能してきた。だが間氷期の二酸化炭素濃度が最も高い状況下でさらなる二酸化炭素濃度の急激な上昇が起こっている。問題は、現在の二酸化炭素濃度の上昇により更に温暖化した状況でミランコビッチフォーシングが働くかどうかです。これが、今日の多くの気候・惑星科学研究者を懸念させていることです。
 今までは、ミランコビッチサイクルで最も温暖化したときでも、南極の氷床はもちろん残っていましたし、グリーンランド氷床も半分程度は残っていました。そして山岳地帯の氷河・雪渓もかなりの量が残っていました。
 しかし、今日の急激な二酸化炭素増大(410-280)=130ppmに伴う温暖化はそういった過去の温暖期(間氷期)における氷河・氷床の残存割合を超えて更に減少が進むのではないかと懸念されています。もしそうなったらアイスハウスアース(氷室地球)だからこそ、また、地球史の中で最も低くなった二酸化炭素濃度だからこそ、成り立っていたミランコビッチフォーシングのメカニズムが機能し無くなり、中生代の様なホットハウスアース(灼熱地球)の状況に移行するかも知れません。

 今日の氷河時代は、46億年の地球気候史の中でミランコビッチサイクルが旨く働いて寒期と温暖期を往復できるアイスハウスアース(氷室地球)の状態が実現できる最後の氷河時代かも知れません。現在の氷期と間氷期の間の二酸化炭素濃度の変動(280-190)=90ppmはミランコビッチサイクルによる寒暖変化に従属的に起こる。また、そのように従属的に起こる現在の二酸化炭素濃度の変化幅ならば、たとえ寒冷化により二酸化炭素濃度が190ppm程度まで減少してもミランコビッチサイクルのメカニズムにより温暖化が回復できる。ここは1.(4)2.[補足説明1]参照。
 それは、現在の氷河時代が極限まで二酸化炭素濃度が減少して二酸化炭素による温室効果(水蒸気による温室効果は今後も続く)が完全になくなっても全地球凍結に至ることはない時代にいるからでしょう。
 今後増大する太陽光度のために、未来の地球はアイスハウスアース(氷室地球)の状態からホットハウスアース(灼熱地球)の状態に移行することは確実ですが、今という時代は地球が“アイスハウスアース”の状態でいられる最後の期間かも知れません。

 氷河期と間氷期が繰り返されるアイスハウスアース(氷室地球)の時代よりもホットハウスアース(灼熱地球)の時代の方が良いのかどうかは解りません。もちろんそうなるとアイスハウスアース(氷室地球)時代の人類の大半が生活している沿岸部の都市や耕作地は水没してしまうでしょう。また、全般的な気象現象は現在よりも激烈なものに成るでしょう。大陸沿岸国では高頻度で発生する巨大台風、巨大竜巻の襲来や集中豪雨の多発に悩まされ、大陸内陸部の国では砂嵐や大干ばつや乾季の大規模森林火災などが生じるでしょう[2008年7月8日読売新聞]。そのような高温大気が支配する地球で人類が生き残れるのかどうか解りません。
 
 あるいは、アイスハウスアース(氷室地球)時代の地球ではやがて訪れるであろう氷河期に、海水面が低下(北半球大陸の高緯度部分の大半が氷床に覆われる最盛期には約120m程度低下する)して、現在の沿岸部の港湾施設はすべて使えなくなります。そうなれば、新たに現れた大陸棚地表へ進出せざるを得なくなるでしょう。そちらの氷河期ならば、おそらく人類は生き残れるでしょう。しかし、そちらの方が良いのかどうか解りません。
 
 とにかく文明化された人類はここ1万数千年のミランコビッチサイクルの温暖期(間氷期)しか体験していないのですから。
 私は現在70歳です。私の父は92歳まで生きました。私の住んでいる田舎には100歳近くの方は何人もおられます。1000年と言っても100年の10倍、1万年と言っても100年の100倍でしかないのです。1万年は人の寿命の100倍程度なのです。明治維新(1868年)と言っても150年前の事ですから私の父の生きた年齢の2倍に満たない過去です。
 40年前の文献5.で予告されていた事が生じるのは(当時の私は)遙か先の事だろうと思っていました。しかし、今それが現実になりつつあります。
 文献5.を著した John Imbrie は2016年に90歳で他界しましたが、天国で地球気候の行く末を案じているかもしれません。

 

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(6)ミランコビッチ・サイクルの今日的な意義

 いままで説明したことから、“ミランコビッチ・サイクルの今日的な意義”は以下の2点に集約されると思います。

1.地球史の中で最低状態にある二酸化炭素濃度の下で、ミランコビッチ・フォーシングが第四紀の気候変動を主導してきたことがますます確実になってきたこと。
 
2.人類活動の為にここ100年で(氷期・間氷期の変動幅を超えて)増大してきた二酸化炭素濃度が、そのミランコビッチ・フォーシングにどの程度影響を与えるかが重要な問題になってきたこと。

 
 

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2.資料1  岩波講座地球惑星科学11 「気候変動論」第4章(1994年)

 私にとって『気象』、『気候変動』、『氷河時代』、『スノーボールアース』、等々・・・は興味深い分野でしたので、そういった題名の付いた本は結構(100冊くらい)読みました。でもその中で一番の本はインブリー著「氷河時代の謎をとく」(1982年刊)3.資料2でその一部を紹介)だと思います。しかし、3.(4)で説明するように、この本の第U部後半はかなり難しいです。私は、最初(35年前)にそこを読んだとき、その内容が良く理解できませんでした。

 その後、授業で地学を教えなければならなくなった頃、本章で紹介する文献1.(1996年刊)を読みました。特にこの本の第4章第5章は授業で地球の気候史を教えるとき拠り所とした本です。
 この本は、当時までの研究成果を専門家向けにまとめた概論書です。個々の内容については簡潔な説明しか有りませんので理解するのは極めて難しい専門家が各章末に引用されている文献を読まれるときのガイドブックの様な本です

 ところで、最近10年くらいの間に、気候変動について4.参考文献に上げる様々な解説書が刊行されました。私は、それらを読むことで、文献1.の内容がようやく理解できるようになりました。私自身の整理・復習もかねて、第4章だけですが、ここに引用・紹介します。
 これは本稿第1章での考察の基礎資料です。

 

)第4章 第四紀の気候変動 のindex

 4.1 研究の手段
    (a)古気候指標
    (b)年代の意義
    (c)数値も出るの意義
 
 4.2 氷期の世界像
    (a)全球えよび中高緯度の特徴
    (b)熱帯の温度の謎
    (c)大気成分
    (d)海洋の循環
    (e)大気循環、水循環
    (f)LGM期と現在の温度の差の説明
    (g)多重平衡との関連
 
 4.3 氷期・間氷期サイクルの時系列
    (a)第四紀への移行
    (b)第四紀前半と後半の特徴
    (c)氷期・間氷期サイクルの特徴
 
 4.4 ミランコビッチフォーシング
    (1)離心率eの効果
    (2)近日点黄渓ωの効果
    (3)地軸の傾きεの効果
 
 4.5 ミランコビッチフォーシングへの応答としての氷期・間氷期サイクル
    (a)2万年、4万年周期帯の線形応答
    (b)10万年周期の原因論
    (c)氷床モデルによる考察
    (d)海洋とCO2のプロセス
 
 4.6 氷期から間氷期への遷移
    (a)氷床の融解と深層循環の変化
    (b)新ドリアス事件
    (c)完新世の温暖期
 
 4.7 数十年から数千年の土管スケール変化
    (a)氷期中の変動:ダンスガード−エシガー振動とハインリッヒ事件
    (b)1つ前の間氷期(ステージ5e)の変動
 
 4.8 おわりに
    まとめ
 
 4章の参考文献

 

)第4章   indexに帰る


104   indexに帰る


以下の説明に関しては参考文献2.〜5.を参照されたし。


レイリー型の理論という言い方も解りにくい所です。参考文献2.のp50をご覧下さい。



109   indexに帰る




113   indexに帰る

114-01   indexに帰る






上記の平均海面水温の温度差が−2.3℃であることと大気中のCO2濃度差が190ppm←→280ppmであることに注目。
117-01   indexに帰る

117-02   indexに帰る

117-03   indexに帰る



NADWの詳細については参考文献2.の第8章、あるいは文献4.の第9章をご覧下さい。
119-01   indexに帰る


120-01   indexに帰る




 ここは参考文献4.の第9章をご覧下さい。
122-00   indexに帰る

下記の“アルベードフィードバック”による平衡については別稿[補足説明]を参照

 氷河時代に積み上がった氷床の高さは数千メートルの高さに達する。南極の氷床は現在でもまさにそうです。高度が上がればそれだけで氷雪が存在する場所の気温は下がり、溶けなくなる。

 下記の“海洋深層水循環”については別稿第8章の引用を参照


123   indexに帰る


125-01   indexに帰る


125-03   indexに帰る










128-02   indexに帰る
 以下の部分は、参考文献5.の第8章も参照されたし。



129-03   indexに帰る

補足説明
 実際は40万年程度の大きな周期に10万年程度の周期が重なって生じる。そのため10万年周期の方は40万年周期の中に重なって生じるので10万年周期はある幅のなかで変動する。その変動の中で最近顕著なのは9万5千年と12万5千年です。その為、この効果の波形は、多くの本で紹介されている様に、40万年周期に10万年程度の周期が重ね合わさった“うなりの波形”となる
 
 この当たりは現在の太陽系の全惑星の運行状況を正確に観測して、お互いの影響を過去に遡って計算していかないと正確な状況変化はつかめません。ここで取り上げられている3項目 (1)離心率e、(2)近日点黄経ω、(3)地軸の傾き角ε の変動が過去数百万年前まで遡って計算できるというのも、我々素人には信じがたい驚異的な事です。

129-04   indexに帰る

補足説明1
 補足しますと、地球公転軌道の近日点が太陽の周りを1周するのに約11万2千年程度かかります。この値については別稿第8章の第W表の値を用いれば計算できる。実際に計算してみると

となります。最近の計算(Wikipedia)によるとこれよりも少し長くて11万3千年程度になるようですが。

補足説明2
 この近日点移動と地軸の歳差運動の相互作用がここで説明されている事です。つまり11万2千年の大きな周期に歳差周期2万5千8百年が重なって生じる。歳差運動は近日点移動と逆向きのため、例えば夏至(冬至)が近日点付近に巡ってくる周期[これは夏至(冬至)が遠日点付近に巡ってくる周期でもある]は2万5千8百年年よりも短くなります。

 そのため2万1千年付近を前後に変動する。その中で、近年顕著なのは1万9千年、2万2千年、2万4千年周期などです。これらの変動は離心率も変化することに伴って生じる変動ですから上記の三つに固定されているわけではなくて、様々に変動します。
 図4.9(b)の23ka帯の波形が近日点移動周期11万3千年と歳差周期2万1千年を重ね合わせた場合に生じる“うなりの波形”となるのもこのためです。


130-03   indexに帰る

 この効果は4万1千年程度の周期で変動します。


132-01

 今日、底生有孔虫の酸素同位対比は氷床量の増減に対応すると考えられている。つまり(d)のグラフは氷床量の増減を表している実際の観測値と言うことです。
132-01-01  ここは重要です。原論文を当たって理解することが必要なのでしょう。

 上図4.9の意味は解り難い。参考文献2.p106〜117をご覧下さい。また、そこで説明されている様に位相の遅れを伴う非線形効果も生じる。増田文献p130の説明も解りやすいかも知れません。
 要するに、重ね合わせる元の波形が単純な波形では無いので、数学で習うフーリエ分解により、各成分のスペクトル強度を求めるわけにはいかない事を説明している。
 このとき、上図左側のグラフ資料2図24“北緯65°ミランコビッチ放射曲線”あるいはこちらのグラフに対応する。さらにこちらのグラフも参照されたし。
 一方、三つの周数帯に適当な増幅率を乗じて重ね合わせると右側のグラフの様に、過去の現実の気候変動(氷床量の増減)に一致させることができる。今日、底生有孔虫の酸素同位対比は氷床量の増減に対応すると考えられている。(a)のグラフに比べて(d)のグラフが10万年周期の効果が卓越して見えるのは、おそらく1.(4)1.[補足説明1]で説明した効果によるのだろう。

 ここで注意して欲しい事は、重ね合わせる元の波形が時代と共に変化しているのですから、60万年ごとに区切った場合の、各時代区分ごとのパワースペクトル波形が変化していくのは当然であることです。
133-01   indexに帰る







135   indexに帰る


136-02   indexに帰る




138-02   indexに帰る


139-02   indexに帰る




142-02   indexに帰る



143-02   indexに帰る



144-02   indexに帰る





146-04   indexに帰る


147-02   indexに帰る


148-02   indexに帰る



149   indexに帰る







   indexに帰る

 

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3.資料2  J・インブリー、K・P・インブリー共著 「氷河時代の謎をとく」(1979年)

 J・インブリー、K・P・インブリー共著「氷河時代の謎をとく」岩波書店(1982年刊)から引用。
インブリー達がミランコピッチ説を検証・復活させた有名な論文を出したのは1976年です。この本の原本はそのすぐ後の1979年に出版されています。ただし邦訳版(岩波書店)は1982年刊です。

(1)index

 プロローグ 忘れられた氷河時代
 
 第T部 氷河時代の発見
    1.ルイ・アガシーと氷河説
    2.氷河説の勝利
    3.氷河時代の世界を探る
 
 第U部 氷河時代を解明する
    4.氷河時代問題
    5.天文学説の誕生
    6.ジェームス・クロールの天文学説
    7.クロール説をめぐる論争
    8.はるかな昔の遠い世界
    9.ミランコビッチ論争
    10.海と過去
    11.更新世の海水温
    12.ミランコビッチ説の復活
    13.地球からの信号
    14.気候の脈動
    15.氷期のペースメーカー
 
 第V部 未来の氷河時代
    16.来たるべき氷期
    エピローグ 過去10億年の気候

 

(2)第1〜第4章   indexに帰る

 インブリー文献の第1〜3章に、地球史の直近の過去(新生代第4紀)が氷河時代であり、何度も氷期と間氷期が繰り返し存在したことが発見され、その経過が解き明かされていく歴史的な過程が説明されています。そして第4章で氷河時代研究の問題定義がなされています。
 この第四紀氷河時代発見の歴史をここまで解りやすくかつ明快に説明してくれている本は他にありません。この部分は図書館で借りられて是非お読み下さい。

 

)第5〜第8章   indexに帰る

第5〜第8章で、天文学説の誕生とその発展の経過が説明されています。




上記の分点の移動周期については資料1の4.4(2)の[補足説明2]をご覧下さい。

 上記赤線部分の状況をオーシャン・ゲートウェイ仮説と言います。この事の詳細は文献4.の第6章をご覧下さい。
093_094   indexに帰る









112_113   indexに帰る






124_125   indexに帰る


128_129




136_137

138_139




 

)第9〜15章   indexに帰る

 本稿では引用していませんが、インブリー文献で重要なのは第9〜15章ですただし、ここは話の展開が錯綜していて理解するのが難しい所です。私自身最初読んだとき、錯綜した説明に混乱させられ、難しくて良く理解できませんでした。そのため、ここではあえて引用していません。
 
 ミランコビッチ説を検証する為には、過去の正確な気温・水温変化や氷河・氷床量の増減、あるいは海水面の変動などを知る方法を見つけなければいけません。そして、それらの事象を正確な時間系列で並べて各イベントが生じた時間目盛りを決定しなければ成りません
 気候変動イベントを知るのに大きな力を発揮したのが地上及び海中の段丘堆積物や、海底堆積物コア・氷床ボーリングコア中の年代順に積み重なった様々な物質の同位体比分析や二酸化炭素濃度比分析などです。
 一方、年代目盛りを決定するのに威力を発揮したのが放射性炭素年代測定法と地球地磁気逆転年代(松山の業績)です。後で氷床コアや湖底に堆積した年ごとの層序を数えて絶対年代を決めることも可能になるのですが。
 この二つ(事象と年代)を知るための方法の発見があり、それを実行するための技術の発展があります。もちろん各技術の開発初期には様々な誤った思い込みによる間違いや、分析精度の不足があり、その間違の修正や精度の向上が、題材ごとに時間的・場所的に錯綜して生じます。
 それらもつれた糸のように錯綜した研究結果を読み解くのは簡単ではありません。まさに自然科学における様々な発見・発明のオンパレードです(大河内直彦著『地球の履歴書』新潮社2015年刊など参照)。そのため、私は最初読んだとき(35年くらい前)には良く理解できませんでした。
 
 ところが、2008年に出版された「チェンジング・ブルー」を読んだ後で(10年前に)読み直して(二度目)みたら、とても良く理解できたのです。そして、別稿で紹介した「地球46億年気候大変動」第7章を読んだ後で、ごく最近もう一度読み直しました(三度目)。そしたら、さらに良く理解できました。
 この第9〜15章は、上記2冊の文献を参照されながら読まれることを勧めます。ここはどうぞ上記2冊の文献と一緒に図書館で借りて読まれて下さい。

 

)第16章とエピローグ   indexに帰る

第16章エピローグは40年前の記述ですが、今日読み直してみても、ちっとも古くなく本質を突いていると思います。


244_245  下図43図45の状況は文献によりかなり違いがありますので、幾つか引用(引用文1引用文2引用文3)しますので参照して下さい。



250_251



256_257   indexに帰る

258_259   石炭紀ゴンドワナ大陸の配置はこちらを参照。石炭紀のミランコビッチ・サイクルはこちらを参照

 

HOME  今日的な意義)()()()()()  2.資料1  3.資料2  4.参考文献  温室効果と地球温暖化

4.参考文献

 様々な文献を読み直してみて最も強く感じたのは、太陽の光度は太陽系誕生以来一貫して増大し続けており、地球大気の二酸化酸素濃度は(時に多少の変動はありますが)一貫して減少を続けていて新生代第四紀の現在では大気中に二酸化炭素はほとんど無くなっていると言うことです。

 そのため、ミランコビッチ・サイクルの中で氷河・氷床が最大に発達して地表のアルベート値が増大しても、今後は全地球凍結に至ることは無いでしょう。

 そして、地球の最後は、一般的に言われている(太陽が赤色巨星に膨張する)50億年後ではなく、もっと近い将来に生じます。なぜなら、現在の二酸化炭素濃度は最低レベルにありますから、今後太陽光度が増大していったとき、地球大気の温室効果化を減少させるメカニズム(二酸化炭素濃度の減少)がもはや働かないからです。
 そのためおそらくこの先、数千万年(ことによると数百万年)も経たない内に、太陽光度の増大に伴う大気温度の上昇により地球表面は灼熱状態となり、生命は存続できなくなるでしょう。
 地球上の生命の最後が50億年先では無くわずか数千万年(ことによると数百万年)程度先の話だということが、私にとって最も衝撃的でした。

 おそらく高温化により海は蒸発し、増大する大気中の水蒸気は温室効果を更に強め水の蒸発を更に強めます。やがて地表の水のすべてが蒸発します。そして海が無くなれば、火山から排出される二酸化炭素を吸収するものはもはやありませんので大気中の二酸化炭素濃度も増大し続け、それは温室効果をさらに強めます。
 それはかって金星がたどった運命と同じです太陽が暗かった時代には金星も海に覆われていたと考えられている。同じ運命が金星よりも遅れて生じるのは地球が太陽の周りを公転する軌道が金星よりも遠いからにすぎません。地球が金星の様になるのはおそらく数億年以内です。

 もちろん、その段階にいたれば、太陽からの距離が地球よりも遠い軌道を公転している火星が生命存在に適した温度環境になるかもしれませんが、その大気と水の大半をすでに失っている火星がその役割は担うことはないでしょう。
 ちなみに、今日の火星が大気と水の大半を失っているのは、小さいが故に地表重力が弱かったことと、小さいために早い段階で核が冷却固体化したために磁場を失い、太陽風の影響をもろに受けて大気が吹き払われてしまった為と考えられている。
 (補足ですが、太陽風により磁場を失った火星がその大気を剥ぎ取られていったメカニズムに付いての説明が下記NHKコスミックフロントNEXTの2022年6/3放送版でなされていました。)

 いずれにしても、過去に於いて太陽光度が増大し続けて来たのに、地球が灼熱状態にならず生命が存続し得たのは、地球の海が一貫して大気中の二酸化炭素濃度を減少させてくれていたからです[このことはこちらの図をご覧下さい]。
 今日の人類は、地球が自ら果たしてきたその働きをないがしろにしているのかもしれません。

補足説明](2022年6月追記)
 太陽系が誕生した当初の初期太陽は今日の太陽よりも25〜30パーセント程度暗かった事に関する補足です。これは
 NHKコスミックフロントNEXT 2022年5/12放送 “ナゾの巨大爆発スーパーフレア”
 NHKコスミックフロントNEXT 2022年6/3放送 “太陽 vs 地球磁場 天使か?悪魔か?”
からの情報です。
 
 まず、過去の太陽は現在の太陽よりも3割近く暗かった事を最初に指摘したのは、恒星進化を研究していたカール・セーガンですが、太陽のような恒星が時間と共に段々明るくなる理由は以下の為だそうです。
 恒星中心部における核融合反応で水素4個が融合してヘリウム1個が生まれるのですが、核融合反応の進展と共に中心コアのヘリウムの量か増え水素原子の数が減ります。そのため、核融合反応の進展と共に、中心部が押し込まれて温度が少しずつ上がり核融合反応がより活発になり太陽の明るさは少しづつ増している。現在の理論による検証でもこの事実は確認されています。
 
 この暗い太陽にもかかわらず、初期の地球が凍り付いてしまわなかったのは、初期地球大気の二酸化炭素濃度が高いことからくる強力な温室効果のためだと考えられていましたが、今日では、地球が凍り付かなかった理由として更に初期太陽の自転速度が大きかったことが関係していたと考えられる様になった。
 初期太陽の自転速度は現在よりも3倍程度早く、そのため太陽の作る磁場も現在より10〜20倍は強かったと考えられる。その大きな自転速度の為に太陽内部の磁場は強く捩られて、そのとき生じる黒点は巨大で、数も多かった。そのため。その黒点から出る磁力線のつなぎ替えから生ずるフレアの規模も頻度も今日の太陽よりもはるかに大きかった。
 この初期の太陽で頻繁に生じた巨大フレアからの大量の宇宙線に、初期地球はされされていた。この強い宇宙線が地球大気に作用すると一酸化二窒素N2を生み出すと考えられる。この一酸化二窒素は二酸化炭素より約300倍程度強い温室効果を生み出すことが知られていますので、この事も初期地球の温室効果を増大させる事に大きく寄与していた可能性があります。
 
 更に付け加えると、このようにして生じる窒素酸化物は初期地球の大気中に様々なアミノ酸分子も生み出したようで、早い段階からの生命の誕生にも関係している様です。

  1. 岩波講座地球惑星科学11「気候変動論」岩波書店(1996年刊)
     これは私が高校で地学を教えていた頃読みました。特に第4章と第5章は地球の気候史を教えるとき拠り所とした本なのですが、当時の私には難しすぎて良く理解できませんでした。
     ただし、新生代の特に第4紀氷河時代を理解するにはこの本の第4章は重要な文献だと思いますので引用しておきます。引用はしていませんが、第5章も興味深いところです。
     この本の第4章、5章は下記文献2.〜10.と比較しながらご覧いただくと理解が深まると思います。
     ただし、この本はスノボールアースに関する発見(ホフマンの有名な論文が出たのは1998年)についての記述はありません。その意味に於いて少し古い本です。
  2. 大河内直彦著「チェンジング・ブルー(気候変動の謎に迫る)」岩波書店(2008年刊)
     この中のp85p100〜102p106〜117p188〜219p258〜265p312〜329を別ページにて引用。
  3. 田近英一著「大気の進化46億年」技術評論社(2011年刊)
    田近英一著「凍った地球(スノボールアースと生命進化の物語)」新潮社(2009年刊)
     この中のp66〜79p80〜93を別ページにて引用。この中で紹介されているKirschvinkの2ページの論文1992年)。
  4. 横山祐典著「地球46億年気候大変動」講談社ブルーバックス(2018年刊)
     この中のp162〜189p276〜285p316〜324を引用。
  5. J・インブリー、K・P・インブリー共著「氷河時代の謎をとく」岩波書店(1982年刊、原本は1979年刊))
     インブリー達がミランコピッチ説を検証・復活させた有名な論文を出したのは1976年ですが、この本の原本はそのすぐ後の1979年に出版されています。この本の一部分ですが引用しておきます。
  6. 松井孝典著「地球進化論」岩波書店(1988年刊)
     この中からp100〜118p124〜129を別ページにて引用。
  7. 増田富士雄「リズミカルな地球の変動」岩波書店(1993年刊)
     この中からp56〜86p130〜131を別ページにて引用。
  8. ガブリエル・ウォーカー著「スノーボールアース」早川書房(2004年刊、原本は2003年刊)
     これは面白い本です。Walter Brian Harland (1917-2003)、Joseph L.Kirschvink(1953-)、Paul F. Hoffman(1941-) の生き様を通して、Snowball Earth の本質が語られています。この中からp268〜276を引用。
  9. 川上紳一著「全地球凍結」集英社(2003年刊)
     スノボールアース説全般についてとても解りやすく説明されています。中でもWalter Brian Harlandの業績はこの本のp22〜28が解りやすいです。ただし、ミランコビッチ説の検証と同様にスノボールアース説の検証もかなり錯綜していますので、文献3や文献8と対比しながら読まれる事を勧めます。
  10. ブライアン・フェイガン、その他、共著「氷河時代」恣書館(訳本は2011年刊、原本は2009年刊)
     この中の第3章と第4章を別ページで引用していますが、この本は上記文献2.4.5.等々を読まれた後で復習的に読まれた方が良いでしょう。この本にはスノーボールアース発見からの知見の説明がありませんので、氷河時代についての認識は少し古いです。
  11. IPCC report communicator(環境省 2015年作成)
     これは環境省が作成した地球温暖化についての解説pdfファイルです。これはIPCC第5次評価報告書」(2013年〜2014年)の第1作業部会の科学的報告に基づいています。
     元になったIPCC第5次評価報告書(WG1 自然科学的根拠)の環境省による概要説明もあります。さらに気象庁による詳細翻訳版はこちらを参照されたし。
     30年前のIPCC第1次評価報告書(1990年)はこちらのURLで見られます。。
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