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絶対電位計と象限電位計の測定原理

 これらは、帯電した導体間に働く静電気的な力を測定することにより電位差を測定するものです。簡単な構造ですが測定原理は結構難しく、またマクスウェルの応力について興味深い事柄を含んでいる。

1.絶対電位計(absolute electrometer)

 行板コンデンサーに電圧を与えたときの極板間の静電引力はその形状から厳密に計算できるので、静電引力を測定することにより絶対的な電位を決定できる。そのような意味でこの装置を絶対電位計と呼ぶ。(厳密に定義されている質量・距離・時間の関数として表現する事を絶対測定という)

)測定原理

 Kelvinが考案した絶対電位計は二枚の平行板の間の引力を測定するものである。A、C(アース)とB(電気的に浮かしてある)は平行円盤、Cはコンデンサー端部の電場の乱れを避けるための保護環で装置を包む円筒に固定されている。Dは板バネ、Mは分銅である。最初A、B、Cを短絡して同電位にしておき分銅Mを載せた状態で、ネジEによりAとCが同一水平面上にあるように調節する(下図参照)。
 測定はMを取り去った状態(Aは上に引き上げられる)で行う。AC(アースにより零電位)とB(これに測定対象を繋ぐ)の間に電位差Vを与えて、Aが再びCと同一水平面に来るようにネジFを調節してACとBの間隔dを測定する。距離dと電位差の関係をあらかじめ較正したグラフを作っておく。そのグラフと読み取った距離dの値から電位差Vを知る。

実際の形状は下図の様な物である。(Maxwell著"A Treatise on Electricity and Magnetism"より)

使い易く改良された簡易携帯型

 高校物理で習うように、極板間には一様な電場E=V/dが生じ、極板の外側ではE=0である。 また極板に働く引力は別稿「電磁場の応力(マクスウェルの応力)」で述べたように

である。gを重力加速度9.8m/s2とすると極板Aが極板Bに引かれる力はMgであるから

となり、dの読みからAとBの間の電位差Vが測定できる。
 そのとき別項「電磁気学の単位系が難しい理由」で説明したように静電単位系、電磁単位系、ガウス単位系はもともと長さ・質量・時間のみを基本単位として組み立てられた絶対単位系といわれるものですから、その単位系でのε0はそれぞれ静電単位系でε0=1、電磁単位系ではε0=1/c2[s2/cm2](ただしcは光速)、ガウス単位系ではε0=1となり、M、g、Sを直接長さ・質量・時間の単位で直接測定しさえすればVの値を絶対測定できることになる。
 もちろん第4の次元(基本単位)として新たに電流を導入したMKSA単位系においても、ε0=8.85×10-12[F/m]であるとし、空気中で測定する場合は空気の比誘電率εr=1.0006をかけておけば、他はすべてが直接測定可能な量なので絶対的な電位を測定できる。ただし、その場合はε0が非常に小さな値なので、かなり大きな電圧(数百〜数万V)でないと測定は難しい。小さな電位差の測定には2.項で説明する象限電位計が用いられる。

 このように静電気力を利用する電位計では、電位測定時に電位計の充電のために少量の電気を取り出す必要がある。そうすると測定すべき導体の電位は変動する。要するに測定導体に平行版コンデンサーを並列に接続するのと同じことなので、電位の基準点(接地した大地)との容量が変わることになり、静電容量が変わるので電位も変わる。そのため、そのことに伴う誤差には注意しなければらなない。

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(2)平行板コンデンサーのエネルギーと加えた仕事

 次節(3)で必要になるので、ここで高校物理の練習問題を復習しておく。それは平行板コンデンサーの極板間隔を広げるときの仕事量とコンデンサーに蓄えられているエネルギーの関係を求める問題です。その問から、コンデンサーを一定電圧の電源に接続したまま広げる場合と、コンデンサーに電荷を与えた後に電源を切り離して広げる場合ではエネルギー変化が異なることを知ることができる。

.Q=一定で極板間隔を広げる場合

電源V0であらかじめコンデンサーに電気量Q0を充電した後、スイッチを切って極板間隔をxだけ広げる場合。

◎極板間電圧

◎コンデンサーの静電エネルギーの変化分


◎極板にした仕事

となり、極板に対してした仕事分だけコンデンサーの静電エネルギーが増加することが解る。

.V=一定で極板間隔を広げる場合

電源V0に繋いだまま極板間隔をxだけ広げる場合。

◎極板電気量の変化

◎コンデンサーの静電エネルギーの変化分

 電場が存在する領域が増えたにもかかわらず電場のエネルギーが減少するのは、極板電荷が減少して電場強度が減少するからである。電場の存在領域は(d+x)/d倍に、Eはd/(d+x)倍になるが、電場のエネルギー密度はEの2乗で効いてくることに注意。
◎極板にした仕事

 正の仕事を加えたにもかかわらずコンデンサーのエネルギーは減少する。これはコンデンサーに蓄えられた電気量がQ−Q0=ΔQ=−C00x/(d+x)<0だけ減少し、その電荷を電池に返すために、ΔQ×V0=−C002x/(d+x)だけの仕事が電池に対して行われるためである。この値はちょうど−ΔU+ΔWに一致する。このとき、加えた仕事ΔWとコンデンサーのエネルギー変化ΔUは符号は反対であるが絶対値は同じである事に注意。

 Q0=一定かV0=一定かによって、成された仕事量ΔWも極板に加えるべき力F(x)も共にxの増大と共に異なってくる。しかしx→0のとき極板に加えるべき力はどちらの場合も同じである。それは応力を生じる電場の状況がx→0のときには同じだからである。

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(3)静電エネルギーと力

 コンデンサーに蓄えられているエネルギーは

と表される。
 ここで、Q=一定又はV=一定の条件下でUを極板間隔dで偏微分する。つまり前項(2)の1.と2.の状況でdの変化分に対するエネルギーの変化分を求めてみる。

となり、符号を除いて1.(1)の測定原理で求めた力に一致する。Q=一定かV=一定かで符号が逆転したのは力の方向が変わったのではなくて、前節で説明したようにその力による仕事で変化するコンデンサーのエネルギーの変化の方向が逆だったためである。(今はdが増大する方向を正にしている)

 前項(2)の最後で注意したように加えるべき力の方向と大きさはどちらの場合もおなじであったから、その符号さえ注意すればどちらの式を用いてもよい。つまり静電エネルギーのある座標に関する偏微分値はその座標に関係した力を意味すると考えて良い。
 電荷が一定に保たれている場合は、力は電界のエネルギー(コンデンサーのエネルギー)の減少する割合に等しく、そのエネルギーの減少が生じる方向に働く。(電界が絶縁されていて他からエネルギー供給を受けていないのでエネルギー保存則が成り立つため ΔUQ+ΔW=0 となる)
 電位が一定に保たれている場合は、力は電界のエネルギー(コンデンサーのエネルギー)が増加する割合に等しく、そのエネルギーの増加が生じる方向に働く。
(電位を保っている電源が外に取り出される仕事以上のエネルギーを電荷の移動を通じてコンデンサーに注入するため [電源の失うエネルギー]+[コンデンサーの得たエネルギー]+ΔW=0 → −ΔUV+ΔW=0 となる)

 この当たりの一般的な議論は、例えば竹内説三著「電磁気学現象理論」丸善(1967年刊)P114〜118、ファインマン物理V「電磁気学」岩波(1969年刊)P130〜132等参照。この考え方を2.象限電位計の動作原理の説明で利用する。

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2.象限電位計(quadrant electrometer)

)装置の構造

 これもKelvinの考案したものであるが、四つの扇形の金属箱(これが四象限式と言われる理由)と、それらの箱の中央に水晶の糸で吊された金属製可動極板NN'から成る。可動極板NN'は一種のねじり秤を構成して、そのねじれの角度から金属箱AA'とBB'の間の電位差を測定する装置である。二組の象限形の固定電極AとA’およびBとB’は電気的に接続されており等電位である。また可動極板N、N’には他から高電圧VNが加えられてる。(下図参照)。

実際にケルビンが作ったのは下図のような物であるが、その後様々な人により改良された。その当たりの詳細は
http://www.orau.org/ptp/collection/electrometers/quadrantelectrometer.htm 等を参照されたし。


  これは簡単な機構の装置であるが、その測定原理を説明するのはあんがい難しい。

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(2)測定原理

 今AA'、BB'、NN'にぞぞれVA、VB、VN(VN>VA>VB)の電位が与えられているとする。今極板NN'の半径をr、中心角を2αとすると、NがA→Bの方に角度θだけ振れたとき、その極板NN'がAA'とBB'内に存在する面積はそれぞれ

となる。
 実際は、中心軸付近の誤差を小さくするためにNN'の形は下図のようにしてある。

しかし、ここでは簡単にすますためその当たりは無視して扇形の極板で議論する。
 AA'、BB'とNN'の距離をdとすると、AA'とNN'の間、およびBB'とNN'の間の静電容量は、NN'に両面在ることを考慮して

となる。
 そのためこの導体系の静電エネルギーはAA'とBB'の間の静電容量をCABとすると

となる。
 ここでV一定の条件(つまりそれぞれの端子を測定すべき電源導体に繋いだまま)で、一般化された座標θに付いての偏微分係数を求める。1.(3)の最後に注意したように、座標θに対応した一般化された力Fθを意味する。

 例えば、VN>VA>VBの場合には力はθθが増大する方向に働く。そのとき(1)式が正である事は、電圧一定の状況でθが増大するとコンデンサー中のエネルギーは増大する事を意味する。
 このとき、極板がAからBへ引き込まれる(外界に対して正の仕事をする)のに、このコンデンサー系の静電エネルギーが増大するのは不思議に感じるかも知れないが、今は電源導体に繋いだままV=一定の条件で議論しているので、その電源導体からこのコンデンサー系に流れ込む電気がNN'極板を引き込む仕事と、コンデンサー系の電界エネルギーの増大の両方をまかなっている。
 この当たりの事情は1.(2)2.(V=一定)の例で、極板間引力により外界に仕事を取り出しながら極板が狭まる場合を考えてみれば理解できる。その場合にも極板間隔は狭まるのにもかかわらず、極板に貯まる電荷が増大して極板間の電場エネルギーは増大している。

 一方、NN'と釣り線は一種のねじり秤を構成しており、そのねじれの角度θとその捻れを保持するための力Fθは比例する

 このことを確かめるためには、別稿「キャベンティシュの地球の重さ測定実験」、あるいは「運動の法則」で述べたように、ねじり秤の可動極板NN'を様々な振幅で振動させてみて等時性が成り立りたつ(単振動)ことを確かめればよい。またその比例定数kは可動極板NN'の慣性モーメント(高校では教えない)が計算できれば、その振動周期から求めることができる[こちらを参照]。

 (1)=(2)と置いてθとVA、VB、VNの関係を求めると


  となる。この場合、Nを大きくすれば感度が良くなる。


  となる。この場合感度は良くないが、交流電圧に対しても利用できる

 絶対電位計と違って、象限電位計の電位差(VA−VB)と回転角θとの比例定数を正確に直接計算で求めることは困難である。一般に比例定数は既知の電位差を与えたときの回転角θを測定することによって求める。そのため象限電位計絶対測定に利用することはできない
 象限電位計は初期の原子物理学・放射線物理学に於いて絶大な威力を発揮した(「ラザフォードとソディの放射性変換説」等参照)

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(3)マクスウェルの応力

 高校物理で習うように平行板コンデンサーの内部の電界は極板に垂直である。そのため、それは極板を回転させる力を生み出さない。ならば、極板を回転させるための力は何処に現れるのであろうか?
 これは大いなる疑問であるが、その力は下図の様にNN'極板の縁の部分に現れる。

 ただし、そう言われても、その応力の大きさを算出するのは不可能である。そのために、1.(3)2.(2)で述べたような考え方を用いて求めたのである。この部分は静電エネルギーの計算には無視できる程度の関与しかしないのに、力の釣合については本質的な関与をする。
 マクスウェルの応力理論が正しければ、このやり方で求まるはずだし、極板の端のまわりの電場の電気力線はその応力を生み出すような分布をしているはずである。ここのところが理解できないと、象限電位計の測定原理を説明するのは難しい。

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