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年周光行差と年周視差による星の位置変化

 任意の位置にある恒星について、年周光行差と年周視差による黄道座標と赤道座標の見かけの変化を求めます。年周光行差や年周視差の現象については別稿「ブラッドリーが光行差を見付けた方法(1727年)」をご覧下さい。

1.年周光行差による星の位置変化

 最初に年周視差や歳差・章動による変化を無視して年周光行差の効果のみを考察する。また簡単化の為に地球は円軌道上を等しい公転速度で公転しているとする。

)黄経変化dλと黄緯変化dβ

.座標変換公式による証明

 年周光行差による視差の変分は、別稿「ブラッドリーが光行差を見付けた方法(1727年)」1.(2)」で説明した様に、地球の公転速度ベクトルの方向をむく。それはとりもなおさず、黄道面に平行で、太陽の方向に対して直角の方向を意味する。つまり、地球から見た星Sの年周光行差による見かけの変位(dX,dY,dZ)の方向はベクトルEF=(X,Y,Z)の方向で、その大きさはκ=(地球の公転速度/光速度)rad=0.0000994rad=20.5”となる。ただし、観測する星Sの(黄経,黄緯)を(λ,β)とし、εは黄道と赤道の交差角、は太陽の黄経とする。

 図から明らかなように、点Fの座標(X,Y,Z)と、年周光行差による見かけの位置の変分(dX,dY,dZ)は次のようになる。

 ここで、別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)2.の変換公式を用いて極座標での変分に変換する。太陽の黄経をradとすると、年周光行差による(黄経,黄緯)の見かけの角度変化(cosβ・dλ,dβ)は以下のようになる。

 このとき黄道上での角度変化(黄経変化)dλに直すときは(1/cosβ)倍しなければ成らないことに注意。
 この結論は、図を詳細に検討することによって直接導くこともできる。つまり、ベクトルκが黄緯βの黄緯線が描く円を含む平面上に存在することに注意すれば直ちに導ける。
 これは星Sの位置で、黄経線の方向が長軸(半径κ)、黄緯線の方向が短軸(半径κsinβ)の楕円を描く事を意味する。上式は、(◎−λ)を媒介変数とする、楕円の媒介変数表示であることに注意。例えば(◎−λ)=0radのとき(cosβdλ,dβ)=(−κ,0)、(◎−λ)=π/2radのとき(cosβdλ,dβ)=(0,−κsinβ)、(◎−λ)=πradのとき(cosβdλ,dβ)=(κ,0)、(◎−λ)=3π/2radのとき(cosβdλ,dβ)=(0,κcosβ)となる。
 この場合、星の黄経、黄緯に依存して光行差楕円の形がどの様に変化するのか見通すのは簡単です。

.球面三角法による証明

1.(1)1.の結論は球面三角法の公式を用いても証明できる。

 上図の球面三角形KSFに対して球面三角法の公式(別稿「座標回転公式と球面三角法」2.(1)を参照)を適応する。
 弧SFと黄緯線がなす角をψとすると、図から明らかなように

となるが、この式に球面三角形KSF正弦法則

余弦法則

を代入すると

となり同様な結論が得られる。

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(2)赤経変化dαと赤緯変化dδ

.座標変換公式による証明

 年周光行差による視差の変分は、(dX,dY,dZ)はベクトルEF=(X,Y,Z)の方向で、その大きさはκ=(地球の公転速度/光速度)rad=0.0000994rad=20.5”である。これを(赤経,赤緯)=(α,δ)でとなる。ただし、観測する星Sの(黄経,黄緯)を(λ,β)とし、εは黄道と赤道の交差角、は太陽の黄経とする。

 図から明らかなように、点Fの座標(x,y,z)と、年周光行差による見かけの位置の変分(dx,dy,dz)は次のようになる。

 ここで、別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)2.の変換公式を用いて極座標での変分に変換する。太陽の黄経をradとすると、年周光行差による(赤経,赤緯)の見かけの角度変化(cosδ・dα,dδ)は以下のようになる。

 星の赤経、赤緯の変化とともに光行差楕円の形がどの様に変化していくかを見通すのは結構面倒です。しかし、それは赤経、赤緯の位置の黄経、黄緯の光行差楕円と同じであることに注意すれば、その変化していく様子は予測できる。このとき楕円の長軸、短軸の方向はその位置での黄経線と赤経線の交差角だけ回転した方向になる。実際の形は上式を利用して描けば良い。図の例を1.(3)に示す。

.球面三角法による証明

1.(2)1.の結論は球面三角法の公式を用いても証明できる。

 上図の球面三角形PSFFγGに対して球面三角法の公式(別稿「座標回転公式と球面三角法」2.(1)を参照)を適応する。ここで、εは黄道と赤道の交差角、は太陽の黄経とし、弧SFと赤緯線がなす角をΦ、弧γFの弧度を(◎−π/2)、弧γGの弧度をμ、弧FGの弧度をνとすると、図から明らかなように

となるが、この式に球面三角形PSF正弦法則

余弦法則

を代入すると

となる。この式に球面三角形FγG正弦法則

余弦法則

正弦余弦法則

を代入すると

となり、同様な結論が得られる。

 これまでの議論を比較してみると、一般的に言って証明の見通しと手順は座標回転公式の方が球面三角法より簡単で優れている。しかし、結果を図的に解釈するには球面三角法の法が優れているように感じる。

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(3)天球上の光行差楕円

.任意の赤経、赤緯の星の場合

 星の赤経、赤緯の違いによる光行差楕円の違いを図示しておく。これは、黄経、黄緯に於ける光行差楕円を赤経、赤緯の立場で見直したものに過ぎないのですが、その変化の様子は黄経、黄緯で表したものと違って複雑です。
 図中の縦線等赤経線横軸等赤緯線を表し、楕円の半長軸はいずれも20.5”です。下記は単位半径の天球表面上の星の見かけの光行差楕円を天球の外側から見た図です。(拡大図はこちら

.ブラッドリーが観測した星の場合

 別稿「ブラッドリーが光行差を見付けた方法(1727年)」5.(1)で説明したように、ブラッドリーは下表に掲げる幾つかの星を取り上げて、それらの星々の光行差の現象による赤緯変化を詳しく解析しています。

 この表の赤経、赤緯の値は「フラムスティード天球図譜」の改訂版に添付されているブラッドリーの恒星表から引用したもので、1780年分点での値です。これらの星の光行差楕円を表示すると下記のようになる。この図とブラッドリーの説明文を比較してみられたし。(拡大図はこちら

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2.年周視差による星の位置変化

)太陽位置と変位ベクトルの関係

 別稿「ブラッドリーが光行差を見付けた方法(1727年)」の説明から明らかなように、年周視差による星の視位置の変化の方向は地球から見た太陽の方向です。これは、光行差の図に於いて太陽がF点にいるとすれば良いことを意味する。
 つまり、地球から見て太陽がベクトルEFの方向に在るとき、年周視差による星の変位ベクトルはτで、その大きさは

となる。そして変化ベクトルτは、光行差の変化ベクトルκの方向と一致すると考えればよい。
 そのため光行差の議論に於ける変化ベクトルκをτで置き換え、さらに(◎−π/2)を◎で置き換えれば、直ちに年周視差による変化分が計算できる。

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(2)黄経変化dλと黄緯変化dβ

 図から明らかなように、点Fの座標(X,Y,Z)と、年周視差による見かけの位置の変分(dX,dY,dZ)は次のようになる。

 ここで、別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)2.の変換公式を用いて極座標での変分に変換する。太陽の黄経をradとすると、年周視差による(黄経,黄緯)の見かけの角度変化(cosβ・dλ,dβ)は、年周光行差に於けるのと全く同様な計算をすることにより得られる。それは、年周光行差の式の、κsin◎τcos◎に、−κcos◎をτsin◎に置き換えたものに成る。

これは、球面三角形KSFに対して球面三角法の公式(別稿「座標回転公式と球面三角法」2.(1)を参照)を適応して求めることもできる。

 このとき黄道上での角度変化(黄経変化)dλに直すときは(1/cosβ)倍しなければ成らないことに注意。
 この結論は、図を詳細に検討することによって直接導くこともできる。つまり、ベクトルτが黄緯βの黄緯線が描く円を含む平面上に存在することに注意すれば直ちに導ける。
 これは星Sの位置で、黄経線の方向が長軸(半径τ)、黄緯線の方向が短軸(半径τsinβ)の楕円を描く事を意味する。上式は、(◎−λ)を媒介変数とする、楕円の媒介変数表示であることに注意。例えば(◎−λ)=0radのとき(cosβdλ,dβ)=(0,−τsinβ)、(◎−λ)=π/2radのとき(cosβdλ,dβ)=(τ,0)、(◎−λ)=πradのとき(cosβdλ,dβ)=(0,τsinβ)、(◎−λ)=3π/2radのとき(cosβdλ,dβ)=(−τ,0)となる。
 この場合、星の黄経、黄緯に依存して年周視差楕円の形がどの様に変化するのか見通すのは簡単です。

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(3)赤経変化dαと赤緯変化dδ

この場合も図から明らかなように、点Fの座標(x,y,z)と、年周視差による見かけの位置の変分(dx,dy,dz)は次のようになる。

 ここで、別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)2.の変換公式を用いて極座標での変分に変換する。太陽の黄経をradとすると、年周視差による(黄経,黄緯)の見かけの角度変化(cosβ・dλ,dβ)は、年周光行差に於けるのと全く同様な計算をすることにより得られる。それは、年周光行差の式の、κsin◎τcos◎に、−κcos◎をτsin◎に置き換えたものに成る。

 これは球面三角形PSFFγG(図は1.(2)2.参照)に対して球面三角法の公式(別稿「座標回転公式と球面三角法」2.(1)を参照)を適応して求めても良い。黄道と赤道の交差角をε、太陽の黄経(弧度γF)を、弧SFと赤緯線がなす角をΦ、弧γGの弧度をμ、弧FGの弧度をνとして年周光行差の場合と同様に計算すればよい。

 星の赤経、赤緯の変化とともに年周視差楕円の形がどの様に変化していくかを見通すのは結構面倒ですが、年周光行差の場合と同じように考えればよい。

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3.黄道座標と赤道座標

最後に、星の(黄経,黄緯)=(λ,β)と(赤経,赤緯)=(α,δ)を関係づける変換公式を求めておく。

)座標変換による証明

上図の様に(x,y,z)座標系と(X,Y,Z)座標系をとると星Sの位置はそれぞれの座標系で

と表される。

.(赤経α,赤緯δ)→(黄経λ,黄緯β)

(X,Y,Z)座標系は(x,y,z)座標系をx軸のまわりに角度εだけ回転すると得られるので別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(1)の回転公式を用いると

の関係が成り立つ。この式に上記の値を代入すると

だから

が得られる。
 さらに、(2)式を(1)式で両辺を割り算すると

が得られる。また、(3)式より

が得られる。

.(黄経λ,黄緯β)→(赤経α,赤緯δ)

(x,y,z)座標系は(X,Y,Z)座標系をX軸のまわりに角度(−ε)だけ回転したものだから、関係式

を用いると

が得られる。
 さらに、(5)式を(4)式で両辺を割り算すると

が得られる。また、(6)式より

が得られる。

)球面三角法による証明

 球面三角形PKSに対して「座標回転公式と球面三角法」2.(1)の公式を適応する。
 正弦法則により

が得られる。
 正弦余弦法則により

が得られる。
 余弦法則を用いると

が得られる。

)変換表

.(赤経α,赤緯δ)→(黄経λ,黄緯β)


 上の表を計算した元のExcelファイルはここをマウスで右クリックするとダウンロードできます。htmlファイルに変換していますが、もともとExcelファイルですから、Excelで読み込み再編集できます。もちろんxls形式で再保存するとExcelファイルにもどります。

.(黄経λ,黄緯β)→(赤経α,赤緯δ)


 上の表を計算した元のExcelファイルはここをマウスで右クリックするとダウンロードできます。

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4.参考文献

 ここの説明は下記の文献を参考にしています。高校生向きに出来るだけ解りやすくしました。

  1. 現代天文学講座1 若生康二郎編「地球回転」恒星社厚生閣(1979年刊)第1章 星の位置と運動
  2. 渡辺敏夫著「数理天文学」恒星社厚生閣(1969年刊)
    第二章 球面三角法、第五章 天球座標日周運動、第七章 視差、第八章 光行差
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