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潮汐力(起潮力)

 様々な教科書に書かれている潮汐力の説明は不十分でわかりにくい。ここでは高等学校で習う知識を用いて厳密で解りやすい説明をします。そのとき必要な予備知識が1.2.3.で本論が4.です。

1.球対称に分布した質量が外界に及す万有引力

 球形をしており、かつその中心に対して球対称の密度分布を持つ球の場合、球の外にある質量に及ぼす万有引力は、その球の質量がすべてその球の中心に集中して存在する質点とみなした場合と同じである。この証明には少し高校レベルを超える数学的な知識が必要ですが、別講「万有引力の法則への補足」にて高校生でも理解できる説明をします。 

 

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2.恒星系に対する地球の運動

)地球は自転している

 赤道上では自転軸を中心として地球半径r=6.37×106m、周期T=24×60×60秒の等速円運動である。赤道上で地球表面と共に動く物体に働く向心加速度a自転

 この値は地球表面における地球の万有引力(重力)による重力加速度(9.8m/s2)の300分の1程度である。この値だけ赤道上の物体に働く重力加速度は小さくなる。

)地球の質量中心は、地球と月の重心Gの周りを半径 4.67×106m の等速円運動(公転1)をしている

 地球と月の間に働く万有引力にともなう運動を考えるときは、1.項で述べたことにより地球も月もその全質量がその中心に集まっている質点として取り扱い、その間に万有引力が働いているとして論じることができる
 月は地球の周りを回っているが、そのとき地球も、月と地球を一つの系と見なしたときの重心Gの周りを回っている。つまり月も地球も重心Gの周りを等速円運動をしている。
 [地球の質量M]:[月の質量M]=1:0.0123 であるから、地球と月の平均距離(R地-G+R月-G)を3.84×108mとすると[重心Gから地球の質量中心までの距離R地-G]:[重心Gから月の質量中心までの距離R月-G]=0.0123:1=4.67×106m:3.79×108mとなる。つまり地球の質量中心は重心Gのまわりを半径R地-G=4.67×106m(地球半径の7割程度)、周期T恒星月=1恒星月=27.32日=27.32×24×60×60秒の等速円運動をしている。恒星月とは恒星に対してGの周りを一周する周期。

 等速円運動をするためには高校物理の円運動のところで習うように、その中心に向かう向心加速度aが必要である。この向心加速度を生じるのが月と地球の間に働く万有引力である。実際以下に示すように上記の円運動(回転周期は1恒星月)のとき地球中心に働くべき向心力を求めてみると地球と月の間に働く万有引力に一致することが確かめられる。
 つまり地球の全質量が地球の中心に存在するとして、その質量がGの周りを等速円運動をする時の向心力は、その質量に働く月の万有引力と等しい。これが【第1に重要なこと】である。

 地球−月系の重心Gの周りの回転の向心加速度は a公転1=3.31×10−5m/s2 となる。これはa自転の約1000分の1程度である。

)地球は太陽の周りを年周運動(公転2)している

 地球は太陽の周りを公転しているが、そのとき地球と太陽の関係は上記(ロ)の地球と月の関係になる。ただし太陽質量は地球の33万倍だから太陽と地球の系の重心と太陽の質量中心との距離は4.49×105m程度です。これは太陽半径(6.96×108m)に比較して無視できるほど小さいから、太陽はほとんど動かず地球は太陽の周りを等速円運動をしているとして良い。(下図参照)

ところで公転2は半径R地−太=1.50×1011m、周期T公転2=365×24×60×60秒(T公転2は1恒星年をもちいる)の等速円運動をしていることになるので、そのことによる向心加速度は以下の値になる。

この値はa自転の約6分の1程度である。

 

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3.地球表面上にある物体に働く力

 地球表面は上記の運動が重ね合わされた加速度運動をする。そのとき地球表面上に存在する物体には以下の力が働く

)地球からの万有引力

 これは1.に述べたように地球中心に地球の質量のすべてが集まったと考えて、そこから今問題にしている地球表面上の物体に万有引力が働くと考えればよい。当然地球からの距離は地球表面上でどこでも同じなので常に地球の中心に向かう一定値として良い。(厳密に言うと地球は球ではなくて回転楕円体だから場所による違いがある。しかし簡単化の為にここでは無視する。このことについては別講で説明

)月からの万有引力

 これも1.に述べたように、月の質量中心と注目している地球表面上の物体間に働くと考えればよい。すべて月の質量中心に向かう力であるが、地球表面の場所により変化する。月から遠いところで小さく、近いところで大きい。また方向も変化する。

)太陽からの万有引力

 これも1.に述べたように、太陽の質量中心と注目している地球表面上の物体間に働くと考えればよい。すべて太陽の質量中心に向かう力であるが、地球表面の場所により変化する。太陽から遠いところで小さく、近いところで大きい。また方向も変化する。

)地球表面が加速度運動をしていることに伴う慣性力

 2.項で述べたように地球は(イ)[自転]、(ロ)[Gの周りの回転(公転1)]、(ハ)[太陽の周りの公転(公転2)]という三種類の回転運動をしている。回転運動は加速度運動である。高校物理で習うように、加速度運動をする系の上にいる物体には、見かけの力である慣性力が働く。つまり加速度運動する系の上の観測者が、加速度系上にある物体を見ると慣性力が働いたように見える。慣性力についての詳しい説明は別講「慣性力」を参照。
 この慣性力には前記(イ)(ロ)(ハ)の加速度運動に伴う三種類がある。いずれも注目している物体と回転中心を結ぶ直線に沿っており、その方向は回転中心から外へ向かう、その大きさは物体の質量に向心加速度の大きさを乗じたものになり遠心力と呼ばれる。
 このとき注意しなければならないのは上記の回転中心とは重心Gや太陽中心ではないことである。ここの所を理解することが本質である。

(イ)自転

 自転の場合は慣性力(遠心力)の作用線は回転中心を通るので何ら問題はない。

(ロ)地球と月の重心の周りの回転(公転1)

 地球−月系の場合が問題である。地球の自転を取り除いて考えると地球表面A、B、Cは月の公転と共に下図のよう運動を行う。

 上図から明らかなように地表A、B、Cは重心Gを中心にするのではなくてA'、B'、C'を中心とした等速円運動を行うと考えなければならない。月との位置関係が下図のようになる瞬間の向心加速度は下図矢印のようになり、その大きさは地球の質量中心の向心加速度と全く同じになる。故に地表A、B、Cに存在する物体に働く向心力はそれぞれA'、B'、C'に向かい全て同じ大きさ同じ方向を持つ。ここの所が【第2に重要なこと】である。だから地表面にある質量mの物体に働く慣性力である遠心力は上記の向心力と大きさ等しく向きが逆だから、全てが同じ大きさ、同じ方向を持つベクトルとなる。

(ハ)太陽の周りの年周運動(公転2)

 地球−太陽系の場合も同様である。ただし地球と太陽の共通の重心は太陽の中にある。地表A、B、Cは重心Gを中心にするのではなくてA'、B'、C'を中心とした等速円運動を行う。その向心加速度はどの地表点でも地球中心の向心加速度と同じである。
 下図のGの周りの小円A’B’C’は地球の大きさの円です。ところで、太陽質量は地球の33万倍だから、太陽−地球系の重心と太陽の質量中心との距離は4.49×105m程度で、太陽半径6.96×108mや地球半径6.37×106mに比較して無視できるほど小さい。ゆえに、下図ではGと太陽の質量中心との相対的位置関係は省略されている。

 以上で準備が終わったので潮汐力の説明にはいる。

 

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4.潮汐力

)[地球自転による遠心力]と[地球の万有引力]の合力が生み出す潮汐力

 [地球自転による遠心力]と[地球の引力(重力)]の合力が生み出す潮汐力が地球の形を回転楕円体へ変形させる。この事については「コリオリ力について」の項目を参照せよ。そこの図を以下に採録する。

 地球が完全な球の場合、地球表面に存在する岩石も海水も遠心力を受けて極から赤道に向かう力を受けて赤道地方に流れて移動する。そして回転楕円体に変形する。[地球自転による遠心力]と[地球の引力]の合力が生み出す見かけの重力の方向が変形した地表面と垂直になったとき、その変形は止まる。

  そのさい地球上の観測場所を固定すれば、この原因による潮汐力は時間的に変化しない。だからその潮汐力によって地球表面や海水面の変形が起こり、いったんつり合い状態が達成されると、その変形は時間的に変化しないので潮汐としては感知できなくなる。[遠心力(慣性力の一種)]と[地球が物体を引く力]と[地表から物体に働く垂直抗力]の三力はつり合って合力ゼロとなり物体は回転楕円体表面上に静止する。

 このあたりの事情は以下の(2)や(3)と大きく異なるところである。(2)や(3)の潮汐力は地球の自転と同期していないために時間的に変化して潮汐現象が生じる。

 

)[地球が重心Gの周りを等速円運動していることによつて生じる遠心力]と[月の万有引力]の合力が生み出す潮汐力

 前項3.(4)で述べたように地表A、B、Cに存在する物体(質量mとする)はそれぞれ[A'B'C'に向かう円運動の向心力と大きさは同じで向きが真反対の遠心力]と[月との間に働く万有引力]との合力を受ける。(下図参照)

 このとき遠心力はA、B、C、D、E、Fすべてで大きさ方向とも同じであるが月の引力は大きさ方向ともすべて異なる。だから両者の合力は場所によって異なる。これが月による潮汐力である。A点では月と反対側に、D点では月の方向へ、またC点では地球中心の方向へ、B点ではA点の方向へ、E点ではD点の方向へ向く潮汐力となる。
 次に、潮汐力の大きさを計算してみる。まず地球中心F点にある物体が等速円運動をするための向心力はその物体に働く月の万有引力に等しいことを注意しておこう。それは2.(ロ)の項目で述べた(A)式、(B)式が等しいことからあきらかである。なぜなら、そこの両式に共通に含まれるMをmに置き換え、R地-月を物体と月の間の距離(=Rと置く)に置き換えれば良い。元々の両式が等しいのだから以上の様な置き換えを行ったものも当然等しい。(下式参照)

 故に[地球中心F点に存在する物体に働く向心力]は[地球中心にある物体に働く月の引力]に等しい。これが【第3に重要なこと】である。

 この事実と3.(4)で述べた第二に重要な結論を一緒にすると、上記A〜F点の質量mの物体に働く遠心力の大きさはは全て同じで、地球中心で働く月の万有引力で置き換えることができるし、その方向は地球中心の物体に働く遠心力と全て同じで、月と反対の方向を向いていることが解る。だからA〜F点の潮汐力は[各点で物体に働く月の万有引力]と[地球中心に置いたときその物体に働く月の引力と大きさは等しく、方向が真反対の力]との差を計算すればよい。

 例えばA点の潮汐力は下式のようになる。

 これはA点に於いては質量mに働く重力加速度(9.8m/s2)を約1.1×10−6m/s2だけ弱める方向に働くことを意味する。またD点につても同様でやはり地球中心に向かう重力加速度を約1.1×10−6m/s2だけ弱める方向に働く。この値は2.(イ)で述べた地球の自転の遠心力にともなう重力加速度の減少分(3.4×10−2m/s2)の約30000分の1程度である。
 C点についてはごくわずかながら重力加速度を強める方向に働く。B、E点も力のベクトルの方向を考慮すれば同様な計算ができる。

 この様にして計算した“起潮力”を図示すると下図の赤矢印の様になる。

 このとき、図のA、C、D点では起潮力はほぼ鉛直方向を向いており、BやE点ではほぼ水平方向(海面に沿った方向)を向いていることに注意してください。
 実際に海水の移動を引き起こす力として重要なのは水平方向の力です。そのため水平成分を取りだして図示すると

の様になる。
 実際の大洋の海水は自転する地球表面に張り付いています。そのため、地球の自転とともに月(太陽)との位置関係を代えていく。だから大洋の海水には潮汐周期(月12.42h、太陽12h)で大きさと(水平面内での)方向が変わる水平方向の力が周期的に働くことになる。これが様々な潮汐現象を起こす。

[補足説明1]
 ∠AFB=θのB点における月による起潮力の大きさは、高校レベルの数学で計算できます。そのやり方を別稿「惑星の衛星に働く潮汐力(月とイオの場合)」2.(1)2.で説明しておりますのでご覧ください。

[補足説明2]
 初等的な本では、地球の月(太陽)に面した部分“表側”と、その反対部分“裏側”の水面が盛り上がった図を示して潮汐を説明しています。実際に月による起潮力でどのくらい盛り上がるのかは、高校レベルの数学で見積もれます。そのやり方を別稿「惑星の衛星に働く潮汐力(月とイオの場合)」2.(2)で説明しておりますのでご覧ください。

 

)[地球が太陽の周りを公転運動することによって生じる遠心力]と[太陽の万有引力]の合力が生み出す潮汐力。

 この場合も上記(ロ)の場合と全く同様に論じることができる。そのさいR=[地球中心と太陽中心との距離]とし月質量Mを太陽質量Mで置き換えればよい。

 例えばA点における潮汐力は 

 となる。これはA点に於いては質量mに働く重力加速度(9.8m/s2)を約5.0×10−7m/s2だけ弱める方向に働くことを意味する。また、この値は月による潮汐力の約半分である。他の地点についてもベクトルの方向を考慮して同様な計算をすればよい。
 この場合の“起潮力”を表す図は、前項の月を太陽で置き換えれば、全く同様になる。

[補足説明3]
 月と太陽の潮汐力が約2対1であり、太陽と月の位置関係が変化することにより、大潮と小潮の違いが生じる。  

[補足説明4]
 起潮力を変化させる大きな要因として、地球の自転軸が地球公転面や月の公転面に対して傾いていることがあります。これは太陽高度を最大で約±23度変化させます。また月の公転面は地球公転面に対して約5度傾いているので、月は最大で約±(23+5)°変化します。  

 

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5.まとめ

上記3つの要因に伴う重力加速度の変化分(これが潮汐力を生み出す)を赤道地方で比較すると

1.地球自転に伴うもの
Δg=3.39×10−2[m/s2]    重力加速度g=9.88[m/s2]の約300分の1
2.月による潮汐力に伴うもの
Δg=1.1×10−6[m/s2]     gの約10000000分の1
3.太陽による潮汐力に伴うもの
Δg=5.0×10−7[m/s2]     gの約20000000分の1

となる。ここの理論を精密化したポテンシャル論に従って計算した月の潮汐力に伴う地球の変形(海面の盛り上がり)は赤道地方で約0.5m程度である。こんなに小さい値とは、大潮時の干満差が2mを超える瀬戸内海地方に住んでいる我々には驚くべき事である。この値の簡単な計算法は別稿「惑星の衛星に働く潮汐力(月とイオの場合)」2.(2)を参照されたし。
 これは地球上で観測場所を固定すると、1.の原因の潮汐力は時間的に変動しないのに、2.および3.の原因による潮汐力はちょうど地球の自転周期(正確には、それぞれ月または太陽が南中してから次に南中するまでの時間)の半分の時間を周期として振動する事による。そのため、もし湾や内海を伝わる長波(深度に比べて波長が長い波)によって生じる定常波の固有振動周期が潮汐振動周期(月=12.42時間、太陽=12.00時間)に近いと共振が生じて大きく増幅される。韓国の仁川(インチョン)湾やカナダのファンディー湾では10mを超える干満差が生じるが、これらはすべて共振によって起こる現象です。

 そのとき注意して欲しいのですが、潮汐現象は初等的な説明図にかかれているように地球の月に面した海面とそれと真反対の海面が盛り上がった様に起こるのではありません。そのような潮汐は、地球を巡る月の公転はそのままで地球の自転が非常にゆっくりである場合にのみ実現するものです。それは“平衡潮汐理論(静力学的潮汐理論)”と呼ばれ、アイザック・ニュートンによって最初に説明されたものです。
 ニュートンは「プリンキピア」第1編命題66の中で基礎理論を展開し、第3編命題24と命題37の中で潮汐現象を具体的に論じています。この稿で述べた事柄をもっと一般的かつ体系的に論じているのですが、その説明文は極めて難解で、読み解くには厖大な努力が必要です。(S.チャンドラセカール著「チャンドラセカールの『プリンキピア講義』一般読者のために」講談社(1998年刊)などを参考にしながら読まないと歯が立たないと思います。)
 
 実際には、地球は1日に1回転の割合で高速回転しており、海水はその表面に張り付いています。そのため平衡潮汐理論による海面のふくらみを実現するためには、海面の高低差が超高速で移動しなければいけません。地球の赤道付近の自転速度は460m/s程度ですから、その速度で移動するには、長波の伝播速度の公式v=(gh)0.5=460m/sを用いると、大洋の水深h=20km程度が必要です。
 しかし、実際の大洋の水深はh=4km程度ですから潮汐長波の伝播速度はv=200m/sしかありません。そのため、平衡潮汐理論は成り立たず浅い海を伝播する長波の理論で論じなければなりません。
 
 つまり、潮汐現象は、別稿「波動方程式と一般解」2.様々な波動現象(4)長波 で説明する長波が様々な入れ物(湾や内海)に侵入する事によって起こる共振現象です。その侵入強度がほぼ12.42時間の周期で繰り返し強制されているということです。そのとき湾や内海の形や大きさにより、共鳴しやすい場合と共鳴しにくい場合があります。
 共鳴するかどうかは別稿「共振(共鳴)」で説明した理論で決まります。実際に目にする潮汐は一種の共鳴状態にある定常波であって、長波の理論に従って伝播する進行波を直接観察できる場合は希です。厳密に言うとコリオリ力も存在するために単なる定常波ではなくて、後で説明するケルビン波となります。 このような効果も考慮した潮汐理論を“動力学的潮汐理論”と言います。
 
 この典型的な例として、別稿「動力学的潮汐理論におけるケルビン波」5.(2)4.[補足説明0]で、北大西洋に生じる潮汐現象について説明していますのでご覧下さい。

補足説明1
 アメリカ東海岸のチェサピーク湾は、進行波の形の潮汐波が観測できる希な場所です。湾の平均水深は6.4m程度ですから長波の伝播速度はv=(gh)0.5≒8m/s程度です。周期T=12.45hを用いると、波長はλ=v/T≒300km程度となる。チェサピーク湾では潮汐がそのような波長の進行波として観測できる。
 衛星写真から解るように、湾に沿って細かい入り江が沢山存在している。その為おそらく、波の反射が起こりにくく、潮汐が定常波ではなく進行波として観測できるのであろう。

補足説明2
 波の伝播速度と実際に海水が動く速度を混同しないで下さい。前記の水深20kmの仮想的な大洋を伝播する長波に伴って海水が移動する速度は、u=(g/水深)0.5×(波高)ですから、波高を1m程度とするとu=(9.8/20000)0.5×1≒2cm/s程度です。
 現実の大洋(水深4km程度)を長波が伝播するときの海水の移動速度は、波高を同じく1m程度とすると、u=(9.8/4000)0.5×1≒5cm/s程度です。つまり波の伝播速度に比較して海水の移動速度はきわめて遅いのです。
 
 潮汐現象が顕著なのは大陸棚や内海・入り江などの浅い海ですから上記の海水が動く速度の計算式 u=(9.8/水深)0.5×1 cm/s に於いて水深が小さくなります。そのため、実際の潮汐に伴う海水の移動速度は上記の値5cm/s程度よりも、かなり速くなります。
 この海水の実質的な水平運動が“潮流”で、湾口や海峡では、かなりの速度になる場合があります。その一例を別稿「動力学的潮汐理論におけるケルビン波」5.(2)2.の末尾で計算していますのでご覧下さい。

補足説明3
 潮汐は共鳴状態にある定常波ですから、月が天頂にある時に満潮になるとは限りません。場所により干潮になる所もあれば満潮と干潮の中間の状態になる所もあります。そのように干満の位相は場所により様々で、地形と潮流の動きによりますが、共鳴振動の周期は月の動く周期12.45時間に連動しています。
 次図は広島における例です。満潮は月の南中時刻と一致していないし、その位相関係は大潮と小潮で異なることが解る。

補足説明4
 下図は日本近海の潮汐の共鳴状況を示しています。黄海と東シナ海は大きく共鳴するが、日本海はほとんど共鳴していないことが解る。[詳細説明はこちら

上記の“海面高度データ”は満潮と干潮の潮汐差の半分を意味していることに注意。
 
 図中の放射状の黒線は同時刻に於いて高潮(満潮)あるいは低潮(干潮)になるすべての点を結んだ線(等潮時線)です。等潮時線は、普通ある点(無潮点)を中心として放射状に成り、無潮点を中心として反時計回り(北半球)に回ります。その様になるのは長波の伝播に伴う海水の移動は地球自転に伴うコリオリ力の影響を受けるためです。コリオリ力により、北半球では進行方向に対して右側の岸に海水が押しつけられ岸側(右側)の水面が盛り上がります。それが岸(壁)に沿って反時計回りに移動する波となる。このような波が存在する事を最初に指摘したのがケルビンなので、この波は“ケルビン波”と呼ばれます。
 ケルビン波の簡単な説明はこちらを、詳細な説明は別稿「動力学的潮汐理論におけるケルビン波(1879年)」をご覧ください。

 

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6.参考文献

  1. 須田ユ次著「海洋科學」古今書院(1933年刊) p583〜586参照
     2016年12/14に読者の方から上記p583〜586について質問を受けたので、40年ぶりにこの本を読みました。確かに名著だと思いますので、この第9章“潮汐”の一部を別稿で紹介します。
  2. J.J.Dronkers 「Tidal computations in rivers and coastal waters」 North-Holland Publishing
  3. エドワード・P・クランシー著 現代の科学47 「潮汐の話」河出書房新社(1972年刊)
      これは高校生に勧めます。きっと図書館に在ると思います。
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