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統計力学におけるラグランジュの未定乗数法

 統計力学における“ラグランジュの未定乗数法”の使用例です。
 本稿は、戸田盛和著「物理入門コース7 熱・統計力学」岩波書店(1985年刊)第5章 の引用です。ただし、解り易くするために大幅に改変しています。式番号を付け替えているところもあります。
 未定乗数法そのもに関しては別稿「多変数関数の極値とラグランジュの未定乗数法」をご覧ください。

1.気体分子の分布












1-Ex1


1-Ex2


 

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2.スターリングの公式






2-Ex1


補足説明1
 上記の様に(5.23)式対数を取ったlogWの表現(5.21)式が何故大切かと言いますと、(5.21)にボルツマン定数kBを乗じた

は、N個の多数の粒子が空間的に分布しており、その分布の状況でその系の状況を表現できる様な物理的対象があった場合、その系の“エントロピー値”を表すと考えられるからです。
 
 もちろんその物理的対象がN個の理想気体からなり、それが適当な熱浴に接していて、その系中の理想気体が様々な速度で熱運動している様な系の場合ならば、上記Wは(5.23)式ではなく第4章の(5.59)式に置き換えられ、(5.21)式は(5.61)式に置き換えられなければなりません。
 その場合N個の粒子を分配する場合の数を数える微小領域は速度空間内の微小領域となります。
 
 この当たりの議論については別稿「プランクの熱輻射法則」9.(1)2.などを復習されて下さい。

 

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3.気体分子の最大確率の分布








 




 

変数が2個(N1,N2)の場合のラグランジュの未定乗数法

変数がn個(N1,N2,・・・,Nn)の場合のラグランジュの未定乗数法



   この説明は不十分で解りにくい。この方法で極値が求まり、その極値を取る時の(N1,N2,・・・,N)の値が求まるメカニズムの詳細については、別稿「多変数関数の極値とラグランジュの未定乗数法」3.(2)をご覧下さい。

3.[例題1]

 以下の[例題1]は、変数(N1,N2,・・・,Nj,・・・)についての一つの条件式

のもとで、関数

極値(最大値)を求める問題で、一つの未定乗数λを導入した“ラグランジュの未定乗数法”が用いられる。
 ここで、変数の数がn個(N1,N2,・・・,Nn)である事に注意されたし。だからn次元空間の関数 f(N1,N2,・・・,Nn) に対する極値問題です。


    下記で利用する2.例題1の(5.21)式はこちらを参照。





 

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4.気体分子の速度分布
  変数が無限個(N1,N2,・・・,N,・・・)の場合のラグランジュの未定乗数法

 ここは、変数(N1,N2,・・・,Nj,・・・)についての二つの条件式

のもとで、関数

極値(最大値)を求める問題で、二つの未定乗数αβを導入した“ラグランジュの未定乗数法”が用いる。
 
 ここで、変数の数が無限個(N1,N2,・・・,N,・・・)である事に注意されたし。すなわち無限次元空間の関数 f(N1,N2,・・・,N,・・・) に対する極値問題です。







以下の(5.59)式→(5.61)式の手順は2.例題1と同じですから、そこを復習されたし。





 











補足説明1
 先ほど2.[補足説明1]で、(5.59)式対数を取ったlogWの表現(5.61)式にボルツマン定数kBを乗じた

は、N個の多数の粒子が様々な速度でもって飛び回り、空間内に分布している系のの“エントロピー値”を表すと考えられることを注意しました。
 このことを前面に出して、本稿の内容を議論したものがあります。それが別稿「プランクの熱輻射法則」9.(1)2.〜4.です。丁度良い機会ですから、そこの説明との対応関係を確認しておきます。
 
 まず、プランクの理論では要素領域dσはすべて同じ大きさであるとしていますが、これは本稿の

に相当するものが j の違いにかかわらずすべて同一の ΔvxΔvyΔvz とする事です。
 プランクは要素領域dσを

としていますが、平衡状態では分子の空間的な分布は一様になり座標(x,y,z)に依存しなくなることがわかりますから、ここでは最初から dx・dy・dz の次元は省略して考えます。そのため

とすれば良い。
 そうすると「プランクの熱輻射法則」9.(1)2.の式

は本稿の表現と下記のように対応します。

そうすると、以下の展開はすべて本稿と同じである事が了解できます。

 

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5.マックスウェルの速度分布則




補足説明1
 Maxwellは、1960年の論文「気体の動力学的理論の説明」2.(1)に於いて初めてこの分布則を導いたのですが、彼は、その後何種類かの別の方法で導き直しています。
 本稿で説明されているのも、その別の導出法の一つです。



補足説明2
 未定乗数αβは前節の(5.71)、(5.72)式を用いて求めるのですが、これらを熱力学的考察と結びつけて絶対温度Tボルツマン定数kで表すことができる
 
 以下で用いる積分公式(5.82)、(5.86)式に付いては別稿「マクスウェルの速度分布則1“気体の動力学的理論の説明”(1860年)」2.(2)などを参照されたし。 


補足説明3
 以下の(5.84)式から(5.85)式への式変形については別項「気体の動力学的理論の説明」3.(1)[補足説明3]などを参照されたし。
 これは拡散現象の積分などでも使われます。それについては別稿「Einsteinのブラウン運動理論(1905年) と Perrinの検証実験」2.§4[補足説明5]などをご覧下さい。




補足説明4 下記(5.91)式に付いては別稿「音速の理論2」1.(2)などを復習。


 結局 gj を dvxdvydv に置き換えると εj が具体的に vx,vy,v  によって表現できる様になり、積分可能になるので (5.71) と (5.72)式 が未知数 α と β の連立方程式として解ける様になるのです。
 未定定数αとβの決定法は、別稿「気体の動力学的理論の説明」6.も参照。

 ここの議論については別稿「プランクの熱輻射法則」9.(1)3.も参照されたし。

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