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J. C. Maxwell、太陽系に対するエーテルの相対速度の検証(1879年)

 M.ボルン著「アインシュタインの相対性理論」東京図書(1972年刊)のp120〜122 より引用。
 ここで説明するものは、J. C. Maxwellが「百科事典ブリタニカ第9版(1875年)」の為に書いた“エーテル”の項目のなかで提案しているものです。




補足説明1
 天文学者は、近傍の銀河との関係から我が銀河系の宇宙空間における運動速度を見積もっているが、21世紀初頭の推定でもこの値には130km/sから1,000km/sまでばらつきがある。また、太陽系は銀河系内において回転運動もしている。
 それらを含めて銀河系内の太陽系が絶対静止のエーテルに対して仮に600km/sで運動していると仮定して、“マックスウェルの提案”の内容を具体的に説明してみる。
 [1989年に打ち上げられた衛星COBEは宇宙マイクロ波背景放射の赤方変位量の双極子成分の解析から、ビッグバンに起源を持つ宇宙マイクロ波背景放射に対して太陽系は速度370km/sで、銀河系は速度550km/sで動いていることを明らかにしたそうです。(杉山直著「相対性理論」講談社2010年刊より)]

 ある時の太陽系の配置が、絶対静止の空間に対して太陽系は6.0×105m/sで動いており、その方向が下図の状況であると仮定しよう。

このとき、木星から地球に対して進む光の太陽系から見た相対速度は

となる。
 このとき木星の衛星の食が起こる時刻の半年間(13)の間の遅れの積算値は、別稿「レーマーが光速度を計算した方法(1676年)」で説明したように

となる。

 木星の公転周期は約12年だから、前記の状況から約6年後には下記のような状況となる。

このときの木星から地球に対して進む光の太陽系から見た相対速度は

となる。
 このとき木星の衛星の食が起こる時刻の半年間(13)の間の遅れの積算値は、同様にして

となる。

補足説明2
 これは有る意味1887年に、エーテルの風を検出することを目的に行われたマイケルソン・モーリーの実験の天文版です。しかも、これはv/cの一次の効果で現れるものです。すなわち、絶対静止のエーテルの理論が正しいのなら、木星がAの位置に居るときとBの位置に居るときでは、木星の衛星の食現象が起こる時刻の遅れの200日間にわたる積算値が異なるはずです。それは約4秒程度となる。
 実際、マックスウェルは、航海年鑑局のディヴィッド・ペック・トッド(アルバート・マイケルソンの同僚)に、既存の木星衛星の食観測データの中にこの事を確かめるに足る精度のものが有るかどうかを手紙で問いあわせています。しかし残念ながらマックスウェルの時代の観測にはその精度はありませんでした。[ここは別稿も参照
 今日の観測技術を用いれば、上記の時間差は充分に計測可能だと思われますから、実際に観測してみればエーテルの風を検出できるかも知れない。しかし、アインシュタインの特殊相対性理論が正しい限りその様な時間差は観測できないのです。実際、あらゆる類似の実験・観測の結果がその様になることを示しています。
[パウリ著「相対性理論」筑摩書房 第T編の注[3]も参照されたし。]

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