HOME  .屈折の法則  2.水面の1点を通して  3.視点を固定して  4.水中の1点を見る  5.補足説明

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光の屈折(水中の物体の見え方)

 水中の物体は光の屈折の為に少し浅い所にあるように見えます。どの位置に見えるのかを詳しく説明します。

1.屈折の法則

)スネルの屈折法則

 オランダの数学者スネル(W.Snell 1591〜1626)は、「異なる媒質の境界に光が入射するとき、入射角の正弦と屈折角の正弦との比は、媒質の屈折率の比に等しい」というスネルの法則を発見した。これは下図において

AB:A'B'CD:C'D'EF:E'F'GH:G'H'=・・・・=一定値(これをnと書いて屈折率と言う)になるという不思議な法則ですが、高校物理で習う様にホイヘンスの原理を使って見事に説明できる。このとき水面すれすれに入射した光の屈折角を臨界角θという。
 ここで注意してほしい事は、上図点線で表した反射波(当然反射の法則に従う)も少なからず存在する事です。そのときの反射波の割合は、水面に垂直に入射する場合は別項「波の反射」で説明した(7)式により屈折率と関係づけられる。そして水面に対する入射角が増大するにつれて反射波の強度は増大し、屈折波の強度は減少していく
 ホイヘンスの原理とは、ホイヘンスが1678年に発表した光の波動説で、光波の進行の状況を作図するのに用いた原理で、「波動が伝播する際には、一つの波面上のすべての点が次の波源になり、それぞれ二次波を出し、これらの重なりによって次の瞬間における波面が作られる」というものですが、高校物理で習う。

)ホイヘンスの原理による説明

 ホイヘンスの原理と、媒質ごとに伝播速度がそれぞれ異なった一定値になることから反射の法則、屈折の法則(スネルの法則)が説明できる。これも高校物理で習うので簡単に復習する。

反射の法則

屈折の法則

波の屈折はそれぞれの媒質の中を伝わる波の速度が異なることによって生じる。

)全反射

 ホイヘンスの原理から明らかなように、水中から空気中に入射する光線は(1)の図と全く同じコースを反対向きに進むことになる。このとき水中から空気中への入射角θi臨界角θcより大きく成った場合には全ての光が水面で反射されて水中に戻ってくる。これを全反射と言う。

 図から明らかなように臨界角θcとは屈折角θt90°になったときの入射角θtの事です。

 ところでスネルの法則屈折率の定義より

となる。ここは最初に学ぶときとても混乱するところですが、it=1/ntiとなることに注意して下さい。

 だから

となる。
 ちなみにtiの変化に応じて臨界角θcがどの様に変わるか一覧表にすると

となる。

 ここで注意してほしい事は、図に点線で表した反射波も少なからず存在する事です。これは当然水中に反射するもので、反射の法則に従った角度で反射する。そのときの反射波の割合は、垂直に入射する場合は別項「波の反射」で説明した(7)式により屈折率と関係づけられるのだが、水面に入射する入射角が増大して臨界角θに近づくと、空気中に透過する屈折波の成分は水面に近づくと同時にだんだん弱くなっていく。そして反射波の強度は次第に強くなっていき、入射角が臨界角を越えたときには全てが全反射となる

 

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2.水面の一点を通して水中の物体を眺める

)見かけの座標の求め方

 以下の議論では水面をx軸に、そして水面に垂直にy軸をとる。そしてyが負の部分が水、正の部分が空気とする。y軸に沿って水中に立てた物差しを空気中から見たとき、それがどのように見えるかを調べてみる。物差しの一点Oを空気中から見るとあたかもO’にあるように見える。

このとき水の空気に対する屈折率をn=1.33 とし、Oから出たわずかに方向の異なる二本の光線OSとOS’を考える。スネルの屈折法則より

となる。これを用いると

となる。これを用いると直線AA’とBB’のグラフを表す式は

となる。この二直線の交点O’は上式を連立させて解いたときの解である。その解がO点を空気中から見たときの見かけの位置O’である。この連立方程式は簡単に解けて、O’の座標として

が得られる。

)y=0、x=1の点Sを通して水中に立てた物差し棒を見た場合

 光線が空気中に入る位置Sを一定にして、物差しのO点の深さbを様々にかえてO点が見かけ上存在するように見えるO’点のグラフを(1)、(2)式を用いて描いてみる。つまりn=1.33(水の屈折率)のもとで、a=1.0とr=0.01の値を固定してbを-2.0〜-0.877まで変化させる。0>b>-0.877では、上記のx、yは実数解を持たないが、これは全反射が起こることに対応している。

 水中に沈めた物差しの目盛りOが水面に近づくにつれて、その見かけの位置O’は点Sに近づいていく。y=-0.877の値は屈折率n=1.33の水の場合の臨界角θ=48.75°の方向である。

 

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3.水面上の視点を固定して水中の物体を眺める

)見かけの座標の求め方

 前節はS点を固定して眺めた図を描いたが、実際には目の位置を固定して水中に沈めた物差しを眺める。その場合の見かけの位置O’を求めてみよう。目の位置の座標を(x,y)=(p,q)とし、光線が水中から空気中に出る位置のx座標をaとすると、下図の様な関係が得られる。

水中の入射光OSのy軸切片bを求める為に、スネルの屈折法則を用いる。水の屈折率をnとすると

となる。これを用いると直線OSのグラフを表す式は

となる。この式が、2.(1)の直線OSを表す式に対応する。a、bの値はその場合と全く同じに取っているので、そのとき求めた点Oの見かけの位置O’の座標を表す式はそのまま使える。そこでの式(1)、(2)のbを

で置き換えると、空気中から見たO点の見かけの位置O’の座標を与える式(1’)、(2’)が得られる。

)p=1、q=1の点から水中に立てた物差し棒を見た場合

 (1’)、(2’)式で、目の位置(p,q)を固定し、水中からの光線が水面を横切る位置Sのx座標aを0〜pまで変化させることにより、水中に沈めた物差しの見かけの位置を求めることができる。

 物差しは縦に縮んで見える。その縮み方は目の位置をy軸に近づけると屈折率nの逆数倍に近づいていく様に見える。その辺りは高校物理の演習問題で習う。つまり、より深い所ほど、より大きく浮かび上がって見える。そのとき、目の位置をy軸から離すにつれて物差しは少しずつ手前に移動してくる。

)p=1、q=0.3の点から水中に立てた物差し棒を見た場合

 目を水面に近づけるにつれて、水面近くの物差しの像が縮んでくる。そしてy=-0.877の付近が前方にせり出してくる。

)p=1、q=0.1の点から水中に立てた物差し棒を見た場合

 目の位置をさらに水面に近づけていくと、水中に立てた物差しの見え方は2.(2)で述べた見え方に近づいていく。そして2.(2)で述べた様にy=0〜-0.877の部分は水面付近で消滅してゆき、y=-0.877の部分が水面すれすれになると同時に視点に近づいてくる。

 以上の結論は水槽に物差しを立てて眺めてみれば簡単に確かめることができる。ただし、上記の状況は必ず片目のみを用いる“片眼視”で確かめて下さい。両目を用いた“両眼視”では上記の様子の確認はできません。このことは後の5.(1)(2010年9月18日追記)で詳しく説明します。

 

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4.水中の一点Oを空気中の様々な場所から見る

)見かけの座標の求め方

 この場合も2.(1)で述べた議論がそのまま使える。直線OSを表す式

のbを固定してaを0〜正の値(全反射が起こる手前)まで少しずつ変化させればよい。そのときの2.(1)の(1)、(2)式の値が、Oを様々な方向から見たときの像O’が見える位置となる。

)x=0、y=-0.877の点Oを空気中の様々な方向から見た場合

 ここではb=-0.877として、aを0〜1まで変化させる。bがこの値のとき、aが1を越えると全反射となり(1)、(2)式は実数解ではなくなる。

 この場合、2.(1)に於ける(1)、(2)式の導き方から明らかなように、Oの見かけの位置O’は屈折光線を水中に延長した直線群の包絡線上を移動する。

 

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5.補足説明

 以下の説明は、中学校で理科クラブを指導されている中学校の先生から、指摘(2010年9月18日)されて気づいた事柄です。感謝!
 その問題点とは、「実際に観察すると、前記3.(3)(4)の様に水中の物差しが前方にせり出しては見えない。」ということです。良く考えると御指摘の通りでして、説明がかなり不足していることに気づかされました。以下はその至らないところを補足する説明です。

)視差rを水平に取る場合 (2010年9月18日追記)

 2.や3.で用いた公式を導く際に視差rをx軸に沿った方向で議論しました。ところが、その視差rを、その図におけるxy平面に垂直な方向、つまり下図のz軸の方向に取った場合には水中の物体の虚像の位置が変わります。

 視差rを上図の様に取れば、幾何光学的に考えれば物体の虚像はO”の位置にできます。なぜならOから目のレンズの方向へ出た光は、図の平面πまたはπ’の中を進むのは明らかです。そのため屈折光SAあるいはS’Bを水中にのばした直線SA’SB’は図のy軸上の点O”の位置で交わります。そのため、水中の物差しは前方にせり出す事なく、単に水面の方向に垂直に縮んで見えることになる。

 何故このように違った結論が出るのかというと、結局これはレンズ光学で言うところの“開口収差”の一種が起こっているのだと思います。図のABの距離が眼球レンズの光が通る範囲(瞳孔)の直径だとすると、O点からの光で眼球に入る光は水面上のある広がりを持った範囲(x軸方向にもz軸方向にも広がっている)からの光が入ることになります。そのため点Oの虚像ができる位置は下図のO’からO”の範囲に広がってしまうことになります。つまりぼやけてしまうわけです。開口収差は曲面レンズのみならず、平面の境界面でも生じます。

補足説明1(2023年10月20日追記)
 
 後の5.(3)[補足説明2](2023年10月20日追記)で説明する様に、そこのFig.2の “レンズ口径” R’T あるいは RT’“目の瞳孔の直径”と考えると、上記の点Oの虚像ができる位置(上図のO’からO”の範囲)に於けるぼやけ方に付いて更なる情報が得られる。
 
 そこの議論から明らかな様に、虚像がもつともハッキリ見えるのは上図のO’の位置(ただし虚像は横に滲む)で、次に良く見えるのは上図のO”の位置(虚像は縦に滲む)であり、その間の中心付近が最も像がぼやける事がわかる。

 もちろん、ここまでの説明は全て片目で見た“片眼視”の場合です。“両眼視”した場合については5.(3)で説明します。

 

)反射率と透過率

 3.(2)〜(4)の図を比較してもらえば明らかなように、視点を水面近くに持って行くと物差しの水面に近いところが集中的に短くなり消えて行きます。しかし、次に説明する理由により、その様子を確かめるのはきわめて難しい
 このHPで説明したいのはまさにその点なのですが、この事を実際に目で確かめるのは非常に困難です。そのわけは透過光の透過率と反射光の反射率が入射角度によって変化するからです。

 上図に示すように水中から水面へ入射する光線の場合、入射角が全反射の臨界角に近づくと透過光線はほとんどゼロになり見えなくなります。逆に空気中から水中へ入射する光線の場合は、入射角が90°に近づくと、そのほとんどが反射されてしまいjます。

 そのため水中に沈めた物差しの水面下すぐの部分を水面すれすれの方向から見た場合、反射光に遮られてほとんど見ることはできなくなります。つまり像が薄くなり消えてしまいます。
 厳密な事を言えば、別項「ブルースター角(偏光角)」で説明したように、偏光角が変われば反射率、透過率は変わりますから、本当はもっと複雑です。

 以上に述べた理由で、片目で見た場合に特に前方にせり出して見えるはずの部分を明瞭に見分けることはきわめて難しい。そのため、片眼で点Oを見た場合に、その虚像がO’からO”の間の何処にあるのかはほとんど区別することはできないでしょう。また片眼視では立体視ができませんので、その意味においても像の前後の関係を感じ取ることはできないでしょう

 

)両眼視と片眼視

 以上の話は全て、片目をつぶって一方の目だけで見た場合の話です。ところが、一般の場合には両眼で見て立体視を実行します。つまり視差rは片眼の瞳孔の直径に関係するのではなくて、両眼の距離に関係することになります。その場合、左右の目の位置に基づく視差に比べて、顔の立て方向の視差(つまり瞳孔の上下方向の直径に基づくもの)はほとんど無視できます。
 だから、顔をまっすぐ立てた状態の両眼で見た場合には、視差rは水平方向ですから、Oの虚像は、その垂直真上O”の位置に見えることになります。
 つまり、両眼を水平に配置して水中に垂直に立てた物差しを見る場合には、上に記した2.、3.、4.の全ての場合で、その虚像は物差しが垂直方向にのみ縮んだ様に見えて、決して前方にせり出しては見えない。その訳は両眼に入る空気中の屈折光を水中方向へ真っ直ぐに伸ばした線が交わる点は全てy軸上の点となるからです
 もちろん、頭を傾けて左右の目を垂直に配置させる見ると、虚像は手前にせり出して見えてくる

 結局、両眼視片眼視かの区別を曖昧にしたこと、片眼視でも“開口収差”や反射率・透過率を詳しく説明しなかったことによって生じた混乱でした。至らないところがあったことをお詫び致します。
 私事ですが、私は子供の時の事故で左目を失明しています。そのためこのHPの結論を片眼視でしか確かめる事ができませんでした。両眼視した場合にどのように見えるかまで考えが及ばなかった事に恥じ入ります。

 

補足説明1](2012年6月17日追記)
 以下の追記は以前連絡して下さった中学校の先生からの追加の御指摘です。感謝!
 その指摘とは、「水中の物体を両眼視するとき、両眼の配置を水平と垂直の間の角度にすると、両眼に入射する光線が、水中側の延長線上で交わらず、交差してしまう。そのため開口収差には虚像の結像位置の前後の広がり以外に光線が交わらないことによる虚像のぼやけも生じる。」というものです。
 確かにご指摘の通りでして、この当たりの事情は下図を検討していただければ了解していただけると思います。

補足説明2](2023年10月20日追記)
 本節に関係して、読者(森谷東平氏)から貴重な事柄を教えて頂きました。それは、
 
1.上図のO点の光源が強烈な輝度をもつ点光源(金属球に強い光を当てたときの反射光の様な)場合
2.上図の観測者の
両眼視の間隔程度の口径を持つレンズからなるカメラ(あるいは望遠鏡)を用いる場合。
 
 下図の様な状況となり、A点で縦向きに、B点で横向き広がったO点の像が強く表れる。AB間の部分での像は弱くあたかもAとBの二箇所にO点の像が表れる様に見えるというものです。その様に見えることは下図を検討すれば了解できます。

 上図は森谷氏の論文のOpen Preprintの
https://preprints.opticaopen.org/articles/preprint/
Location_of_the_virtual_image_for_an_underwater_object_observed_at_oblique_angles/24228625
から引用しました。このページには上記以外にも興味深い記述がありますのでどうぞご覧下さい。
 さらに森谷氏から、この事柄は
  Jearl Walker著“The Flying Circus of Physics with Anssers”
に載っていること、そして、この日本語訳
  ウォーカー著(戸田盛和、田中裕訳)『ハテ・なんだろうの物理学』(培風館1970-1980)
があることも教えて頂きました。感謝!
 
 このことに関する重要な応用について、5.(1)[補足説明1](2023年10月20日追記)もご覧下さい。

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