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α線とβ線の発見(ラザフォード1899年)

 ラザフォードが放射性物質が出す放射能に二種類ある事を見つけた方法を説明する。(これは彼が英国を離れてカナダのマギル大学に赴任(1898年9月)する直前に、キャベンディッシュ研究所で行われた。)

Philosophical Magazine, (5)47, p109〜163, January, 1899年
(この論文の入手はこちらhttp://www.chemteam.info/Chem-History/Rutherford-Alpha&Beta.html)

 ラザフォードは下図の電離箱の中にウラニウムを置き、それを覆うアルミ箔の厚さを増しながらこれを通過してくる放射線の量を象限電位計で測定した。
 電離室にはA、Bの二つの電極があり、Bは大地に対して電池Eにより高電圧(50V)に保たれている。いまBの上に放射性物質を置くとAB間の空気を電離する。放射線が空気を構成する中性分子から原子内の電子をたたき出して陽イオンと電子に分離する。電子はすぐに他の中性分子に取り付いて陰イオンとなる。電離された正負のイオンはAB間に存在する電場により、どちらかの極板に移動する。そのため電気的に絶縁してある極板Aに徐々に電荷が貯まってくる。貯まってくる電荷の蓄積速度を象限電位計によって測定した。(象限電位計については別稿「ラザフォードとソディの放射性変換説(1903年)」3.(2)と「絶対電位計と象限電位計の測定原理」参照)
 Aに電荷が蓄積していく速度から放射能の強度を測定できる。

 彼は、最初厚さ0.005mmのアルミ箔を重ねてゆき(α線用)、後に厚さ0.23mmのものに変えて(β線用)通過放射線量を測定した。象限電位計Cの振れの増加率からアルミ箔を貫通した放射線の強さが知れる。
 測定結果をアルミ箔を被せない場合で規格化した。横軸をアルミニュウム箔の厚さにし、縦軸を放射線強度の対数値でグラフにしてみると下図の様になる。

これは見事な結果で、グラフより明瞭に

  1. 約0.005mm通過するごとに半分に弱まる放射能
  2. 約0.4mm通過するごとに半分に弱まる放射能

の二種類の放射線が存在することが解る。ラザフォードは前者をα線、後者をβ線と名付けた。

[補足説明1]
 1900年には様々な人々(ギーゼルなど)によ放射線に対する磁場の影響が調べられた。とくにP.Curieは、磁場によって曲げられるものと曲げられないものとに放射線を分け、前者は透過能大、後者は小であることを確認した。さらにM.Curieと協力してβ線だけを金属板に受け、それが負電荷を運ぶ事を証明した。同じ年にBecquerelはβ線の比電化e/mを測定して、それがトムソンが発見した電子と同じであることを確かめ、β線が電子からなることが確立した。
 これらの結果からCurie夫妻は、従来全ての電荷は物質に結びついていることを指摘し、ラジウムは負に帯電した物質粒子を連続的に放出しているのではないか、従って物質粒子の放出が放射能に他ならないと述べ、そうならば元素原子は不変ではあり得ない事を示唆した。それを確実なものとしたのがラザフォードとソディの研究で、別稿「ラザフォードとソディの放射性変換説」で説明するものです。[広重徹「物理学史U」p48or120より]

[補足説明2]
 放射性物質から放射される第三の放射線であるγ線の発見はヴィラール(1900年)による。ヴィラールは放射線の飛跡の写真から、電荷を持たず、透過力の高い3番目の種類の放射線の存在を発見した。
[P.Villard, Comptes Rendus, 130, p1010〜1012, p1178〜1179, 1900年]

  この放射線を“γ線”と名付けたのはラザフォード(1903年)です。ラザフォードがその様に名付けたのは、ドイツの物理学者ゲルハルト・シュミットがトリウムとその化合物も放射線を出していると報じると、ラザフォードは、その放射線をアルファ線およびベータ線と比較してみた。すると、トリウムの放射のほうが箔を透過する力が大きかったため、ラザフォードは、「より透過性の高い種類の放射線が存在する」と結論した事に由来する様です。(マンジット・クマール著「量子革命」p111より)
 
 “γ線”はX線の様に透過性の強い一種の電磁波と考えられたが、その実験的な証明は技術的な困難のために容易には得られなかった。
 1914年にラザフォードとアンドレードは、ブラッグによって始められた結晶によるX線の波長測定法を用いて、初めてγ線の波長を測定した。そうしてγ線が波動であることが実証された。
E. Rutherford,,E. N. da C. Andrade, Phil. Mag. 27, p854〜868, 1914年、さらにPhil. Mag. 28, p263〜273, 1914年も参照されたし。これらの論文は下記URLからダウンロード可
http://onlinebooks.library.upenn.edu/webbin/serial?id=philosmag

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