HOME   電磁波の伝播 .マクスウェルの方程式  2.電荷保存則  3.金属の誘電率.)  印刷用バージョンへ

マクスウェルによるアンペールの法則の拡張

(1)マクスウェル方程式

 SI単位系でのマクウウェルの方程式[E-B対応、電流による磁場定義]

と表現されるが、この中で(4)式中のがマクスウェルが付け加えたものです。

[補足説明]
 ここに掲げた(1)〜(4)の式は、電媒質、磁媒質、導電媒質中などの物質中でも成り立つ式です。そのときEやBは電荷や電流に力を及ぼす場の成分として定義され、DやHは電荷や電流が生じる(物質中を含めて)場の成分として定義されている。EとD、BとHはもともとそれぞれが独立に定義されているものです。これらの関係については別稿「電磁気学の単位系が難しい理由」1.(3)4.5.(3)2.の[補足説明]や、こちらの関係図を参照して下さい。

 

HOME   電磁波の伝播 1.マクスウェルの方程式  .電荷保存則  3.金属の誘電率.)

(2)電荷の保存則とマクスウェル方程式

 (4)式は、電流密度 j の定義から当然成り立つべき式(連続の式)

を考慮すれば必然の結果である。
 なぜならdiv(rotH)=0は常に成り立つので(4)式の両辺のdivを取ると

となり(5)式の電荷の保存則が得られる。このことから明らかなように、(4)式にはの項を付け加えておかねばならない。

補足説明1
 (3)式は(1)式に現れる電荷と違って磁荷というものが存在しないと言っている。そのため(2)式の中には(4)式の電流 に相当する磁流というものは現れない。もし磁荷が存在したら、磁荷の保存則が成立するためには(2)式中に磁流の項を付け加えておかねばならなくなるはずである。

補足説明2
 上記で説明した様に“電荷保存則”(5)式“Maxwell方程式”(1)、(4)式からの必然的な結果として導けました。つまり(5)式は(1)、(4)式の中に含まれています。
 このことは特殊相対論的に説明するともっと明確になります。別稿「電磁場の非同次波動方程式」2.(1)2.[補足説明1]で説明していますので参照されてください。

 

HOME   電磁波の伝播 1.マクスウェルの方程式  2.電荷保存則  .金属の誘電率(1..)

(3)導体中におけるマクスウェル方程式

.電場や電荷の消失緩和時間

 導体中に於いてはオームの法則が成り立つ。これは電流密度とその場所における電場が

の関係で結びつけられるという実験式・経験式である。これを(4)式に適用すると

となる。この式にdiv(rotH)=0を適応すると

この微分方程式の解は

となる。これは導体内に電場あるいは自由電荷が存在したとしても、緩和時間Tr=ε/σ(秒)程度で消失してしまうと言っている。電荷の保存則から考えて電荷が消失するというのは変な言い方であるが、要するに薄く散らばってしまうと言うことである。電荷の存在する場所の電位は高くなり、そこから周囲に向かう電場が生じるが、その電場からの力を受けて電荷は四方に散らばってしまう。簡単に言えば電荷は互いの反発力で瞬時に散らばってしまう。メカニズムは異なるが、ちょうど高く積もっている砂山が摩擦が無かったら重力のために崩れて薄く広がるのと同じようなものである。

 

HOME   電磁波の伝播 1.マクスウェルの方程式  2.電荷保存則  3.金属の誘電率.)

2.導体(金属)の誘電率

  前節の議論に於いて、例えば銅の導電率はσ=5.8×107/Ωm程度であるが、銅の誘電率εは幾らなのだろうか?
 高校では誘電率について下記の様に習う。



 この説明を導体に適用すれば明らかなように、金属の場合外部からの電場を完全に打ち消すまで金属内で電荷の分離が生じる。そのため図中の電荷の面密度σ"はσ'(導電率のσと混同しないこと)と同じになるまで増大する。そのため比誘電率εrの定義式の分母が0になり、静電気的には金属の誘電率は無限大となる。
 しかし、一般の誘電体の誘電率が外部電場の周波数により変化するように、金属の誘電率も変化するはずだ。実際の金属の導電率σは無限大ではなくある有限の値(抵抗率ρ=1/σは0ではない)である。つまり j =σEのオームの法則から明らかなようにσが無限大ではないので、Eが存在しないと電流は流れない。だから時間的に変動する電場や、外から定常的に電位差が加えられている金属内には電場が存在し、その場合には有限の誘電率となるはずだ。
 つまり電荷の移動が電場の変動に追従できないから有限の誘電率になるわけである。だからここでの議論のように電場が消滅、あるいは電荷が散らばるにもある有限の時間が掛かる。そして電場のエネルギーは熱エネルギーとなって散逸する。その時間が上記の緩和時間T程度である。だから金属の誘電率εは実際に観測される緩和時間Tと導電率σをT=ε/σに代入して導かれる程度の値を持つであろう。良導体金属の緩和時間Tは1秒に比べて遙かに短いから、例えば銅の場合その導電率σ=5.8×107/Ωmより、遙かに小さいはずである。しかし真空の誘電率ε0=8.854・・・×10-12F/mに比較したらはるかに大きく、その比誘電率εrは無限大だと考えても良い値のはずである。

 

HOME   電磁波の伝播 1.マクスウェルの方程式  2.電荷保存則  3.金属の誘電率.)

3.マクスウェル方程式に導入されたオームの法則

 前項2.の議論から明らかなように金属の誘電率は導電率と密接な関係を持つはずである。実際の金属の導電率が無限大ではなくて有限だから、誘電率も無限大ではなくて有限なのだ。
 完全導体に於いては導電率は無限大で、誘電率も無限大だから当然電場や電荷は存在できずにマクスウェルの方程式は意味を成さないマクスウェルの方程式が意味を持つと言うことは金属内に電場が存在できることである。存在できることは有限の導電率であり、有限の誘電率であることだ。有限だからこそ、導電率により電場と電流密度を結びつけることができる
 以上の様に考えれば、本来根元的な法則と考えられるマクスウェルの方程式に、なぜオームの法則のような経験則・実験則(巨視的な電流に対してのみ成り立ち、原子レベルや電子管などでは成り立たない)を代入しなければならないのかも納得できる。それ以外にやりようが無いのである。やむを得ない便法ではあるがオームの法則を導入すれば、とりあえずマクスウェルの方程式を導体にも適応できるようになる。そして、導電率σという新たに物質に関係した定数が入り込んでくる。もちろんその為に電気エネルギーは熱エネルギーとなって消えていく。オームの法則がそのことを意味することの説明は別稿「オームの法則」4.(1)を参照されたし。

HOME   電磁波の伝播 1.マクスウェルの方程式  2.電荷保存則  3.金属の誘電率.)  印刷用バージョンへ