HOME  .マイヤーの関係式  2.熱の仕事当量  気体の断熱変化  サイトマップ

 このページを鮮明に印刷されたい方はこちらのバージョンをご利用下さい。

気体のモル比熱(マイヤーの関係式)

1.マイヤーの関係式 −C=R

 理想気体において、定積比熱と定圧比熱の間に成り立つ重要な関係式−C=R (定圧モル比熱−定積モル比熱=気体定数)を、理想気体のPV曲線を利用して証明する。

 理想気体では絶対温度が等しい B と C における“内部エネルギー”は等しい(これは、2.で述べる“ゲーリュサックの実験”から言える事です)。だからA→Bの内部エネルギーの変化ΔUV=一定とA→Cの内部エネルギーの変化ΔUP=一定は等しい。故に

が得られる。(2)式は“マイヤーの関係式”(Mayer's relation)と言われる。

 (1)式の導き方を検討すれば解るように、(1)式の左辺は【気体に加えた熱量の差】を表し、右辺は熱量を加えられた【気体が外部に対してした仕事】を意味する。そのとき《気体の体積は変化するが、ゲーリュサックの実験から、気体の内部エネルギーは温度が変わらなければ変化しない事が解っている》ので、左辺の気体に加えられた熱量差がすべて右辺の仕事に変わったことになる。その為この関係式は“熱の仕事当量を求める関係式”になる。次章2.でその事を説明する。

 

HOME  1.マイヤーの関係式  .熱の仕事当量

2.熱の仕事当量を得るマイヤーの方法(1942年)

 Julius Robert von Mayer(独 1814〜1878年)は1842年に、前章で求めた(1)式の関係を用いて、熱の仕事当量を求めた。高校生はJames Prescott Jouleの、重りにより羽根車をまわして水をかきまわす、熱の仕事当量測定実験(1847年)を習うが、Mayerの方法はこれに先行しています。
 Mayerはゲー・リュサック(仏)が1806年(1807年印刷)に得ていた“気体の真空中への噴出(仕事をしない)では温度が変化しない”という結論を出発点とした。

 ゲー・リュサックの実験とは上図の容器Aに気体を詰め容器Bを真空にした状態でコックを開き気体をBの中に拡散させ、そのときの温度変化を測定するものです。その結果は、温度変化がまったく起こらないという驚くべきものだった。(この実験の詳細に付いては別稿「絶対温度とは何か」4.(1)1.も参照されたし)
 この実験結果に対して、マイヤーは、『真空中での膨張では外部に対して仕事をしないし、もちろん外部との熱のやり取りもしない。だから、気体の持つ“内部エネルギー”は体積や圧力が異なっていても変化しない。このとき、温度が変化しないと言うことは、その事を表している。』と考えた。
 このことから、マイヤーは更に次の様に考察を進めた。
 『ゲーリュサックの実験は、気体は圧力に抗して膨張するときだけ、言い換えると仕事をするときだけ、温度の降下を受けることを証明している(これは“理想気体の内部エネルギーは温度だけの関数”という言い方をされる)。だから定圧比熱と定積比熱の違いは気体が外界に対してなした仕事の量そのものだ。』
 そのため、前章1.の(1)式は、“熱”“仕事”“当量関係”を表している。すなわち

の A が熱の仕事当量を表す。

補足説明1]  計算例
 今日解っている値を用いて“熱の仕事当量”を求めてみます。
 1m3(1気圧)の空気を一定体積のもとで 0℃ から 1℃ 暖めるのに必要な熱量は Q定積=217.2cal です。もちろんこのとき圧力は少し増大します。
 一方、1m3(1気圧)の空気を一定圧力のもとで 0℃ から 1℃ に暖めるのに必要な熱量は Q定圧=306.4cal です。このとき空気は 1m3 から (1+1/273)m3 へと膨張する。
そのため
 定圧変化と定積変化の熱量差= Q定圧 − Q定積 =306.4−217.2=89.2[cal]・・・・・・(3)
が得られる。
 
 一方、
 定圧変化で気体が外部に対してする仕事=ピストンに働く力×ピストンの移動距離
                         =圧力×ピストンの面積×ピストンの移動距離
                         =圧力×膨張した体積
                         =1.013×105[N/m2]×(1/273)[m3
                         =371[J]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
となる。
 
 そのため (3)=(4) より 1[cal]=4.2[J] が得られる。

補足説明2
 歴史的な補足をします。マイヤーの論文『無生物界の《力》についての考察』(1842年)の英訳版を別稿で引用しています。マイヤーはこの論文で“定圧比熱と定積比熱の違いは、仕事に関係する”として、実際に“熱の仕事当量”(今日の言い方で3.58J/calに相当)を導いています。しかし、その計算過程の詳細を記していないのでその計算論理を理解するのは難しいです。
 本稿で説明したその計算メカニズムの詳細(ゲーリュサックの実験結果を含めて)を記しているのは1845年論文『有機体の運動と物質代謝とその関係』においてです。
 そのため、1842年段階のマイヤーの理解はまだ不十分で曖昧なものだったのかも知れません。その当たりは別ページで引用しています山本義隆著『熱学思想の史的展開』第22章X“普遍定数としての熱の仕事当量”の解説がとても解りやすいので是非ご覧下さい。

HOME  1.マイヤーの関係式  2.熱の仕事当量  気体の断熱変化  サイトマップ