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重陽子破壊実験による中性子質量の測定

 前記1932年の反跳原子の運動エネルギーから中性子質量を測定する方法では、衝突する中性子が持つ運動エネルギーが測定できないので高精度の測定は望めない。
 そこでチャドウィック、フェザー、ブレッチャーらはエネルギーの解っているガンマ線(2.62MeV)により重陽子を陽子と中性子に破壊する実験から中性子質量を求めた。この過程は一種の光電効果である。

 陽子と中性子はほぼ等しい質量を持つことは解っているので、静止していた重陽子(熱運動による運動は核反応に伴う運動に比べて無視できる)がγ線のエネルギーを吸収して光電効果により同質量の二つの部分に分裂した場合、多数の測定値を平均すると両者の持つ運動エネルギーはほぼ等しくなるといえる。
 γ線の入射方向に垂直な方向の陽子と中性子の運動量成分は大きさ等しく向きは逆といえるが、γ線の入射方向の成分に関しては陽子と中性子の運動量の和がγ線の持っていた運動量になる。入射ガンマ線が運動量を持つために、個々の分裂に関しては陽子と中性子に等しく運動エネルギーが分配されるとはいえない。しかし多数の崩壊のエネルギー分配値を平均すると等しく分配されることが言えるであろう。実際の観測値から計算してみると分裂後の核子がもつ運動量の大きさは最初にガンマ線が持っていた運動量の7倍程度になるので運動エネルギー分配の変動は、最大でその値の3割程度。
 中性子を観測することはできないが、陽子は荷電粒子なので、そのエネルギーを測定することができる。その平均値は0.18MeVであった。だから分裂後の運動エネルギーの総和は0.18×2=0.36MeVとなる。
故に重陽子中の陽子と中性子の結合エネルギーはエネルギー保存則から
  0.36MeV−2.62MeV=−2.26MeV
となる。アインシュタインの質量とエネルギーの関係式E=mc2を用いて、これを原子量と同じ単位amu(atomic mass unit)を用いて表すと1amu=931.5MeVであるから0.00243amuとなる。

 重陽子や陽子は荷電粒子ゆえに、当時その質量はかなり正確に測定されていた。それらのamu単位での値をもちいると中性子の質量として
  (重陽子の質量+0.00243)−陽子の質量=1.0085 amu
が得られた。これは当時知られていた
  陽子質量+電子質量=水素原子質量=1.0081 amu
よりも大きかった

 ちなみに現在解っている核子・原子の質量(単位amu)は以下の通りである。原子核質量は原子の質量から電子質量×原子番号を引いたものにほぼ等しい。(原子核と電子の結合エネルギーの質量欠損は無視できるくらいに小さいから)

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