星のスペクトル型とHR図について基本的な考え方の説明です。鉛筆書きは、地学授業ノートからです。
現在の分類記号の元になっているアルファベットA,B,C,D,・・・・の由来は、ハーバード分類の基礎をつくるのに貢献したフレミング(Williammina Paton Fleming, 1857〜1911年)の分類型記号にあります。しかし、後にC,D,E,H,I,L,・・・・などは区別する根拠が明確で無いと言うことでフレミング自身が削除して現在の記号の部分(A,B,F,G,K,M,N,O,R,S)が残ったのです。
残ったスペクトル型記号を上記の形に並べ直して分類・整理して今日の記号体系を確立したのは、ハーバード天文台長のピッカリング(Edward Charles Pickering,1846〜1919年)とフレミングの後を引き継いで恒星観測データの整理・記録をしたキャノン(Annie Jump Cannon,1863〜1941年)です。
いずれにしても、スペクトル型の分類記号については紆余曲折の歴史があります。この当たりは文献1.小暮智一著「現代天文学史」京都大学学術出版会(2015年刊)第2章で詳しく説明されていますので御覧下さい。
[補足説明]
星の明るさを表す“光度等級”には、別稿「コンパクト星(白色矮星)発見物語」3.で説明した様に、様々な種類があります。その定義の違いは、星からの光の観測波長(光りの色)の違いに密接に関係しています。
だから光度等級のUバンド等級、Bバンド等級、Vバンド(実視)等級、輻射等級の違いと、星の“スペクトル型”のO,B,A,F,G,K,M,R,N,S型の違いを混同しないで下さい。
スペクトル型の違いは、プランクの熱輻射法則に従って、光を放射する星の表面温度の違いを反映しています[下右図参照]。
そのとき、星の表面温度の違いは星の大気中に含まれる種々の原子、イオンによる光の吸収の様子を変化させます。そのためスペクトル中に現れる吸収線の変化が温度(スペクトル型)の違いを反映しますので、吸収線のスペクトルの違いでスペクトル型(星の温度)の違いが判別できる[下左図及び1.(3)を参照]。
さらに、吸収線の様子は星の表面温度のみならず星を構成する物質によっても変化しますので、同じ表面温度でもスペクトル型に違いが生じる場合が在ります。例えばK型とR型の違い、M型とN型、S型の違い、等々・・・[1.(2)2.参照]。
上右図については別稿「光りと絵の具の三原色」4.(3)の下図と比較されたし。また、図中の水素の吸収線Hα〜Hδについてはこちらの図を参照。
水素の吸収線についてはこちらを参照。
以下に示すように、スペクトル吸収線の線幅や複数の線の強さの比の違いから光度階級の違いが判別できます。これは同じ温度(同じ色)の星でも、その絶対的な明るさの違いがスベクトル吸収線の形状の違いに反映するからです。つまり、スペクトル線を詳しく解析することで、その星の絶対等級が推定でき。
図中の水素の吸収バンドHα〜Hδの位置に付いては先ほどの図および水素の吸収線を参照。
以下の(2)〜(4)節は、小暮智一著「現代天文学史」京都大学学術出版会(2015年刊)のp184〜208から引用した。
[補足説明]
上記の固有運動や視線速度などから星の絶対等級を推定については別稿「」を参照
このヘルツシュプラングの考察はケフェウス型変光星による距離測定の先駆けとなった。
HR図の縦軸の“光度(実視)絶対等級”については別稿「コンパクト星発見物語」3.(2)を御覧下さい。
[補足説明1]
普通のHR図の縦軸は“実視絶対等級”にしてありますが、これを輻射補正した“輻射絶対等級”にすれぱ、縦軸を星の半径に関係させる事ができます。このことは、別稿「コンパクト星発見物語」4(1)の(5)式から言える事です。そこの絶対温度Tは横軸の分光型に対応しますので。
もちろんそのときには主系列星とそれから外れた赤色巨星や白色矮星では、元が同じ実視絶対等級であっても、スペクトル型により輻射補正値が異なりますから、それに応じてプロットされる輻射絶対等級縦軸の位置が変化してきます。
[補足説明2]
HR図を描くためには絶対等級知る必要があります。実視(見かけの)等級から絶対等級を求めるためには、その恒星までの距離を知る必要があります。その距離を知るのは年周視差の測定が最も基本ですが、年周視差による方法が使えないより遠くの恒星の距離を測るには幾つかの方法があります。
[補足説明3]
いずれにしてもHR図に描かれている恒星はすべて何らかの形でその星までの距離が解っているものです。その中には連星系をなしているものも多いので、その連星系の公転軌道から別稿「コンパクト星発見物語」4(2)[補足説明2]で述べた方法により、その星の質量を知ることができます。
その様にして、HR図上の主系列星の星々に質量を割り当てれば、主系列星の星々に関しては星の質量の変化関して、その大きさ(半径)、光度、表面温度がどのように関係するのかが解ります。その様にして得られる関係式は星の内部構造や星の進化を論じる理論の検証の基礎的なデータを与えます。
事実、主系列星の星々についてエディントンは質量と光度の関係を与える式を始めて理論的に導く事に成功します。実際のところ、ラッセルはエディントンの業績を高く評価しています。
また、HR図の主系列星の右上を占める星々の関しては、星の誕生と星の終末が関係する星の進化について重要な情報を得ることができます。
[補足説明]
ラッセルの “HR図から星の進化過程が解明できる” という着想はすばらしいのですが、残念ながら彼の進化論は正しくありません。
星のHR図と星の進化の関係の解明には、3.(3)3.[補足説明3]のエディントンの考察や、更に量子論、原子核物理学の発展が必要でした。
[補足説明1]
星の進化 横尾1 p95
白色矮星はジャンプ そのご右斜め下へ変化していく。冷えると共に暗くなる。
HR図が考案された初期段階から、主系列星と言われる星の並びと、それから外れた星々の分布が注目された。そのとき、主系列星を構成する星は星の進化の過程で比較的長くその状態を保つ故に、HR図の中の特定な場所に集中して配列していると考えられていた。
ならば、その主系列星から外れた位置にある星々は、その主系列星に至る前段階の若い星か、進化の過程の最終段階にある年老いた星ではないかと推測された。
その意味に於いて、主系列星の発見、そして、HR図右上の広範囲に存在する赤色巨星、赤色超巨星の発見、さらにHR図左下の限られた領域に存在する白色矮星、後にそれに続く右下に連続的に分布していることが解る褐色矮星の発見は極めて重要です。
HR図上に置ける星の光度や温度(スペクトル型)の変化は星の構造と星の進化と密接に関係しており、そのHR図上での観測結果は、星の構造と進化についての理論の検証に不可欠です。