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アルキメデスの原理(浮力の説明)

アルキメデスの原理“流体中の物体は、物体が排除した流体の重さに等しい浮力を受ける。”を証明します。

1.簡単な証明

 証明にはパスカルの原理“流体中の面に働く力(圧力)は必ず面に垂直である”が必要です。パスカルの原理とは静止流体中においては、面に沿った方向の剪断応力が発生しないということの別表現です。

 流体は何でも良いのですが、簡単のために水中に沈めた物体に働く合力を考えます。物体の表面には水の圧力が働きます。その合力を抜き出すと下中図の様に成ります。それを平行四辺形の法則に従ってベクトル合成したものが下右図の赤矢印です。これが物体に働く“浮力”です。

 次に物体と同じ体積の仮想的な水の塊に働く圧力の合力を考えます。当然のことながら仮想的な水の塊の水中での位置と形状は上記の物体と同じにしていますので、仮想水塊の表面に働く圧力は上記の物体表面に働く圧力と同じです[下中図参照]。

 このとき、仮想的に考えている水塊に働く圧力の合力は上右図の赤矢印で、これが水塊に働く“浮力”です。これは当然前図の物体に働く“浮力”と同じです。
 ところで、水塊は水中で静止していますので、その“浮力”は水塊に働く“重力mg”と釣り合っており、その大きさは重力と等しく方向は逆になっているはずです。
 すなわち、“物体に働く浮力は、物体が占めている部分を水に置き換えたとき、その水の塊に働く重力と同じになる。”これがアルキメデスの原理です。

[補足説明]
 この証明法は、マックス・プランク著、寺澤寛一、久末啓一郎共訳「理論物理学汎論 第一巻 一般力学(第3版)」裳華房(1928年刊 原本の初版は1916年刊です。)に載っているものですが、この証明法を知ったとき、まさに目から鱗が落ちる思いがしたのを覚えています。 

 

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2.別証明

 同じことですが、数学的に証明してみます。まず水中にある物体を下左図のような無限に細い柱状の領域に分割する。分割された柱状領域の間に無限に細い隙間があり水がその中に侵入していると考える。そうすると下中図の様な柱状物体が単独で水中に存在する場合のつり合いを考察すればよいことになる。
 さらに、その柱状物体のA点とB点の三角領域を下右図の様に切り分けてその隙間に水が侵入していると考える。つまり下右図の状況を考察する。

 A点に存在する三角領域の各面は同じ深度dAだから同じ圧力pAが働く。そのとき
圧力は単位面積当たりの力だから、各面に働く力はpAに各面の面積を乗じたものになる。そのため、各面に働く三つの力のベクトルpAa、pAb、pAcの合力はゼロとなります。このことは三角形の合同関係を用いれば簡単に確認できる。結局、無限に小さな三角領域に働く力の合力はゼロとなる。そのため、この部分の寄与を無視できます。
 全く同様にして深度dBの領域の微少三角領域に働く力の合力もゼロとなり、この部分の寄与は無視できます。

 最初に、微少断面積sの角柱(長さL)についてアルキメデスの原理が成り立つことを証明する。角柱の側面に働く圧力は角柱の反対面に働く圧力と釣り合って打ち消し合うので、浮力は角柱の上面と下面に働く圧力の差で表される。
 図のような仮想的な水の柱を考えれば、角柱の上面と下面に働く圧力は、仮想水柱の重力と大気圧の和となる。

 物体全体の排除する流体部分の重力は、各微少角柱が排除する流体の和であることを考慮すれば、アルキメデスの原理が証明できたことになる。

 

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3.圧縮性流体

 前章の議論は密度が一定の非圧縮性流体中での浮力の説明でしたが、密度が深度(高度)とともに変化するような圧縮性流体の場合でもアルキメデスの原理はそのまま成り立ちます。
 その重要な例が、密度が高度と共に変化する大気中の気塊に働く浮力です。流体(空気)の密度が高度zの関数であるとして、前章の議論を繰り返すと以下の様になる。

補足説明
 以上述べたように浮力は圧力PAとPBの差に関係するのであって圧力Pの値そのものではありません。
 厳密に言うと圧力Pが変われば物体の位置の媒質の密度が変わりますから浮力は少し変化しますが、もともと浮力は物体が存在する場所の気圧や水圧の変化にはほとんど依存しません。
 そのことは、潜水艦が潜水深度を変えるのに潜水艦内に水を出し入れしてその重さを変える必要がほとんど無い事を思い出せば了解できます。水中では深度が変われば水圧は大きく変化しますが、浮力はほとんど変化しないのです。

 

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4.アルキメデスの考察

 以下はスティーヴン・ワインバーグ著「科学の発見」文藝春秋社(1916年刊、原典は1915年刊)p65〜66より引用。

 (テクニカルノート9)


 

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