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ワット(James Watt)により定義された馬力単位

 ワットの蒸気機関は、資本家のボールトンとワットが共同で創設したボールトン・ワット社で作られ、1800年頃までには500基以上が生産された。38%が揚水用のポンプ動力として、残り62%が回転式の産業用動力(大半が繊維産業向けで、その他圧延、製粉などに)として使われている。ワットは蒸気機関を市場に売り込むために、その性能を評価する必要から馬力という単位を用いた。

 人類は、古くから馬を使って作業していたから[ホースパワー(horse power)馬力]の単位は自然発生的に生まれている。
 トーマス・セヴァリーは最初の蒸気動力ポンプと言える「火カエンジン」を発明した。これは蒸気缶で発生した水蒸気の圧力と、水蒸気を貯めた容器を水で冷やし凝縮させたとき生じる真空を交互に用いて水をくみ上げるポンプであるが、セヴァリーは彼の蒸気ポンプの能力を評価するのに、それまで使っていた馬の数と比較して彼のポンプが馬何頭分に相当するかを用いた。しかしこれは物理学的には厳密な定義とは言えない。
 その後、ニューコメン型のエンジンを精度よく作り、性能を上げたジョン・スミトーンは、1馬力を[毎分、重力に逆らって1フィート(30.5cm)の高さに、22916ポンド(約10トン)の重さを持ち上げる仕事]とした。そのほかにいろいろな表現が使われたが馬力単位の混乱に終止符を打ったのは、ニューコメンの蒸気機関を改良して実用的蒸気機関を造り、沢山販売して成功したジェームス・ワットである。

 ワットは幾つかの実験をして[平均的な馬は1分間に120ポンド(約54.4kgf=54.4kgw)の重さの物体を、196フィート(約59.7m)の高さに持ち上げることができる]とした。また、その運動を持続できる値はそれより低い21952フィート・ポンドだと結論した。彼はエンジンを買った人が後で不満を言わないよう、この数値の50%増し(つまり1.5倍)の値、すなわち1分間に33000フィート・ポンド(約4562kgf・m=kgw・m)の割合で仕事を遂行していく場合を1馬力とした。これがいわゆる馬力単位の起源である。
 その定義から明らかなように、馬力の次元は今日仕事率と言われるもの[kgm2/s3]に相当する。そのため、後に仕事率単位の呼称を決めることになったとき、ジェームズ・ワットを記念して1kgm2/s3=1W(ワット)という呼び方になった

 ワットの定義した馬力は英式馬力HPhorse power)と呼ばれ、1分間の仕事量は前述のように33000フィート・ポンドである。これを毎秒に直すと、550フィート・ポンド(約76.04kgf・m=kgw・m)となる。つまり1HP=76.04kg×9.8m/s2×1m/s=745.7kgm2/s3となる。
 なお、メートル単位としてはメートル馬力または仏馬力が使われ、PSPferdesta¨rke(ドイツ語で”馬の力”)で表わされる。1PSはワットが定めた馬力に近く、しかもきりの良い値として1PS=75kgf・m/s=735.5kgm2/s3とされた。従って英式馬力と仏(メートル)馬力は少し異なっていて、1HP=1.0134PS、あるい1PS=0.986HPとなる。 

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