静電単位系と電磁単位系でそれぞれ測定した1単位の電気量は電磁単位の1単位の電気量の方が静電単位の1単位の電気量の3.0×1010cm/s倍大きいことは良く知られている。これを最初に測定したのはWeberとKohlrauschで1856年のことですが、この値こそ真空中での光の伝播速度で、電磁気学の根幹に関わる定数です。このことは別稿「電磁気学の単位系が難しい理由」4.(1)3.で説明したが、この値は非常に重要な値なので、後に様々な人が繰り返し測定している。
例えばJ. Clerk Maxwell自身も測定して報告(1868年)している。
"On a Method of Making a Direct Comparison of Electrostatic with Electromagnetic
Force; With a Note on the Electromagnetic Theory of Light",J. Clerk
Maxwell,Phil. Trans. R. Soc. Lond. January 1, 1868 158:643-657;
これは彼の著書”Treatise”(1873年)のArt.773で紹介しているものです。
あるいは、1897年の電子線の実験で有名なJ. J. Thomsonもキャベンディッシュ研究所のレーリーの下での修行時代に実験的に求めて発表(1883年)している。
"On the Determination of the Number of Electrostatic Units in the
Electromagnetic Unit of Electricity",J. J. Thomson,Phil. Trans. R.
Soc. Lond. 1883 174, 707-721;
この実験は十分精密であるとは言えなかったようで、後にG.F.C.サールとの共同研究で再度チャレンジしている。それが
"A Determination of "v," the Ratio of the Electromagnetic
Unit of Electricity to the Electrostatic Unit",J. J. Thomson and G.
F. C. Searle,Phil. Trans. R. Soc. Lond. A 1890 181, 583-621
です。この論文の最後で、この時までに様々な人によって得られた測定結果を一覧表にして紹介している。
J.J.トムソンは1884年にレーリーの後を継いでキャベンディッシュ研究所の三代目(初代はJ. Clerk Maxwell)の所長となるが、1891年には、マクスウェルの”A
Treatise on Electricity and Magnetism”(1873年出版)の第三版を刊行する労を取っている。この第三版のArt.777の所で、トムソンによる脚注として上記のG.
F. C. Searleとの共同研究の結果を紹介している。
この表の中の1879年(明治12年)のエアトンとペリー(両名ともケルビンの門下生)の測定は、かれらが工部大学校(東京帝大工学部の前身)の教官として日本に滞在中に行われたものです。
また1880年(明治13年)のShidaとは工部大学のエアトン、ペリーの教え子である日本人の志田林三郎のことで、グラスゴー大学のケルビン(W.Thomson)のもとに留学中の研究成果です[Philosophical
Magazine S.5, Vol. 10,No. 64, Dec. 1880, pp431-436:これはGoogleBooksから無料でダウンロードして読むことができる]。志田は天才と言われる程能力の高い人で日本の電気工学の開明期に多大な業績を残していますが、惜しいことに36歳の若さで夭折してしまいます。
志田論文の概要説明がkaihou197web.pdfのp7〜8に在りますのでご覧下さい。
上記のMaxwellとThomsonの論文はいずれも Philosophical Transactions に発表されているので、その公式サイトhttp://rstl.royalsocietypublishing.org/からダウンロードできる。またMaxwellの論文はGoogleBooksから無料ダウロードできる彼の論文集にも収録されています。
また、1879年Ayrton and PerryのものはPhil.Mag. S.5, Vol.7, 1879,p277〜289に、1889年W.Thomsoのものは彼の論文集第5巻p469〜473に、1889年E.B.RosaのものはPhil.Mag.,
vol.28, 1889, p315〜332にありますが、これらはいずれもGoogleBooksから無料でダウロードできます。