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人類のアメリカ大陸への進出

1.人類の南下経路と時期

 氷河期の最盛期には、蒸発した海水が両極に氷床として固定されるため、海水の量が減少して海水準が低下する。海面が現在より約150m程度下がっていたと考えられている。そのためアジアと北アメリカの間のベーリング海峡は陸続きにになり、4〜1.5万年前頃にパレオ・インディアンがユーコン地方に達した。また1.4〜0.85万年前にはアジアから別の移住があったようだ。北アメリカの西北部に拡散したエスキモーの祖先、アリューシャン列島に定着した古アリュート、ナディーン(北西インディアン)の祖先など。(下左図)  

(1)短期年代説

 最終氷河期の1.5万年前頃、コルディエラ氷床とローレンタイド氷床の間に回廊(Mackenzie Corridor)ができた(上右図)。そのために、カナダのユーコン地方からアメリカ合衆国の北部まで動物が移動できるようになった。この回廊地帯を通って大型哺乳類(マンモス、野牛)や人類が南方に移動した。(下図)

 パレオ・インディアンは、黒い眼と直毛、赤銅色の皮膚、幅広の頬骨、シャベル型の門歯を持っていた。このモンゴロイド系の特徴は現在のアメリカインディアンにも見られる。南北アメリカ大陸に残る遺跡の年代測定値から、彼らは12000〜10000年前の間にアメリカ大陸を南下してほぼ南端に達したと考えられている。
 この説ではマッケンジー回廊が開くのが気候学的に15000年以降であると考えられているので、南下は13000年頃に起こったと考えられている。

 

(2)長期年代説

 近年アメリカテキサス州ゴルト遺跡や、南米チリのロス・ラゴス州のモンテ・ベルデ遺跡などで14400〜14500年代の人類遺跡が発見されている。つまり従来考えられてきたクローヴィス文化で特徴づけられる13000前頃の人類のアメリカ大陸進出よりもさらに1000年以上さかのぼった時代に人類はすでにアメリカ大陸の広い範囲に進出していた事になる。
 しかし、この時代までさかのぼると、前節で述べたマッケンジー回廊はまだ閉じられており南下は不可能です。そこで最近クローズアップされてきた説が、カナダの西海岸沿いに南下したのではないかと言う説です。つまり15000年前以前にカナダの西海岸はすでに氷河におおわれておらず人類の生存が可能になっていた。その証拠が今まで見過ごされてきたのは当時の海岸線が、現在は完全に水没しているからだと言うのです。
 これらの説は、カナダ西海岸の海底泥堆積層での花粉分析(氷河時代の海岸線は現在水中に没している)や現在の西海岸陸地における熊の化石の存在などから裏付けられている。少なくとも14500年前から17000年前にはカナダ西海岸の氷河は溶けており、人類の生存可能な植物や動物が存在していた可能性がある。また16000年前には当時の海岸線に沿った水中はケルプ(海藻)の森におおわれており、海藻、魚、エビ、海鳥等が繁殖しており、人類が海岸線に沿って南下できる条件が整っていたと言うのである。
 もしこれらの説が正しければ、人類のアメリカ大陸への進出の時期は今から17000年前までさかのぼることが可能になる。
 
[詳細は以下を参照]
http://www.nature.com/news/ancient-migration-coming-to-america-1.10562
http://en.wikipedia.org/wiki/Settlement_of_the_Americas
2011年12/28にBSで放送された「BBC地球伝説『ヒューマン・ジャーニー 遙かなる人類の旅』」は興味深い。

 

(3)ブラジル・ビアウイ州のカピバラ遺跡

 最近、ブラジル・ビアウイ州のカピバラ遺跡から23000年前以前の人骨化石や人類の生活の痕跡が見つかり、南米に人類が進出したのは、今まで考えられていた年代よりはるか前の数万年以前にさかのぼる可能性が議論されている。そこで発見された人の頭蓋骨はモンゴロイドではなくてアフリカ起源の人類であることを示している。
 今までの説と異なり、大西洋をアフリカからブラジルへ向かって流れる海流に乗ってアフリカからブラジルに流れ着いた可能性があると言うのである。その時代の人類が大西洋を横断できたと言うのは信じがたい出来事ですが今後の展開に注目すべきか?

 

2.新大陸における大型哺乳類の絶滅

(1)人類の南下

 この時期(12000〜5000年前)に南北アメリカ大陸に生息していた多くの大型動物が絶滅した。マンモス4種、マストドン3種、ラクダ3種、長角バイソン、ウマ、プロングホーン、ジャコウウシ、地上性オオナマケモノ(メガテリウム)、オオアルマジロ(グリプトドン)、剣歯虎など。この絶滅の波は、ちょうどパレオ・インディアンの南下に時を同じくしているように見える。そのため、人類がその絶滅の原因ではないかという専門家もいる。彼らが用いた先端に石器を付けた槍や、投槍器(アトラトゥル)が大型動物を絶滅に追いやった可能性があるというのである。

 この投槍器を使うと50m程度だった槍の飛距離が100mを越えるようになる。そのため実際に獲物を倒せる距離は10m程度だったのが20m以上に延びたと考えられる。槍の穂先に付ける石器はアメリカ大陸の広い範囲にわたる13000年前頃(最近の年代測定では年代はもう少し若い)の遺跡から発見されておりクローヴィス文化と言われている。(クローヴィスの名は最初にこの石器が発見されたメキシコの遺跡の地名による)
[デビッド・ランバート著「PREHISTORIC MAN 図説人類の進化」平凡社1993年刊 等参照]

 

(2)彗星の衝突(12900年前頃)

 北アメリカ大陸における大型哺乳類の絶滅に関して12900年前に生じた彗星の衝突が関係しているのではないかという説が2007年に出された。
 近年北アメリカ大陸の多くの場所の12800〜12900年前の地層に黒い薄い層が存在することが発見されてきた。この層の中には彗星の衝突を示唆する痕跡と大規模な火災が生じた事を示す証拠がある。
 上空で爆発して小片に別れた彗星破片が北アメリカ大陸の広範囲に衝突して大規模な火災が生じ、その結果多くの大型動物が死滅したというのである。
 大型哺乳動物の絶滅に人類がかかわったことはほぼ確実だと思われるが、ある時期の大量絶滅に天体現象が関わった可能性がある。
 また、1万2800年前からおよそ1000年続いたヤンガードリアス期の寒冷化は、この天体衝突が原因の可能性があるというのである。従来の説は、温暖化に伴ってカナダ北東部に生じていた氷河湖(アガシ湖)が大規模に崩壊して、深層水海洋循環に変化が生じて赤道付近の暖かい海水が北へ届かなくなったために生じたと言うもの。
 
[以下の文献参照] 
http://www.pnas.org/content/104/41/16016.full
http://news.brown.edu/pressreleases/2007/09/ice-age-extinctions
UC Santa Barbara: Comprehensive Analysis of Impact Spherules Supports Theory of Cosmic Impact 12,800 Years Ago

 

3.参考書

 最近の全般的な解説書を上げる。[2013年6月追記]

  1. スティーヴン・オッペンハイマー著「人類の足跡 10万年全史」草思社(2007年刊) 第7章
    原本は Stephen Oppenheimer “Out of Eden: the peopling of the world” (2003年刊)
  2. アリス・ロバーツ著「人類20万年 遙かなる旅路」文藝春秋社(2013年刊) 第5章
    原本は Alice Roberts “The Incredible Human Journey” (2009年刊)
    これには、現生人類の拡散についての議論の最新の状況が解りやすく説明されていて、概観するには最適。ただしミトコンドリアDNAやY染色体の系統樹の理解には文献1が必要。
    この本の内容(BBC作成番組)が2013年6/15よりNHKのEテレで全三回で放送予定。再放送は6/24より。
  3. ブライアン・フェイガン編著「氷河時代(地球冷却のシステムと、ヒトと動物の物語)」悠書館(2011年刊)
    原本は2009年刊のBraian M. Fagan編著“The complete Ice Age(How Climate Cange Shaped the World)”
    とても解りやすく書かれているので最初に読むには最適。
  4. 大河内直彦著「チェンジング・ブルー(気候変動の謎に迫る)」岩波書店(2008年刊)
    氷河期解明の手法を知るには最適な本。
  5. J.インブリー、K.P.インブリー著「氷河時代の謎をとく」岩波現代選書(1982年刊)
    原本は1978年刊で少し古いのですが、ミランコビッチ説を知る上での基本的な文献です。

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