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放射性崩壊系列を数学的に少し詳しく説明します。一次の化学反応の理論と同じです。
現在の地球上には三種類の崩壊系列が残っている。238Uから出発して最終的に206Pbへ崩壊するウラニウム・ラジウム系列(4n+2)、235Uから出発して207Pbに崩壊するアクチニウム系列(4n+3)、232Thから出発してそして208Pbへ崩壊するトリウム系列(4n)がある。それらの詳細については別項「放射性崩壊と半減期」を参照。
ここでは話を簡単にするために系列の枝分かれは無視してそれぞ一列の連鎖崩壊として考える。また、それぞれの核種の崩壊定数をλ1、λ2、・・・λn-1とする。これらは、各核種の半減期と
の関係で結びつけられる。
崩壊系列の時刻tにおける親核種の存在量をX1、娘核種の存在量をX2、X3、・・・・・、Xnとする。i番目の核種の存在量Xiの時間的変化は自らの存在量Xiに比例して失われていく崩壊速度とXi-1が壊れてXiに付け加わってくる速度(Xi-1に比例)に関係するから、X1、X2、・・・・・、Xnは下記の連立常微分方程式を満足する。
この連立常微分方程式は一見すると複雑に見えるが、この問題の特徴を理解すると意外に簡単に解ける。
放射性崩壊は各核種の性質で決まっており、Xiの関数形はXh(h<i)には影響されるが、その崩壊産物Xj(i<j)の値には全く影響されない。そのため連立の方程式にもかかわらず、(1)式から順番に解いてゆけばすべての解を得ることができる。
前節1.の方程式を初期条件 t=0のときX1=X0、X2〜Xn=0 で解く。
よく知られているように
となる。ただしX0はX1の時刻t=0の時の値である。
(2)式の右辺第2項が上記の定まった関数になるので、その形から予想されることであるが、
となるであろう。f(t)の形を定めるために、この式を(2)式に代入して整理する
となるので、X2は
となる。
この場合も(2)式の場合と同様に
を考えて、この式を(3)式に代入してf(t)の形を定める。
となるので、X3は
(1)〜(3)式の解から、Xiの形は
であると予想される。ここで各項の分母の(λi−λj)においてi=jとなる部分が抜け落ちていることに注意。
この式が成り立つことを数学的帰納法を用いて証明する。
Xiが上式で表されるとすると、(i+1)番目の方程式の解は
と考えて、この式を(i+1)番目の微分方程式に代入してf(t)の形を定める。
となるのでXi+1は
となる。ここで
となることが証明できればXiの表現式が正しいことになる。つまり
を証明すればよい。
以下で、数学的帰納法を用いてこの式を証明する。すでに述べたように
が成り立てば、n=i+1 での(A)式が成り立つことを証明すればよい。
上記(A)式の第1項〜第i項までを取り出すと
となる。以下、同様な手順を繰り返せば
となる。これは上記(A)式の i+1 番目の項の符号を変えたものに等しいので、(A)式が成り立つことが証明された。
よって、Xiは最初仮定した式で表されることが証明されたことになる。
となる。ここでCは積分定数であるが、t=0 のとき Xn=0 とならねばならないので
となる。ここで、Xiの導出の際に利用したテクニックを用いて変形していくと
同様な変形を繰り返すと
となる。そのためXnは
となる。
この式は、当然のことであるが Xn=X0−(X1+X2+・・・+Xn-1) によって求めた式と一致する。また以前求めたXiの表現式において i を n で置き換えた後に λn を 0 と置いて得られる式と一致する。これらは簡単な計算で確かめることができるので、ぜひ確認してみて下さい。
ここは齋藤和男 氏の http://ksgeo.kj.yamagata-u.ac.jp/~kazsan/class/geomath/ex16.html を利用させてもらって高校生向きに解りやすくしたものです。感謝! ただし、n=5 ぐらいまでなら、こんな大げさなことをしなくても地道に計算すれば求まる。
前節で、すべての解X1、X2、・・・、Xi、・・・、Xn が得られたので、以下で幾つかの例を検討する。
これらの解は、初期条件 t=0でX1=X0、X2=X3=0 のとき
となる。以下ではすべて初期値をX0=1として論じる。
崩壊平衡に達してからはX1とX2の存在比は、T1>>T2の場合ほぼその半減期に比例する。またX2の存在は微量なのでX1が半減期T1で直接X3に崩壊すると見なせる。
X1は急速に減少してX2に置き換わる。そのため、やがてX1の存在は無視してよくなり、X2が半減期T2でX3に崩壊すると見なせるようになる。
これらの解は、初期条件 t=0でX1=X0、X2〜X7=0 のとき
となる。以下X0=1とする。
t<T1の段階では、X1の崩壊につれて、X2→X3→X4→X5→X6→X7の順に少しずつ遅れながら核種の存在量が増大していく。
t>>T1の段階では、X1の崩壊消滅に続いて、X1→X2→X3→X4→X5→X6の順に少しずつ遅れながら核種が消滅していく。
T1>>T2〜T6の場合、崩壊平衡に達してからはX1とX2〜X6の存在比は、ほぼその半減期に比例する。そのとき、X2〜X6の存在量はごく微量なのでX1が半減期T1で直接X7に崩壊すると見なせる。X2〜X6は微少量なので、その様子が解るように縦軸0〜0.02の部分を拡大してみる。
拡大してみると明らかなように、短い時間で崩壊平衡状態になった後、X2〜X6の存在量はX1と同じ半減期で減少していくことが解る。
X1〜X5は急速に減少してX6に置き換わる。そのため、やがてX1〜X5の存在は無視してよくなり、X6が半減期T6でX7に崩壊すると見なせるようになる。
半減期が順々に短くなっていく場合。
半減期が順々に長くなっていく場合。
実際の崩壊系列のモデルとして、以下の例は興味深い。
X2〜X6微少なので、その様子が解るように縦軸0〜0.2の部分を拡大してみると、X2はX1に対して半減期の比率で存在することが解る。
さらに縦軸0〜0.02の部分を拡大してみると、X3〜X6はX1に対して半減期の比率で存在することが解る。
すると。
T2とT3〜T6の間に大きさの差があってもT1>>T2〜T6とみなせるので(c)の場合と同様に、崩壊平衡に達してからはX1〜X6の存在比は、それらの半減期に比例して存在するとみなせる。そのときT2〜T6は少量なので、X1が半減期T1でX7に崩壊していくと見なせる。
T1に比較してかなり小さい半減期T2〜T6の崩壊系列の中に、少し長めの半減期T4を持つ核種X4が混じっている場合、その前後の崩壊はどのようになるのか見てみる。
X2〜X6tが微少量なので、その様子が解るように縦軸0〜0.2の部分を拡大してみる。
さらに0〜0.02の部分を拡大すると。
これらから解るように非常に短い半減期のT2〜T6の中に少し長い半減期の核種T4が混じると、X4の蓄積に時間がかかるためX5〜X6の蓄積の立ち上がりがX2〜X4に比べて遅れてくる。
最後にT2〜T6の間に大きさの差があっても、T1>>T2〜T6とみなせる場合、崩壊平衡に達してからはX1〜X6の存在比は、それらの半減期に比例することを確かめておこう。
X2〜X6微少なので、その様子が解るように縦軸0〜0.02の部分を拡大してみる。
拡大してみると明らかなようにその存在比は各核種の半減期にきれいに比例している。そして、それらの存在量はX1と同じ半減期で減少していくことがわかる。次のグラフは横軸t=0〜20の部分を拡大して、立ち上がる部分を確認するものである。
崩壊順(X2→X3→X4→X5→X6)に核種の存在が立ち上がっているが解る。
各核種の存在比がその半減期に比例する事実は、崩壊の順序によらないことが(i)と(j)を比較してみれば解る。X2〜X6は微少なので、縦軸0〜0.02の部分を拡大している。
横軸t=0〜20の部分を拡大して、立ち上がる部分を確認する。
(i)の場合と同じ順番(X2→X3→X4→X5→X6)で立ち上がっている。しかし、最終的に落ち着く崩壊平衡時の値が(i)と逆なのでグラフが途中で交叉している。
これらから解るようにT1がT2〜T6に比較して十分長い場合、ある程度時間が経って崩壊平衡が実現されると、各核種の存在比はその半減期に比例する。
ここで述べた崩壊平衡(放射平衡)は、λ1<<λ2〜λn-1 と見なせる場合に生じるが、1.で述べた微分方程式(2)〜(n−1)式の左辺の時間微分項がほぼゼロと見なせる状況(付け加わる速度と取り去られる速度がほぼ等しい)が実現されたときを意味する。
これらの式が満たされれば、(2’)〜(n’−1)式より
がほぼ満たされることになる。ただし前記のグラフから明らかなように、左辺のゼロが完全に満たされることはないので、厳密に比例するわけではない。また、このとき