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合わせ鏡がつくる像

 中学や高校の理科で習う光学の問題です。二枚の鏡をある角度で交差して配置した合わせ鏡の間に置いた物体は、鏡の中でどのように見えるか?

1.実際の様子

 鏡が一枚の場合や、2枚の鏡を直角に配置した場合は理解しやすいが、任意の角度で交差している合わせ鏡は結構難しい。
 メカニズムを探るために、下図のパターンを下に敷き、合わせ鏡の交差角度を色々変化させて観察してみる。以下にその結果を写真で示す。普通の鏡はガラスの裏面に反射材を蒸着しているため、反射面の前に存在するガラス板がじゃまをして奥の像がぼやけて見づらいので、写真の様にガラスの表面に反射材を蒸着した鏡が手に入ればベスト。

(1)交差角=360°/偶数 の場合

90°=360°/4

60°=360°/6

45°=360°/8

36°=360°/10

30°=360°/12

 偶数個の扇形パターンが繰り返されている。そして実在の鏡の延長線上に鏡の像が存在する。また実在の鏡の延長線上にある左右2枚の鏡の像に映る図柄は2枚とも同じ図柄を映しており、同じ視線位置でピッタリ重なっている事に注意。ただし、見る位置により同じ図柄が奥左の鏡の像の中に映されたり、奥右の鏡の像の中に鏡に映されたりする。

(2)交差角=360°/奇数 の場合

120°=360°/3

72°=360°/5

51.43°=360°/7

40°=360°/9

 奇数個の扇形パターンが繰り返されている。そして一番奥に2枚の鏡が重なって1枚の両面鏡になって見えている。この場合は一番奥の両面鏡に映る図柄は左右の鏡の中で逆転しているので、左から見た場合と右から見た場合で奥の図柄が異なっていることに注意。

(3)任意角の場合

150°=360°/2.4

80°=360°/4.5

32°=360°/11.25

以下で、32°の場合を詳しく検討する。

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2.鏡の映る様子

 前節の色々な交差角度の合わせ鏡の写真から解るように、鏡@と鏡A像を他方の鏡によって次々と投影していけば、鏡が映る様子を図示できる。中途半端な交差角32°の場合を利用して一般的に論じてみよう。
 下図の@2は、鏡Aの中に映る鏡@の像の位置を示している。@21は、鏡Aに映った鏡@の像@2をさらに鏡@が映したとき、鏡@の中にできる鏡@(自分自身)の像の位置を示す。@212はさらにその像が鏡Aの中に映されたときできる像。以下同様である。
 鏡Aも同様に鏡@と鏡Aの中に次々にA1、A12、A121、・・・・・と映されて行く。

 このとき添え字の最後の数字が、その像が映っている鏡の番号である。つまり最後の数字が1なら鏡@の中に、2なら鏡Aの中に映る像を意味する。ゆえに、鏡@の像は@2→@21→@212→@2121→@21212となったところで終りになる。なぜなら像@21212鏡@の裏側に位置するので、これをさらに鏡@で映すことはできないからである。同様に鏡Aの像についてもA1→A12→A121→A1212→A12121となったところで終りになる。この場合も像A12121鏡Aの裏側にできるので、これをさらに鏡Aで映すことはできないからである。つまり反射を繰り返して行ってできる像が下図の空色扇形の中に入った時点で終りになる。

 像は確かに上記の様にできるが、実際に見える鏡の数は見る位置によって変わる。そのとき注意しなければならないのは下図の波線鏡@と波線鏡Aで挟まれた空色扇形の中にできる像@21212と像A12121の見え方です。見る位置によってこの2つは見えたり見えなかったりする。
 例えば下図の視点(望遠鏡のマーク)から見た場合それぞれの鏡の中に見える像は青矢印と赤矢印が作る扇形の範囲内にある。@21212とA12121に関してはA12121は見えるが@21212は見えない。それは図の視点(望遠鏡マーク)からでは@21212像は鏡Aの中に映っていなければならないのに鏡Aは青矢印の視野角の中に無いからである。

 鏡の像@21212とA12121に関して、目の位置(望遠鏡マーク)を鏡@のすぐそばから鏡Aのすぐそばまで移動して、その見え方を追跡してみる。最初は像A12121のみが鏡@のなかに見える。視点が鏡Aに近づくにつれて、やがてA12121と@21212の両方の鏡の像が見えてくる。像A12121は鏡@の中に、像@21212は鏡Aの中に見える。そしてさらに視点を鏡Aに近づけるとA12121は見えなくなって、像@21212だけが鏡Aのなかに見えることになる。1.(3)の写真で確認して欲しい。

 さらに、この例の交差角32°を30°=360°/12(偶数)に狭めたり、32.7272・・・°=360°/11(奇数)に広げたりしていくと像@21212と像A12121がどのように移動していくか検討してみる。
 一般に、交差角を偶数で割り切れる角度に近づけていくと、鏡@の最後の像は鏡Aの延長線上に、鏡Aの最後の像は鏡@の延長線上に近づいていき、最後には空色扇形の辺の上にできる。そのとき、それぞれの鏡は最後の添え字の鏡の中でしか見ることはできない。1.(1)の写真参照
 また、二枚の鏡の交差角を奇数で割り切れる角度に近づけていくと、鏡@の最後の像と鏡Aの最後の像は空色扇形の真ん中へ移動していき、最後には1枚に重なった両面鏡の像になる。しかしたとえ重なっていてもそれぞれの鏡は最後の添え字の鏡の中でしか見ることはできない。1.(2)の写真参照

 交差角32°の場合で、視点位置の違いによる見え方の違いを写真撮影で用いた下敷きシートの模様で示す。
 最初の図は鏡@の表面すれすれに目を近づけたときの見え方である。このとき鏡の像@21212は見えないことに注意。その代わりに鏡の像A12121の中に映っている模様が見える。

 次の図は、二つの鏡の真ん中当たりから見た図です。鏡の像A12121@21212の両方が見える。このとき視点が鏡Aに近づくにつれて像A12121の中に映っている模様が少なくなり、像@21212の中に映っている模様が増えてくる事に注意。

 最後の図は鏡Aの表面すれすれに目を近づけたときの見え方です。このとき鏡の像A12121は見えなくなっていることに注意。その代わりに鏡の像@21212の中に映っている模様が見える。

上の三つの図の前述の波線鏡@と波線鏡Aで挟まれた空色扇形中の図形模様の違いに着目

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3.鏡の間に置いた物体の見え方

 合わせ鏡の間に物体を置いて、鏡の中に幾つ像ができるか調べてみる。[物体を置いた位置][鏡を覗き込む位置]で見える像の数が変わってくる

 例えば2.節と同じ交差角32°の合わせ鏡で、下図の位置に物体Oを置く。
 まずOの像が鏡@の中のO1の位置にできる。さらに、その像O1が鏡Aの中のO12の位置に像を結ぶ。添え字は映している鏡の番号である。以下同様であるがO→O1→O12→O121→O1212→O12121とできたところで終りになる。なぜならO12121は鏡Aの裏側に位置し、これをさらに鏡Aで映すことはできないからである。
 最初に鏡Aに映った像の系列も同様でO→O2→O21→O212→O2121→O21212→O212121で終りになる。この場合もO212121は鏡Aの裏側に位置し、これをさらに鏡Aで映すことはできないからである。

 図から解るように、[物体を置く位置][鏡を覗く位置]によって物体の像の見え方が異なる。特に最後の投影でできた像(波線の鏡@と波線の鏡Aで挟まれた空色扇形の中の像)は見る位置により見えたり見えなかったりする。そのとき見えるか見えないかの判定は、O1212・・やO2121・・の最後の添え字に着目する。1212・・・やO2121・・・と視点を直線で結んだとき、その直線が最後の添え字の番号の鏡と交われば見えるし、交わらなければ見えない。故に上図のAの範囲からは鏡の中に11個の像が見える。Bの範囲からは10個Cの範囲からは9個が見える。

 このとき以下のことに注意して欲しい。交差角32°を30°=360°/12(偶数)まで狭めると鏡の像A12121は鏡Aの延長線上の空色扇形の辺の上に近づいていく。そうすると物体の像O12121は空色扇形の外に押し出されてしまう。そうすると像O12121は鏡Aによる反射がもう一回可能になり、空色扇形の中に像O121212を作ることができる。
 一般に像O212121と像O121212は重らないが、角度が360°を偶数(neven)で割った値と一致したときは、鏡の像A12121が鏡Aの延長線の点線鏡Aと一致するために像O212121と像O121212は重なってしまう。そのとき物体を置いた位置によらず必ず重なってしまうことに注意。重なってしまうが最後の添え字の番号が違うから像O212121は鏡@の中で、像O121212は鏡Aの中でのみ見ることができる。だから鏡の中には常に奇数(neven-1)個の像ができる。それは1.(1)の写真の中に偶数(neven)個の扇形パターンができるので、鏡のなかの扇形パターンは奇数(neven-1)個であることからも読み取れる。

 同じように考えれば角度が360°を奇数(nodd)で割った値と一致したときには、鏡のなかの扇形パターンは偶数(nodd-1)個できる。しかし、[物体を置く位置]と[鏡を覗く位置]により、鏡の中に見える物体の像の数は(nodd)個〜(nodd-2)個の範囲で変化する。1.(2)節の写真を詳しく検討してみて下さい。

 以下に交差角32°の場合について、鏡の中の像が見えるときの光線経路の例を示す。
 最初は12121が見える様子を、物体Oから視点(望遠鏡マーク)までの光線でたどってみる。確かに図の位置に像O12121が見える光線経路が存在する。このとき視点を鏡Aに近づけていくとやがて、視点とO12121を結ぶ直線は鏡@から外れて鏡Aと交わるようになる。こうなると物体Oからの光線で視点の望遠鏡に入り、しかも像O12121を見越すものは存在しないことに注意して欲しい。

 次図は212の場合。この場合は視点が、鏡@と鏡Aの間にあるかぎり、どこに移動しても、像O212を見ることができる。

次図は2121の場合。この場合も視点の位置によらず常に像O2121を見ることができる。

 その他の像も同様です。いずれも最後に反射する鏡は添え字の最後の数字の鏡である。そして、光線は添え字の順番通りの鏡で次々と反射されている。またすべの光線は 入射角=反射角 の反射の法則を満足してる。

 同様な考察を進めれば、任意の角度で交わる合わせ鏡の場合が理解できる。 [鏡の交差角]、[物体の位置]、[見る位置]を様々に変えて愚直に図を描いてみられることを勧める。特に変数を連続的に変えたとき、鏡と物体の像がどのように移動するか追跡して欲しい。

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4.終わりに

 何年か前に同僚の理科教員から質問されて考えた問題です。意外と難しく手こずりましたが、松川利行さんのホームページ(http://matsukawa.secret.jp/kagami.htm)に出会えて、そのメカニズムを理解する事ができました。感謝!
 この問題は、鏡の交差角が360°を偶数で割った値でない場合は難しい。それは鏡の中に見える像の数が、[物体の位置]と[見る位置]により変化するからです。最初はそのメカニズムがなかなか解りませんでしたが、こういった問題を理解する方法は理科の王道に従う事ですね。その王道とは

  1. 方法に工夫をこらして、愚直に実験してみる。
  2. わかりやいす形式を模索して、結果を図やグラフに描いてみる。
  3. 現象の中に含まれる様々なパラメータを個別に少しずつ変化させて、結果が変化する様子を追跡してみる。

ということを改めて実感しました。

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