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自己誘導とRL回路

 高校物理で習う難しい所です。教科書に載っている回路の例を幾つか取り上げて説明します。以下の図では、自己誘導を生じるソレノイドコイルLを一つのループで表している。

 ここでも以前「交流電源とRLC回路」で述べたことが言える。つまりここの現象もゆるやかに変化する場に関するものである。ゆるやかに変化する場とは典型的な変動時間に光りが進む距離が、装置の大きさに比べると遙かに大きいと言うことである。つまり回路のあるところで起こった変化は瞬時に回路全体に及び、回路を構成する各部分は互いに力の関係を調整しあって釣り合い状態を保ちながら変化する。
 だから回路中を右往左往する電荷は、各瞬間瞬間を見れば力はつり合っており、電荷に働く合力は常に零であると見なせる。実際はごく僅かの力のバランスの崩れが電流や電位を変動させるのだが、各瞬間のそれらの変化を実現するために動く電気量は、回路全体を流れる電流の電気量に比較したら無視できるほど少量である。また各瞬間の各部分の電位を実現するための電荷分布のやり直しに要する時間は、典型的な変動時間に比較したら無視できるくらいに短い時間におこなわれる。
 つまりここで起こっている事は、いくら時間的に変動する現象でも、各瞬間瞬間に於いては力の釣り合いが実現された定常状態であると見なせる。だから現象の各瞬間における電流や電圧の瞬時値について、回路はキルヒホッフの法則を満足する。

1.回路例1

授業で習うように、上記の回路に於いてソレノイドコイルの導線に生じる自己誘導の起電力Vは以下の様になる。

 コイル内に自己誘導によって生じる逆起電力の為に抵抗rに向かって流れようとする電荷はコイルによって堰き止められ、コイルの手前に溜まってしまう。これが電位差V(=E)を生み出し、その電位差に伴う電場Eによる力と逆起電力に伴う力が釣り合った状態でコイル内の電流は流れようとする。
 最初の瞬間の逆起電力に伴う力の大きさはV1 から定まるコイル内の電界による力と大きさは等しく向きは逆である。その逆起電力の大きさが Δi1/Δt の立ち上がりを決める

 電流i2 が増大するとともに Δi2/Δt は減少していく。そのとき、電池の作り出す電位差Eは、コイル内の電位差から抵抗r内の電位差で支えられるように置き換えられていく。

 やがて Δi2/Δt=0 となり電流の時間的変化は無くなる。 

 スイッチを切ってもコイル内の電流を直ちにゼロにする事はできない。それは電流が減少すると磁場B(正しくは磁束密度)が減少するが磁場の時間的変化は、その変化を打ち消す方向の起電力を生み出す。それはコイル内の電荷をいままで通りの方向に流そうとする向きに働く。
 そのときコイル内に生じる電位差V4は抵抗rと抵抗Rに電流i3 を流す為に必要な電位差(オームの法則に従う)である。このときコイル内に生じる誘導起電力に伴う力は電位差V4による電界によって押し戻そうとする力と釣り合う大きさになる。なぜならその大きさに釣り合うまで、電位差V4による逆向きの力で電流値の大きさが減少していくが、その減少の度合いは釣り合いが実現されるまでいくらでも大きくなり、その減少の度合いの大きさが磁場の減少の度合いを大きくして誘導起電力の増大を引き起こすからである。
 だからスイッチを切った瞬間にコイルの両端に生じる電位差は(r+R)i4=(r+R)i3となる。
 このときコイルと抵抗Rの間の導線中の正電荷がコイル中に発生する誘導起電力の為に吸い出されて(実際は負の電子が押し込まれて)、その部分の電位が下がると考えればよい。そのとき抵抗Rの為に、その吸い出された正電荷を補う流れがスムーズに行かないので電位が下がるのである。

 電流の減少とともに電位差V5も減少していき、コイル内の電荷を引き戻そうとする電場も減少し、それに釣り合う誘導起電力も減少していく。それゆえ磁場の変化の度合いも減少していく。

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2.回路例2

この回路ではスイッチを入れる前から電流i0が流れている。

オームの法則により i0=E/(R+r)

 スイッチを入れた瞬間に抵抗Rによる電圧降下はゼロになるので E−ri0=V1 の電圧がコイルにかかる。このときコイル内に自己誘導によって生じる逆起電力の為に、抵抗rに向かって流れようとする電荷はコイルによって堰き止められ、コイルの手前に溜まってしまう。これが電位差V1=E−ri0を生み出し、その電位差に伴う電場Eによる力と逆起電力に伴う力が釣り合った状態でコイル内の電流は流れようとする。
 最初の瞬間の逆起電力に伴う力の大きさは、V1 から定まるコイル内の電界による力と大きさは等しく向きは逆である。その逆起電力の大きさが Δi1/Δt の立ち上がりを決める

 電流i2 が増大するとともに Δi2/Δt は減少していき、電池の作り出す電位差Eの担い手はコイル内の電位差から抵抗r内の電位差に置き換えられていく。

 スイッチを切ってもコイル内の電流を直ちにゼロにする事はできない。それは電流が減少すると磁場B(正しくは磁束密度)が減少するが磁場の時間的変化は、その変化を打ち消す方向の起電力を生み出します。それはコイル内の電荷をいままで通りの方向に流そうとする向きに働く。
 そのときコイル内に生じる電位差V4は抵抗rと抵抗Rに電流i3 を流す為に必要な電位差(オームの法則に従う)である。このときコイル内に生じる誘導起電力に伴う力は、電位差V4による電界によって押し戻そうとする力と釣り合う大きさになる。なぜならその大きさに釣り合うまで、電位差V4による逆向きの力で電流値の大きさが減少していくが、その減少の度合いは釣り合いが実現されるまでいくらでも大きくなり、その減少の度合いの大きさが磁場の減少の度合いを大きくして誘導起電力の増大を引き起こすからである。
 だからスイッチを切った瞬間にコイルの両端に生じる電位差はV4=Ri4=Ri3となる。
 このときコイルと抵抗Rの間の導線中の正電荷がコイル中に発生する誘導起電力の為に吸い出されて(実際は負の電子が押し込まれて)、その部分の電位が下がると考えればよい。そのとき抵抗Rの為に、その吸い出された正電荷を補う流れがスムーズに行かないので電位が下がるのである。

 電流の減少とともに電位差V5も減少していき、コイル内の電荷を引き戻そうとする電場も減少し、それに釣り合う誘導起電力も減少していく。それゆえ磁場の変化の度合いも減少していく。

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3.回路例3

以下で短絡回路BCがある場合と、無い場合を比較して論じる。

 コイル内に自己誘導によって生じる逆起電力の為に抵抗rに向かって流れようとする電荷はコイルによって堰き止められ、コイルの手前に溜まってしまう。これが電位差V(=E)を生み出し、その電位差に伴う電場Eによる力と逆起電力に伴う力が釣り合った状態でコイル内の電流は流れようとする。
 最初の瞬間の逆起電力に伴う力の大きさは、V1 から定まるコイル内の電界による力と大きさは等しく向きは逆である。その逆起電力の大きさが Δi1/Δt の立ち上がりを決める

 この回路ではスイッチを切った瞬間 i3=E/r の電流を流そうとする自己誘導による起電力が発生する。そのとき、スイッチの所の抵抗が無限大になるにもかかわらず i3=E/r の電流を流さねばならないので、スイッチを挟んで生じる電圧降下V4は非常に大きな値になる。V4が大きくなるのは誘導起電力の為にスイッチとコイル間の導線中の正電荷が吸い出されて(実際は負電荷の電子が押し込まれて)電位が下がるからである。そしてスイッチの所に放電が発生してむりやり電荷が流れようとする。
 そのために電圧Eが高く電流i3が大きな産業用回路では非常に危険な構成となる。直流電流を遮断するのが難しい理由である。だからこのような回路のスイッチを切るときには図中のBCの様な短絡回路を入れるか、前記の例1、例2のような回路にしなければならない。
 また、変電所などに設置されている遮断器は、開閉部に発生するアーク(火花)を吹き消すための機構を備えた大がかりなものになる。
 そのとき、交流回路の場合には電流がゼロに成る瞬間に切断すれば、自己誘導による過大電圧を押さえることができるので、直流回路よりも遮断はやりやすくなる。

 短絡回路BCがあると、コイル内の自己誘導起電力に釣り合ってコイルに発生する電位差V4’はV4’=ri4’=ri3 となる。

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4.RL回路の仕事率とエネルギー

例3の回路について抵抗コイルでエネルギーが消費される割合(仕事率P)とコイルに蓄えられる磁場のエネルギーを説明する。

以上の変化をグラフにすると下図の様になる。

 電池が単位時間に失うエネルギーは緑線グラフで表される。そのうち一部は抵抗で直接消費(青線グラフ)され、一部が磁場のエネルギーとしてコイル内(赤線グラフ)に蓄えられる。
 磁場に一旦蓄えられたエネルギーは赤点線矢印の様に移り変わって、最終的に抵抗でジュール熱となって消費される。

 

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5.参考文献

  1. Michael Faraday著「Experimental Researches in Electricity」(1839〜1855)
     ファラデーの上記の本は全三巻(第1巻は1839年、第2巻は1844年、第3巻は1855年)の膨大なものです。この内の第1巻のみ日本語訳が 内田老I圃新社 古典科学シリーズ10 ファラデー著「電気実験」(上・下巻)として刊行されています。
     上記の内容は膨大なので、下記のものが読みやすいと思います。
     モリス・H・シャモス編著(清水忠雄監訳、大苗敦・清水祐公子訳)「物理学をつくった重要な実験はいかに報告されたか」朝倉書店(2018年刊)の p149〜175 マイケル・ファラデー「電磁誘導および電気分解の法則」 より引用。
  2. Heinrich Lenz著「電気力学的な誘導によって起こる(ガルバニックな)電流の方向の決定について」(1834年)
     モリス・H・シャモス編著(清水忠雄監訳、大苗敦・清水祐公子訳)「物理学をつくった重要な実験はいかに報告されたか」朝倉書店(2018年刊)の p176〜183 より引用。

 

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