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スキーの理論

1.スキーの本質

 スキーの本質は不安定から不安定、一方にバランスの崩れた状態から反対側にバランスの崩れた状態へと常に移り変わりながら安定状態を保つことです。

 たとえば右図の様に体の重心をスキーの上に置いて真っ直ぐに滑って行く(直滑降と言う)とき、何かの拍子にスキーの先端が突っかかって左右にぶれると重心は直進しようとし、スキーは曲がってしまうので慣性の法則で身体はまっすぐ前方に投げ出されて、スキーの動く方向とは反対側に転倒してしまう。

 しかし、最初から重心とスキーの位置がずれていて、身体は常に倒れようとし、そして常にそれを回復する様な動作をしていれば、例えばA地点でスキーが雪面の凸凹に引っかかってつまずいたとしても重心の回復が少し早まるか、遅れるだけで転けることはない。
 つまりスキーでジグザグに波打ちながら滑降するのは、常に重心の位置をスキーに対して左か右にずらしておき、そのずれをスキーの回転運動で補いながら滑る為なのだ。
 とくにスキーを平行にそろえ,エッジで雪をはくようにして連続的に速い速度で小回りする滑走法をウェーデルンと言い、1950年代にオーストリアで最初に発達した。ウェーデルンとはドイツ語で「(尾を)振る」と言う意味です。
 以下ではウェーデルンのような小回りではなくてもっと大きなターン(パラレルターンと言う)を念頭において話を進める。

 

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2.ジグザグ滑走の3つの効果

1.上記の不安定さを解消する効果
 スキー滑走中は、いつもバランスは崩れており、常にそのバランスを回復する動作をしている。いつもバランスの崩れた状態にあるのだから、雪面のデコボコに引っかかってバランスが更に崩れても、回復の時期が少し早まるか、遅れるだけであって転倒に至ることはない。
2.滑降スピードを殺して減速する効果
 後で述べるように回転運動には必然的に横滑り動作と内エッジによる角ずけが伴う。この横滑りにより雪面を擦る動作が滑走のスピードを減速させる。適度に減速することで安全に谷に向かって滑り降りてゆける。
3.進行方向を任意に選べる効果
 回転動作でバランスを回復する動作の量を調整することにより、回転動作途中の任意の地点で直線運動に移ることができる。そうすることでスキーの進行方向を変えることができる。

 

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3.スキーに対してできる3つの操作 

 重心の崩れを回復するために必要なスキーの回り込み運動つまりスキーの回転運動は如何にして生じさせたら良いのだろうか。スキー上達のコツは、我々がスキーに対してできる操作が以下に述べる三つしか無いことに気づくことです。
 スキーと言うものは非常に長くて重い物だから右図の様にスキーを左右に振ってその向きを返ることはできない。我々がスキーに対してできることは以下の三つの動作だけです。

1.スキーの右側のエッジ、左側のエッジに加重をかけ換える動作
 膝を捻ってスキーの靴を進行方向に対して左右に倒す。つまり内エッジ、外エツジの角づけをすること。(右図参照)
2.右のスキー、左のスキーに体重をかけ換える動作
 左右の足を踏み換えて体重を左足、右足に載せ換えること。(右図参照)
3.左右のスキーを前後にずらす動作
 腰をひねって左右の腰骨を前後させ、それに伴って左右の膝頭、左右のむこうずねを前後させる。また左右のスキー靴のくるぶしの所を前後に傾斜させてむこうずねを前に倒したり後ろに倒したりする。この二つの動作により左右のスキーを前後にずらすことができる。(右図参照)
 このとき、左右のスキーの前後へのずれは膝やむこうずねを前後に倒して実行するというよりは、大腿部がついている腰の関節の位置を前後にずらして骨盤の位置関係のずれで行う。このようにすれば上体は常に谷に対して真っ直ぐに向いた状態を保ちながらスキーは右向き、左向きと方向を変えることができる。
 初心の内はなかなかこの感覚は解らず腰回りの筋肉をそのように動かせないが、椅子に両足をそろえた状態で座り、左右の大腿部を平行に保ったままで左右の膝頭を前後にずらす運動を練習して修得すればよい。
 
 このようにして前後にずれた左右のスキーに対して2.の動作の体重の載せ換えをすると結果としてスキーに対して体重を前後に移動させることができる。
 また左右のむこうずねをを同時に倒して重心をスキーの中心に対して前後に移動さることもできる。(右図参照)
 
 この三通りの動作を適当なとき、適当な量行えばスキーは自然に回ってくれる。
 
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4.スキーの方向を変える方法

1.動作1による回転
 スキー板は前と後ろの幅が広く真ん中が狭くなっている。上記1.の動作によりスキー板を雪面に対して斜めに傾けるとスキーの縁の部分が雪面に押しつけられる。押しつけられた縁の部分は湾曲しているので、それに沿った滑りを行い結果としてスキーは膝を倒した方に曲がりこんでいく。
 最近はやりのカービングスキー板のカーブは特にこの効果を助長する。
2.動作2による回転
 さらにスキー靴はスキー板の中心より少し後ろ側につけてある。だから体を傾けて上記2.の動作により外側のスキーに力を込めて外側に押し出せば特にスキー板の後ろの方(テールと言う)が外側に向かっての横ずれの滑り運動を起こす。テールの横滑りのためスキーは自然に内側に回り込もうとする。そしてスキーの先端は体が倒れている方に自然に回転しようとする。

 スキーで滑るときはつねに、回転運動をするときの外側の足に体重をかける事が重要になってくる。その際内側(つまり回転運動の中心に近い方側)のスキーは心持ち浮かして外側の足に寄り添わせておく感じです。スキーは本来常に片足で滑るものだと心得ておいた方がよい。片方が浮いているからこそ両足をそろえてターンができる。
3.動作3による重心移動
 ところで上記の左右の足への体重のかけ替えは重心がスキーの上を横切る上図A、B、Cの所で行われなければならないが、このとき大切なのが上記3.の動作です。なぜならA、B、C地点に達する前は進行方向に対して谷側の足(谷足と言う)に体重がかかっている。その体重のかかっている谷側の足(谷足)に添える形でついてきた体重のかかっていない足は山側に位置するので、当然谷足より高い位置に在る。それは踏台に足を架けたのと同じで状態で、山足の膝が曲がり山足のスキー靴は谷足のスキー靴より前に出ている。A、B、Cの地点をこえるときに、その前に出ている足に体重を載せ替えなければならない。しかしそのまま載せると、必然的に重心は後ろに残り腰が引けたヘッピリ腰になってしまう。初心者は多くの場合ここでスキーが制御できなくなり反対方向への回転に切り替えることができず、そのまま山側へ回り込んでしまうか、転倒してしまう。
 だからここで体重を乗せ変える時は、上記3.の動作をして山足を後ろに引きながら(相対的に谷足スキーは前に出る)、体の重心を山足の上に移動していかなければならない。体の重心移動がスキーに遅れないよう以下の動作をする。 まずスキーヤーの上体は谷側を向いている(上体を常に谷側に正対させておくことは非常に重要)ためスキーヤーの腰骨は進行方向に対して山側の腰が谷側の腰より前に出ている。この関係を腰をひねって逆にしてやる。つまり山側の腰を後ろに引き谷側の腰を前に出す。それに伴って山側の足の膝頭とむこうずねを後ろに引き谷側の足の膝頭とむこうずねが前に出すようにしてやる。そのときさらに充分山足スキーのむこうずねを前に倒してスキー靴を後ろにさげる。そうすると山側のスキーに体重を載せ変える事ができる。スキーの回転動作の中ではここで行う上記3.の動作が最も大事です。
 ここの所は解りにくいのでさらに補足すると下図の様になる。

 このとき、上半身は常に谷に向かって正対しているのに対して、下半身(大腿部と脛の部分)は上図の椅子に座って練習する状況を繰り返しているために、大腿部は常に進行方向に向いていながら、谷に向かっては右向きから左向きへ、また左向きから右向きへと左右に振れることを繰り返していることに注意してください。
 上記の腰と大腿部の動きが習得できたら、次は椅子に浅く腰掛けて椅子の上の尻の位置は動かさないようにして上記の動作を練習する。そのとき、3章で説明した操作1.の膝を倒してのエッジの角ずけと、操作2.の左右の足裏への体重の載せ換えも同時に練習する。

 このとき、最初に説明した腰と大腿部の関節の変形を用いた大腿部のすりあわせ前後運動を特に意識して行う事が大切です。単に膝頭を左右に振る感覚で行ってはいけません
 以上が出来るようになったら、床の上に立って同じ動作をさらに練習する。

これがスムーズに出来るようになったら予備練習は終了です。
3.の動作による重心位置の前後の調整運動が終わると同時に2.の動作により左右の足の体重移動をして今までと反対側の足に体重を載せ替える。
 それと同時に1.の動作を再開する。1.の動作は体重を抜こうとする足のふくらはぎの内側に沿って、体重をかけようとする足の膝頭を下にこすりおろすような感じてやると良い。(右図参照)
 そのとき体重をかけようとするスキーが外スキーとなり、その内エッジが効き始め反対側の回転運動が始まる。この1.の動作と呼応するように2.の動作がテールの滑りを引き起こし、スムーズな回転運動が生じる。
 ただしここで膝を傾け過ぎてエッジを立てすぎるとテールの滑りはかえって阻害されてしまい横滑りの少ないシャープな滑りになる。高速滑走を至上とする競技スキーでは重要なポイントですが、スムーズな回転と横滑りによる減速を目的とするスキーではエッジをただやみくもに効かせるのではなく、効かせる量(膝を左右に倒す量)を微妙にコントロールして雪面をなでるようにスキーのテールを滑らすことが肝要です。そして重心のかかっている方のスキー板の(前後の)真ん中に常に重心があるように心がける。

 上記の説明から明らかなように、二本のスキーをそろえて滑るということは決して不安定なことではない。むしろ自然なことです。その際上記三つの動作だけでスキーは回転する。それはスキーに対して上体および下半身をしっかり固定して適当なときに適当な量の動作をキッチリと実行することで達成できる。後で述べる1.抜重(伸び上がって次に足を縮めスキーにかかっている体重を抜くこと)、2.ストックワーク、3.上体の捻りによる作用反作用、の何れも全く必要ない

 

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5.パラレルスキーに至る前段練習

上記のパラレルターンに入るまでに初心者はまずプルークボーゲンおよびシュテムターンを練習するが、その要点は以下の三点です。

1.横滑りを伴う回転の感覚を修得。
 最初に横滑りによる回転の感覚の練習の注意点を述べる。滑走中のスキーは雪面の凸凹からの力を受けてフラフラ、ウロウロするものです。かように不安定なスキーをいかにして下半身で、押さえつけ、固定して滑らしコントロールするかがポイントです。
 初心者はボーゲンで滑るとき膝がフニャフニャし、腰がヨロヨロし、スキー板の先端が交差してしまったり、ハの字形が保てず平行になって横滑りではなくて真っ直ぐに滑り出したりと、なかなかボーゲンの形が保てない。スキーとはスキー板を脚力背筋力で強引にねじ伏せ押さえつけて形を保持し、少々の雪面のデコボコなどは蹴散らして、強引に意志のとおりに横滑りをさせてシュプールを描いていくことです。そこあたりの感覚をまずボーゲンで修得する。
 ここで初心者はスキーとは下半身、上半身の筋肉にかなり負担がかかるスポーツであることを理解する。
2.スキーを横滑りさせる際の体や足の形の修得。
 足や体の形を学ぶと言うことに関してはプルークボーゲンの足、上体の形はまさにパラレルターン回転中の身体の形と同じです。パラレルターンは右図のAの位置のスキーを完全に浮かしてBの位置に添えるように持ってきただけです。プルークボーゲン時の外スキーを支える方の足の形と上体の形は(内スキーの足の形を除けば)パラレルターンと全く同じです。(右図参照)
 パラレルターンが難しいのは(イ)から(ロ)、(ロ)から(イ)に足をそろえたままで連続的になめらかに移り変わらなければならないところにある。
 ここに上記4.で述べた3.動作が大切なのです。
3.シュテムターンの練習
 プルークボーゲンができたら、体重の左右の移し変えと回転の所だけスキーをハの字に開き、他は両足をそろえた斜滑降の姿勢で滑るシュテムターンを練習する。
 シュテムターンのハの字をもっともっと狭めて行き、体重の乗せ変えに前述の動作1.2.3.を使いだせば、いよいよパラレルターンです。

 

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6.回転動作を助ける四つの補助動作

以下に述べる三つの動作は上記4.の回転運動を達成するのに無くても何ら差し支えない。ただし上記3の動作1.2.3.に付け加えて行うことにより回転運動をさらにスムーズに行うことができる。 

1.抜重
 足を蹴って伸び上がり次に足を心持ち縮めることにより、体を雪面から浮かし、スキーにかかっている加重を抜くことができる。そうすればスキーの方向転換はさらにスムーズにいく。身体の上下動に合わせてスキー先端の位置を変えないでテールを左右に踏み変える動作を練習するとよい。
2.ストックワーク
 ストックワークは必然的に上体のひねりを生み出し下記の慣性モーメントの作用反作用の効果を引き出すのに有効となる。またストックを突こうとする操作はスキーをこえて重心を反対側に移動させる動作をスムーズに引き起こす。ストックは右図の位置に交互に突く。
3.上体の捻りによる作用反作用
 これは上体を右に捻れば、下半身は左に捻れ、上体を左に捻れば下半身は右に捻れるという角運動量保存則に従った動きによりスキーの回転を助ける。ただその動きは上下が逆に動くと言った単純な動きではない。
 ストック突く腕の操作がいちばん最初に起こる。次に、そのストックを突いた腕の振り降ろしと、後ろに引く動作が来るが、その動作を急に止める。その腕の振りの止めによる角運動量の減少量を上体の捻りに角運動量を引き継がすことにより補う。角運動量保存則から自然に上体の捻りが引き起こされる。つまり腕を振った方向に少し遅れて上体が振れて行く。さらにその上体の捻りを急に止める事による角運動量の減少量を下半身の捻りに角運動量を引き継がすことにより補う。そうすると上体の捻りにわずか遅れて下半身は上半身に追従して同じ方向にスムーズに捻られる。
 以上の様に上体は少し左右に回転する。その回転にわずか遅れて下半身が大きく左右に回転する。その回転を引き起こすのは上体と下半身を含めた(詳しくは腕の質量も含めた)全体の角運動量保存則による作用反作用です



 以上の様々な動作をスムーズに行う為には上体は常に谷に向かって正対していることが肝要です。初心のうちは谷方向に体を向けるのは恐いので、えてして進行方向を向いてしまう。これは絶対に避けなければならない。いついかなる時もスキーの方向に拘わらず上体は常に谷側に正対していること。これはどんなに強調してもしすぎることが無いほど重要なチェックポイントです。
 特に最初に述べたウェーデルンのように、小刻みにスキー板の方向を切り替えて、斜面を滑り下って行く時には第一に心がけるところです。小刻みにスキー板の向きを左向き、右向きと切り替えていると言うことは、小刻みに体の重心がスキー板の上を通り越して右、左と振り子が振れるようにふれているのですが、それを迅速かつ小刻みにしようと思えば上体が左を向いたり右を向いたりしていたのでは間に合わない。とにかく上体は真っ直ぐに谷に向かって正対して固定しておくことを意識して心がける。その意識の中で下半身とスキーのテールを左右に振って前記の重心回復運動を実行するとウェーデルンを楽に上手にできる。そのとき上体の向きは固定されているように見えても体全体としては前記1.2.3.の操作を実現している。
 
4.雪面のデコボコに対する対策
 最後に雪面がデコボコしているときのテクニックを述べる。 コブは膝の屈伸で乗り越えていく。腰は斜面に沿って上下動しないようにして、雪面のでこぼこを膝で吸収し、あたかもコブなどないように前記のターンを繰り返して滑降していく。膝で雪面のでこぼこをすべて吸収すれば雪面のでこぼこにより体が振られることはない。

以上でスキーの理論は終わりです。後は実際にゲレンデに出て実地に練習するのみ。諸君の健闘を祈る。

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