虫メガネや顕微鏡の倍率を表すとき明視距離Dというものが現れていますが、なぜ明視距離に関係するのかを説明します。
明視距離D・・・・・・物を詳しく見ようと思ったら、できるだけ目を近づけて見たほうが大きく見える。しかしあまり近づけすぎると目のレンズのピント調整ができず像がぼやけてしまう。だらか明視の距離というのは像がぼやけないで見える最小の距離のことで正常眼の人で約25cmくらいである。
虫メガネの倍率というと下図のように虚像を明視の距離に結ばせて、その像の大きさと実際物体との大きさの比率で論じる。
このとき多くの人が疑問に思う。下図のように虫メガネを通して物体B0C0を見るとき(例えば眼をレンズの焦点Aに位置させれば)虚像をBC、B’C’、B”C”、・・・・・などのどこに結ばせようと角度BAC=角度B’AC’=角度B”AC”=・・・・・で、見かけの大きさは同じである。それではなぜ、虫メガネの倍率というとき虚像を明視の距離Dの位置に結ばせたときの像B’C’の大きさeと物体B0C0の大きさdを比較するのだろうか?
その答えは、虫メガネの倍率というのは図1の虫メガネを通して見たB’C’の大きさと、図2の目の位置はそのままにしてレンズを取り除いた時の大きさB0C0との比較ではないということである。図2の位置に物体があったのでは目から近すぎて像がぼやけてしまってはっきり見ることはできない。目を図3の明視の距離まで離して初めてはっきりと、しかも最も詳しく見ることができる。この状態での見え方と比較しないと意味がない。
つまり 図1の角度B’AC’ と 図2の角度B0AC0 を比較するのではなくて、 図1の角度∠B’AC’ と 図3の角度∠B0AC0 を比較すべきなのだ。
その角度を比較するということはとりもなおさず 明視の距離に像を結ばせたB’C’の大きさ“e” と、 明視の距離Dにある物体B0C0(図4)を裸眼で見たときの大きさ“d” を比較することである。
この比較をするために 図1の明視距離“D” と 焦点距離“f” の比が倍率になるのだ。
上記の事実は、焦点距離の短いレンズをつくれば驚異的な倍率を持つ虫メガネをつくることができることを意味する。例えば焦点距離f=2.5mmのレンズをつくることができれば25cm÷0.25cm=100倍の虫メガネになる。焦点距離を短くするにはレンズの直径を小さくすればよい。この発想ですばらしい単レンズ式顕微鏡をつくったのがレーウェンフックです。(下記の図と写真を、あるいはメイヨールの版画を参照)
この顕微鏡は直径数ミリメートルのガラス玉レンズ(上右図の I )を用いた手のひらにすっぽり収まるくらい小さな顕微鏡だった。資料は針の先につけ、レンズに目をこすりつけるようにして見なければならない物だったが、当時の複レンズ式の顕微鏡を遙かに凌駕するすばらしい性能を発揮した。
参考文献2.に球形レンズの半径と焦点距離の関係の導き方と球形レンズ虫メガネの倍率の説明があります。それに拠ると球形レンズの半径をRmm、レンズの屈折率をnとすると、その倍率は500×(1−1/n)÷R倍となる。半径R=1mm、ガラス屈折率
n=3/2=1.5とすると倍率m=167倍となる。
球形レンズの倍率mの求め方は別稿「球面レンズの曲率半径と焦点距離(レンズメーカーの公式)」5.も参照されたし。
虫メガネや顕微鏡の場合小さな物をよりはっきり見たいわけだから明視の距離が重要になる。望遠鏡の場合もともと遠くにある物体(遠くにあるものは正常眼の人はいつもはっきりみることができる)と望遠鏡がつくる像との比較だから明視の距離は関係なくなる。
次図に示すものは、高校物理「光学」の生徒実験授業で、生徒に配ってレーウェンフックの顕微鏡の威力を実際に体験してもらっていたものです。
ガラス球の直径は4mm程度でしたから、その焦点距離は3mm程度になります。観察物はレンズ表面から1mm程度離れた位置に置くことになります。そのときの倍率は84倍程度ですが、これは驚くべく倍率です。
以下は授業で使っていたプリントです。図は文献3.からの引用ですが、文章を何から引用したか忘れました。[拡大版]