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4.Tetoron(Power Rip)布を用いた熱気球(1999年生徒会)
 
 帝人株式会社製のこの布は、気密性で薄くて軽く(面密度50g/m、極めて強い。しかも折り目が付けやすく端縫いの際アイロンがけの必要なし。鉛筆で線が引け、消しゴムで線を消せる。任意の塗料で着色でき、しかも裏地ににじまない。そして驚異的に安い(幅1.5m×長さ100mで15000円)。熱気球ではこれを4巻き使用。
 熱気球用素材を検討したことのある人はこの布が如何に素晴らしい素材であるかおわかりだと思います。この布の存在が人間1人を持ち上げる熱気球の制作を可能にした。
 
 これは生徒会が中心になって製作したものだが、設計を担当し製作法を指導したのでその経過を報告する。浮力の理論と設計値を決める見積もりはソーラーバルーンの場合と同じである。設計の基礎データを表4−1に上げる。この場合内外の温度差が大きく、ソーラーバルーンと違い太陽輻射を利用できないので、[熱源能力]と[表面冷却速度]の考察が最重要になる。
 

)熱源の能力と冷却速度

 1気圧25℃の空気の熱容量は約29.15J/K・mol=310cal/K・m である。ところで、プロパンガス1gの燃焼熱は約12000cal(ガソリン1gは10000cal)である。単純計算ではプロパンガス1gで空気1mの温度を約39℃暖めることができるが、球皮表面からどんどん冷却していくので話は難しくなる。
 一般的な熱気球の内容積は2000m程度で高等学校の格技場の容積くらいであるがそれを締め切って室内温度を100℃近くに加熱するためにどれほど強力な火をたかねばならないかを考えるとその冷却速度の大きさが理解できる。
 ソーラーバルーンでの考察を利用して冷却速度を見積もると温度差が60℃を超えると数百kW〜1千数百kW程度と予測される。これは実際の熱気球用バーナーの火力が家庭用コンロの100倍〜150倍であること、20kgプロパンガスボンベを数十分で使い切ってしまう事実と符合する。
 だから強力なプロパンガスバーナーが無いと熱気球を手作りするのは難しい。リース会社から借りれるアスファルト道路の舗装工事用ハンドトーチバーナーの最大火力(口径10cm)のものでも発熱量は最大で100kW程度である。
 だからハンドトーチバーナーで人間1人を持ち上げる熱気球は前記の布が有って初めて可能であった。
 

)熱気球の設計

 この気球製作は生徒会が企画して始まったのだが、その時の要求が人間1人をぜひ載せて浮かび上がらせたい。この要求が最重要だった。入手できるバーナーの火力が最大のネックなので[容積]と[バーナー火力]と[浮力]からみてソーラーバルーンより一回り小型の大きさを選択することにした。後から見てこの選択は賢明であった。球皮の実際の大きさは半径5.2m、高さ12.3m、表面積約350m、容積約600mである。球体の質量は布の面密度から計算して約18kgである。
 気球下部に直径2.6mの竹製リンク(1.8kg)を縫い込み、これにワイヤーを吊り下げ、ワイヤー端をカナビラでゴンドラに接合する様式である。 ゴンドラ(9.15kg)は段ボール箱(底面積0.87m×0.65m×高さ0.75m)の底にベニヤ板(9mm厚)を敷き、幅5cmのナイロン製ベルトの補強索により吊り下げる形である。ゴンドラ、その他の吊り下げ物の総重量は約15kg程度である。

(ゴンドラの形状はこちらを参照)。これに約60kgの人間の重量が加わる。結局つり上げなければならない重量は球皮の重さを引いて75kgである。ただし現在のバーナー性能ではバーナーやガスボンベをゴンドラに積載するのは不可能であるから暖めては浮き上がらせる事を繰り返すことになる。
 表4−1から半径5.4m程度の気球で内外温度差40〜45℃を達成できれば、人間一人を載せて浮かび上がる事が解る。この丈夫な布では強度的な制約は何ら存在しない。

表4−1  拡大版はここをクリック。マウスで右クリックするとダウンロードできます。htmlファイルに変換していますが、もともとExcelファイルですから、Excelで読み込み再編集できます。もちろんxls形式で再保存するとExcelファイルにもどります。

)熱的考察

 リース会社から借りたハンドトーチバーナーの火力は、規格値でノズル径80mmのものが56kW、ノズル径60mmのものが42kWである。ただし使用を続けていると気化熱を奪われるため、液体プロパンの温度が下がり気化しなくなり火力が出なくなる。実際、使用を続けているとプロパンガスボンベにびっしり霜がつく。
 
 9月の外気温25℃、無風時にはノズル径80mmのバーナー2本焚くと軽々と人間1人を乗せて浮かばせることができる。一度浮かべば、後は降下したときバーナー1本で追加加熱してやれば再び浮かび上がる。そして一度加熱すれば熱源無しで2〜3分間は浮かんでいる。
 しかし1月の外気温5℃の状況では80mmバーナーを2本焚いたのではいくら焚いても浮上せず、それに加えてさらに60mmバーナー1本を用いてやっと浮上する程度である。そして浮上後も加熱をやめるとすぐに冷えて降下する。
 
 冬季状況で冷却速度や冷却境界層の厚さを見積もってみる。80mmバーナー2本と60mmバーナー1本の合計火力は約154kWである。それを表面積350mで割ると球皮を通しての冷却速度は440[W/mとなる。
 
 この値からソーラーバルーンと同じ考え方で境界層の厚さを計算してみる。前述の様に空気の熱伝導率は300K付近で約2.6×10−2W/(m・K)であるから境界層の厚さをd、境界層をはさんでの温度差をΔtとすると
 
Δt=45[K]を代入するとd=2.7[mm]となる。
 
 
 境界層厚2.7mmは前出の内外温度差6℃のポリエチレンフィルム表面の場合(0.7mm)の3〜4倍である。温度差が45℃であり、フィルムと違って布では表面がザラザラしていることを考えるとうなずける値である。
 今度の場合もナイロンやポリエチレンの熱伝導率は空気の十倍程度であることと、布厚<<2.7mmを考慮すると布内部の温度勾配は無視できる。
 
 
 冷却速度440Wは前記温度差6℃のソーラーバルーンの場合(228W)の2倍程度である。温度差45℃にしては小さすぎる気もするが、境界層の厚さに大きく影響されての結論と思われる。
 
写真4−1 記念すべき最初の浮上(夜になってしまいました)

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